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本編
8 涙
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月曜日の朝、ようやく解放された。
とは言っても手首は手錠で拘束されたまま、朝5時ごろに男が部屋を出て行ったのだ。
土曜日の夕方から今日の朝方まで、長時間にわたる荒淫で尻の穴が腫れぼったく、ナカに出されたままの下腹部が痛い。手首は枷に擦れ血が滲み、全身は怠く重く、水分不足か頭痛もひどかった。
ベッドから立ち上がった瞬間、
「…っ、」
穴から漏れ出した白濁液がタラリと太腿に伝い、不快感をティッシュで乱暴に拭う。
手錠の鍵は男が持って行ってしまったが、クローゼットの奥に学生時代に使っていた工具の存在を思い出し、30分かけてなんとか外すことができた。
ドロドロのシーツを剥がし、洗濯乾燥機にセットしながら、スマホで妻に電話をかけたが、電源が入っていないとアナウンスが流れる。
シャワーで汚れた身体を清め、ゼリー飲料で痛み止めを飲むと、駅へと急ぐ。
おそらく妻は実家にいるはずだ。
電車を乗り継ぐ途中で8時になり、会社に『体調不良』と連絡して有給休暇を取る。
やはり妻と息子は実家にいた。
だが、彼女の両親に玄関に入れてさえもらえず、『警察を呼ぶ』とまで言われてしまった。
2人の無事は確認できたので、『また来ます』と帰路に着いた。オレがすぐに追って来なかったとショックを受け、泣き続けていたそうだ。手首の擦り傷がジクジクと痛む。
涙がこぼれそうだったが、オレに泣く権利なんてなかった。
アパートに男が戻ってくるかもしれず、鍵を取り替えたかったが、万が一、妻が戻ってくる可能性を考えてやめた。
男は来なかった。
翌日、会社に行く。
オレの顔色の悪さから、誰にも体調不良を疑われることはなかったが、内線で社長室に呼び出された。
部屋には社長以外誰もいない。
香水を付けているのか、甘ったるい独特の匂いが鼻につく。頭痛が酷くなりそうだ。
「これは結城君で間違いないね?」
社長にパソコンの画面を見せられる。
そこにはベッドに拘束され、社員証を胸に乗せられたまま犯されている男が映っていた。
かすかな喘ぎ声が静かな室内に響く。
オレの顔色を見て、真実だと確信したのだろう。
昨日の夜届いた代表宛のメールに、動画のURLが添付されていたそうだ。
「迷惑メールフォルダに入っていたから、まだ私しか見ていない。だがどうやらすでに『そういったサイト』に公開されてしまっているようだ」
幸い男Bが社員証の文字を読み上げるシーンはカットされていた。映った文字の大きさと画面の粗さから、社名までは判別できないと思われるが、見る人が見ればわかってしまうかもしれない。しかも名前は読めるし顔も晒されている。
「すまないが、トラブルは避けたい。わかるね?」
警察に相談することをオススメするよ、と言いながら、オレの身体を上から下まで舐めるように見てくる。
ゾッとしたオレはすぐその場で紙を受け取り、退職願を書いた。
ちょうど全体会議に入ったため、人のいないフロアで身の回りのものを片付けると、わずかな私物を持って誰にも見られることなく静かに会社を出た。
家に帰ると、妻と息子の荷物が全て消えていた。
テーブルには離婚届が置いてあり、『役所に出さないと息子には二度と会わせない』という手紙が添えてあった。
スマホを見ると、親切なことに、プライベートのメールアドレス宛で、社長から動画のURLが送られてきていた。
胸にぽっかりと大きな穴が空けられたようだった。警察に行かなければと思うのに、身体が動かない。呆然とソファに座っていると、玄関のカギが開く音がして、
無表情の男が立っていた。
とは言っても手首は手錠で拘束されたまま、朝5時ごろに男が部屋を出て行ったのだ。
土曜日の夕方から今日の朝方まで、長時間にわたる荒淫で尻の穴が腫れぼったく、ナカに出されたままの下腹部が痛い。手首は枷に擦れ血が滲み、全身は怠く重く、水分不足か頭痛もひどかった。
ベッドから立ち上がった瞬間、
「…っ、」
穴から漏れ出した白濁液がタラリと太腿に伝い、不快感をティッシュで乱暴に拭う。
手錠の鍵は男が持って行ってしまったが、クローゼットの奥に学生時代に使っていた工具の存在を思い出し、30分かけてなんとか外すことができた。
ドロドロのシーツを剥がし、洗濯乾燥機にセットしながら、スマホで妻に電話をかけたが、電源が入っていないとアナウンスが流れる。
シャワーで汚れた身体を清め、ゼリー飲料で痛み止めを飲むと、駅へと急ぐ。
おそらく妻は実家にいるはずだ。
電車を乗り継ぐ途中で8時になり、会社に『体調不良』と連絡して有給休暇を取る。
やはり妻と息子は実家にいた。
だが、彼女の両親に玄関に入れてさえもらえず、『警察を呼ぶ』とまで言われてしまった。
2人の無事は確認できたので、『また来ます』と帰路に着いた。オレがすぐに追って来なかったとショックを受け、泣き続けていたそうだ。手首の擦り傷がジクジクと痛む。
涙がこぼれそうだったが、オレに泣く権利なんてなかった。
アパートに男が戻ってくるかもしれず、鍵を取り替えたかったが、万が一、妻が戻ってくる可能性を考えてやめた。
男は来なかった。
翌日、会社に行く。
オレの顔色の悪さから、誰にも体調不良を疑われることはなかったが、内線で社長室に呼び出された。
部屋には社長以外誰もいない。
香水を付けているのか、甘ったるい独特の匂いが鼻につく。頭痛が酷くなりそうだ。
「これは結城君で間違いないね?」
社長にパソコンの画面を見せられる。
そこにはベッドに拘束され、社員証を胸に乗せられたまま犯されている男が映っていた。
かすかな喘ぎ声が静かな室内に響く。
オレの顔色を見て、真実だと確信したのだろう。
昨日の夜届いた代表宛のメールに、動画のURLが添付されていたそうだ。
「迷惑メールフォルダに入っていたから、まだ私しか見ていない。だがどうやらすでに『そういったサイト』に公開されてしまっているようだ」
幸い男Bが社員証の文字を読み上げるシーンはカットされていた。映った文字の大きさと画面の粗さから、社名までは判別できないと思われるが、見る人が見ればわかってしまうかもしれない。しかも名前は読めるし顔も晒されている。
「すまないが、トラブルは避けたい。わかるね?」
警察に相談することをオススメするよ、と言いながら、オレの身体を上から下まで舐めるように見てくる。
ゾッとしたオレはすぐその場で紙を受け取り、退職願を書いた。
ちょうど全体会議に入ったため、人のいないフロアで身の回りのものを片付けると、わずかな私物を持って誰にも見られることなく静かに会社を出た。
家に帰ると、妻と息子の荷物が全て消えていた。
テーブルには離婚届が置いてあり、『役所に出さないと息子には二度と会わせない』という手紙が添えてあった。
スマホを見ると、親切なことに、プライベートのメールアドレス宛で、社長から動画のURLが送られてきていた。
胸にぽっかりと大きな穴が空けられたようだった。警察に行かなければと思うのに、身体が動かない。呆然とソファに座っていると、玄関のカギが開く音がして、
無表情の男が立っていた。
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