探していたのは僕でした

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彼の部屋で*

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 部屋から出て、廊下を歩いているときもまだ緊張感が残っていて、フェリクス様の部屋にたどり着いてから、ようやく力を抜くことができた。

「疲れました……」

「そうだ、母上がたくさん菓子を用意していたんだった。持ってこさせよう」

「待って。ぎゅってしてほしいです」

 フェリクス様に抱きしめられるととても安心する。顔を上げると額に口づけが降ってきた。そのまま背伸びをして目を閉じると唇にキスをしてくれた。

「……ご実家でキスをしてしまった」

「別にいいだろ、婚約してるんだから」

「そうかもしれませんが」

「今日もダメか?」

「ここで……ですか?」

「じゃあ、ルシアンの家」

「僕の家はダメです。ベッドが小さすぎますし。だって絶対にすごく大きいベッドでしょう?」

「見てみるか?」

「へ?」

「よっと」

「あっ、ちょっと」

 そのまま抱きかかえられて、扉の方へ向かっていった。

「見るだけ」

「見るだけですよ?」

 扉の前でそっと降ろされて、中を覗いてみた。天蓋付きの何人用なんだ?と思うほどに大きなベッドがドンと置かれている。

「やっぱり大きい……わっ」

 ドンと押されて中に入る形になってしまった。フェリクス様はベッドの方にスタスタと歩いていく。そこに腰を下ろしたフェリクス様が隣をポンポンと叩いて座れと促してきた。

「うぅ……分かりましたよ」

 彼の隣に腰を下ろすとおしりが思っていたよりも沈み込んで声が出た。

「ここで眠っているんですね」

「そうだよ」

 フェリクス様がゴロンと寝転び、僕の腕を引っ張った。そのせいで僕も寝転ぶ事になってしまった。

「フェリクス様!?」

 間近に迫るフェリクス様に心臓が高鳴る。どうしよう、このまま? 彼の手が僕の頬に触れた。

「最後までしないから、触れるだけ」

「あの……でも」

「ん?」

 触れてほしい。でも、見られるのが怖い。

「服を着たままでもいいですか?」

「脱ぎたくないのか?」

「はい……」

「理由を聞いても?」

「……傷跡があって、きれいな体じゃないから」

「傷跡?」

 目を伏せると彼に抱きしめられた。

「ごめん。嫌な事を言わせて」

「別にいいんです。だから、あの服を着たまま」

「ルシアンが嫌ならそれでもいい。でも、俺は」

「なんですか?」

「ありのままの君を見たいと思ってしまう」

「嫌いになったりしませんか?」

 バッと離されて、少し怒ったような顔で「なるわけないだろう」とはっきり言われた。

「本当に?」

「どんなルシアンでも俺は好きになれる自信がある。嫌いになる日なんて永遠にこない」

「……分かりました」

「いいのか?」

「触るだけ……ですよ?」

「キスは?」

「いいです……」

 言い終わらない内に唇を塞がれて、すぐに舌が入ってきた。頬にあった手はだんだんと下へとおりていき、服の上から胸の突起を弄り始めた。

「服脱がせてもいい?」

 頷くと一つ一つボタンを外して前が開けた。その下に着ている服に手をかけられて、思わずビクリと反応してしまう。起き上がってすべて脱ぎ去ると、彼の表情が険しくなった。

「これでも薄くなったんです。先生に薬をもらって」

 体には鞭で打たれた跡が無数に走っている。やっぱり見せるんじゃなかったかもしれない。

「殺してやりたくなる」

「フェリクス様?」

「なんの罪もないルシアンにこんな仕打ちを」

「誰かに当たらないとやっていられなかったと思うんです。だから」

「だとしても……異常だ」

「そうなんでしょうか」

「ルシアン」

「はい」

「幸せにするから、絶対に」

「一緒に幸せになりましょう? ね?」

 そう言って笑うと「そうだな」と言って笑ってくれた。僕も彼の事を幸せにしてあげたい。そう思うと愛おしくて仕方がなくて彼に抱きついた。

「大好きです」

 耳元で囁くと「俺も大好きだよ」と返ってきた。ふたりで笑いながらキスをした。

 彼が僕の体の方に顔を寄せてそっと傷跡に口付けた。優しく何度も。安心したのか嬉しいのか、自然と頬を涙が伝った。

「すまない、痛むのか?」

「いいえ。ずっとこの体を見せることを躊躇っていたので、何だかホッとしたというか」

「痛いわけじゃないんだな?」

「全然」

「よかった」

「もっと……触ってほしいです」

「うん」

 また体に口付けを落としながら突起を直に弄り始めた。

「んぅッ……」

「気持ちいい?」

「分からないです……くすぐったいような……変な感じ」

「声聞かせて。誰にも聞こえないから」

 また弄られて声が漏れ出た。さっきから下が熱を帯びていて、触りたくなってしまう。

「あっ」

 彼の手が下に伸びて羞恥心でいっぱいになる。こんな事になってるなんてバレたくなかったのに。

「あっ、待って」

 布越しにスリスリと擦られて腰を引いた。でも、彼はそんな僕を見ながら、中に手を侵入させてきた。

「めちゃくちゃ濡れてる」

「言わないで」

「脱げる?」

「脱ぐのですか?」

「脱がないのか?」

「……フェリクス様も脱いでほしいです」
 
「いいよ?」

 そう言うやいなやあっという間に服を脱ぎ捨てた。引き締まった筋肉質の裸体はため息がでるくらい見事で美しい。そして、そそり勃つものの大きさに慄いた。それに比べて僕はヒョロヒョロで貧相だ。彼みたいにガッシリとした体になるにはどうすればいいのだろうか?
 
「次はルシアンだな」

「やっぱりフェリクス様はいい体ですよね」

「そうか?」

「憧れます。男らしい体」

「……いや、ルシアンはそのままでいいよ」

「男らしいほうが良くないですか?」

「良くないな」

 全部脱ぐと、「このままがいい」とものすごい圧で言われた。そんなに言うならこのままでいいか。

「こんなにも触り心地がいいんだから」

 そう言って肌を撫でた。くすぐったくて身をよじると彼が僕の上に覆いかぶさった。手は僕の勃ちあがったものに触れて上下に扱き始めた。

「あぁっ……ダメぇ」

「こっちも一緒にがいいか?」

 片手をお尻に這わせて、穴の付近を撫で始めた。触れられているだけなのに、官能的な気分になってくる。体を震わせながらもっとと強請るように腰を動かしてしまう。

「ああっん……」

 ついには指を挿れられて体がビクリと跳ねた。

「やっ……あっあっ」

「ルシアン」

 熱を帯びた声音で名前を呼ばれて、それすらも性感帯を刺激する。

「フェリクスさまぁ……」

 僕の股間に擦り付けるように彼が腰を動かし始めた。これ……すごく気持ちいい。

「ルシアン……一緒に」

「あっん……はい……」

 腰と手の動きが激しさを増し、頭の中が真っ白になったあと思いっきり射精してしまった。彼も同じタイミングで出たようで、迸る白濁の液体が僕の体を濡らした。

「ここまでしたら、最後までしてもいいんじゃないか?」

「……そうですけど」

「ルシアン」

 誘うように名前を呼ばれたけれど、まだ覚悟が決まらない。

「ダメ。せっかくですから、初夜まで取っておくというのはいかがですか?」

「却下」

「却下って……」

「じゃあ、すぐに一緒に暮らそう」

「まだどこに住むか決めてないじゃないですか?」

「それはそうだが」

「どこがいいですかね?」

「ルシアンの家はいいと思うがな」

「狭すぎるでしょ。身を寄せ合って眠らなきゃいけませんよ?」

「抱きしめて眠るんだから問題ないだろう」

「抱きしめて眠るんですか?」

「そうだ」

 そうなんだ。たしかに大好きな場所だけど、ふたりで住むには狭いような……。のそりと起き上がったフェリクス様が僕の体に触れ始めた。

「あっ……今日はダメ」

「なぜ?」

「やっぱり落ち着きません!」

「あんなによがっていたのに?」

「それは……そうかもしれませんが」

「仕方がない。今日は諦める。でも次は」

「わかりました! 次は最後まで……」
 
「最後まで?」

「……します」

「楽しみだ」

 何だかんだ理由をつけようとしたけれど、あれを受け入れるにはもう少し準備をしたほうがいいんじゃないかと少し怖気づいたからだとは口にできなかった。僕の想像を遥かに超える大きさだったのだから。

「何か食べるか?」

「……食べたいです」

「着るものは何でもいいか?」

「大丈夫ですが……」

「少し待っていてくれ」

 服を持ってきた彼に体を清められて、袖を通した。

「びっくりするくらいぴったりです」

「ルシアンがいつ来てもいいようにいくつか作ったから」

 物凄く用意周到だ。下履きまであるのだから。

「ありがとうございます」

「いつ来てもいいからな?」

「はい……」

 手を引かれて先程までいた部屋に戻ると、「エミール、用意してくれ」とフェリクス様が呟いた。エミール?

「エミール様は実在するのですか?」

「俺の側近だ」

「本物!!」

 少しワクワクしながらエミール様がやってくるのを待った。すると、扉をノックする音が聞こえた。

「入ってくれ」

「失礼致します」

 わぁー、本物だ! ワゴンを押したエミール様は銀縁の眼鏡をかけた真面目そうな人だった。

「エミール、ルシアンだ」

「はじめまして、エミール様」

「様などつけて頂かなくてよいです」

「呼び慣れていますので」

「そうですか、それならばお好きにお呼びくださいませ」

 ニッコリ微笑むと目を逸らされた。あれ、やっぱり嫌だったのかな……。
 
「遅かったですね。もう少し早く呼ばれるかと思っていたのですが……あぁ、なるほど」

「なんだ?」

「おめでとうございます」

「ニヤニヤするな」

「おっと、失礼」

 テキパキと机の上にセッティングしていく様子を見つめていると、ヒョイッとフェリクス様に持ち上げられて膝の上に乗せられた。

「あの?」

「どれが食べたい?」

「恥ずかしいのでおろしてください。自分で食べられます」

「私のことはお気になさらず。すぐに退室しますので」

「一緒に食べないのですか?」

「そこの人が殺気立っているのでやめておきます」

「殺気立つ? 残念だな。エミール様とお会いできて嬉しいのに」

「申し訳ございません。それでは、失礼致します」

 クルリと向きを変えた彼は足早に扉の外へと出ていった。

「残念だなぁ。もっと話してみたかったのに……。嫌われちゃったのでしょうか?」

「そんな事ないよ。俺がルシアンを独り占めしたかったから出ていってくれただけ」

「独り占めって……」

「惚れられたら困るし」

「それはないでしょう」

「あるから言ってるんだ。ルシアンが微笑むと空気が変わるんだからな?」

「よく分からないです。どれも美味しそうですね。どうしよう」
 
 机の上に置かれたキラキラと輝くようなスイーツ達を前にして、真剣に悩み始めた。

「全部食べていいからな?」

「流石に無理でしょ」

「いや。いけるだろ」

「うーん、タルトから食べようかな?」

 おろしてと言ったのに、膝に乗せられたまま切り分けられたタルトを口の前に差し出された。

「あーん」

「自分で食べられるのに」

 仕方がないと諦めて口を開けた。

「うーん、おいひぃです!」

 生地はサクサクだし、カスタードクリームは濃厚でそこにいちごが加わって絶妙なハーモニーを奏でている。さすが王室のスイーツ。
 
「次はどれにする?」

 雛鳥のようにフェリクス様に口へ運んでもらって、気付けばほとんど食べ尽くしていた。あれ、あんなにたくさんあったのに……食べちゃった。

「お腹いっぱい。幸せです」

 フェリクス様にもたれ掛かるとそっと髪を撫でられた。ダメだ、眠くなってくる。

「眠いんじゃないか?」

「そんな事ないです」

「もう少し一緒にいたかったが、帰るか?」

 首を横に振った。

「僕ももう少し一緒にいたいです」

「そんな事を言われると帰したくなくなるな」

「いつもそうだから。ずっと一緒にいたいなと思ってしまうんです」

「理性を壊すようなこと言わないでくれないか?」

「ご……ごめんなさい」

「ルシアンが可愛すぎて困る」

 頭を抱えるフェリクス様を見て笑ってしまった。

「早く一緒に暮らしたいですね」

「全く同感だよ」

 笑いながら見つめ合って、また口づけを交わした。そんな事をしたら余計に帰りたくなくなってしまうのに、抗えない欲に溺れて彼を求めた。
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