愛を請うひと

くろねこや

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その後の話

裏側 3

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佐久間には、スマホで簡単に明日の外出予定を連絡すればいいと思っていた。


だが、午後からの出社になった凛が佐久間をこの部屋に入れて直接相談すると言う。

『事前に顔を合わせて打ち合わせするのは大事なこと』だと凛は会社員らしく真面目な顔で言った。

どうやらその『打ち合わせ』には参加させてもらえないらしい。


「疲れてるだろう? 今夜も夜勤だから、寝なさい」と凛にベッドへ手を引かれるのをキスでかわす。

探偵が相手でも、『男』と2人きりにしたくない。


「仕方ないな…」

ため息を吐いた凛にソファへ横に倒される。


眠くないと思っていたが、ブランケットを掛けられ、優しい手に髪を撫でられているうちに、いつの間にか落ちていた。




打ち合わせは終わり、佐久間は一旦帰ったらしい。

目を覚ますと、凛が昼食にパスタをでてくれていた。
何種類も買ってあるレトルトのソースからそれぞれ好きなものを選んでかけるのは、結構楽しい。


凛を会社に送った帰り道。

通行人が多いからか、男は襲って来ない。


凛を迎えに行って、

出勤する夜道でも、男は来なかった。

ただ、『見られている』気配だけが付き纏う。






土曜日の昼過ぎ。

今日は凛とデートだ。


明るい街を2人、手を繋いで歩く。

離れないように。守れるように。


『葛谷に仲の良さを見せつけて、苛立たせてやろう』

そう言って指を絡めるように彼の手を握った。


『前の会社の知り合いがいるかも』と、さりげなく手を離そうとしたり、男を警戒して身体を強張らせたりしていた凛だが、歩いているうちに慣れたらしい。徐々に笑顔を見せてくれるようになった。



葛谷は思ったより慎重だった。

昼間のショッピングモールでは、尾行してくる姿を確認できたが襲いかかって来なかった。

人が多いからかもしれない。


だが、幸せそうな家族やカップルだらけの空間に、薄汚れたその男は異質だった。

誰かが呼んだのか警備員の姿が見え、男は何処かに姿を消してしまった。



凛がオレに服を選んでくれる。
オレにも凛が着る服を選んでほしいと言う。
店で服を贈り合うなんて、生まれて初めての事だ。


施設では誰かの『お下がり』が基本だった。

『会社』では、『先輩』…啓一先生がたまに服をくれた。『要らなくなった服だ』と言っていたけど、たぶん買ってきてくれていたんだと思う。

知らない女や男に店へ連れて行かれ、買い与えられることもあった。


「詩音はどんな服も似合うね。モデルみたいだ」

絶賛する凛と店員から何着も何着も着せ替えさせられた。今夜レストランに着て行く服だから、一着でいいのに、たくさん買おうとする凛を止めるのは大変だった。


代わりに凛の服を選ぶ。

あまり身体の線を見せたくない。

抱き寄せたくなる細い肩や腰、丸くて触りたくなる尻に、ぷっくり膨らんだエロい乳首。

それらを隠しながらも、彼の魅力を損なわないデザインがいい。

彼が好きなのはシンプルなシャツに、セーター、ジャケット、パンツ。

何故かオレにボディタッチしてくる男性店員にアドバイスを貰いながら、いつもの彼が着ているモノトーンではなく、暖かい色を使ったものを選んだ。


その後も買い物を続けたのだが、何故か側に『ナツ』と『シン』がずっといて、楽しそうにデートしているのが気になって仕方ない。

凛を会社に送迎する時、オレからは殺気のようなものが出ているらしく、『隙を見せないと男は現れませんよ』と佐久間にダメ出しをされていた。

オレがヤツに意識を向けすぎないようにしているのか…?

いや、彼らは純粋にデートを楽しんでいるみたいだった。
時々『ナツ』と目が合いそうになるが、偶然かわざとか、『シン』が『ナツ』の姿をオレから隠そうとしているみたいに被ってくる。

その『シン』は、あの『会社』で見かけた時と雰囲気が全く違った。
『ナツ』に向ける視線が『愛おしい』と言っている。
『独占欲』という人間らしい感情を手に入れたのかもしれない。

『愛した相手を他の男に抱かせる』

気が狂いそうなその状況を、『愉しんで鑑賞する』。以前のこの男はそんな異常性を見せていた。

少しホッとした。竜瑚が『ナツ』のことを気にかけていたから後で教えてやろうと思う。



高級そうなレストラン。
テーブルに置いてある畳んだ布を膝にかけるのだと凛に教えて貰った。

ローストビーフも、ビーフシチューもかなり美味かった。

竜瑚は彩人が好きなクリームシチューばかり作っていたし、オレも凛もシチューよりはカレーを作りがちだから、デミグラスソースのシチューはあまり食べたことがなかった。

個室っぽく区切られていたから、凛と2人きりで食べているみたいに安心する。

凛が『美味しいね』と笑うから、余計美味しく感じるのかもしれない。


時折通る車のライトが外の林を照らす。
そこに、男の姿が見えた。

小さな林の中、寒いのだろう、どこから拾ってきたのか段ボールか何かにくるまっているようだが、強い視線を感じるから間違いない。

凛は気づいていない。

オレは赤ワインを凛に勧める。
酒に弱いから飲ませすぎない。
でも、ヤツの存在を忘れるように、感じさせないように、食事と酒を2人で楽しむ。

レストランを出ても、男は現れなかった。
寒くて動けなくなったか、店員が外まで見送ってくれているからか。


ホテルへ歩く道も、思ったより人が多かった。
ストリートミュージシャンのギターと歌が聞こえる。

やはり男は現れない。




佐久間も性格が悪い。

ショッピングモールも、レストランも、ホテルも、ヤツにとっては人生の節目に関わる重要な場所らしい。

挑発するように、凛の腰を抱いて歩く。
オレも性格が悪いな。

明らかにイライラを募らせていくのが分かる。見られているのが、分かる。

間違いなく、これから行くホテルでヤツは襲いかかってくるだろう。



フロントで手続きし、カードキーを受け取る。


エレベーターに乗った時だ。

男は付いてこなかったが、凛が身体を強ばらせた。

そうか。『あのホテル』と似た内装だ。
『派遣』の記憶が蘇ったのだろう。
カタカタ震える凛をギュッと抱きしめる。

ごめん、凛。 

6階を過ぎたことを教えると、彼の身体から力が抜けたのが分かった。


部屋に入ると、大きな窓から夜景が見えた。

本で読んだことしかない景色に言葉を失う。

「わぁ、綺麗だ…」

子どもみたいな凛の声。あまりの愛しさに思わず後ろから抱きしめれば、酔った彼の身体がさらに熱くなった。

「ああ、綺麗だな」

耳元で囁くと、凛がふるりと震えた。


振り向かせるように頬を引き寄せ口付ける。

チュ、クチュ、グチュ、

いやらしい水音を立てながら互いの口内を舐め合い、混ぜた2人分の唾液を凛の中に送り込む。ゴクリと飲んでくれた喉の音を聞いた時には、オレの前はすっかり勃ち上がっていた。

ナカに入りたい。早く、ナカに入れて?

凛の脚の間、尻、腰にかけてゴリッと擦り付ける。


クイーンサイズのツインルーム。
いつもより大きなベッドが2つある広い空間。どうしても男の来訪を意識してしまうことに腹が立つ。どうせなら『集中して凛を愛せる日』に来たかった。


浴室で互いの身体を洗い合う。
泡だらけにした手のひらを、胸を、性器を擦り付けあう。

シャワーで泡を流しているとき、『ドンッ』と響く音が壁から聞こえてきた。あの男かもしれない。

幸い、ボーッととろけた凛は気付いていないようだった。

大きな鏡に手を突かせて、彼の秘所を指で開けば、既にくぱくぱとオレを求めてくれていた。眉間にシワを寄せ紅潮した顔と、必死にすがる指先が鏡越しに見えた。

シャワーヘッドを外してホースで腹に温い湯を注ぐと、昂めすぎた身体にはツラいのかガクガクと腰が逃げようとする。
背中から首筋を舐め上げれば、「んっ、んっ、」と色っぽく耐える声が聞こえてくる。

出かける前、オレが仮眠をとっている間に洗浄したのかもしれない。流れ出した湯はほぼ透明だった。だが、「もう、やめっ、」と甘く啼く凛が可愛すぎて、仰反る背中が綺麗で、もう一度腹へ湯を注いでしまった。
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