愛を請うひと

くろねこや

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その後の話

男の回想と 身勝手な愛憎

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初めて取れた、大口の仕事。

まだ若かったあの頃。
大型のショッピングモールを全国に持つ、大企業へのプレゼンが通った日。

嬉しくて、思わず一緒にプロジェクトを進めてきた仲間…社長の娘・咲希さきに『付き合ってください』と告白した。




「結城くん」

仲良く手を繋いで歩く2人。
その綺麗な手は『オレのもの』なのに。
何故そんな男に握らせている?

イライラする。
今すぐ引き剥がして、
このナイフを男の腹に何度も刺してやりたい。

人目がある。まだだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




妻にプロポーズした場所。

オレと彼女の大好物。ビーフシチューとローストビーフが美味い店を選んだ。

指輪の箱を差し出したオレに、咲希は微笑んで頷いてくれた。




ああ、美味うまそうだな。
昔は飽きるほど食べたのに、
今は窓の外から涎を垂らして『見ているだけ』。
爪が手の平に食い込む。

予約がないから入れない。
クソが。身の丈に合った店へ入れよ。

寒い。
腹が減って、イライラする。

寒さで強張った身体は、思ったように動かない。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




『薬』で眠らせた、若い女や男を連れ込んだホテル。


子どもが反抗期を迎え、妻も冷たくなった。


家に帰りたくなくて、夜の街で飲み歩いていたら、ある男に『薬』をもらった。

綺麗な女に酒を奢り、男にそそのかされるまま『薬』を飲ませれば、簡単にホテルへ連れ込むことができた。


『高額な薬』ではあったが、それからもオレは、それを買い続けた。


新年会、花見、暑気払い、忘年会…。


会社のイベント毎に、目をつけていた若い女や男を『薬』で落とし、このホテルに連れ込んだ。




結城くん。
どうしてその男なんだ。


細い腰を抱かれて、
ホテルに入っていく。


オレは2人の後ろから付いて行き、
そのエレベーターが停まった階を確認する。


18階。

すぐに追おうとしたが、エレベーターは2基とも上階から戻ってこない。


フロントで、

「『結城』という名前の客が宿泊している筈だ。約束がある」

と言っても、部屋番号を知ることは出来なかった。


何故そんな目で見る?

オレは『オレのもの』を取り返したいだけなのに。


仕方なく、エレベーターを待ち、18階へ昇った。

宿泊客やスタッフが行き来しない時間まで、共有スペースのトイレ、リネン室、非常階段を行き来して、姿を隠すことにする。

暗くて暖房が効いていないリネン室は寒かったが、外に比べれば天国だった。
柔らかくて暖かいブランケットや、羽毛布団があるからだ。

強張っていた身体が動くようになった。




未だに後悔しているよ。

あの日。君を『解雇した日』だ。

あんな動画を撮らせて、あの男にメールで送らせて。
オレに嫉妬してほしかったんだろう?

『お仕置き』に、君を解雇してやった。

絶望した君を、別荘で飼ってあげようと思っていたのに。

迎えに行ったアパートには誰もいなかった。

そうしたら、君は首輪を嵌められて、男達に奪われてしまっていたんだ。

オレも『素敵な首輪』を用意していたのに。


君はずっとオレのことが好きだったよね。

『社長だから』と敬遠せず、たくさん話しかけてくれた。

『個人情報が~』とか言い訳してたけど、社員証に書かれた君の誕生日をオレに見せつけて。

かと思えばプレゼントを受け取らない。

駆け引き上手だね。
すっかり君に心を奪われてしまった。


オレが他の女や男を抱くのを、君は嫌がったね。
『セクハラ』とか、『パワハラ』とか理由をつけていて怒っていたけど、本当はヤキモチを焼いていたんだろう?

だから、新年会で契約社員の女を落とそうとした時も、君は『薬』入りのウーロンハイを女から奪って飲み干した。

君はあんなにもオレに抱かれたがっていたのに、あの女が邪魔をした。

『ここは兄の店なので、上で休ませます』?

まんまと、結城くんを奪いやがった。

『子どもができたから結婚します』?

君はあの女に無理矢理抱かれてしまったんだね? 可哀想に。


あの日、あの女から君の身体を奪い返して、ホテルで抱いてあげればよかったね。

あの日、家に帰らせずに、別荘へ閉じ込めてあげればよかったね。



パソコン、タブレット、スマホ。

画面の中の君は、相変わらずオレに抱かれたがっていた。

君に会いたくて。抱いてやりたくて。
たくさん金を使ったよ。

やっと会えた君は、オレのちんぽを嬉しそうに咥えて。美味しそうに飲んでくれたね。

他の男達にけがされながらも、オレだけを求めていただろう?

金属の貞操帯が、とてもよく似合っていた。

オレが抱いてあげたら、泥濘ぬかるんだように熟れたナカも喜んで、ヒクヒク震えていたね。


それなのに、あの男だ。

君にキスして。

君を抱き上げて。

連れ去ってしまったんだ。


オレを止めたあのスキンヘッドの男。

許さない。



仕方なくパソコンで、『派遣』というボタンをクリックした。

結城くんに会ってやりたい。
また抱いてやりたい。早く。早く。

それなのに『ポイントが足りません』という文字が出る。

ポイントを購入しようとしても、『カードが使えません』という文字が出るばかり。


そうしたら警察がオレの邪魔をしに来たんだ。

パソコンを奪い、君に会えなくした。

『横領』?

会社の金を、社長のオレが使って何が悪い。

愛する結城くんの為なんだ。

憎いあの男から、早く奪い返してあげないと。


意味がわからない理由で、オレは閉じ込められた。

女?男?薬?

知るか。どうでもいい。

結城くんをあの男から奪い返す。

それだけだ。

早く。早く。外へ。



長い時間を耐えた。

やっと出られた。

出られたのに。




あんな男に『君が抱かれている』と考えただけで腹が立つ。

耐えられない。


廊下の一番端。

部屋のドアを『ドンッ』と蹴る。

柱の影に隠れて、宿泊客がドアから顔を出すのを見る。

違う。

あの男じゃない。


次のドアを蹴る。

違う。


蹴る。

違う。


蹴る。

違う。


ドアから誰も出てこない部屋は5つ。

『人の気配』がない部屋。

男と女の声がする部屋。

もう一つも女の声。

水音がする部屋。

その隣の部屋からは、大きなテレビの音。



水音の部屋があやしいか。

ああ、隣の部屋のテレビがうるさい。

ドアに張り付き、耳を澄ます。

水音は止んでいる。


『あっ、あぁっ、』

聴こえた…、

結城くんの……甘い…声。


ドクン、

心臓が、脈を打つ。


許せない。許せない。許せない。あの男。

殺してやる。殺してやる。殺してやる。


オレはその部屋のドアをドンドンドンドン叩く。



しばらく経ち、

ドアが、開いた。


ポケットの中。

手にしたナイフを握り直す。

バスローブを着た

憎い男の腹に……、



ドスッ。







オレの視界がぐるっと回った。

痛い。腕、首、背中、尻が痛い。

腹が減りすぎて立ちくらみ?


違う。

男に投げ飛ばされたのだ。



隣の部屋のドアが開く。

テレビがうるさい部屋だ。



オレを掴んでいた男の手が緩んだ。



「うるさい!」


部屋から出てきた男がオレを怒鳴りつけた。

お前こそうるさい!



オレは床に落ちていたナイフを手に取ると、その男に向かって走った。
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