愛を請うひと

くろねこや

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その後の話

幸せな日

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オレ達はデートを楽しんだ。



詩音の服を見て、オレの服を見て。

互いに似合うと思うものを選び、試着して、

プレゼントし合う。

詩音は背が高くて、肩や胸の厚みも適度にあるから、どのジャケットも似合ってモデルみたいだった。

「そのまま着ていきます」

と包装を断れば、店員さんは素早く値札や仕付け糸を切ってくれた。


いい匂いの石鹸、入浴剤。

2人で寄りかかれる気持ちいいクッション。


たくさん買い物をしてしまった。

クッションはかなり大きいから、明日の夜にアパートまで届けてもらうことにした。


男は現れない。





レストラン。

『見晴らしが悪い』と佐久間さんが言っていた通り、窓から外は暗くて何も見えなかった。
その代わり、そこだけパーティションで区切られていて、オレ達は気兼ねなく2人きりの食事を楽しむことができた。

ホールスタッフは呼ばなくても察してすぐに来てくれる。

料理は美味しくて、ワインも美味しい。

『男をおびき出す』

作戦のことなんて忘れて、幸せな時間を過ごすことができた。

思わず普段より飲み過ぎてしまったから、気持ちいい酔いと気怠さで、詩音に寄りかかって甘えてしまった。

外に出ても男は姿を現さなかった。





ホテル。

フロントで手続きし、カードキーを受け取る。

エレベーターに乗ると、『6』という数字ばかり見てしまう。

少し似てるんだ。『あのホテル』と。

勝手にカタカタ震えるオレの身体を、詩音は優しく抱きしめてくれた。

彼の匂いを吸い込んでホッとしていると、いつの間にか6階を過ぎていた。


18階。

間接照明があるばかりの少し暗い部屋に入ると、壁一面の大きな窓に夜景が美しく輝いていた。

「わぁ、綺麗だ…」

思わず子どもみたいな声が出る。

後ろから抱きしめられれば、酔った身体にはさらに熱がともる。

「ああ、綺麗だな」

耳元で囁かれると、溶けてしまいそうだ。


チュ、クチュ、グチュ、

口付けて、互いの口内を舐め合い、混ざり合った唾液をゴクリと飲み込む頃には、詩音のモノがすっかり勃ち上がっていた。

熱くて硬いものが『ナカに入りたい』というように、オレの脚の間、尻、腰にかけてゴリッと擦り付けられる。

オレも、下着がじわっと濡れてしまう。

欲しい。早く。


室内はかなり広い。
クイーンサイズのベッドが2つ並んでいる。


オレ達はそのまま2人で一緒に浴室へこもった。




風呂上がりの熱い身体を大きなベッドに横たえれば、慣れない石鹸の匂いと、慣れた男の匂いに覆いかぶさられる。

せっかくの休みだけど、今夜は何が起きるか分からないから、念のためゴムを着けてセックスする。


ヌチュ、ヌチュ、ヌチュ、と粘着質な音。


美味しい食事でワインを飲み過ぎたせいか、

お風呂で腹に温かい湯を注がれたからか、

身体中をさんざん舐め溶かされたからか、

ベッドで彼の腰遣いに翻弄されたからか、


「あっ、あっ、あっ、あっ、あぁぁ!!」


……何度も何度も際限なく中だけでイかされて、


「まだイけるだろ? ほら、気持ちいいな? イけ、イけ、凛、イけ、」

「あっ、うそっ、またっ、やっ、も、やめっ、」


ゴムを変えるため引き抜かれては挿入されたのが…たぶん3回? 4回?


記憶が曖昧だ。

やはりオレは、酒を飲まない方がいいかもしれない。





目を覚ますと詩音に抱き込まれて、髪を撫でられていた。

「…凛、終わったよ。ヤツは逮捕された」

シャツ越しの胸から、彼の穏やかな声が響く。


どうやらオレが快感に溶かされている間に、部屋へ男が来たそうだ。

男はドアを激しくノックしたらしいのに、んでたオレの耳には『その音』が入ってこなかったらしい。

……恥ずかしい。


そういえば、詩音が引き抜こうとするのに

『ぬかないで…』と追いすがった気がする。


詩音が最奥に激しく一突きしてくれて……。
そうだ。
そこからの記憶がないんだ。

あまりの快感に意識を失ったのだと思う。




オレも身支度を終えた頃、佐久間さんが部屋に来て、詳しい事情を話してくれた。


激しく続くノックの音にドアを開けた詩音は、男にナイフを向けられた。そのまま廊下へ葛谷を投げ飛ばしたらしい。

偶然・・にも隣の部屋に泊まっていた『非番の刑事さん』が騒ぎに気付いて廊下へ出たところ、男は『殺す』と叫びながら刑事さんにもナイフを手に襲い掛かったそうだ。

その刃は刑事さんの脇腹をかすめた。

もちろん男はその場で現行犯逮捕。


しかもなんと、オレ達が泊まる部屋を見つけるため、男はこの階全ての部屋のドアを蹴り歩いたそうだ。

多数の証言と、オレ達を尾行していた証拠。
詩音と刑事さんに向けたナイフ。負わせた怪我。

ホテルの廊下に設置された監視カメラには、男がコソコソとリネン室に入り込む姿、ドアを蹴っては隠れ、蹴っては隠れする姿も映っていたらしい。


男は、オレ達への『ストーカー行為』から始まり、『刑事への傷害』まで、驚くほど罪を重ねてくれた。


オレ達が泊まったせいで、同じ階に泊まっていた人達には迷惑をかけてしまった。

朝食を摂る間もなく、警察から事情を聴かれることになってしまったからだ。


詩音とオレも、軽く事情を聴かれた。


後日、警察や裁判所へ行くことになるだろうが、思っていたより早く解放してもらえた。

なにより、現役の刑事さんが怪我を負いながらも現行犯逮捕してくれたこと。

その刑事さんは佐久間さんの友人で、おそらく事前に根回ししておいてくれたこと。

そのお陰がかなり大きいと思う。


刑事さんの怪我を心配すると、

「あれは『想定内』なのでご心配なく。頑丈なヤツなのですぐに治ります」

と佐久間さんは、人目をはばかるように小声で囁く。

『傷害罪』があるかないかで、男の刑期が大きく変わるのだろう。


「それにアイツは怪我でもしないと休みを取らないバカなので、たっぷり休ませてやりますよ」

まあ、しばらくは書類仕事になるでしょうが…と悪い顔で笑った。



後日お礼に伺う約束をして、ホテルで佐久間さんと別れた。

アパートに帰るとお昼。

今夜は詩音が夜勤だから、早くご飯を食べさせて眠らせてあげないと。

昨夜は男の襲撃に備えて寝ていないし、撃退した上、警察から事情を聴かれて疲れただろう。

帰りに卵と牛乳を買ってきたから、食パンで甘いフレンチトーストを作った。





「ありがとう。詩音」

カーテンで薄暗くした寝室。

2人で横になったベッドの上で、

彼の頭を胸に抱き、髪を撫でる。

「ん」

コクっと頷くように小さく頭が動いた。



吐くほど、あの男の名前を拒絶したオレの身体。

ワインを勧めて、意識を失うほど何度も何度もした・・のは、あの男に触れさせない為だったのだろう。

男の声どころか、ノックの音すら聞こえないほど、甘く甘くとろけさせて。



「……凛」

「なに?」

「いい匂い。…落ち着く」

眠そうな声に囁かれ、すんすんと胸の匂いを嗅がれると落ち着かない。

お返しに、彼の髪の匂いを嗅ぐ。

「お前もいい匂いだ」


石鹸と入浴剤は持ち帰ってきたから、さっそくお風呂で使ってみた。

アパートの慣れた風呂は2人では少し狭いけど、気持ちよかった。


彼の悪戯な指が、オレの尻を撫で回す。

「ばか。眠れなくなったらどうする」

「お前の尻、気持ちいい。がんばったご褒美に撫でさせて」

『ご褒美』って…。少し寝ぼけてるからか、子どもみたいでかわいい。

「……いいよ」

抱きしめた胸にも、彼の唇と舌が悪戯を始めた。

シャツがはだけて覗いたオレの乳首を唇で挟み、舌でぬるぬる舐めて、チュクチュク吸ってくる。

「ん……、」

昨夜も腫れるほど弄られていたそこは、ツキツキ甘く痛んで思わず声が漏れてしまう。

おっぱいをあげるお母さんはこんな気持ちだろうか?

まあ、赤ちゃんは尻を揉まないと思うが。


なんと、彼はそのまま眠ってしまった。


「……まったく。甘えん坊…」

カッコよく頑張ってくれた男が。

オレの乳首をんだまま穏やかに寝ている。

「片方だけ伸びたらどうすんだ…」


彼を起こさないよう、ゆっくり髪を撫でているうちに、オレもいつの間にか眠りに落ちていた。
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