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第20稿

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と言って彼と他の店員さんに軽く会釈して、ジェントルに店を出た。さっきの彼が何か呟いてたように見えたが、それはそれで結構いい時間を過ごせたから、良かったことにしよう。これも一期一会って奴だ。ギターを売った我が心は、何か重荷を外したみたいで、体と心は至極、軽やかだった。思わずスキップをしてしまう程だ。気持ちはそんな感じだったが、恥ずかし気もなくそれをやるには、この場所は、ちと都会過ぎていた。九段下。大きなタマネギの近くを通ると人が溢れているのが目に見えて判った。ビジュアル系バンドのライブなのか、それを模写した軍団が辺りをたむろっていた。コスプレ好きな人がいるこの国ならではの光景。一種の同化願望。人は憧れの対称と自分を重ね、繋げたいという衝動に駆られるところがある。俺にはこの感覚はあまりないから、そこまで深くそういう人達の気持ちは分からないが、強いて言えば、スポーツで応援しているチームのゲームシャツを着て応援するのとあまり変わらないのではないか。応援する対象がメジャーかマイナーかの違いで、人の目が冷たくなっていく。それでも本当に好きなら、他人の目なんか気にならないと思うけど。きっとそういうことなんだろうと思いながら、そのすぐ横を通る。横目でチラッ。あっやばっ、何か今、目が合ったかも。
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