愛を請うひと

くろねこや

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その後の話

秘密(後編)

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海砂さんが16歳の時、貧血で倒れていたところを助けてくれたのが山神先生だったらしい。

『奴隷』の首輪とアザだらけの身体を見た彼は、彼女を家に迎え入れ住まわせた。しかも彼女が『身体を売る時間』をできる限り買ってくれたそうだ。

彼になら、いくらでも『ご奉仕』したかったそうだが、がんとして手を出してくれなかったらしい。



そんなある日、八嶋に呼び出された。

八嶋は、彼女が山神の家に匿われていることを知っていた。

『あのヘタレはお前が18になれば手を出すだろう。酒を飲ませて誘惑しろ。押し倒して中出しさせろ』

言われるまでもなく、それは彼女自身も望んでいた事だった。

だが、

『女のお前がねたましい』

そう言って、気を失う寸前まで首を絞められたそうだ。

山神とは古い知り合いのようだという。

「あの男は山神先生のことが好きなんだと思う。…『執着してる』が正しいかもしれない」

海砂さんはグラスに口を付けた。


「18の誕生日、山神先生に『あなたの子どもがほしい』ってお願いした。先生は、やっと私を抱いてくれた。一緒に眠って、一緒に朝を迎えたかった。でも私は、あの男の指示どおり…そのまま…会社に行った」

八嶋は、先生に中出しされたらすぐに会社に来いと言っていたらしい。

「あいつは男の『奴隷』を犯してた。手足を動けなくされた、短髪で筋肉質の男の子。その子のナカでギリギリまでたかめたちんぽを嫌そうに私に挿れて射精した。…目をつぶって『山神、山神、』って言いながら先生のと自分の精液をグチャグチャかき混ぜて、私の腹の奥に押し込んだ」

本当に気持ちが悪い男だ。

見た目の印象から考えると、短髪で筋肉質な『奴隷』は山神の代わりだったのだろう。

現実的にはあり得ないことだが、海砂さんのことを『山神と八嶋の子どもを産む母体』として扱ったのではないだろうか。


「あの男は、私が『はらむまで同じ事を繰り返す』と言った。他の男からの中出しを禁じて。でも、その一度だけで私が妊娠してるってわかった」

つまり、

「詩音は、山神先生か『あの男』の子供…」


(八嶋はそれを知っていて、詩音にあんな仕打ちをしたっていうのか?)


海砂さんは口元を押さえて震えている。


「…誰にも言ってない、言えない秘密。あの男は、父の絶望の日々を終わらせてくれた。私が大好きだった父を、これ以上嫌いにならないようにしてくれた」


罪を告白するように、静かに、小さな声で、オレだけの耳に届ける。


……八嶋が、終わらせた?

彼女の父親は亡くなっていると聞いた。



「そのかわり、私に『赤ん坊を産んだら姿を消すように』言った。『山神と子どもの前から去るように』と。私はあの男に従って彼らの手を放した」


『お金のために父親を見殺しにして、赤ちゃんを、先生の手を放した酷い女…!!』と顔を覆って、そのままカウンターに伏した。


お金のため……? 

見殺し?

『終わらせた』。

まさか、生命保険のようなものを父親にかけて、あの男が手を下した?


「重い話をしてごめんね……。あなたには真実を知っていてほしくて……」


カウンターに伏せたまま言葉を吐き出す、
細い身体。


もしもその推測が『真実』だとしても

『お金のため』じゃないだろう。

ただ、18歳の女の子が『奴隷』でいることをやめただけ。

自分の心と身体を守っただけだ。

海砂さんの父親は自分で責任を取らなければならなかった。



「私がこんなに酷い女じゃなければ…。あの子の手を離さなければ…。あの子が先生の子どもだったら選んでもらえたのかなぁ?」


何も言えなかった。

ただ、さっき彼女がしてくれたみたいに、頭を優しく何度も撫でた。強張っていた彼女の身体から力が抜けていく。



「……ねぇ。どうしてあの子を許せたの?あなたは私と事情が違う。あなたを無理矢理犯して、脅して、『奴隷』にして、半年以上も監禁して、奥さんと子どもから奪い取ったんでしょう?」


いつもの明るい彼女ではない。
ピリッとした言葉とともに、澱んだ目でこちらを見た。


「…私があの子を産まなければ、あなたは『奴隷』にされずにすんだのに」


おそらく酔っているのだろう。
それでも、ちゃんと答えなければと思った。


「あいつは、ちゃんと刑務所で罪を償ってきました。……それに、とにかく一途です。『逃げられない』という諦めの気持ちがありました」


「うん。『あの男』みたいに執念深い」


「一途で……、不器用で、優しい。毎日『愛してる』と言われ続けて、いつの間にか許してしまいました」


「そう…。ほだされて、好きになっちゃったの?」


「絆され…。そうですね。でもあいつを好きになったのはそれだけじゃありません。あいつは親友を大切にして、守ろうとあの場所で踏ん張っていたんです。詩音だって子どもだったんですよ?……それなのに身体を張って親友を守っていた。大人になってからもずっと…」

施設にいた頃から彩人を守っていた詩音。
会社で『奴隷』にされ、心を壊されて、人形のようになっていた親友をケアして根気強く話しかけ続けた。
契約に縛られ、会社に従いながらも、彼を守るために竜瑚と3人で暮らしていた。

オレのことも、始まりは酷かったが、暴力を受けながら守ろうとしてくれた。


「…うん。山神先生みたいに…優しい」


「山神先生は詩音の父親だと思います。遺伝子の話じゃない。あの会社で、詩音の心と身体を守っていたのは彼だ。今も一緒に患者さん達を2人で助けてる」


彼女は、詩音が『憎む男の子ども』なのか『愛する男の子ども』なのか、計りかねているのだろう。

DNAを調べればすぐに答えが出てしまう。

それでも調べないのは、もしも『あの男』の子だと『確定』してしまったら、詩音を愛せなくなってしまうからだろう。


「そうね。あの子は先生に似て、優しい。あぁ…本当に、…先生。…大好き…」


明らかに飲みすぎていた。
たくさん話をして疲れていたせいもあるのだろう。

言葉は支離滅裂で、途切れ途切れだ。


ーーーそれでもこれだけは伝えたい。

「海砂さん、詩音を産んでくれてありがとうございます。彼と一緒に生きることを許してくれて、ありがとう」


彼女の瞳が、確かにオレを映した。

元の柔らかな表情かおに戻っていた。


「……そう。……よかったぁ……」


ついに酔い潰れて寝てしまった。


ずっと一人で『秘密』を抱えてきたのだろう。
心が弱って、ついに抱えきれなくなってしまったのか。

彼女の頭をもう一度、そっと撫でた。


山神は恐らく気づいているだろうが、詩音には絶対に知られたくない内容だ。


彼女の脱力した身体を抱き上げ、ソファ席に寝かせた。スーツを脱いで、彼女の身体に掛ける。

目覚めた時に飲めるように、ウォーターサーバーからグラスに水を注ぎ、近くのテーブルに置く。


鍵はどうするか…。


その時、

カランカラン、と

ドアベルが鳴った。

身構えていると、入ってきたのは山神だった。


「海砂ちゃんは、君を選んだか…」


ずっとずっと抱えてきた『重い秘密』を吐き出す相手として。


「山神先生は海砂さんのこと、好きなんだと思ってました」


余計なことと思いながら、口から出ていた。


「……この子のこと、好きだよ。……大切に思ってる」


それなら、と山神を見ると、


「……でもオレは、アイツから手を離せない…」


苦しげに拳を握りしめていた。


「…アイツから手を離して、この子の手を取るのが正しい。わかってるんだ。……それでも」


『アイツ』というのは八嶋のことだろう。


……なんとなく、わかる気がした。

オレには『家族の元に帰る』という選択肢があった。アズがオレに会いたがってくれたあの日に『オレも会いたい』と言っていたら未来は変わっていただろう。


それでもオレは詩音を選んだ。

彼と生きると決めた。

オレには、山神に言えることは何もなかった。



「海砂さんをお願いできますか?」


山神が頷いたのを確かめて、オレは店を出た。




外には詩音が待っていた。

肌寒さにブルリとした、シャツ1枚のオレの肩に、彼が上着を掛けてくれた。

……あったかい。

渡された『秘密』に、ズンと重い心が、彼の温もりにホッとして少しだけ軽くなる。

彼は何も聞かないで一緒に歩いてくれた。





彼の身体が冷えてしまう前に、急いでアパートへ帰ると、2人でシャワーを浴びた。
たくさん抱きしめられて甘やかしてもらった。



ーーー腹の中に『詩音の子種』を注がれた瞬間、海砂の気持ちを想像してしまった。

ここに『あの男』の子種も注がれ、ぐちゃぐちゃに混ぜた後、奥に送られる。

そのまま孕まされるのだ。

ゾクリとした。



考え事をするオレに気づいた詩音は、

「凛。オレを見ろ。お前はオレだけのものだ。……出るっ。ほら、もう一度呑んで。お尻がパクパクしてる。気持ちいいよ、凛」

正常位のまま尻を持ち上げられる。
脚をさらに開かされ、まさに『種付け』するように、もっと奥まで入り込んできた。
プレスしたままジッとして、オレがキュンキュン締め付けるのを味わっている。


「もうだめ! お腹くるしいからぁ…! やだぁ…出しちゃだめ! 孕んじゃう…」


おかしな想像をしていたせいで、おかしな言葉がオレの口から飛び出した。


「孕め! もっとオレの子種を呑み込んで」


『詩音だけで腹いっぱいになるまで』たくさんたくさん愛してもらった。
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