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その後の話
わたしを救うひと
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君の名前は、
詩音、というのですね。
まさか、こんなところで再び会うことができるなんて、思いもしませんでした。
彼のマッサージは丁寧で、足湯をしてくれたり、肌を極力晒さないようにしながら温かいタオルで全身を拭いてくれたり、体温が下がらないように気遣ってくれたりと、細心の注意を払ってケアしてくれているのが伝わってきます。
排泄や寝返りの介助も、夜間であろうと定期的にしてくれるので、ありがたくも申し訳ない気持ちになります。
早く自分で出来るようになりたいと、リハビリに力が入ります。
君は覚えていますか?
わたしは、君の言葉に助けられた事があるのです。
わたしの『主人』は理不尽にも、
「誰のちんぽが相手でも媚びやがって、この淫乱!」
と、君に背後から貫かれて喘ぐわたしの頬を叩きました。
ホテルのベッドの上。
既に5人の男に抱かれていたわたしは、身体にも、精神にも限界が来ていました。
ジンジン痛む頬以上に、心が痛かった。
あなたが『こんな身体』にしたくせに…。
悲しくて、悲しくて、死にたくなって、震えながら涙を流すわたしの耳に、抽挿を止めた君は小さく囁きました。
『別に…アンタが淫乱な訳じゃない』
さらに、彼へ向けて言いました。
「まあ、この人を善がらせるのがオレの仕事ですからね」
わたしとの間に言葉で割り込んだ君を、
彼はギッと睨みつけました。
「…貴様!」「「バカお前!」」
彼と君の仲間達の声が部屋に響きました。
「あなたならもっと、…この身体を溶かせるでしょう?」
わたしの首筋から尾てい骨まで、背骨に沿って、するっと手を這わせる君。
敏感になっていたわたしは『あんっ、』と思わず声を漏らしてしまいました。
「っ……当然だ!」
君の言葉は、彼を翻弄していました。
わたしは何だか可笑しくなって、ようやく気持ちを落ち着かせることができました。
まだ10代だろう君達に、こんなジジイを抱かせてごめんね。
庇ってくれてありがとう。
お陰で少し、勇気が出ました。
「…武彦さん。わたしを抱いてください。最後はあなたにイかせてほしいです」
わたしは彼に震える両手を伸ばしました。
「くそっ!!お前の望み通りイくまで抱いてやる!」
彼はわたしの手を強引に引き寄せました。
急に結合を解かされ、『ぐっ…』と出そうになった声を堪えます。
膝の上に載せられて、そのまま下から突き上げられました。
苛立ちをぶつける、嵐のような抽挿。
乱暴なのに、妙な安心感を覚えて、『あっ、あっ、』と恥ずかしい声が自然に出てしまいます。
彼に追い払われるように部屋を出ていった君達へ、視線を送ることすら許されません。
ぐっぐっ、と腰を抑え込まれ、ビュルルルッと最奥に射精された瞬間、わたしも一緒に達し、そのまま意識を失っていました。
目を覚ますとホテルではなく、
自室のベッドで彼に抱きしめられていました。
何の心境の変化か、
…いえ。
おそらく君が挑発してくれたお陰なのでしょう。
その日から彼は、わたしを他の男に触れさせなくなりました。
あの時の君が、君の言葉が、
他の男に抱かれて喘ぐたび『淫乱』と罵られ、彼に壊されかけていた、わたしの心を救ってくれたのです。
ずっとお礼が言いたかった。
「…ありがとう、詩音君」
唐突にお礼を言葉にしたわたしを見て、
君は少し考えてから…
「いえ、お力になれることがありましたら、仰ってください」
と、ベッドへ横になったわたしの身体にタオルケットを掛け、優しく頭を撫でてくれました。
その手のひらの温かさに、何故か目が熱くなり、じわりと涙が滲みました。
「もしご自宅でお世話をされるのでしたら、様々なケアをここで学ばれてはいかがでしょうか」
詩音君の言葉によって、孝彦は毎日わたしに会いに来てくれるようになりました。
それどころか、施設の近くにあるビジネスホテルに泊まっているらしく、朝から夜まで側にいます。
『介助を教わる』という名目で、わたしの身体を囲い込み、詩音君に触れさせたがらない彼。
それどころか、理学療法士さんの仕事さえ邪魔する始末です。
会社では社長として立派に勤めを果たしているというのに、わたしを独占しようとする彼は、まるで子どものようです。
「こんなジジイの身体なんて、誰に触らせてもいいでしょう?」
孝彦に、わたしの身体を離すよう言いました。
それでなくとも面会時間を無視した毎日の来訪に、施設の方へご迷惑をおかけしているのです。
すると詩音君が彼に言いました。
「あなたの気持ちはオレにも分かると思います。……オレには『連れ合い』がいます。例えアイツが涼野さんと同じ年齢になったとしても、他の男に触られているのを想像しただけで許せない」
孝彦の視線が詩音君に向かいます。
「オレが死ぬ時は、アイツも連れて行くと決めています。それくらい、オレはアイツを愛してる」
君は熱烈だね。
『連れ合い』に選ばれたその人が羨ましいよ。
「……まだ見習いのオレに、愛しい人を触らせたくないのは仕方ありません。それでも…涼野さんの回復を願うなら、どうか彼の身体を、プロである理学療法士には任せていただけませんか?」
わたしを抱く彼の腕が緩んだのがわかります。
「『連れ合い』か。…いいなソレ」
わたしの顔を覗き込みニッと笑うと、詩音君を見て、孝彦は大きく頷きました。
「分かった。オレはアンタの事を信じるよ」
頑固なこの子が話を聴くなんて。
「これからも指導をお願いします」
素直に頭を下げるなんて。
詩音君は、本当にすごいね。
武彦さん。
孝彦はあなたに似ず、
素直ないい子に育ちましたよ。
……でも今思い返してみれば、
頑固で素直じゃないあなたのことです。
わたしを叩いたあの夜。
自分で男達を呼んでおきながら、
この孝彦のように
わたしを『独占』したかったのですか?
「それにしても、孝彦。43歳の君がこんなに“子ども”だとは思いませんでしたよ」
わたしを抱く腕がビクッと震えました。
「わたしの『連れ合い』を名乗ろうというのでしたら、大人として…っ」
「涼野!!」
『連れ合い』という言葉に反応したのでしょうが…。
話を最後まで聴きなさい。
全く、仕方のない子ですね。
彼は『愛してる…』と囁きながら、『ちゅ、ちゅ、』と耳元や首筋に口付けてきます。
…これで経営の才能があるのですから、
本当にこの子から目が離せません。
あっ、…ちょっと、詩音君の前で、
どこにキスしてるんですか。
武彦さん。
まだまだ
“わたしの仕事”は終わらないようです。
あなたは怒っているかもしれませんね。
大丈夫。
わたしは『あなたの秘書』ですよ。
もうすぐお側に参ります。
あなたがこの世に残してくれた『宝物』。
本音を言えば、孝彦の子どもの顔を見てみたかった。
それでも、
この子の側にいられる今を、
奇跡のように思います。
この子に愛されて、……愛することができて、
わたしは幸せです。
どうかもう少しだけ、待っていてください。
詩音、というのですね。
まさか、こんなところで再び会うことができるなんて、思いもしませんでした。
彼のマッサージは丁寧で、足湯をしてくれたり、肌を極力晒さないようにしながら温かいタオルで全身を拭いてくれたり、体温が下がらないように気遣ってくれたりと、細心の注意を払ってケアしてくれているのが伝わってきます。
排泄や寝返りの介助も、夜間であろうと定期的にしてくれるので、ありがたくも申し訳ない気持ちになります。
早く自分で出来るようになりたいと、リハビリに力が入ります。
君は覚えていますか?
わたしは、君の言葉に助けられた事があるのです。
わたしの『主人』は理不尽にも、
「誰のちんぽが相手でも媚びやがって、この淫乱!」
と、君に背後から貫かれて喘ぐわたしの頬を叩きました。
ホテルのベッドの上。
既に5人の男に抱かれていたわたしは、身体にも、精神にも限界が来ていました。
ジンジン痛む頬以上に、心が痛かった。
あなたが『こんな身体』にしたくせに…。
悲しくて、悲しくて、死にたくなって、震えながら涙を流すわたしの耳に、抽挿を止めた君は小さく囁きました。
『別に…アンタが淫乱な訳じゃない』
さらに、彼へ向けて言いました。
「まあ、この人を善がらせるのがオレの仕事ですからね」
わたしとの間に言葉で割り込んだ君を、
彼はギッと睨みつけました。
「…貴様!」「「バカお前!」」
彼と君の仲間達の声が部屋に響きました。
「あなたならもっと、…この身体を溶かせるでしょう?」
わたしの首筋から尾てい骨まで、背骨に沿って、するっと手を這わせる君。
敏感になっていたわたしは『あんっ、』と思わず声を漏らしてしまいました。
「っ……当然だ!」
君の言葉は、彼を翻弄していました。
わたしは何だか可笑しくなって、ようやく気持ちを落ち着かせることができました。
まだ10代だろう君達に、こんなジジイを抱かせてごめんね。
庇ってくれてありがとう。
お陰で少し、勇気が出ました。
「…武彦さん。わたしを抱いてください。最後はあなたにイかせてほしいです」
わたしは彼に震える両手を伸ばしました。
「くそっ!!お前の望み通りイくまで抱いてやる!」
彼はわたしの手を強引に引き寄せました。
急に結合を解かされ、『ぐっ…』と出そうになった声を堪えます。
膝の上に載せられて、そのまま下から突き上げられました。
苛立ちをぶつける、嵐のような抽挿。
乱暴なのに、妙な安心感を覚えて、『あっ、あっ、』と恥ずかしい声が自然に出てしまいます。
彼に追い払われるように部屋を出ていった君達へ、視線を送ることすら許されません。
ぐっぐっ、と腰を抑え込まれ、ビュルルルッと最奥に射精された瞬間、わたしも一緒に達し、そのまま意識を失っていました。
目を覚ますとホテルではなく、
自室のベッドで彼に抱きしめられていました。
何の心境の変化か、
…いえ。
おそらく君が挑発してくれたお陰なのでしょう。
その日から彼は、わたしを他の男に触れさせなくなりました。
あの時の君が、君の言葉が、
他の男に抱かれて喘ぐたび『淫乱』と罵られ、彼に壊されかけていた、わたしの心を救ってくれたのです。
ずっとお礼が言いたかった。
「…ありがとう、詩音君」
唐突にお礼を言葉にしたわたしを見て、
君は少し考えてから…
「いえ、お力になれることがありましたら、仰ってください」
と、ベッドへ横になったわたしの身体にタオルケットを掛け、優しく頭を撫でてくれました。
その手のひらの温かさに、何故か目が熱くなり、じわりと涙が滲みました。
「もしご自宅でお世話をされるのでしたら、様々なケアをここで学ばれてはいかがでしょうか」
詩音君の言葉によって、孝彦は毎日わたしに会いに来てくれるようになりました。
それどころか、施設の近くにあるビジネスホテルに泊まっているらしく、朝から夜まで側にいます。
『介助を教わる』という名目で、わたしの身体を囲い込み、詩音君に触れさせたがらない彼。
それどころか、理学療法士さんの仕事さえ邪魔する始末です。
会社では社長として立派に勤めを果たしているというのに、わたしを独占しようとする彼は、まるで子どものようです。
「こんなジジイの身体なんて、誰に触らせてもいいでしょう?」
孝彦に、わたしの身体を離すよう言いました。
それでなくとも面会時間を無視した毎日の来訪に、施設の方へご迷惑をおかけしているのです。
すると詩音君が彼に言いました。
「あなたの気持ちはオレにも分かると思います。……オレには『連れ合い』がいます。例えアイツが涼野さんと同じ年齢になったとしても、他の男に触られているのを想像しただけで許せない」
孝彦の視線が詩音君に向かいます。
「オレが死ぬ時は、アイツも連れて行くと決めています。それくらい、オレはアイツを愛してる」
君は熱烈だね。
『連れ合い』に選ばれたその人が羨ましいよ。
「……まだ見習いのオレに、愛しい人を触らせたくないのは仕方ありません。それでも…涼野さんの回復を願うなら、どうか彼の身体を、プロである理学療法士には任せていただけませんか?」
わたしを抱く彼の腕が緩んだのがわかります。
「『連れ合い』か。…いいなソレ」
わたしの顔を覗き込みニッと笑うと、詩音君を見て、孝彦は大きく頷きました。
「分かった。オレはアンタの事を信じるよ」
頑固なこの子が話を聴くなんて。
「これからも指導をお願いします」
素直に頭を下げるなんて。
詩音君は、本当にすごいね。
武彦さん。
孝彦はあなたに似ず、
素直ないい子に育ちましたよ。
……でも今思い返してみれば、
頑固で素直じゃないあなたのことです。
わたしを叩いたあの夜。
自分で男達を呼んでおきながら、
この孝彦のように
わたしを『独占』したかったのですか?
「それにしても、孝彦。43歳の君がこんなに“子ども”だとは思いませんでしたよ」
わたしを抱く腕がビクッと震えました。
「わたしの『連れ合い』を名乗ろうというのでしたら、大人として…っ」
「涼野!!」
『連れ合い』という言葉に反応したのでしょうが…。
話を最後まで聴きなさい。
全く、仕方のない子ですね。
彼は『愛してる…』と囁きながら、『ちゅ、ちゅ、』と耳元や首筋に口付けてきます。
…これで経営の才能があるのですから、
本当にこの子から目が離せません。
あっ、…ちょっと、詩音君の前で、
どこにキスしてるんですか。
武彦さん。
まだまだ
“わたしの仕事”は終わらないようです。
あなたは怒っているかもしれませんね。
大丈夫。
わたしは『あなたの秘書』ですよ。
もうすぐお側に参ります。
あなたがこの世に残してくれた『宝物』。
本音を言えば、孝彦の子どもの顔を見てみたかった。
それでも、
この子の側にいられる今を、
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どうかもう少しだけ、待っていてください。
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