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その後の話
帰郷1
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8月、夏の盛りが終わる頃。
今日は祭りの1日目。
昼までに彩人と2人、実家へ帰り着くはずだった。
…のだが。
「綺麗だ…。オレ、海って初めて見た…」
そう言って目を輝かせるお前を、
「竜瑚、これ美味しいね!もう一つ食べていい?」
嬉しそうに笑うお前を、
「冷たくて気持ちいい!」
子どもみたいにはしゃぐお前を、
「わっ!」
バシャン、
「ははは、波に転ばされちゃった!」
抱きしめたくなる。
チュッ、
キスしたくなる。
その結果、
「2人ともびしょびしょだねぇ」
「そうだな」
「夕陽が綺麗…」
「ああ。本当に綺麗だ…」
砂浜に置いていたカメラを取りに行き、
オレンジの光で照らされた
彼の横顔に向けた。
オレ達は海水と砂で汚れた服ごと、屋外にある公共の水シャワーで身体を洗うと、そのまま海辺のラブホに泊まることにした。
「あっ、あっ、あんっ、あんっ、」
ブーッ、ブーッ、ブーッ、
バッグの中で、スマホが騒いでいる。
たぶん兄貴だな…。
「……りゅうご…?」
腰の動きが止まったからだろう。
応えるように、ゴッ、と一段奥を突くと
「ああっ!!」
と、いい声で啼いてくれる。
「…もっとぉ…」
「ああ。いくらでも突いてやる!」
彩人の腰を掴み直し、
ゴスッ、ゴスッ、ゴスッ、と打ち込む。
蕩けた顔。
声も出せずに
開いた口から唾液を垂れ流している。
ベロリとそれを舐めとれば
顔を近づけたせいで結合がさらに深まる。
プシャーッ、
「ぃやぁ……、」
力なく叫んだ彩人から噴き出した潮が
互いの胸にかかる。
ピクピクと痙攣する身体。
跳ねる彼の脚を掴み、
脹脛から足首まで舐め上げる。
「ぁ……ぁ……、」
ついにぐるんと白目を剥いて、
彩人は気を失った。
「お前は!!せめて電話に出ろ!」
オレは兄貴から久しぶりに怒鳴られていた。
大学進学をやめて、『日本を出る』と伝えた
あの日以来だ。
「…ごめんなさい。オレが海…初めてで喜んだから…。寄り道させてしまったのは、オレのせいなんです…」
彩人に悲しい顔をさせてしまった。
男の怒鳴り声が怖いのだろう。
完全に萎縮してしまっている。
「……海が、…初めてだったのか」
兄貴が見たことない顔をしている。
シュンとしてしまった彩人に内心大慌てしている筈だ。
「はい。…とても綺麗でした。こんなに遠くへ来れたのも初めてで、嬉しくて…」
「君は悪くない。ただ、お前だ竜瑚。心配させやがって…。到着が遅れるなら連絡くらいしなさい」
「兄貴、悪かった」
オレは彩人を後ろから抱きしめた。
「言葉と行動が合っていない…が、きみは…?」
「オレは、牧村 彩人といいます」
「彩人くんか。オレは氷太刀 竜臣。こいつの兄だ。…竜瑚。今回はお前の“花”に免じて許してやる」
兄貴は彩人の事を気に入ったみたいだ。
祭りの2日目、今日は舞台を作る日か。
彩人に『花輪』を作ってほしいが…。
龍神様を信仰する閉鎖的な村。
人口を減らさない為の工夫なのか、
18年に一度執り行われるこの祭りは、愛し合う2人が仲を深めるためのイベントが続く。
1日目から3日目までの間に、女性が白い和紙で小さな花を作り、それを束ねて花輪にする。男性は木を削り、色を塗り、黒いこけし型の棒を作る。
男同士のペアでも同じように役割を決める。
たまに男性が花輪を作り、女性が棒を作るペアもいるそうだ。
2日目は龍神様へ舞を奉納するための舞台を洞窟の前に作り、飾り付ける。
3日目は『清めの膳』という、肉も魚もない飯を食い、神社の湧き水…オレたち氷太刀家の者は洞窟の滝で身を清める。
その後は『花輪』と『黒い棒』のペアでセックスする。
4日目は女が作った『花輪』に男が『黒い棒』を投げる。一度で棒を輪の中に通せれば、2人は永遠に結ばれる、とされている。
龍神様に、愛する“花”を紹介するための儀式だ。
まぁ、投げた棒を外しても夫婦として添い遂げたという老夫婦を知っているから、どちらでも良いのかもしれない。
その後オレが、ご神体の大太刀を使って舞台で舞を奉納するのだ。
…本当は3日目の夜に身を清めるまで、キスしか出来ないことになっている。
また、この4日間は、ペアになった相手以外との身体的な接触が許されない。
龍神様がお怒りになる、という伝承があるからだ。
「母家にあったお前の部屋は今、息子達が使ってるから、この離れを使ってくれ。先客が2人いるから、空いている方の部屋を…」
兄貴が離れの引き戸を開くと、ちょうどその先客が外に出ようとしていた。
「こんにちは!」
元気な…学生だろうか。
「結人くん、お疲れ様。こちらは弟の竜瑚と、恋人の彩人くんだ。空いてる部屋に荷物を置かせてやってほしい」
結人くん、と呼ばれた青年は、驚いたようにオレ達を見ている。
怖がらせてしまったか、固まったままだ。
「結人?」
後ろから大人の男が声をかけた。
「あ…、すみません。真山 結人です。彼は黒田 周吾、僕の恋人…です」
「黒田です。お邪魔しています」
この2人も歳の差がありそうだ。
「オレは氷太刀 竜瑚だ。彼は恋人の牧村 彩人」
「彩人です。よろしくお願いします」
「あぁ、そうだ竜瑚。これ、2人から貰った土産の菓子だ。お前達の分」
和菓子の包みを2つ渡される。
「ありがとう。彩人、」
「いただきます」
微笑んだ彩人に結人くんが見惚れている。
オレ達の土産はしょっぱい系だから丁度いいな。…この和菓子、仕事で物撮りしたことがあるから、この2人は案外オレ達の近くに住んでいるのかもしれない。
「荷物、置いていいか?」
オレの声に結人くんのフリーズが解けたようだ。
「……あぁ、すみません。こちらへどうぞ」
結人くんは昨日、神社の『大花輪』作りを手伝ってくれたらしい。前回は、義姉さんが泣きながら1人で作っているのを見た。
本当に大変だっただろう。
それなのに、『自分の分も作りたいから丁度いいです』と、彩人に作り方を教えてくれることになった。
親切ないい子だな。
「じゃあ、オレは『棒』を…」
「馬鹿者。お前はこっちだ。…舞が衰えていないか見てやる。その後は舞台の組み立てに参加しろ」
『その後は好きにしていい』と兄貴はオレの襟首を掴む。
見た目によらず、力が強い。
母家へ引き摺るように連れて行かれた。
今日は祭りの1日目。
昼までに彩人と2人、実家へ帰り着くはずだった。
…のだが。
「綺麗だ…。オレ、海って初めて見た…」
そう言って目を輝かせるお前を、
「竜瑚、これ美味しいね!もう一つ食べていい?」
嬉しそうに笑うお前を、
「冷たくて気持ちいい!」
子どもみたいにはしゃぐお前を、
「わっ!」
バシャン、
「ははは、波に転ばされちゃった!」
抱きしめたくなる。
チュッ、
キスしたくなる。
その結果、
「2人ともびしょびしょだねぇ」
「そうだな」
「夕陽が綺麗…」
「ああ。本当に綺麗だ…」
砂浜に置いていたカメラを取りに行き、
オレンジの光で照らされた
彼の横顔に向けた。
オレ達は海水と砂で汚れた服ごと、屋外にある公共の水シャワーで身体を洗うと、そのまま海辺のラブホに泊まることにした。
「あっ、あっ、あんっ、あんっ、」
ブーッ、ブーッ、ブーッ、
バッグの中で、スマホが騒いでいる。
たぶん兄貴だな…。
「……りゅうご…?」
腰の動きが止まったからだろう。
応えるように、ゴッ、と一段奥を突くと
「ああっ!!」
と、いい声で啼いてくれる。
「…もっとぉ…」
「ああ。いくらでも突いてやる!」
彩人の腰を掴み直し、
ゴスッ、ゴスッ、ゴスッ、と打ち込む。
蕩けた顔。
声も出せずに
開いた口から唾液を垂れ流している。
ベロリとそれを舐めとれば
顔を近づけたせいで結合がさらに深まる。
プシャーッ、
「ぃやぁ……、」
力なく叫んだ彩人から噴き出した潮が
互いの胸にかかる。
ピクピクと痙攣する身体。
跳ねる彼の脚を掴み、
脹脛から足首まで舐め上げる。
「ぁ……ぁ……、」
ついにぐるんと白目を剥いて、
彩人は気を失った。
「お前は!!せめて電話に出ろ!」
オレは兄貴から久しぶりに怒鳴られていた。
大学進学をやめて、『日本を出る』と伝えた
あの日以来だ。
「…ごめんなさい。オレが海…初めてで喜んだから…。寄り道させてしまったのは、オレのせいなんです…」
彩人に悲しい顔をさせてしまった。
男の怒鳴り声が怖いのだろう。
完全に萎縮してしまっている。
「……海が、…初めてだったのか」
兄貴が見たことない顔をしている。
シュンとしてしまった彩人に内心大慌てしている筈だ。
「はい。…とても綺麗でした。こんなに遠くへ来れたのも初めてで、嬉しくて…」
「君は悪くない。ただ、お前だ竜瑚。心配させやがって…。到着が遅れるなら連絡くらいしなさい」
「兄貴、悪かった」
オレは彩人を後ろから抱きしめた。
「言葉と行動が合っていない…が、きみは…?」
「オレは、牧村 彩人といいます」
「彩人くんか。オレは氷太刀 竜臣。こいつの兄だ。…竜瑚。今回はお前の“花”に免じて許してやる」
兄貴は彩人の事を気に入ったみたいだ。
祭りの2日目、今日は舞台を作る日か。
彩人に『花輪』を作ってほしいが…。
龍神様を信仰する閉鎖的な村。
人口を減らさない為の工夫なのか、
18年に一度執り行われるこの祭りは、愛し合う2人が仲を深めるためのイベントが続く。
1日目から3日目までの間に、女性が白い和紙で小さな花を作り、それを束ねて花輪にする。男性は木を削り、色を塗り、黒いこけし型の棒を作る。
男同士のペアでも同じように役割を決める。
たまに男性が花輪を作り、女性が棒を作るペアもいるそうだ。
2日目は龍神様へ舞を奉納するための舞台を洞窟の前に作り、飾り付ける。
3日目は『清めの膳』という、肉も魚もない飯を食い、神社の湧き水…オレたち氷太刀家の者は洞窟の滝で身を清める。
その後は『花輪』と『黒い棒』のペアでセックスする。
4日目は女が作った『花輪』に男が『黒い棒』を投げる。一度で棒を輪の中に通せれば、2人は永遠に結ばれる、とされている。
龍神様に、愛する“花”を紹介するための儀式だ。
まぁ、投げた棒を外しても夫婦として添い遂げたという老夫婦を知っているから、どちらでも良いのかもしれない。
その後オレが、ご神体の大太刀を使って舞台で舞を奉納するのだ。
…本当は3日目の夜に身を清めるまで、キスしか出来ないことになっている。
また、この4日間は、ペアになった相手以外との身体的な接触が許されない。
龍神様がお怒りになる、という伝承があるからだ。
「母家にあったお前の部屋は今、息子達が使ってるから、この離れを使ってくれ。先客が2人いるから、空いている方の部屋を…」
兄貴が離れの引き戸を開くと、ちょうどその先客が外に出ようとしていた。
「こんにちは!」
元気な…学生だろうか。
「結人くん、お疲れ様。こちらは弟の竜瑚と、恋人の彩人くんだ。空いてる部屋に荷物を置かせてやってほしい」
結人くん、と呼ばれた青年は、驚いたようにオレ達を見ている。
怖がらせてしまったか、固まったままだ。
「結人?」
後ろから大人の男が声をかけた。
「あ…、すみません。真山 結人です。彼は黒田 周吾、僕の恋人…です」
「黒田です。お邪魔しています」
この2人も歳の差がありそうだ。
「オレは氷太刀 竜瑚だ。彼は恋人の牧村 彩人」
「彩人です。よろしくお願いします」
「あぁ、そうだ竜瑚。これ、2人から貰った土産の菓子だ。お前達の分」
和菓子の包みを2つ渡される。
「ありがとう。彩人、」
「いただきます」
微笑んだ彩人に結人くんが見惚れている。
オレ達の土産はしょっぱい系だから丁度いいな。…この和菓子、仕事で物撮りしたことがあるから、この2人は案外オレ達の近くに住んでいるのかもしれない。
「荷物、置いていいか?」
オレの声に結人くんのフリーズが解けたようだ。
「……あぁ、すみません。こちらへどうぞ」
結人くんは昨日、神社の『大花輪』作りを手伝ってくれたらしい。前回は、義姉さんが泣きながら1人で作っているのを見た。
本当に大変だっただろう。
それなのに、『自分の分も作りたいから丁度いいです』と、彩人に作り方を教えてくれることになった。
親切ないい子だな。
「じゃあ、オレは『棒』を…」
「馬鹿者。お前はこっちだ。…舞が衰えていないか見てやる。その後は舞台の組み立てに参加しろ」
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