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出会い 2 心の声
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その後、狐は絵馬掛所で、主祭神らしく願いを聞き入れているかのように装い、湧泉の近くにいた、姉妹の妹を見ておったが、特に変わった事もしないし、専ら一人遊びをしたり、境内を見て歩いていたので、心の中で
〝つまらんのぉ〟
そう息をつくと、何処からともなく
〝ほんとね〟
と返ってきた。
近くにおる者と言えば、そこの夕霧だけじゃが、声はもっと近くでしたように思い、周囲を見回した。
大分離れた所に、一家族と神主がおったが、どう思案した所で違う。
それに声は女のものだった。
だが、狐を見ておる者もおらぬし、気のせいじゃったかと思い始めた頃に、
〝ケンカしたの?〟
今度は、そう聞かれた。
話し方や声からして確かにガキじゃが…そんな筈はなかろう。
しかし…思い当たるのは、夕霧しかおらんのじゃが…ありえん。
仮に、夕霧だとして、狐のおる方を向いた事もなければ、気付いておる様子もない。
ただ一人遊びをしておるだけじゃ。
もしかして、誰かの独り言だったのかも知れぬ…そう思う事にしようとしたが、確かに今のは声ではなく、狐に届いておった。
〝誰じゃ?勝手に、この狐に話し掛けるのは?〟
そう心の内で試してみた。
〝ごめんなさい。〟
こちらは向かずとも声の主は、やはり夕霧じゃった。
〝独り言なら良いが、狐に語り掛けてくるでない。〟
俄かには信じ難い。何の修行もしておらん、齢3つの女童が一方的に話すのではなく、狐の心の声を聞き、自身も心の内で話してくるなど、予測を超えておる。
〝ごめんなさい。ちょっと聞こえたから…。つまらないのは、あの大きな犬とケンカしちゃったのかと思ったの。〟
夕霧は相変わらず狐を見ずに、御神木を見上げ、樹を擦りながらいった。
今の話しで姉の朝霧同様、夕霧にも犬が見えておる事が分かった。
〝狐の語りが聞こえるのか?〟
今迄の遣り取りで分かっていた事じゃが、聞かずにはおれなかった。
〝神社の大きな門をくぐった時から、大きな声が聞こえているよ。〟
至極当然の事を、何で聞かれたのか分からないと言わんばかりの声色だった。
この狐が心を許した者でもなく、修行を積んだ者でもない。
ただのガキに狐の語りが聞こえ、狐にもガキの語りが届くとは驚嘆に値する。
狐が油断して、物思いに耽っておると、
いつの間にか側に来ていた夕霧が、狐の顔を覗き込んできて
〝一緒に遊ぶ?〟
そう言って、頬を赤くして照れ笑いをした。
これが、無邪気で無垢な真瀬姉妹との出会いじゃった。
〝つまらんのぉ〟
そう息をつくと、何処からともなく
〝ほんとね〟
と返ってきた。
近くにおる者と言えば、そこの夕霧だけじゃが、声はもっと近くでしたように思い、周囲を見回した。
大分離れた所に、一家族と神主がおったが、どう思案した所で違う。
それに声は女のものだった。
だが、狐を見ておる者もおらぬし、気のせいじゃったかと思い始めた頃に、
〝ケンカしたの?〟
今度は、そう聞かれた。
話し方や声からして確かにガキじゃが…そんな筈はなかろう。
しかし…思い当たるのは、夕霧しかおらんのじゃが…ありえん。
仮に、夕霧だとして、狐のおる方を向いた事もなければ、気付いておる様子もない。
ただ一人遊びをしておるだけじゃ。
もしかして、誰かの独り言だったのかも知れぬ…そう思う事にしようとしたが、確かに今のは声ではなく、狐に届いておった。
〝誰じゃ?勝手に、この狐に話し掛けるのは?〟
そう心の内で試してみた。
〝ごめんなさい。〟
こちらは向かずとも声の主は、やはり夕霧じゃった。
〝独り言なら良いが、狐に語り掛けてくるでない。〟
俄かには信じ難い。何の修行もしておらん、齢3つの女童が一方的に話すのではなく、狐の心の声を聞き、自身も心の内で話してくるなど、予測を超えておる。
〝ごめんなさい。ちょっと聞こえたから…。つまらないのは、あの大きな犬とケンカしちゃったのかと思ったの。〟
夕霧は相変わらず狐を見ずに、御神木を見上げ、樹を擦りながらいった。
今の話しで姉の朝霧同様、夕霧にも犬が見えておる事が分かった。
〝狐の語りが聞こえるのか?〟
今迄の遣り取りで分かっていた事じゃが、聞かずにはおれなかった。
〝神社の大きな門をくぐった時から、大きな声が聞こえているよ。〟
至極当然の事を、何で聞かれたのか分からないと言わんばかりの声色だった。
この狐が心を許した者でもなく、修行を積んだ者でもない。
ただのガキに狐の語りが聞こえ、狐にもガキの語りが届くとは驚嘆に値する。
狐が油断して、物思いに耽っておると、
いつの間にか側に来ていた夕霧が、狐の顔を覗き込んできて
〝一緒に遊ぶ?〟
そう言って、頬を赤くして照れ笑いをした。
これが、無邪気で無垢な真瀬姉妹との出会いじゃった。
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