上 下
84 / 130

ごめんね

しおりを挟む
「そんな…」

 ルジェルーノの下半身、クラゲの傘の上でアンは嘆いた。戦況はルジェルーノ自らが起こした砂嵐により見えはしない。
 しかし、アンは気づいた、気づいてしまった。それは自身の死霊術が解ける感覚、想像もしたくもない家族が消える感覚だった。

「ジャンが…消えた…」
「何ですって!?」

 男の召喚士カミルはその言葉に驚きつつも、ルジェルーノのコントロールを忘れはしない、とっさにジャンを衝撃波から守るためにワザと作っていた、衝撃波のない空白の空間に、ルジェルーノの衝撃波を送り込む。

「リーダー…!しっかりしてまだ戦いは終わってないわ!」
「でも…カミル…ジャンが…ジャンが…」
「悲しむのは後よ!」

 家族を失った痛みは想像を絶する。しかし今はその痛みに浸っている時ではない、まだ目の前に敵がいるからだ、ジャンを倒したとなると、数的不利はアン側にある。
 そう考えたカミルは、より一層、ルジェルーノの演奏を激しくさせた。

「リーダー!さぁ!しっかり!」

 カミルの呼びかけに力なくアンは頷く。

 ――ジャン、まさかあんたが逝くとわね…

 カミルもまたアンと同じく、一瞬だけ、悲しみに浸るしかし悲しみに浸っても、この戦いは終わらない。
 そう思い出さなければいけない、なぜ自分たちが戦い続けるのか。

 ――全ては争いのない世界のため、アンのために!!

 カミルは悲しみを怒りに、そして自分の中の魔力を振り絞り、ルジェルーノを操る。

「さぁ!奴らを打ちのめしなさい!ルジェルーノ!!」

 音が炸裂しそれは一方向に収束された衝撃波となり、標的である、エイダたちの元へと降り注いだ。




「アレン先生、もう持たない!」

 エイダは悲鳴をあげた、ルジェルーノの音の衝撃波がさらに強くなったのである。このままでは魔法の防御障壁が破られてしまう。

「こらえるのじゃエイダ!もう1発奴に打ち込む!」

 アレン先生は手のひらに白銀の光球を浮かばせながらそう叫ぶ。

 ――後一回でいいもう一度、魔法を打てればあのクラゲの化け物を倒せるのにのぅ!

 その自信がアレン先生にはあった。最初に撃った火球の魔法が、直撃する前に爆発したのは恐らく、音の衝撃波が壁の役割をしていたのだろう。火球はその壁を貫けず爆発したのだ。
 ならば次は、貫通力のある魔法を使えば良い。衝撃波の壁にも負けないような。そんな魔法を今まさに形成している時、魔法障壁内に突如、1人の男が現れる。

「よぅ!こっちは大丈夫か?…大丈夫じゃなさそうだな!」
「大丈夫なわけあるか!ドンキホーテ!」

 現れた男の正体はドンキホーテだ、テレポートの魔法を使用し魔法障壁内に入ってきたのだ。
 彼は状況を理解すると何か打開策を思いついたのか、詠唱を始める。

「何をするつもりじゃドンキホーテ!」

 アレン先生が聞く。するとドンキホーテは食い気味にこう答えた。

「アレを使うんだよ!アレを当てるから!あのクラゲに!アレン先生はトドメを!エイダはすまねぇもうすこし持ちこたえてくれ!」

 アレとはなんのなのか、エイダにはサッパリ理解できなかったが、アレン先生には伝わったのか今、詠唱している魔法をさらに完成度高めるべく集中を始めた。
 エイダはとにかくドンキホーテとアレン先生を信じるしかない。残る魔力を総動員させ障壁を厚く貼る。
 だがそれも長くは持たなそうだ、ルジェルーノの演奏は次第に激しくなり衝撃波の威力も増しつつある。
 エイダの魔法障壁にヒビが入った。

 ――いけない!

 ヒビが入ったところから徐々にヒビが拡大していく、嫌な音を立てながら次第に、次第に魔法障壁は亀の甲羅のように亀裂が入っていった。

「これ以上は!アレン先生!ドンキホーテ!」
「ああ待たせたな!エイダ!準備完了だぜ!」

 ドンキホーテは勢いよく剣を突き出す、すると剣の刃を囲むように黄金の五芒星が描かれた円の印が浮かび上がる。
 そして彼はその五芒星を横一文字に切り裂き、こう叫んだ。

「聖剣、擬似召喚!エクスカリバー!」

 するとクラゲの怪物、ルジェルーノの直下に同じ五芒星が描かれた円が出現する。しかし先ほどとは違う部分がある。
 それは大きさだ、円の直径はルジェルーノのクラゲの傘と同じぐらいの大きさだった。
 一瞬で生成されたその図形の中心から、光が溢れ出る。

「…!ルジェルーノ音の壁で防ぎなさい!」

 カミルはそれに気づきいち早く対策を講じる

 ――これは聖剣の力!?聖騎士の能力も使えるというの?!

 彼女は驚愕しつつその光を音の壁で遮った。しかし光は止まらない。
 その光は巨大な剣と化しルジェルーノを下から貫いた。
 聞き難い叫び声と共にクラゲの化け物ルジェルーノは演奏を止める。

「…今だ!先生!召喚士の胸を狙え!」

 肩で息をしながらドンキホーテは力いっぱいに叫ぶ。

「わかった!ドンキホーテ!エイダゆくぞ!」
「はい!」

 狙うは召喚士である男の方、アレン先生は魔法の名を呼ぶ。

「デルタ・レイ!」

 三種類の属性複合魔法である、白銀の光線が放たれた。



 ルジェルーノは光の剣に貫かれてもまだギリギリ持ちこたえ、姿勢を保ち空中に浮遊していた。
 ルジェルーノのクラゲの傘に乗っていたカミルは、先ほどのルジェルーノが、光の剣に貫かれたせいで起きた揺れで落ちそうになったアンを支えていた。

「リーダー!大丈夫!?」
「ええ私は大丈夫それよりもカミルは?」
「ええ私も…!?」

 カミルはアンを突き飛ばした。

「カミル?!」

 突き飛ばす瞬間カミルは小さく呟いた「ごめんね」と
 白銀の光線がカミルの胸を貫く。
 アンはまた1人家族を失った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

転生の果てに

北丘 淳士
ファンタジー
先天性の障害を持つ本条司は、闘病空しく命を落としてしまう。 だが転生した先で新しい能力を手に入れ、その力で常人を逸した働きを見せ始める。 果たして彼が手に入れた力とは。そしてなぜ、その力を手に入れたのか。 少しミステリ要素も絡んだ、王道転生ファンタジー開幕!

そんなにホイホイ転生させんじゃねえ!転生者達のチートスキルを奪う旅〜好き勝手する転生者に四苦八苦する私〜

Open
ファンタジー
就活浪人生に片足を突っ込みかけている大学生、本田望結のもとに怪しげなスカウトメールが届く。やけになっていた望結は指定された教会に行ってみると・・・ 神様の世界でも異世界転生が流行っていて沢山問題が発生しているから解決するために異世界に行って転生者の体の一部を回収してこい?しかも給料も発生する? 月給30万円、昇給あり。衣食住、必要経費は全負担、残業代は別途支給。etc...etc... 新卒の私にとって魅力的な待遇に即決したけど・・・ とにかくやりたい放題の転生者。 何度も聞いた「俺なんかやっちゃいました?」       「俺は静かに暮らしたいのに・・・」       「まさか・・・手加減でもしているのか・・・?」       「これぐらい出来て普通じゃないのか・・・」 そんな転生者を担ぎ上げる異世界の住民達。 そして転生者に秒で惚れていく異世界の女性達によって形成されるハーレムの数々。 もういい加減にしてくれ!!! 小説家になろうでも掲載しております

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
『貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。』の番外編です。 本編にくっつけるとスクロールが大変そうなので別にしました。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

処理中です...