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要石 14 小さな頑張り屋さん
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その頃、狐は枯れた湖があった場所へと戻っていた。
先程まで 目にしていた景色とは全く違い、古い記憶にあった景色が、色鮮やかに広がっていた。
狐が神社へ戻った後、
左京と杏は、心配していても何も出来ないから、自分達に出来る事をしようと話していた。
杏は大きい岩の上に、ちょこんと座って足を揺らしていた。
朝からずっと歩き通しだったので、かなり疲れているだろうが、足手まといにならないようにと考えて、神社を出てから一度も〝待って〟や〝疲れた〟などとは一言も言わずにいた。
何より、疲れた表情も出さなかった。
左京は大荷物とは別に、杏のお菓子を入れた小さな袋を持って来ていた。
その袋には、杏の大好きな口の中で溶けるお菓子。飴、チョコ、グミが入っていた。
「狐がいない間、休憩しよう。これは杏のだよ。」
先程の小さな袋を手渡した。
杏は、そっと中を覗いて目を輝かせて
「ありがとうございます。」
嬉しそうにチョコを一つ、頬張った。口の中いっぱいに甘さが広がると、自然と笑みがこぼれた。
「杏。聞いても良いか?」
左京は、食べながらで良いから少し話そうと、杏に言った。
「どうして狐は、杏を連れて来たのかな?」
杏は、二つ目のチョコを転がして、右頬を膨らませた。
「ずっと前に、御神木の影踏みしてたら、根が傷んでる事が分かって、その事をお狐様にお伝えした事があったんです。だから…たぶん影踏みするんだと思います。」
左京は、狐が杏を連れて来た訳が分かり、少し先が見えた気がした。
「今もランタンの灯りで…少しだけなら分かるんです。でも、もうちょっと明るくなった方が、はっきり見えるようになります。」
左京は、杏の言葉に驚いた。
「えっ?何か見えてるの?」
左京の問いに、杏は包み紙から出した飴を指で持ったまま
「この大きな岩の下に、いっぱい水があります。だけど影が薄いし、良くは見えないんです。」
「そっか。じゃっ、もう少し明るくなったら頑張って貰う事になりそうだから、今は、しっかり休んでてね。オレは少し周りを見て歩いて、荷物を移動したりしてるから、何かあったら声を掛けてね。」
杏は、岩の上で頷いた。
左京は、杏の見えているものと狐の古い記憶が、この地に湖があったことを表し、それは水脈が、何かの理由で流れを変え、長い年月の間に少しづつ、地中に溜まって行ったのではないかと考えた。
周囲の地形や植物を見ながら、左京は小高い丘の上に来た。
そこには、朽ち果ててしまった祠があった。
左京は、朽ち果てた祠の近くに荷物を全て運び終えると、杏の所へ戻った。
杏は、大きな岩の上で片手にお菓子の入った袋を握りしめて、丸くなって眠っていた。
左京は、厚めの大きな布を杏に掛けて、もう少し日が高くなるのを待った。
時間的には日差しがあっても良いのだが、山間の為、日がもう少し高くならないと差し込んでこない。
もう30分もすれば、明るくなる。
そうしたら杏に、影踏みをして貰うことになる。
どうか、それまで狐は戻ってくるな。
左京は、杏を少しの間、寝かせてやりたかった。
先程まで 目にしていた景色とは全く違い、古い記憶にあった景色が、色鮮やかに広がっていた。
狐が神社へ戻った後、
左京と杏は、心配していても何も出来ないから、自分達に出来る事をしようと話していた。
杏は大きい岩の上に、ちょこんと座って足を揺らしていた。
朝からずっと歩き通しだったので、かなり疲れているだろうが、足手まといにならないようにと考えて、神社を出てから一度も〝待って〟や〝疲れた〟などとは一言も言わずにいた。
何より、疲れた表情も出さなかった。
左京は大荷物とは別に、杏のお菓子を入れた小さな袋を持って来ていた。
その袋には、杏の大好きな口の中で溶けるお菓子。飴、チョコ、グミが入っていた。
「狐がいない間、休憩しよう。これは杏のだよ。」
先程の小さな袋を手渡した。
杏は、そっと中を覗いて目を輝かせて
「ありがとうございます。」
嬉しそうにチョコを一つ、頬張った。口の中いっぱいに甘さが広がると、自然と笑みがこぼれた。
「杏。聞いても良いか?」
左京は、食べながらで良いから少し話そうと、杏に言った。
「どうして狐は、杏を連れて来たのかな?」
杏は、二つ目のチョコを転がして、右頬を膨らませた。
「ずっと前に、御神木の影踏みしてたら、根が傷んでる事が分かって、その事をお狐様にお伝えした事があったんです。だから…たぶん影踏みするんだと思います。」
左京は、狐が杏を連れて来た訳が分かり、少し先が見えた気がした。
「今もランタンの灯りで…少しだけなら分かるんです。でも、もうちょっと明るくなった方が、はっきり見えるようになります。」
左京は、杏の言葉に驚いた。
「えっ?何か見えてるの?」
左京の問いに、杏は包み紙から出した飴を指で持ったまま
「この大きな岩の下に、いっぱい水があります。だけど影が薄いし、良くは見えないんです。」
「そっか。じゃっ、もう少し明るくなったら頑張って貰う事になりそうだから、今は、しっかり休んでてね。オレは少し周りを見て歩いて、荷物を移動したりしてるから、何かあったら声を掛けてね。」
杏は、岩の上で頷いた。
左京は、杏の見えているものと狐の古い記憶が、この地に湖があったことを表し、それは水脈が、何かの理由で流れを変え、長い年月の間に少しづつ、地中に溜まって行ったのではないかと考えた。
周囲の地形や植物を見ながら、左京は小高い丘の上に来た。
そこには、朽ち果ててしまった祠があった。
左京は、朽ち果てた祠の近くに荷物を全て運び終えると、杏の所へ戻った。
杏は、大きな岩の上で片手にお菓子の入った袋を握りしめて、丸くなって眠っていた。
左京は、厚めの大きな布を杏に掛けて、もう少し日が高くなるのを待った。
時間的には日差しがあっても良いのだが、山間の為、日がもう少し高くならないと差し込んでこない。
もう30分もすれば、明るくなる。
そうしたら杏に、影踏みをして貰うことになる。
どうか、それまで狐は戻ってくるな。
左京は、杏を少しの間、寝かせてやりたかった。
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