篠辺のお狐様

梁瀬

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要石 17 違う姿

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「そういう事でしたか…大変失礼致しました。残り1か所の場所と処置もですが、他の場所と処置は、いつお教え頂けますか?」
 [急ぐな。まずは残りの1か所だ。]
そう言うと、ゆっくり話し出した。

 [さっきの湖があった場所とは、方角が反対に位置する山中に、神が祀られている風穴ふうけつがある。そこは井戸状の縦穴開口になっていて、降りて行くと横穴が伸びている。更に奥へ行くと、水が湧き出る泉があって、洞窟内に神仏を祀った祭壇がある風穴だ。古くは山の神と共に風穴も手厚く祀られていたが、時が経ち、山へ立ち入る者も減り、忘れ去られていった。山の所有者すら立ち入らなくなった山に、産業廃棄物業者や一般の者達が、ゴミを捨てに来て、井戸状の風穴を塞いでいる。まずはゴミの撤去をし、その後、山の神と風穴を再び祀り、二度と地脈や、風穴に流れる風の流れが滞る事がないように、策を考える事になるだろう。だから今日一日で、どうこう出来る事ではない。]
要石の言葉を聞き、夕霧は
「今の内容を、お狐様と左京さんに伝えてください。そして〝残りの1か所は、年明け2日以降の処置になりますので、お気を付けてお戻りください〟と、夕霧が言っていたと伝えてください。鴉山椒さん、今日貴方が側に居てくれた事で、とても助かりました。ありがとうございました。この後、こちらは何とかなりそうです。むしろ、左京さんの方が手が足りなくなるかも知れません。左京さんから今後の指示を受けてください。」
 鴉山椒に伝言を頼み、再び、要石と向き合う。

「申し訳ありませんが、少し休憩させて頂けないでしょうか?私達は夜中より、ずっと要様と一緒に居ます。一度、休憩と軽食を取った後、戻ってまいります。私達に失敗は許されません。その為にも、少し時間を頂きたいのです。お願い致します。」
頭を下げる夕霧に
 [すでに長い時間待った…それに比べたら、しばしの休憩など大した事ではない。待とう。夕霧の思うようにしてくれていい。]
 要石の中で、夕霧は信頼出来る者になっていた。

 軽食を済ませて、それぞれが休憩をしている時、夕霧の姿は、そこにはなかった。
薄暗い廊下の奥にある小部屋で独り、何かを探していた。
 夕霧の周囲には開いたままの古い文献や書物が広げてあり、一冊の文献を読みふけっていた。
夕霧は要石を擬人化するに当たり、少しでも手掛かりが欲しかった。
 その当時の事が書かれたものは少ないが、血筋の者が後を引き継ぎ、神主をしていたようで、生前の要石の事も備忘録びぼうろくのような感じで数行記されている箇所が、所々にあった。
それを読み解き、古い祭りの写真に居並ぶ末裔の姿を見て、当時の要石を思い描いた。

 各々が身支度を整え、張り詰めた空気をまとい、緊張した顔が再び、要石の元に揃った。
朝霧は、そっと要石に触れ、夕霧は要石に戻った事を告げた。
 要石から朝霧へ、朝霧から夕霧へと気が流れ、夕霧の体は徐々に熱を帯びていたが、不安の表情ではなく落ち着いていた。
 要石は何かに引っ張られるように、違う姿へ変わっていった。


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