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救世主とは

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「そんな、魔王が暴れて破壊したら残るものは何もないじゃない!」

 エイダは叫ぶ、アイラの言葉を、狂気を否定するために。だがアイラは、その程度では変わらない。「まだ話は終わってないでしょ?」と狂気の炎を瞳に灯したまま話を続ける。

「そして、魔王が暴れ切ったあと、私たちが再び勇者としてこの世界に君臨するの…そして魔王を倒す、するとどうなると思う?」

 エイダは言葉に詰まる、そんなこと想像がつかないからだ。

「私たちは神になることができる…ちょうどソール国が勇者を、輩出して救世の国なったように、私たちは世界を救う救世主になれるの」

 アイラは酔いしれるように続けた。

「そして世界は変わる、魔王という、危機を乗り越え、新たな救世主に出会い、世界は団結を強めるの、そして世界は真の平和な世界へと姿を変える」

「素晴らしいと思わない?」アイラはそう締めくくった。アイラの思い描く理想の未来それはおそらく、平和が待っているのだろう。

 ――でも、それは…

「今の世界を犠牲にして新しい世界を作るっていうの…?」
「そうよ?しかし、しょうがないわ、犠牲は必要だもの」

 その言葉は、エイダが嫌いな言葉だった。「それに」とアイラは続ける、エイダの気持ちにも気付かずに。

「貴方の母の望みでもあるでしょうエイダ、幸せになってほしいって?私たち来れば救世主になれる、世界を救ったというね…これ以上名誉で幸せなことはないじゃない?」
「そう、かもね…」
「ならーー」

「でも」とエイダはアイラの言葉を遮る。

「私は今の世界を破壊してまで、救世主になんてなろうと思わない、今の世界を破壊するということは人々も犠牲になるんでしょ、なら私は貴女達の計画に反対する」

 アイラは顔をしかめた。

「それはでも必要な犠牲なの?わかるでしょエイダ?」

 エイダの瞳に怒りの炎が垣間見えた、そして拳を握り震わせながらエイダは言う。

「私のお母さんは、殺されたわグレン卿に…それもきっと仕方ない犠牲だと貴方は言うでしょうでも、私は思わない、母さんが死ぬ必要は無かった、そう、世界を変えるのにきっと犠牲なんて必要ない、それを強要すること自体が間違っている!」

 ――だから!

「私は貴方達と共に行けない、犠牲を強いて、得られる世界なんて碌なものでは無いと思うから」

 その言葉に二人の兄妹は落胆した。

「決まりね、やはり分かり合えない」
「ああそうだなアイラ、戦うしか道はないようだ」

 アイラとアルの言葉に、エールは顔を俯き、何も言わなかった。

 ――どうやら分かり合えなかったようだね

 ヨータの声がエイダの頭の中に響く、そして空にヒビが入り割れていく、そのヒビは徐々に広がっていき、この世界の全てにヒビが入っていく、そしてついに世界の全てが割れる。

 エイダ達は元のガデレート山の謎の遺跡に戻ってきていた。

 アイラはエイダを睨みつけ、光の翼を展開させる。

「この世界に戻ってきたということはもう、貴方と戦えるのね」

 アイラはそういいながら、右手に握られた聖剣の切っ先をエイダに向ける。2人の兄妹がそれに合わせ、光の翼を展開させた。
 エイダもまた迷いを捨てきれなかったが、覚悟を決め、一対の翼を広げた。

 今まさに、兄妹同士の、殺し合いが始まろうとしていたその時、兄妹達の頭上から白銀の光線が降り注いだ。

 光線は兄妹達の半歩先の床を横一線に薙ぎ払う、床は赤く熱を含んだと同時に光線が過ぎ去った後、爆発した。アイラ達は爆炎に巻き込まれる

「これは…!」

 エイダはこの光線に見覚えがあった。

「アレン先生の魔法…!」

 その呟きとともにエイダの横に白猫が優雅に着地する。白猫はエイダをじっと見つめると、ホッとしたように、安堵の鳴き声を口から捻り出す。

「良かった…どうやら無事なようじゃな」

 エイダは「うん大丈夫」といい頷く。しかしそれよりも問題はあの兄妹だ、アレン先生の強力な魔法を食らったとはいえ、あれで倒されたとは思えない。
 それにエイダにはなんとなく感じていた感覚があった。

「アレン先生、多分、アイラ達は無事だと思う」
「ほう、なぜ言い切れる」
「感じるの…魂がまだそこにいる」

 ――そうね、その通りよエイダ

 エイダの頭の中にアイラの声が響く。

「なに、これ…?テレパシー?!」
「エイダどうした?テレパシー?なんのことじゃ?」

 アレン先生は不思議がる、彼女の見立てによれば、テレパシーの魔法の痕跡はない、それどころかなんの魔法も使われていないのだ。
 再び頭の中に声が響く。

 ーー言ったでしょう、私たちは元は、同じ魂を分け合っている、だから感知もでき、そして、魂同士繋がっているからテレパシーの魔法なんか使わなくても会話ができる

 煙の中からアイラが出てきた。

「おめでとうエイダ、貴方は完全に覚醒したのよ、魂の感知ができるようになったのがその証拠、だけど残念だわ、これほどの逸材を殺さなくてはならないなんて…」

 エイダは身構え、アレン先生は自身を人間の姿に変身させた。

「やはりエイダの見立て通り無事じゃったか」

 人間の姿に変身したアレン先生は忌々しげに言った。

「あの程度では私たちは死なないわなんといっても最強の盾がついているんですもの」
「ほう、ならば試してみるとするかのう!」

 アレン先生は、無詠唱で、巨大な火球を繰り出した、火球は凄まじい速度でアイラに向かう。
 アイラに当たる直前、煙の中から1人の少女が飛び出しアイラの前に立つ。エールだ、エールは水晶のような透明の物質で構成された、盾を火球と自分の体の間に出現させる。

 盾は見事に機能し、火球を防ぐ。アイラは顔を歪ませ喜ぶ。
 アレン先生は舌打ちした

「防がれたか?!」

 すると、再び煙が揺れ動く、煙の中から、アルがまるで雷のようにアレン先生に向かって突進してきた。

「アレン先生、危ない!」

 エイダはアレン先生をかばい、魔法障壁でアルの雷を纏った貫手を防ぐ。

「礼を言うぞエイダ!」

 アレン先生は、風の魔法で突風を起こし、アルを吹き飛ばした。
 アルはそのままアイラ達の元まで吹き飛ばされるも、自前の羽でバランスを取りアイラのとなりに着地する。

「くっ、一筋縄ではいかんようじゃな」
「そう、私たちは手強いわよ魔女アレン?」

 アイラの聖剣が鈍く光を反射した。
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