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その後の話
プレゼントと宝物(後編)
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リビングのソファに座り、背後から凛の身体を包み込む。
彼の肩越しに絵本を覗き込むと、水彩絵の具だろうか。柔らかなタッチで描かれたイラストが見えた。凛が好きそうな可愛らしいサンタクロースと1人の少年が描かれた表紙。
その本は、クリスマスの夜にサンタクロースが様々な子どもたちに様々なプレゼントを配る話だった。
凛の声が心地いい。
『サンタクロースなんていない』
オレは子どもの頃から知っている。
あぁ、でも。
小さい頃は…クリスマスの朝、枕元にお菓子が置かれていて嬉しかった。ミサト先生がくれていた物だと分かったのは、先生が転勤してから置かれなくなったから。
絵本の最後に登場したのは、ひとりぼっちの少年だった。
彼が貰ったプレゼントは、なんと『サンタクロース』自身。
『家族がほしい』と願った少年に困り果てたサンタクロースは、彼を自分と2頭のトナカイが暮らす家に招いたのだ。
暖かい暖炉。みんなで囲むご馳走。
翌年のクリスマス。
トナカイが牽くソリには、サンタクロースと少年が仲良く乗っていた。
「おしまい」
パタンと絵本が閉じられた。
凛の優しい声が好きだ。何度も読んでほしいと言った杏の気持ちがよく分かる。
「お前の誕生日なのに、オレが贈り物を貰ってしまった。……ありがとう。また読んでくれたら嬉しい」
「うん。いいよ」
オレにはそのサンタクロースが凛に思えた。
「…家族になってくれて、ありがとう。凛」
「うん。こちらこそ、ありがとう。詩音」
頷いた凛の温かい手のひらが、ギュッと抱きしめたオレの腕を何度も撫でてくれた。
「杏の写真、嬉しかった。もう二度と、あの子の姿を見ることなんて出来ないと思っていたから…」
抱き込んだ身体が涙声に震えていた。
言葉に詰まった彼の後頭部にキスをする。
「いつか、杏が『本当の父さんに会いたい』と言ったら、その時はオレも一緒にいさせてくれないか?」
「…会うことを反対しないのか?」
「しない。お前の宝物は、オレも宝物にする」
「…そうか。ありがとう」
腕の中がかすかに揺れたから、『宝物』と呟いた彼が笑ったのが分かる。だが、ぴたりと動かなくなった。
「凛?」
「…あの子はまだ小さかったから、オレの事などもう覚えていないだろう。新しい父親に懐いているようだし」
言うべきか迷う。
佐久間からの報告にあった『情報』。
それは凛を不安にさせるだろう。
だが…。オレは覚悟を決めたのだ。
「お前の元妻と再婚相手の間に、男の子が生まれたそうだ」
「! それじゃあ杏は…」
「再婚した男は変わらず優しく接しているらしい。だが元妻の両親に不安がある。これからどうなるかは分からない」
振り返ってオレを見る凛。その目は我が子を心配しているのだろう。微かに揺れていた。
「…だから、定期的に探ってもらえるように佐久間へ依頼した。3ヶ月に一度、写真と報告書が届くことになっている」
「…!!」
「お前の元妻は、男を見る目があるようだ。『しばらくは大丈夫だろう』と佐久間が言っていた」
実は杏の写真を提供してくれたのは、再婚相手の男だったそうだ。『これからも本当の息子として大切にしていくつもりだが、妻の両親が…』と教えてくれたのも彼らしい。
前に凛が住んでいたアパート。
娘の荷物を運び出していたアズの両親は、凛を憎んでいるように見えた。新しく孫が生まれた今、凛に似た孫に冷たく当たる可能性が高いだろう。
何かあれば男から佐久間に連絡が行くことになっているし、佐久間には、状況によってここの住所を男や杏に伝えてもらえるよう頼んである。
「ありがとう。詩音。……もしも、杏がオレに会いに来てくれる日が来たら、お前を『大事な人』として紹介するよ」
凛は向き合うようにオレの膝へ乗ると、キスをしてギュッと抱きしめてくれた。
『本当の父親に会いたい』なんて思うことなく生きていけた方が杏にとっては幸せなんだろう。…本音を言えば、オレも会わせたくない。
それでも。
ギュッと細い身体を抱き返す。
「愛してる、凛。お前がオレの過ちさえ『一緒に背負う』と言ってくれたように、お前の事もオレに分けてほしい。嬉しい事も、悲しい事も、楽しい事も、ツラい事も、全部を」
「…まるで結婚式の誓いみたいだ」
「誓う。神なんて信じていないが、オレはお前に誓うよ。どんな時も一緒だ」
「うん。オレも誓うよ。ずっと一緒にいる。お前の全てを、オレにも分けて」
「凛…!!」
チュ、っと口付けを交わす。
「…抱いてもいいか?」
何度も口付けるうち、互いの前が服越しに触れ合って昂まっているのが分かった。
「うん。抱いて」
明日は金曜日だから、無理はさせない。
そう思っていたのに、
『あっ、おくっ…、なか…、なかにだしてっ、』
『またっ…、きちゃう…、とまらな…、』
すっかり蕩けた凛が可愛くて、愛おしくて。
前から、後ろから、下から、もう一度前から。
腰が止まらない。
「…凛、愛してる。凛、…くっ、」
「おれも…っ、あいしてる…、ぁっ、あっ、あっ、あああぁぁ!!」
「ぐっ…」
無意識だろう。オレの腰へ両脚を絡めた凛がキュゥゥとナカで絞るから、堪らず4度目も奥の奥へ射精してしまった。
眠りに落ちた凛の身体から、そっと引き抜けば、中に出し過ぎたからかゴプッと音を立ててオレのが溢れ出してきた。
脚を無防備に開いたままヒクヒクと痙攣する姿を見て、ぽかりと口を閉じられない穴に、思わず溢れた白濁液を指で掬い集めては戻してしまう。
「んっ…、」
凛が小さく声を上げ、起こさぬよう指を引いたが、まだ夢の中にいるようだ。
戻した全てを飲み込んだ後、キュッと閉じた健気な穴を褒めるように、ぷくりと腫れた襞を思わずベロリと舐めていた。
オレの精液は凛の腸に染み込んだだろうか。
30分くらい、そのまま彼の身体を抱いていた。
ダメだ。いい加減、掻き出してやらないと。
明日、腹を壊してしまう。そう思うのに…。
そっと彼を抱き上げ、シャワーへ向かったのは、それからさらに30分後のことだった。
翌朝、リビングの棚を見た凛が動かなくなっていた。
「…詩音、これ」
家族写真のフレームを1つ増やしておいたからだろう。
凛が杏を愛おしそうに抱きしめて微笑んでいる写真。
タブレットの中で見つけたものだ。
この写真を見た瞬間、思わずデータをコピーしてプリントしていた。
『初めて見た凛の笑顔』
電車の中で一目惚れした、あの日の彼にとてもよく似ていた。
その彼に慈しまれた、かつては憎いと思った子ども。
…それでも、
オレは覚悟を決めた。
凛が大事にしているもの。
守りたいもの。
それを、オレも受け入れる。
お前ごと愛してみせる。
「お前の家族は、オレの家族だ」
口元を押さえて震える凛を、いつものように後ろから抱く。キスをくれた彼は、泣きながら微笑んでいた。
「ありがとう、詩音。大好きだ」
「うん。オレも大好きだ、凛」
離したくない。
このまま会社まで、彼を抱き上げて歩こうか。
キスしたまま歩こうか。
「…もう時間だ。明日の朝なら、…またシていいから」
抱きしめて、深いキスをしているうちに勃ってしまったオレのが凛の尻に当たっていたらしい。彼の声も甘い。
明日は土曜日。夜勤明けの仮眠をとる前に一度だけさせてもらおう。
「…分かった」
ゆっくりと身体を離し、目が赤くなってしまった彼の服を整える。
「それじゃあ、送っていく」
「…うん」
アパートのドアを開ければ、冷えた朝の空気が2人の熱を落ち着かせてくれるようだった。
それでも彼の左手はオレのポケットに捕らえたまま。
ギュッと握れば、
『仕方ないなぁ』という顔で凛が笑った。
彼の肩越しに絵本を覗き込むと、水彩絵の具だろうか。柔らかなタッチで描かれたイラストが見えた。凛が好きそうな可愛らしいサンタクロースと1人の少年が描かれた表紙。
その本は、クリスマスの夜にサンタクロースが様々な子どもたちに様々なプレゼントを配る話だった。
凛の声が心地いい。
『サンタクロースなんていない』
オレは子どもの頃から知っている。
あぁ、でも。
小さい頃は…クリスマスの朝、枕元にお菓子が置かれていて嬉しかった。ミサト先生がくれていた物だと分かったのは、先生が転勤してから置かれなくなったから。
絵本の最後に登場したのは、ひとりぼっちの少年だった。
彼が貰ったプレゼントは、なんと『サンタクロース』自身。
『家族がほしい』と願った少年に困り果てたサンタクロースは、彼を自分と2頭のトナカイが暮らす家に招いたのだ。
暖かい暖炉。みんなで囲むご馳走。
翌年のクリスマス。
トナカイが牽くソリには、サンタクロースと少年が仲良く乗っていた。
「おしまい」
パタンと絵本が閉じられた。
凛の優しい声が好きだ。何度も読んでほしいと言った杏の気持ちがよく分かる。
「お前の誕生日なのに、オレが贈り物を貰ってしまった。……ありがとう。また読んでくれたら嬉しい」
「うん。いいよ」
オレにはそのサンタクロースが凛に思えた。
「…家族になってくれて、ありがとう。凛」
「うん。こちらこそ、ありがとう。詩音」
頷いた凛の温かい手のひらが、ギュッと抱きしめたオレの腕を何度も撫でてくれた。
「杏の写真、嬉しかった。もう二度と、あの子の姿を見ることなんて出来ないと思っていたから…」
抱き込んだ身体が涙声に震えていた。
言葉に詰まった彼の後頭部にキスをする。
「いつか、杏が『本当の父さんに会いたい』と言ったら、その時はオレも一緒にいさせてくれないか?」
「…会うことを反対しないのか?」
「しない。お前の宝物は、オレも宝物にする」
「…そうか。ありがとう」
腕の中がかすかに揺れたから、『宝物』と呟いた彼が笑ったのが分かる。だが、ぴたりと動かなくなった。
「凛?」
「…あの子はまだ小さかったから、オレの事などもう覚えていないだろう。新しい父親に懐いているようだし」
言うべきか迷う。
佐久間からの報告にあった『情報』。
それは凛を不安にさせるだろう。
だが…。オレは覚悟を決めたのだ。
「お前の元妻と再婚相手の間に、男の子が生まれたそうだ」
「! それじゃあ杏は…」
「再婚した男は変わらず優しく接しているらしい。だが元妻の両親に不安がある。これからどうなるかは分からない」
振り返ってオレを見る凛。その目は我が子を心配しているのだろう。微かに揺れていた。
「…だから、定期的に探ってもらえるように佐久間へ依頼した。3ヶ月に一度、写真と報告書が届くことになっている」
「…!!」
「お前の元妻は、男を見る目があるようだ。『しばらくは大丈夫だろう』と佐久間が言っていた」
実は杏の写真を提供してくれたのは、再婚相手の男だったそうだ。『これからも本当の息子として大切にしていくつもりだが、妻の両親が…』と教えてくれたのも彼らしい。
前に凛が住んでいたアパート。
娘の荷物を運び出していたアズの両親は、凛を憎んでいるように見えた。新しく孫が生まれた今、凛に似た孫に冷たく当たる可能性が高いだろう。
何かあれば男から佐久間に連絡が行くことになっているし、佐久間には、状況によってここの住所を男や杏に伝えてもらえるよう頼んである。
「ありがとう。詩音。……もしも、杏がオレに会いに来てくれる日が来たら、お前を『大事な人』として紹介するよ」
凛は向き合うようにオレの膝へ乗ると、キスをしてギュッと抱きしめてくれた。
『本当の父親に会いたい』なんて思うことなく生きていけた方が杏にとっては幸せなんだろう。…本音を言えば、オレも会わせたくない。
それでも。
ギュッと細い身体を抱き返す。
「愛してる、凛。お前がオレの過ちさえ『一緒に背負う』と言ってくれたように、お前の事もオレに分けてほしい。嬉しい事も、悲しい事も、楽しい事も、ツラい事も、全部を」
「…まるで結婚式の誓いみたいだ」
「誓う。神なんて信じていないが、オレはお前に誓うよ。どんな時も一緒だ」
「うん。オレも誓うよ。ずっと一緒にいる。お前の全てを、オレにも分けて」
「凛…!!」
チュ、っと口付けを交わす。
「…抱いてもいいか?」
何度も口付けるうち、互いの前が服越しに触れ合って昂まっているのが分かった。
「うん。抱いて」
明日は金曜日だから、無理はさせない。
そう思っていたのに、
『あっ、おくっ…、なか…、なかにだしてっ、』
『またっ…、きちゃう…、とまらな…、』
すっかり蕩けた凛が可愛くて、愛おしくて。
前から、後ろから、下から、もう一度前から。
腰が止まらない。
「…凛、愛してる。凛、…くっ、」
「おれも…っ、あいしてる…、ぁっ、あっ、あっ、あああぁぁ!!」
「ぐっ…」
無意識だろう。オレの腰へ両脚を絡めた凛がキュゥゥとナカで絞るから、堪らず4度目も奥の奥へ射精してしまった。
眠りに落ちた凛の身体から、そっと引き抜けば、中に出し過ぎたからかゴプッと音を立ててオレのが溢れ出してきた。
脚を無防備に開いたままヒクヒクと痙攣する姿を見て、ぽかりと口を閉じられない穴に、思わず溢れた白濁液を指で掬い集めては戻してしまう。
「んっ…、」
凛が小さく声を上げ、起こさぬよう指を引いたが、まだ夢の中にいるようだ。
戻した全てを飲み込んだ後、キュッと閉じた健気な穴を褒めるように、ぷくりと腫れた襞を思わずベロリと舐めていた。
オレの精液は凛の腸に染み込んだだろうか。
30分くらい、そのまま彼の身体を抱いていた。
ダメだ。いい加減、掻き出してやらないと。
明日、腹を壊してしまう。そう思うのに…。
そっと彼を抱き上げ、シャワーへ向かったのは、それからさらに30分後のことだった。
翌朝、リビングの棚を見た凛が動かなくなっていた。
「…詩音、これ」
家族写真のフレームを1つ増やしておいたからだろう。
凛が杏を愛おしそうに抱きしめて微笑んでいる写真。
タブレットの中で見つけたものだ。
この写真を見た瞬間、思わずデータをコピーしてプリントしていた。
『初めて見た凛の笑顔』
電車の中で一目惚れした、あの日の彼にとてもよく似ていた。
その彼に慈しまれた、かつては憎いと思った子ども。
…それでも、
オレは覚悟を決めた。
凛が大事にしているもの。
守りたいもの。
それを、オレも受け入れる。
お前ごと愛してみせる。
「お前の家族は、オレの家族だ」
口元を押さえて震える凛を、いつものように後ろから抱く。キスをくれた彼は、泣きながら微笑んでいた。
「ありがとう、詩音。大好きだ」
「うん。オレも大好きだ、凛」
離したくない。
このまま会社まで、彼を抱き上げて歩こうか。
キスしたまま歩こうか。
「…もう時間だ。明日の朝なら、…またシていいから」
抱きしめて、深いキスをしているうちに勃ってしまったオレのが凛の尻に当たっていたらしい。彼の声も甘い。
明日は土曜日。夜勤明けの仮眠をとる前に一度だけさせてもらおう。
「…分かった」
ゆっくりと身体を離し、目が赤くなってしまった彼の服を整える。
「それじゃあ、送っていく」
「…うん」
アパートのドアを開ければ、冷えた朝の空気が2人の熱を落ち着かせてくれるようだった。
それでも彼の左手はオレのポケットに捕らえたまま。
ギュッと握れば、
『仕方ないなぁ』という顔で凛が笑った。
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