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その後の話
帰郷2 祭りの準備
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「兄さん……。“花”と兄さん、まるで美人と野獣。しかも犯罪レベルの歳の差じゃないか」
兄貴にしごかれた後、舞台の設営中。
残暑の太陽が照らすなか、洞窟が近いこの場所はひんやりした風が吹き抜けるから涼しい。
久しぶりに会った弟・竜仁は、器用にも作業の手を止めないまま話しかけてくる。
兄貴もこいつも、記憶の中にある彼等よりすっかり“おっさん”に変わっていた。もちろんオレも41になったのだから当たり前だ。
それでも、性格は前に会った時と全く変わっていない。
現場は結人くんの恋人、周吾くんが仕切ってくれており、『彼のお陰で思ったより早く仕上がりそうだ』と兄貴が褒めていた。
昨日、彼は神社用のデカい棒も作ってくれたらしい。
先ほど見せてもらったら、まるで彫刻家かと思うほどの腕前だった。それは、あまりにリアルな巨大ちんぽすぎて、子どもには見せられないくらい卑猥だった。
周吾くんは自分が投げる棒をまだ作っていないらしい。舞台を組んだ後、一緒に作ることにした。
「いつの間にあんな綺麗な子を引っ掛けたのさ。……一度も僕達に紹介しないまま結婚から離婚までしておいて」
竜仁は、オレが前の祭りから18年、一度も帰らなかったことをチクリと責める。
「撮影で日本を出てる間に、彼女が浮気してたんだよ…。彼とはその後出会った」
元嫁の話をしても、もう何とも思わなかった。
彩人については、いくら弟が相手であっても、詳しい事情を話すわけにはいかない。
まぁ、彼の過去を知ったとしても、兄貴とこいつなら心を痛めることはあっても、嫌うことはないだろうが。彼を傷つけた獄中にいる男達を『龍神様にお願いして呪う』と言い出しかねないくらいだ。
オレに話す気がないと分かったのか、
それ以上、何も聞かなかった。
「僕も“花”が見つかるといいんだけどねぇ…」
弟は植物学の研究者だ。
普段は他所にいるが、毎年夏になると、伝承にある『白い花』を探しに山へ入っているらしい。
『花輪』の、白い和紙で作る花。
そのモデルになっている本物の花のことだ。
兄貴によると、
『山を炎が覆い尽くし、“彼”が愛した花はその姿を見せなくなった』
みたいなことが古文書に残されているらしいから、おそらく絶滅したのだと思われる。
それでもこの弟は、見つかるまで生涯探し続けるのだろう。
ちなみに、人間の“花”にもまだ出会えていないそうだ。
『美しい村の娘に黒い龍が求婚し、結ばれた二人が今も洞窟に眠っている』
村人たちには、そのように伝えている。
『黒い龍』は龍神様のことだ。
だが…本当は違う。
娘ではなく、美しい男だったと氷太刀家には伝えられているのだ。
明治時代以降、『男同士の恋愛』は表向き『男女の恋愛』に書き換えられた。
ご神体の大太刀と、彼らが眠る洞窟を代々守り続ける『氷太刀』の者。
オレ達は、その『美しい男』の『弟』の血を継いでいるらしい。
『舞』に使うご神体の大太刀は、いったい何で出来ているのか刀身が氷のように冷たく透き通っている。
『氷太刀』の家名はこれに由来する。
『邪心ある者に、この太刀を触れさせてはならない』
祖父さんはオレ達3人に、何度も何度も言い聞かせた。
舞台で龍神様に奉納する『舞』。
『剣舞』と村人には伝えているが、
これも本当は違う。
「竜瑚さん、竜仁さん、そこの固定が終わったら、これを2人で支えてください」
周吾くんから声がかかった。
「分かった。今行くよ」
考え事はやめて、早く組み立てを終わらせるとしよう。
チュッ、
「竜瑚」
チュッ、
「何だ?」
2日目の準備が終わり、オレ達は部屋で抱き合いながらキスをしている。
「結人くんと周吾さんもいい人達だけど、竜瑚の家族も、みんないい人たちばかりだね」
夕食は母家で家族揃って食べた。
兄貴の息子達は、オレと彩人に興味津々だった。
『オレも竜瑚叔父さんみたいに、大きくなれるかなぁ?』
高校生だという長男は背が低く、細身だ。
顔は兄貴に似ている。
義姉さんは黙ってカルシウム豊富なヒジキの煮物と牛乳を渡している。
『彩人さん綺麗だ…。オレと結婚して!』
オレの“花”にプロポーズしやがったのは中学生の二男。将来は、オレの体格に近づきそうな見た目をしている。もちろん速攻で失恋させた。
『叔父さん、海外を回るカメラマンなんでしょう? 写真集、全部持ってるよ! 旅の話を聞かせて!』
同じく中学生の三男は、弟の竜仁に雰囲気が似ている。
「あぁ。……その、彩人」
「なあに?」
ずっと言いたかったことがある。
「お前も、オレの家族にならないか?」
「!!!」
彩人の目が見開かれる。
その瞳は、みるみる潤んで…。
「竜瑚!!」
ギュウッとオレを抱きしめる腕に力がこもる。
「……うれしい。家族にしてほしい」
オレも、彼を抱く腕に力が入る。
壊さないように、優しく。
「……あぁ、なんで今夜はキスだけなんだろう」
「そうだな。明日の夜までお預けだ…」
『彩人と家族になる』
兄貴たちには既にオレの“花”だと紹介した。
次は龍神様に誓うのだ。
「彩人。愛してる」
オレの言葉を噛み締めるように、目を瞑る彩人。
瞼が震え、再び開いた瞳には、
オレだけが映っている。
「竜瑚。僕も…、っ…、オレも、愛してるよ」
彩人が穏やかな眠りに落ちるまで
何度も愛を囁き合い、
何度も口付け合った。
兄貴にしごかれた後、舞台の設営中。
残暑の太陽が照らすなか、洞窟が近いこの場所はひんやりした風が吹き抜けるから涼しい。
久しぶりに会った弟・竜仁は、器用にも作業の手を止めないまま話しかけてくる。
兄貴もこいつも、記憶の中にある彼等よりすっかり“おっさん”に変わっていた。もちろんオレも41になったのだから当たり前だ。
それでも、性格は前に会った時と全く変わっていない。
現場は結人くんの恋人、周吾くんが仕切ってくれており、『彼のお陰で思ったより早く仕上がりそうだ』と兄貴が褒めていた。
昨日、彼は神社用のデカい棒も作ってくれたらしい。
先ほど見せてもらったら、まるで彫刻家かと思うほどの腕前だった。それは、あまりにリアルな巨大ちんぽすぎて、子どもには見せられないくらい卑猥だった。
周吾くんは自分が投げる棒をまだ作っていないらしい。舞台を組んだ後、一緒に作ることにした。
「いつの間にあんな綺麗な子を引っ掛けたのさ。……一度も僕達に紹介しないまま結婚から離婚までしておいて」
竜仁は、オレが前の祭りから18年、一度も帰らなかったことをチクリと責める。
「撮影で日本を出てる間に、彼女が浮気してたんだよ…。彼とはその後出会った」
元嫁の話をしても、もう何とも思わなかった。
彩人については、いくら弟が相手であっても、詳しい事情を話すわけにはいかない。
まぁ、彼の過去を知ったとしても、兄貴とこいつなら心を痛めることはあっても、嫌うことはないだろうが。彼を傷つけた獄中にいる男達を『龍神様にお願いして呪う』と言い出しかねないくらいだ。
オレに話す気がないと分かったのか、
それ以上、何も聞かなかった。
「僕も“花”が見つかるといいんだけどねぇ…」
弟は植物学の研究者だ。
普段は他所にいるが、毎年夏になると、伝承にある『白い花』を探しに山へ入っているらしい。
『花輪』の、白い和紙で作る花。
そのモデルになっている本物の花のことだ。
兄貴によると、
『山を炎が覆い尽くし、“彼”が愛した花はその姿を見せなくなった』
みたいなことが古文書に残されているらしいから、おそらく絶滅したのだと思われる。
それでもこの弟は、見つかるまで生涯探し続けるのだろう。
ちなみに、人間の“花”にもまだ出会えていないそうだ。
『美しい村の娘に黒い龍が求婚し、結ばれた二人が今も洞窟に眠っている』
村人たちには、そのように伝えている。
『黒い龍』は龍神様のことだ。
だが…本当は違う。
娘ではなく、美しい男だったと氷太刀家には伝えられているのだ。
明治時代以降、『男同士の恋愛』は表向き『男女の恋愛』に書き換えられた。
ご神体の大太刀と、彼らが眠る洞窟を代々守り続ける『氷太刀』の者。
オレ達は、その『美しい男』の『弟』の血を継いでいるらしい。
『舞』に使うご神体の大太刀は、いったい何で出来ているのか刀身が氷のように冷たく透き通っている。
『氷太刀』の家名はこれに由来する。
『邪心ある者に、この太刀を触れさせてはならない』
祖父さんはオレ達3人に、何度も何度も言い聞かせた。
舞台で龍神様に奉納する『舞』。
『剣舞』と村人には伝えているが、
これも本当は違う。
「竜瑚さん、竜仁さん、そこの固定が終わったら、これを2人で支えてください」
周吾くんから声がかかった。
「分かった。今行くよ」
考え事はやめて、早く組み立てを終わらせるとしよう。
チュッ、
「竜瑚」
チュッ、
「何だ?」
2日目の準備が終わり、オレ達は部屋で抱き合いながらキスをしている。
「結人くんと周吾さんもいい人達だけど、竜瑚の家族も、みんないい人たちばかりだね」
夕食は母家で家族揃って食べた。
兄貴の息子達は、オレと彩人に興味津々だった。
『オレも竜瑚叔父さんみたいに、大きくなれるかなぁ?』
高校生だという長男は背が低く、細身だ。
顔は兄貴に似ている。
義姉さんは黙ってカルシウム豊富なヒジキの煮物と牛乳を渡している。
『彩人さん綺麗だ…。オレと結婚して!』
オレの“花”にプロポーズしやがったのは中学生の二男。将来は、オレの体格に近づきそうな見た目をしている。もちろん速攻で失恋させた。
『叔父さん、海外を回るカメラマンなんでしょう? 写真集、全部持ってるよ! 旅の話を聞かせて!』
同じく中学生の三男は、弟の竜仁に雰囲気が似ている。
「あぁ。……その、彩人」
「なあに?」
ずっと言いたかったことがある。
「お前も、オレの家族にならないか?」
「!!!」
彩人の目が見開かれる。
その瞳は、みるみる潤んで…。
「竜瑚!!」
ギュウッとオレを抱きしめる腕に力がこもる。
「……うれしい。家族にしてほしい」
オレも、彼を抱く腕に力が入る。
壊さないように、優しく。
「……あぁ、なんで今夜はキスだけなんだろう」
「そうだな。明日の夜までお預けだ…」
『彩人と家族になる』
兄貴たちには既にオレの“花”だと紹介した。
次は龍神様に誓うのだ。
「彩人。愛してる」
オレの言葉を噛み締めるように、目を瞑る彩人。
瞼が震え、再び開いた瞳には、
オレだけが映っている。
「竜瑚。僕も…、っ…、オレも、愛してるよ」
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