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王都行き魔道機関車事変③
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「うぁ!」
リリベルは驚きの声を上げ、ミケッシュは震え、ネクスは窓の外の化け物を睨んだ。
列車は大きく揺れ、列車内の学生達が騒つく。
揺らしているのは、おそらく化け物が、列車の中に入ろうとしているのだとネクスは感じとる。
「っ! 逃げるわよ!」
そう言いながら列車の揺れで落ちてきた自身の荷物を掴み、ネクスは震えるミケッシュの手を引く。
「う、うん!」
リリベルもネクスの後に続いて、客室を出た。
「魔王……様……?」
後ろで化け物の口から、そんな声が聞こえた気がした。
客室から出て、廊下に出たネクス達は息を整える。三人の抱いた客室から大分離れた。
しかし、列車の揺れは止まらない。いまだに肉塊の化け物が列車を揺らしている。
「全く、なんなのよ、あの化け物!」
ネクスは悪態をつきながら、客室から持ってきた、縦長の巨大なカバンから剣を取り出した。
「ま、まさか戦う気?」
ミケッシュは、震えた声で問う。
「列車が壊されたら、私たちも危ないでしょ!」
ネクスは剣を取り出す。真鍮の鍔をあつらえたおそらく両手で使うであろうその曲剣は漆で塗られたであろう、立派な黒い鞘の中に収められている。
ネクスはその曲剣をあらかじめ剣を入れられるように、改造してあったスカートの脇に差す。
「で、でも戦うなんて危ない!」
ミケッシュの言うことはもっともだ。リリベルもミケッシュの言うことに頷いた。
「確か……魔道列車には、結界の魔法が列車表面に張り巡らせてあるはず、そう簡単には壊されない。僕たちはこの列車に常駐しているはずの護衛の冒険者に……」
そうリリベルが提案した時だった。ネクス達がいた客室に光の線が走る。次の瞬間爆発したかのように、その客室が吹き飛んだ。
「っ!!」
それにいち早く対応できたのは、ネクスだった。ネクスは咄嗟に抜剣し構える、リリベルは叫び声を上げたミケッシュを庇うように前に出た。
何者かが、客室を壊した。それが誰なのか、三人はわかっていた。
そして破壊された客室から答え合わせをするように、ぬるりと現れたのは窓の外にいたはずの肉塊の化け物だった。
遂に全貌をあらわにした化け物は奇妙な見た目だった。
見るに耐えないほどのグロテスクな肉塊は時折蠢き、赤黒い肉の隙間から血を吐き出している。その血はどうやら、相当な高温なようで、床に着いた途端、蒸発して乾いていった。
しかし不思議なことに肉塊の下は茶色いスカートを履いた人間の脚だった。
そこでネクス達は直感的に気づく。この化け物の正体を。
この化け物は、元人間なのだと。
ミケッシュは怯え、リリベルもまた体を強張らせる。唯一、この状況で化け物に向かって一歩を踏み出せたのはネクスだけだった。
「ッ!」
床を踏み、音を立てて壊した後、ネクスは加速した。加速のさなか彼女は狭い空間の中、器用に剣を肩に抱えるように構える。
剣は光を反射させ、光の弧の軌跡を描く。
ネクスは構えの状態から流れるように斬撃は放ったのだ。驚くべきは上からの振り下ろすような斬撃にも関わらず、ネクスの剣はこの狭い列車の天井に一切、掠りもせずに美しい軌道を描いたことだ。
何にも邪魔されなかったネクスの斬撃は彼女の持てる力を濁りなく発揮できている。まさに会心の一撃と言えるものだった。
加えて、攻撃の対象となった肉塊の化け物、その上半身は廊下を塞ぐほど巨体、避けられるはずもなかった。
一瞬の風切り音が廊下に轟く。ネクスの斬撃は見事に化け物に命中した。
「ッ!」
ネクスは手応えを感じたものの、バックステップで、リリベルたちの元へと戻る。
理由は簡単だ。
「ぎゃぁぁぁぁああぁぁ!!」
金切り声を上げながら血を吐き出す化け物。斬撃を叩き込まれた部位からの出血だった。出血量は凄まじく、高音の血の雨が床に撒き散らされ、湯気を放っている。
この高温の血を浴びぬためにネクスは退いたのだ。
(す、すごい)
リリベルは一連の少女の行動に感嘆を覚えずにいられなかった。このネクスという少女、実力もさることながら、決断力が凄まじい。
一瞬で、異常事態の解決に尽力すべく、一歩踏み出したのだ。
思考が停止していた自分と違って、とリリベルは自身を恥じる。
「くっそ! 厄介ね、あいつ、あの熱そうな血のおかげで、接近戦しにくい!」
ネクスは化け物を睨みつけながら言う。
「まぁいいわ、だったらさっきみたいなヒットアンドアウェイで……」
ネクスがそう呟いた瞬間だった。暗い赤が伸びた。
それを目で捉えられたのはネクスだけだった。列車の客室と並び立つドアに切れ目が入る。
鈍い衝突音がネクスの剣から響く。
暗く赤い肉の触手が、ネクスの剣に触れていた。いや、防いでいたといった方が正しいだろう。
その触手は化け物から伸びており、触手の先端には赤い鋭利な刃が形成されていた。
肉塊の化け物の明確な殺意が現れた攻撃だった。
ネクスだけが、反応し得た高速の斬撃。しかし、ネクス自体も反応するだけが精一杯だったのだと、ミケッシュとリリベルの二人はネクスの焦りの表情から感じ取った。
客室のドアや壁が崩れ去る。ネクスの、彼女の決断力によって見出された。わずかな希望もまた同じようにに音をたてて崩れた。
「くそ!」
しかし当の本人のネクスは、触手を手首のスナップを効かせることにより切断する。彼女はまだ、継戦の意思があるようだ。
「ネクス!」
無茶だ、とリリベルが言いかける前に、
「わかってるわよ! でも! 逃げられないでしょ!」
ネクスはそう返す。
しかしそんなネクスの姿をみかねてか、ミケッシュはネクスのスカートの端を掴んだ。
「何よ! ミケッシュ!」
余裕のないネクスは剣を正眼に構え、化け物を睨みつけながらミケッシュに怒鳴る。
ミケッシュは、震えながらも言った。
「だ、だめだよ! ネクス」
「でも──!」
「ここじゃだめだよ! そ、外にでよう!」
ミケッシュは震えながらも、しかしはっきりと言い切る。
「こ、この狭い場所じゃ、うまく戦えない! さ、さっきの斬撃だって、防ぐ選択肢しかない! だったら──!」
外で、ミケッシュが言い切る前に、鈍い音が再び響く。ネクスが襲いくる触手を再び弾いた音だった。
「ひぃ!」
怯えるミケッシュ。
「リリベル、ミケッシュを抱えて」
そんなミケッシュを横目で見ながらネクスは言った。
「外に出る!」
ネクスの言葉にリリベルは頷く。
「わかった!」
リリベルは驚きの声を上げ、ミケッシュは震え、ネクスは窓の外の化け物を睨んだ。
列車は大きく揺れ、列車内の学生達が騒つく。
揺らしているのは、おそらく化け物が、列車の中に入ろうとしているのだとネクスは感じとる。
「っ! 逃げるわよ!」
そう言いながら列車の揺れで落ちてきた自身の荷物を掴み、ネクスは震えるミケッシュの手を引く。
「う、うん!」
リリベルもネクスの後に続いて、客室を出た。
「魔王……様……?」
後ろで化け物の口から、そんな声が聞こえた気がした。
客室から出て、廊下に出たネクス達は息を整える。三人の抱いた客室から大分離れた。
しかし、列車の揺れは止まらない。いまだに肉塊の化け物が列車を揺らしている。
「全く、なんなのよ、あの化け物!」
ネクスは悪態をつきながら、客室から持ってきた、縦長の巨大なカバンから剣を取り出した。
「ま、まさか戦う気?」
ミケッシュは、震えた声で問う。
「列車が壊されたら、私たちも危ないでしょ!」
ネクスは剣を取り出す。真鍮の鍔をあつらえたおそらく両手で使うであろうその曲剣は漆で塗られたであろう、立派な黒い鞘の中に収められている。
ネクスはその曲剣をあらかじめ剣を入れられるように、改造してあったスカートの脇に差す。
「で、でも戦うなんて危ない!」
ミケッシュの言うことはもっともだ。リリベルもミケッシュの言うことに頷いた。
「確か……魔道列車には、結界の魔法が列車表面に張り巡らせてあるはず、そう簡単には壊されない。僕たちはこの列車に常駐しているはずの護衛の冒険者に……」
そうリリベルが提案した時だった。ネクス達がいた客室に光の線が走る。次の瞬間爆発したかのように、その客室が吹き飛んだ。
「っ!!」
それにいち早く対応できたのは、ネクスだった。ネクスは咄嗟に抜剣し構える、リリベルは叫び声を上げたミケッシュを庇うように前に出た。
何者かが、客室を壊した。それが誰なのか、三人はわかっていた。
そして破壊された客室から答え合わせをするように、ぬるりと現れたのは窓の外にいたはずの肉塊の化け物だった。
遂に全貌をあらわにした化け物は奇妙な見た目だった。
見るに耐えないほどのグロテスクな肉塊は時折蠢き、赤黒い肉の隙間から血を吐き出している。その血はどうやら、相当な高温なようで、床に着いた途端、蒸発して乾いていった。
しかし不思議なことに肉塊の下は茶色いスカートを履いた人間の脚だった。
そこでネクス達は直感的に気づく。この化け物の正体を。
この化け物は、元人間なのだと。
ミケッシュは怯え、リリベルもまた体を強張らせる。唯一、この状況で化け物に向かって一歩を踏み出せたのはネクスだけだった。
「ッ!」
床を踏み、音を立てて壊した後、ネクスは加速した。加速のさなか彼女は狭い空間の中、器用に剣を肩に抱えるように構える。
剣は光を反射させ、光の弧の軌跡を描く。
ネクスは構えの状態から流れるように斬撃は放ったのだ。驚くべきは上からの振り下ろすような斬撃にも関わらず、ネクスの剣はこの狭い列車の天井に一切、掠りもせずに美しい軌道を描いたことだ。
何にも邪魔されなかったネクスの斬撃は彼女の持てる力を濁りなく発揮できている。まさに会心の一撃と言えるものだった。
加えて、攻撃の対象となった肉塊の化け物、その上半身は廊下を塞ぐほど巨体、避けられるはずもなかった。
一瞬の風切り音が廊下に轟く。ネクスの斬撃は見事に化け物に命中した。
「ッ!」
ネクスは手応えを感じたものの、バックステップで、リリベルたちの元へと戻る。
理由は簡単だ。
「ぎゃぁぁぁぁああぁぁ!!」
金切り声を上げながら血を吐き出す化け物。斬撃を叩き込まれた部位からの出血だった。出血量は凄まじく、高音の血の雨が床に撒き散らされ、湯気を放っている。
この高温の血を浴びぬためにネクスは退いたのだ。
(す、すごい)
リリベルは一連の少女の行動に感嘆を覚えずにいられなかった。このネクスという少女、実力もさることながら、決断力が凄まじい。
一瞬で、異常事態の解決に尽力すべく、一歩踏み出したのだ。
思考が停止していた自分と違って、とリリベルは自身を恥じる。
「くっそ! 厄介ね、あいつ、あの熱そうな血のおかげで、接近戦しにくい!」
ネクスは化け物を睨みつけながら言う。
「まぁいいわ、だったらさっきみたいなヒットアンドアウェイで……」
ネクスがそう呟いた瞬間だった。暗い赤が伸びた。
それを目で捉えられたのはネクスだけだった。列車の客室と並び立つドアに切れ目が入る。
鈍い衝突音がネクスの剣から響く。
暗く赤い肉の触手が、ネクスの剣に触れていた。いや、防いでいたといった方が正しいだろう。
その触手は化け物から伸びており、触手の先端には赤い鋭利な刃が形成されていた。
肉塊の化け物の明確な殺意が現れた攻撃だった。
ネクスだけが、反応し得た高速の斬撃。しかし、ネクス自体も反応するだけが精一杯だったのだと、ミケッシュとリリベルの二人はネクスの焦りの表情から感じ取った。
客室のドアや壁が崩れ去る。ネクスの、彼女の決断力によって見出された。わずかな希望もまた同じようにに音をたてて崩れた。
「くそ!」
しかし当の本人のネクスは、触手を手首のスナップを効かせることにより切断する。彼女はまだ、継戦の意思があるようだ。
「ネクス!」
無茶だ、とリリベルが言いかける前に、
「わかってるわよ! でも! 逃げられないでしょ!」
ネクスはそう返す。
しかしそんなネクスの姿をみかねてか、ミケッシュはネクスのスカートの端を掴んだ。
「何よ! ミケッシュ!」
余裕のないネクスは剣を正眼に構え、化け物を睨みつけながらミケッシュに怒鳴る。
ミケッシュは、震えながらも言った。
「だ、だめだよ! ネクス」
「でも──!」
「ここじゃだめだよ! そ、外にでよう!」
ミケッシュは震えながらも、しかしはっきりと言い切る。
「こ、この狭い場所じゃ、うまく戦えない! さ、さっきの斬撃だって、防ぐ選択肢しかない! だったら──!」
外で、ミケッシュが言い切る前に、鈍い音が再び響く。ネクスが襲いくる触手を再び弾いた音だった。
「ひぃ!」
怯えるミケッシュ。
「リリベル、ミケッシュを抱えて」
そんなミケッシュを横目で見ながらネクスは言った。
「外に出る!」
ネクスの言葉にリリベルは頷く。
「わかった!」
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