篠辺のお狐様

梁瀬

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依頼と代償 Ⅱ 血生臭い男

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 そして、この2つの神社の神主と巫女は、双子の兄弟と姉妹である。
この者達が、午前4時と午後16時にみそぎをし、その後、本殿にて神替かみかわりの儀
(古くは御座替おざかわりの儀)を行い、お狐様きつねさま大神様おおかみさまを入れ替えておる。
 どちらの神主も巫女も若いが落ち着いておって、仕事も手堅い者達じゃ。

 数週間後の午後16時少し前、再び東雲にあの男が来た。
先日より少しやつれた様じゃが、相変わらず煙草をふかしながら、鳥居を潜って
来おった。
 
 階段を上がり切った所で右京が、
「境内は禁煙ですので、こちらに入れてください。」
そう言いながら、携帯灰皿を差し出した。
「毎回、顔を合わせる前からオレが来た事も、煙草を吸ってる事も分かる訳?」
訝しい顔をしながら、灰皿で煙草の火を消した。
「東雲に祀られているのは、大神おおかみ(狼)様ですので匂いに敏感なんですよ。」
仕事用の笑顔を張り付けて、右京が言う。

「まるで、その大神と話が出来るみたいな口振りだな。」
更に胡散臭いといった顔で、神主を見る。そこへ
「此処では祀られている神が見えて、話が出来なければ務まりません。」
こちらも前回同様、仕事用の笑顔を張り付けて朝霧が言う。

「正直、そこはどうでもいい感じ。っていうかさ、寝られなくて困ってる訳。
どうにかしないと仕事になんなくてさ。」
呆れた顔で右京が
「此処は神社ですよ。病院でも精神科でもありませんよ。」
男が憑かれている事は、初対面で分かっていたが、この男と関わるのが面倒で
見当違いだと伝え、安易に帰るように促してみた。
「んな事、分かってるよ!眠剤とか飲んでも寝られねぇんだよ。」
少し苛立つ男に
「何か、お心当たりはありませんか?」
朝霧も、男がした事が分かっていたので、さすがに言い難いだろうと、敢えて
聞いてみた。

「あるある。オレね、今までイラつくと猫殺してた訳。…で、最近になって、
昼夜関係なく猫の鳴き声が止まんなくなってよ。正直、夜はキツイ。これ以上
寝られないとマジで仕事に穴開けそうで、猫に足引っ張られるなんてありえねぇ。」
この男には、罪の認識も罪悪感も全くない。
「では、ここ東雲に、どういったご依頼でいらしたのですか?」
右京も朝霧も、心底、この男が嫌いらしい。

 ところが篠辺の狐は、この男に興味を持っていた。
何故なら東雲の二人に、これだけ嫌悪感を抱かせられる者は、なかなかいないし、
猫達の声を聞いた上で、この男を、どうしてやろうかと考えただけで、
狐は、俄然がぜん楽しくなってきた。

「正直、オレがいたぶって殺した猫の声なのか分かんねぇけど、医者も薬もダメで、後は効果があるかは分かんねぇけど、一応、神頼みってヤツしかないかって事で
来てみた訳。んー何てゆーか知んねぇけど、そういう系のヤツもやってるっしょ?」
時計を見る仕草をした後に右京が、
「すみません。時間ですので、こちらの東雲は閉門します。明日、再度来て頂くか、他の神社をご紹介する事も出来ますが、どうなさいますか?」
話しながらも、男を連れて東雲門まで向かう。
 この後、禊をしなければならない右京の事を考えて、朝霧が引き継ぐ。

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