篠辺のお狐様

梁瀬

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出会い 3 奇行

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 神主をしておる真淵まぶち兄弟と出会ったのは、あやつらが5歳の時じゃった。
あやつらにも、既に狐と犬が見えておった。

 霜月の子供の祝いで、邪気じゃき悪気あっきが集まり、狐にとって霜月は、運動不足と気分転換が出来る、と言っても良い。
 狐にとって邪気や悪気など、可愛いものよ。
何せ、邪気や悪気の方が、狐を見て逃げ出すから、追い立ててやるだけの事で、格の違いは、言うも愚かじゃ。
 それより質が悪いのは、人の子よ。
邪気や悪気に憑かれるくらいのガキなら、大した事はない。それが離れれば、単なるガキじゃ。取るに足らん。
 狐が見えておっても、恐れて近付こうとしないガキも、同列じゃ。
ここで言う質が悪いのは、見えておって、更におくせず、近寄るガキじゃ。
 前例の、恐ろしく純粋無垢な朝霧3歳や、当たり前だが世慣れていない夕霧3歳みたいなのも含める。
あの姉妹は何て言うか、無邪気さ故、無垢だからこそじゃが、この兄弟は違う。

 あやつらは、鳥居をくぐった時に、厄介そうなのが来たと感じるほどじゃった。
争うように兄弟で、鳥居からの階段を駆け上がってきた。
何かが憑いておったというなら、狐も得心とくしんがいくが、単に〝馬鹿なガキ共故の元気〟というには、有り余る体力というか、無駄にみなぎる気を放っておった。

 関わらずとも、わずらわしそうなガキじゃったから、狐は直ぐに西の神木しんぼくの上から見物しておった。
案の定、弟の左京が、東の五葉松の所にいる犬を見つけ、初めて見るに興味津々、好奇心あふれる遠慮のない目でジロジロ見て、更に周りをぐるぐると回り、座り込んで前足を繁々しげしげと見て、今度は、精一杯背伸びをしたかと思うと、耳が動く様をまじまじと見て、最後には触りたいのをグッと堪えて、犬の尾から今にも煙が出てきそうな程、熱い視線を注いでおった。
 その側で、同じ様に興味はあっても近づけず、弟の心配をする右京がおった。

 恐らくあの時、左京も犬に語り掛けておったのじゃろう。
〝5歳の左京〟の語彙力ごいりょくじゃ、〝おぉ~っ〟〝すげぇ~〟〝マジかよ〟〝でけぇ~〟〝ありえねぇ〟この程度じゃろう。
3歳時の夕霧にも劣る語彙力しかなかったじゃろう。この狐には容易く見当が付く。

 そんな左京の奇行きこうにも、恐らくはつたない大声の単語にも、犬は全く動じず、奇行を遣り過ごし、単語も聞こえないふりをして、五葉松の所から見える青枝垂あおしだれの紅葉を眺め、他を閉ざしておった。
 あれは狐には真似出来ぬ。
あのように落ち着きなく、大声を出すうるさいガキなら、躊躇ちゅうちょなく鎌鼬かまいたちを装って切り刻んでおったじゃろう。
 すれば、篠辺の神主をする事はなかったじゃろうな。

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