上 下
18 / 130

しおりを挟む
  「悪かったよアレン先生、怒るなって」

「ワシをなんだと思っとる!貴様はぁ!」

 ドンキホーテはアレン先生に怒られる。アレン先生の怒りは最もだ、彼女の予想では今頃は柔らかく、体を包み込むクッションに座っているはずだったのに、ドンキホーテの咄嗟の機転により馬小屋へぶち込まれたのだから。アレン先生はすっかり拗ねてしまった。

「だからこうやって連れ出しにきたじゃねぇか悪かったよ。わざわざ苦手な高いところまで来てくれたのにごめんな?」

「べ、別に高いところは平気じゃ、まあ反省してるなら許してやろう。」

「先生はじゃあ早速で悪いんだが姿隠しの魔法を使ってくれないか?動物禁止なんだよここ。」

 姿隠しの魔法、その名の通り姿を消す魔法だ。

「わかった、良いかワシが姿を消したら、ワシの体にお前も触れろそうすればワシの姿が、お前だけに見えるようになる。」

 ドンキホーテは、わかった、と頷く。するとアレン先生の体はみるみる景色に溶けていった。

(この辺か?)

 ドンキホーテはアレン先生が消えてたあたりの空間を撫ぜる。すると細長い縄のような、しかし絹のような滑らかななにかの感触を感じた。

「馬鹿者!それは尻尾じゃ!」

「おっと失礼、ごめんな先生。」

 触った瞬間、飛空挺内の馬小屋の景色中にアレン先生がぼんやりと浮かび上がる。

「これでいいのかい?俺の目にはちゃんと写ってるけど。」

「心配無用じゃきちんとワシの魔法は作動しておる。」

 その証拠にとアレン先生は1番に外に出る。
  通りかかる金持ち、ボディガードはまるでアレン先生に気づかない。まるでそこにいないかのように振る舞い歩いている。例えアレン先生を踏みそうになっても、おっと危ない危ない、などと言わずにそのまま踏み潰してしまいそうだ。

「そういえばエイダはどこにおるんじゃ?」

「エイダは客室だ。ってつい会話しちまったがこの声は他の客に聞こえやしねぇのかい?」

「聞こえるぞお前の声だけな。」

(あーテレパシーかよこれ!やるなら早く言ってくれ!恥ずかしいじゃねえか!)

(ちょっとした仕返しじゃあ。)

  廊下で醜い争いを繰り広げられているうちにエイダのいる客室へと2人は到着する。
  ドンキホーテはあらかじめ決めておいた合図である、特殊なリズムのノックをした。すると扉は開けられ中からエイダが出てきた。

「どう?アレン先生は大丈夫?」

「ああ、元気だったぜ嫌になるくらいな。ああそうだ、エイダ俺の掌を触ってくれないか?」

 そうドンキホーテは掌をエイダに見せた。まるで物を持っているかのように。エイダは言われるがまま掌を触ろうとするしかし、なぜかフワリとしたものに邪魔されドンキホーテの掌に手が到達できない。そのまま力ずくで触ろうとする。

「ぐえ、もう十分じゃ!」

 すると掌の上にアレン先生が浮き出てきた。

「先生!びっくりした!」

「ふざけてるからだぜ先生。」

 そうドンキホーテは戒めた。
  客室の中は実に優雅であった。華美なテーブルに華美な椅子。この中にあるすべての家具に華美という言葉がつけられるのではないかと思われるほどの豪華さ。上流階級を相手に商売をしているだけあって内装よ力の入れ具合は凄まじい。
  そんな中ドンキホーテ達は3人で1つの客室へと泊まったベットはエイダとアレン先生の分があり、ドンキホーテはソファで寝る目論見だ。何があっても一緒の部屋ならば対応できる。ドンキホーテの考えだ。しかし年相応の女子の部屋にこんな男がいても窮屈だろうとドンキホーテは考え、エイダにアレン先生か自分の同伴でいいなら船内を見渡してきてもいいという条件のもと自由行動を良しとした。その方が良いだろう。
 なにせせっかくの飛空挺、しかも安全は保証されている。楽しめなければ損というものだ。エイダ自身の運命としてこの先何回楽しいと思える出来事が続くかわからない。そう思ってのドンキホーテなりの気遣いだった。

「ねぇ!ドンキホーテも一緒に3人で見に行こう!」

 そんなこと知ってか知らずかエイダはドンキホーテとアレン先生を誘い空の風景を目を輝かせながら見ていた。

「やっぱり飛空挺はいいよなぁ!ロマンがあるぜ!」

「うおお高すぎじゃ……」

「すごい………こんなに高いところ見たことない雲の上だなんて…!」 

 エイダの喜ぶ顔そして、ついでにアレン先生のビビる顔が見られてドンキホーテはこれだけでもきて正解だったと1人思う。
  そしてこの景色、雲の上というなかなか見られない景色にドンキホーテ自身も心を奪われていた。

「ねぇ次も見に行かない?」

「わかったわかった、あまり急ぐなよ、腹が減っちまうぜ」

 そう笑いながらドンキホーテはエイダを冗談交じりにたしなめた。その時だ。
  何か窓の景色に違和感を覚えた。
  ここは雲の上空の魔物は周りの軍事用の飛空挺が遠ざけてくれるはずだ。見間違いかドンキホーテはそう思った。
 そう思いたかった。

  ドンキホーテの目下窓の外には巨大な蛇のような影が雲の中で蠢いていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!

神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話! 『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください! 投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

令和日本では五十代、異世界では十代、この二つの人生を生きていきます。

越路遼介
ファンタジー
篠永俊樹、五十四歳は三十年以上務めた消防士を早期退職し、日本一周の旅に出た。失敗の人生を振り返っていた彼は東尋坊で不思議な老爺と出会い、歳の離れた友人となる。老爺はその後に他界するも、俊樹に手紙を残してあった。老爺は言った。『儂はセイラシアという世界で魔王で、勇者に討たれたあと魔王の記憶を持ったまま日本に転生した』と。信じがたい思いを秘めつつ俊樹は手紙にあった通り、老爺の自宅物置の扉に合言葉と同時に開けると、そこには見たこともない大草原が広がっていた。

処理中です...