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本編 3 番外編
依頼(前編)
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「えーと。今回の依頼は…“葛谷 善一から…結城 凛氏を護衛”?」
父さんから渡された書類と、護衛対象の写真を見る。
「“結城 凛”って、この顔…。“凛ちゃん”?」
写真の顔に見覚えがあった。
「そのようですね。以前あなたが、『人の名前と顔を覚える能力がすごい。探偵に向いている』と言っていた、あの“凛ちゃん”です」
「…オレのアホな言葉を一瞬で理解できる慎一郎もすごいよ」
「僕の記憶する範囲で、“凛ちゃん”と呼ばれていた人物は1人だけしかいません。保護対象だった“高坂 薫さん”の身代わりであなたが出演した“イベント”。あの夜、ステージ上で、あなたの右隣に拘束されていた方ですね」
「そうそう。それで、依頼人は確か…あの会社でオレ達に協力してくれた人だよね?」
薫くんを探して助けるため、あの会社へ潜入した時も、先輩に閉じ込められた時も、彼が助けてくれた。慎一郎と2人きりで餓死せずにすんだのだから、命の恩人と呼んでもいいくらいだと思う。
あれ? “結城 詩音”? あの人って逮捕された時、“藤沼 詩音”って名前じゃなかったかな?
父さんが詩音から話を聴いて纏めた書類を読む。
へー、凛ちゃん、あの人を養子にしたんだ…。自分を拉致して監禁して奴隷にした男だよね? よく許したなぁ…。
「はい。あの3人のうちの1人です」
ん? 慎一郎が無表情だ。ムッとしてる?
「あなたを抱いた、男の1人です」
「あの会社に潜入して、薫くんを探すためだったんだから、仕方ないだろ?」
「それでも…、この身体は、あの男を覚えているのでしょう?」
長さと太さが丁度よくて、テクが最高な最初の男。
言葉責めが上手くて、異常に長いから軽く結腸責めしてくれた2番目の綺麗な男。
裂けるかもと思うほど太さも長さもすごかった、身体もちんぽも逞しいスキンヘッドの男。
確かに、あの3人のちんぽは気持ち良かった。プレイ後は紳士的だったし。あぁ、だから凛ちゃんは絆されちゃったのか。
そういえば最初の男…詩音は『本命がいるから薬で無理矢理勃たせてる』と言っていた。
そうか、『本命』。
凛ちゃんは、あの『最初のちんぽ』がヨかったのか。
思わず後ろがヒクッと疼いた。
「奈津。あなたのナカが、彼等を思い出してしまったようですね」
オレのシャツを捲り上げ、腰をスリっと撫でる、冷たい指先にゾクリとする。
「…お前が一番気持ちいいから…、っ…、」
「お前達、オレを忘れてイチャつくな」
「っ…こら、慎一郎。ごめんなさい、父さん」
そうだった。ここは事務所。
目の前には父さん。
オレが座っているのは、さっきまで依頼人…結城 詩音が座っていたソファ…に座る慎一郎の膝の上。
来客用に用意した手付かずのコーヒーを代わりに飲む。
我ながら上手く淹れられてる。
温くなってるけど美味しい。
「“葛谷”ってストーカー? 凛ちゃんとどういう関係?」
父さんの眉間に深いシワが寄った。
「…“凛さん”と呼びなさい」
『客が残したコーヒーを飲むんじゃない』か、『資料を最後まで読みなさい』って言われるかと思った。
詩音からの依頼をオレも一緒に聴くはずだったのに、慎一郎に外へ連れ出されてしまったのだ。それに、堅苦しい言葉で纏められた資料を読むより、父さんに直接訊いた方が分かりやすい。
あと、父さんに怒られるの嬉しい。
「…葛谷は凛さんの元上司だ。勤めていた会社の社長だった。奴隷にされていた凛さんの『熱狂的ファン』となり、有料動画や配信などへ課金するため、会社の金を横領し逮捕された。その後、違法薬物を使用した14人の男女に対する不同意性交の罪が明らかとなり逮捕された」
「うわー、クズじゃん」
立場の弱い派遣社員や契約社員。
取引先の若い社員。
断れない相手を酒の席に誘い、薬入りの酒を飲ませて意識を失ったところをホテルに連れ込む手口だったらしい。
気持ち悪い。
同意なしのセックスを愉しめるなんて。
ゾクリと震えると、背後から抱きしめる腕の力が強まった。
「葛谷は例の“イベント”に参加していた男の1人ですが、覚えていませんか?」
写真を慎一郎から見せられたが、このニヤけた顔に全く覚えがなかった。…いや、待てよ?
「思い出した…。めちゃくちゃ香水臭かったヤツだ。ちんぽはそこまで悪くなかった。技術も特に…下手ではなかったけど、とにかく甘ったるい臭いで吐きそうになったんだよ」
慎一郎は『そうですか…』と写真を見つめた後、テーブルの上に資料を戻した。
そうか。あの時の関係者だから、父さんは葛谷の詳しい情報をすでに持ってるんだ。
「刑務所から出所後、いまだ凛さんに強く執着している。しかも彼を『自分の所有物である』と妄想し、思い込んでいるらしい。映像コンテンツを配信していた依頼人に対しては、自分が横領することになった元凶だと逆恨みの感情を抱いている」
「救いようがないタイプのストーカーかぁ…」
こんな感じの男に首を絞められながら犯されたことが何度もある。その記憶が蘇り、正直関わりたくないと思った。
「これから凛さんにはオレが張り付いて護衛することになる。依頼人と護衛対象は奈津、シン、お前達の恩人だ。海堂家に技術協力を願えるか?」
「……」
わー、イヤなんだな?
「慎一郎?」
オレが振り向いて見つめると、仕方ないという顔をした。
本当に表情が豊かになったなぁ。
「…ええ。分かりました。弟が作った監視カメラと防犯装置、アプリがありますから、今夜中に受け取って来ます。あの地域でしたら“制御可能”なカメラが多数ありますので、葛谷の遠隔的な監視も可能です」
「オレに出来ることある?」
「奈津は、依頼人の通勤時に葛谷が接触して来ないかを見張っていてほしい。依頼人の勤務日は本日中に連絡が来る予定だ。万が一襲ってきた場合は依頼人が自衛する。その正当性を警察で証言してもらいたい」
「分かった。直接依頼人に張り付く? 慎一郎と一緒にカメラ越しで見張る?」
「シン、どうする?」
「…分かりました。葛谷と依頼人にマーカーを付けます。僕と奈津が付近の車で待機しつつ、2人の距離が50メートル圏内まで近づいた場合は、目視可能な距離まで近づきます」
「ん、分かった。とりあえずオレは慎一郎の側にいればいいな?」
背後の男を見つめると、その視線が甘くなったのを感じた。
「はい。僕の側にいてください」
「ハァ…。まあいい。依頼人を頼んだ」
その後、葛谷の被害者だった男女、被害女性の父親、被害男性の恋人から、『葛谷を刑務所へ送ってほしい』という依頼が重なった。
これまでこの探偵事務所がストーカーや性被害への対応してきた実績は、じわじわと認められて、口コミで広がっているらしい。
男は慎重というべきか、臆病というべきか…。
それとも詩音の殺気がすごいからか、近くまで行くものの襲うまではしなかった。
一度だけ凛ちゃんが住んでいるアパートの窓ガラスを割りかけたが、慎一郎の弟…慎羅くんが開発した防犯システムと、車で待機していた父さんが追い払った。
『捕まえちゃえばいいのに』と思ったが、ここで捕まえても大した罪にはならないらしい。
『刑務所に入れる』という依頼が重複している以上、男から少し傷を受けるのがいいらしい。
「じゃあさ、オレが葛谷をホテルに誘導しようか? 薬入りの酒をわざと飲まされて、連れ込まれたことにすればいいんじゃない?」
「却下です」「却下」
慎一郎と父さんの声が見事にハモった。
「えー…」
いいアイディアだと思ったんだけどなぁ。
「凛さんから提案があった。明日、凛さんが詩音さんと目立つようにデートして男を煽る。襲撃を受けたところで男を捕まえる、という作戦だ」
自分たちを囮にしようなんて、凛ちゃんは相変わらず思い切りがいいというか。
「男の刑期を伸ばすため、以前から詩音さんが『自分が態と傷を負う』と言ってくれていたが、煽って煽って煽って判断力が落ちたところでオレに襲いかからせようと思う」
友人の刑事がちょうど非番らしい。
目撃者に最適とのことだった。
オレが『志麻』という男にナイフで脇腹を刺された時、父さんと一緒に駆けつけてくれた男…たしか『坂本さん』だ。
「シンがくれた情報どおり、男が初めて仕事で成功したショッピングモール、妻にプロポーズし、よく通っていたレストラン、男女を連れ込んでいたホテルをデートコースとする」
「うわぁ、煽るなぁ。そんなのどうやって調べたの?」
慎一郎の情報収集能力がおかしい。やっぱり魔王様なんじゃない?
「…でもその男ってさ、凛ちゃんに執着するあまり、社長どころか無職になるわ、奥さんには別居されるわ、逮捕までされたんでしょ?」
『思い出の場所』ばかりを選んでイチャイチャデートを見せつけるなんて。
「依頼人からも、早急に凛さんを安心させたいと言われている。明日で勝負をつけるぞ」
詩音は凛ちゃんを大事にしてるんだなぁ。
「それで、僕たちは彼らの側でデートでもしますか?」
「ああ。依頼人が葛谷に殺気を向けすぎる。側で依頼人の気を散らしてほしい。男が襲ってきた場合は、変わらず目撃者として防衛の正当性を証言してほしい」
殺気…。側で詩音の目につくようにイチャついてればいいか。
「分かりました」
「ホテルまで襲撃がない場合は、オレと坂本がなんとかする」
「…怪我、気をつけてね」
『わざと傷を負う』と父さんは言った。
『傷害罪、もしくは殺人未遂を狙う』ために。
やっぱりオレが代われないかな。
「奈津。元刑事を信じなさい」
大丈夫、と父さんに頭を撫でてもらった。
大きな手のひらは温かくて安心する。
「奈津、明日はデートですね。ショッピングモールへ行くのは初めてなので楽しみです」
と慎一郎がオレを引き寄せた。
「うん。オレも楽しみ」
ショッピングモールなら慎一郎に何かプレゼントできるかな。いつもオレばかり買って貰ってるから偶には返したい。
でも正直『デート』って何をすればいいんだろう?水族館に行った時は『水槽を観る』という明確な目的があったし、別れさせ屋の頃は相手の望む通りに動いていれば何とかなった。とりあえず凛ちゃん達の側で、普通に買い物してればいいかな?
今日の仕事は夜勤だという詩音に合わせて、明日の午後からデートすることに決まった。
父さんから渡された書類と、護衛対象の写真を見る。
「“結城 凛”って、この顔…。“凛ちゃん”?」
写真の顔に見覚えがあった。
「そのようですね。以前あなたが、『人の名前と顔を覚える能力がすごい。探偵に向いている』と言っていた、あの“凛ちゃん”です」
「…オレのアホな言葉を一瞬で理解できる慎一郎もすごいよ」
「僕の記憶する範囲で、“凛ちゃん”と呼ばれていた人物は1人だけしかいません。保護対象だった“高坂 薫さん”の身代わりであなたが出演した“イベント”。あの夜、ステージ上で、あなたの右隣に拘束されていた方ですね」
「そうそう。それで、依頼人は確か…あの会社でオレ達に協力してくれた人だよね?」
薫くんを探して助けるため、あの会社へ潜入した時も、先輩に閉じ込められた時も、彼が助けてくれた。慎一郎と2人きりで餓死せずにすんだのだから、命の恩人と呼んでもいいくらいだと思う。
あれ? “結城 詩音”? あの人って逮捕された時、“藤沼 詩音”って名前じゃなかったかな?
父さんが詩音から話を聴いて纏めた書類を読む。
へー、凛ちゃん、あの人を養子にしたんだ…。自分を拉致して監禁して奴隷にした男だよね? よく許したなぁ…。
「はい。あの3人のうちの1人です」
ん? 慎一郎が無表情だ。ムッとしてる?
「あなたを抱いた、男の1人です」
「あの会社に潜入して、薫くんを探すためだったんだから、仕方ないだろ?」
「それでも…、この身体は、あの男を覚えているのでしょう?」
長さと太さが丁度よくて、テクが最高な最初の男。
言葉責めが上手くて、異常に長いから軽く結腸責めしてくれた2番目の綺麗な男。
裂けるかもと思うほど太さも長さもすごかった、身体もちんぽも逞しいスキンヘッドの男。
確かに、あの3人のちんぽは気持ち良かった。プレイ後は紳士的だったし。あぁ、だから凛ちゃんは絆されちゃったのか。
そういえば最初の男…詩音は『本命がいるから薬で無理矢理勃たせてる』と言っていた。
そうか、『本命』。
凛ちゃんは、あの『最初のちんぽ』がヨかったのか。
思わず後ろがヒクッと疼いた。
「奈津。あなたのナカが、彼等を思い出してしまったようですね」
オレのシャツを捲り上げ、腰をスリっと撫でる、冷たい指先にゾクリとする。
「…お前が一番気持ちいいから…、っ…、」
「お前達、オレを忘れてイチャつくな」
「っ…こら、慎一郎。ごめんなさい、父さん」
そうだった。ここは事務所。
目の前には父さん。
オレが座っているのは、さっきまで依頼人…結城 詩音が座っていたソファ…に座る慎一郎の膝の上。
来客用に用意した手付かずのコーヒーを代わりに飲む。
我ながら上手く淹れられてる。
温くなってるけど美味しい。
「“葛谷”ってストーカー? 凛ちゃんとどういう関係?」
父さんの眉間に深いシワが寄った。
「…“凛さん”と呼びなさい」
『客が残したコーヒーを飲むんじゃない』か、『資料を最後まで読みなさい』って言われるかと思った。
詩音からの依頼をオレも一緒に聴くはずだったのに、慎一郎に外へ連れ出されてしまったのだ。それに、堅苦しい言葉で纏められた資料を読むより、父さんに直接訊いた方が分かりやすい。
あと、父さんに怒られるの嬉しい。
「…葛谷は凛さんの元上司だ。勤めていた会社の社長だった。奴隷にされていた凛さんの『熱狂的ファン』となり、有料動画や配信などへ課金するため、会社の金を横領し逮捕された。その後、違法薬物を使用した14人の男女に対する不同意性交の罪が明らかとなり逮捕された」
「うわー、クズじゃん」
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断れない相手を酒の席に誘い、薬入りの酒を飲ませて意識を失ったところをホテルに連れ込む手口だったらしい。
気持ち悪い。
同意なしのセックスを愉しめるなんて。
ゾクリと震えると、背後から抱きしめる腕の力が強まった。
「葛谷は例の“イベント”に参加していた男の1人ですが、覚えていませんか?」
写真を慎一郎から見せられたが、このニヤけた顔に全く覚えがなかった。…いや、待てよ?
「思い出した…。めちゃくちゃ香水臭かったヤツだ。ちんぽはそこまで悪くなかった。技術も特に…下手ではなかったけど、とにかく甘ったるい臭いで吐きそうになったんだよ」
慎一郎は『そうですか…』と写真を見つめた後、テーブルの上に資料を戻した。
そうか。あの時の関係者だから、父さんは葛谷の詳しい情報をすでに持ってるんだ。
「刑務所から出所後、いまだ凛さんに強く執着している。しかも彼を『自分の所有物である』と妄想し、思い込んでいるらしい。映像コンテンツを配信していた依頼人に対しては、自分が横領することになった元凶だと逆恨みの感情を抱いている」
「救いようがないタイプのストーカーかぁ…」
こんな感じの男に首を絞められながら犯されたことが何度もある。その記憶が蘇り、正直関わりたくないと思った。
「これから凛さんにはオレが張り付いて護衛することになる。依頼人と護衛対象は奈津、シン、お前達の恩人だ。海堂家に技術協力を願えるか?」
「……」
わー、イヤなんだな?
「慎一郎?」
オレが振り向いて見つめると、仕方ないという顔をした。
本当に表情が豊かになったなぁ。
「…ええ。分かりました。弟が作った監視カメラと防犯装置、アプリがありますから、今夜中に受け取って来ます。あの地域でしたら“制御可能”なカメラが多数ありますので、葛谷の遠隔的な監視も可能です」
「オレに出来ることある?」
「奈津は、依頼人の通勤時に葛谷が接触して来ないかを見張っていてほしい。依頼人の勤務日は本日中に連絡が来る予定だ。万が一襲ってきた場合は依頼人が自衛する。その正当性を警察で証言してもらいたい」
「分かった。直接依頼人に張り付く? 慎一郎と一緒にカメラ越しで見張る?」
「シン、どうする?」
「…分かりました。葛谷と依頼人にマーカーを付けます。僕と奈津が付近の車で待機しつつ、2人の距離が50メートル圏内まで近づいた場合は、目視可能な距離まで近づきます」
「ん、分かった。とりあえずオレは慎一郎の側にいればいいな?」
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「ハァ…。まあいい。依頼人を頼んだ」
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男は慎重というべきか、臆病というべきか…。
それとも詩音の殺気がすごいからか、近くまで行くものの襲うまではしなかった。
一度だけ凛ちゃんが住んでいるアパートの窓ガラスを割りかけたが、慎一郎の弟…慎羅くんが開発した防犯システムと、車で待機していた父さんが追い払った。
『捕まえちゃえばいいのに』と思ったが、ここで捕まえても大した罪にはならないらしい。
『刑務所に入れる』という依頼が重複している以上、男から少し傷を受けるのがいいらしい。
「じゃあさ、オレが葛谷をホテルに誘導しようか? 薬入りの酒をわざと飲まされて、連れ込まれたことにすればいいんじゃない?」
「却下です」「却下」
慎一郎と父さんの声が見事にハモった。
「えー…」
いいアイディアだと思ったんだけどなぁ。
「凛さんから提案があった。明日、凛さんが詩音さんと目立つようにデートして男を煽る。襲撃を受けたところで男を捕まえる、という作戦だ」
自分たちを囮にしようなんて、凛ちゃんは相変わらず思い切りがいいというか。
「男の刑期を伸ばすため、以前から詩音さんが『自分が態と傷を負う』と言ってくれていたが、煽って煽って煽って判断力が落ちたところでオレに襲いかからせようと思う」
友人の刑事がちょうど非番らしい。
目撃者に最適とのことだった。
オレが『志麻』という男にナイフで脇腹を刺された時、父さんと一緒に駆けつけてくれた男…たしか『坂本さん』だ。
「シンがくれた情報どおり、男が初めて仕事で成功したショッピングモール、妻にプロポーズし、よく通っていたレストラン、男女を連れ込んでいたホテルをデートコースとする」
「うわぁ、煽るなぁ。そんなのどうやって調べたの?」
慎一郎の情報収集能力がおかしい。やっぱり魔王様なんじゃない?
「…でもその男ってさ、凛ちゃんに執着するあまり、社長どころか無職になるわ、奥さんには別居されるわ、逮捕までされたんでしょ?」
『思い出の場所』ばかりを選んでイチャイチャデートを見せつけるなんて。
「依頼人からも、早急に凛さんを安心させたいと言われている。明日で勝負をつけるぞ」
詩音は凛ちゃんを大事にしてるんだなぁ。
「それで、僕たちは彼らの側でデートでもしますか?」
「ああ。依頼人が葛谷に殺気を向けすぎる。側で依頼人の気を散らしてほしい。男が襲ってきた場合は、変わらず目撃者として防衛の正当性を証言してほしい」
殺気…。側で詩音の目につくようにイチャついてればいいか。
「分かりました」
「ホテルまで襲撃がない場合は、オレと坂本がなんとかする」
「…怪我、気をつけてね」
『わざと傷を負う』と父さんは言った。
『傷害罪、もしくは殺人未遂を狙う』ために。
やっぱりオレが代われないかな。
「奈津。元刑事を信じなさい」
大丈夫、と父さんに頭を撫でてもらった。
大きな手のひらは温かくて安心する。
「奈津、明日はデートですね。ショッピングモールへ行くのは初めてなので楽しみです」
と慎一郎がオレを引き寄せた。
「うん。オレも楽しみ」
ショッピングモールなら慎一郎に何かプレゼントできるかな。いつもオレばかり買って貰ってるから偶には返したい。
でも正直『デート』って何をすればいいんだろう?水族館に行った時は『水槽を観る』という明確な目的があったし、別れさせ屋の頃は相手の望む通りに動いていれば何とかなった。とりあえず凛ちゃん達の側で、普通に買い物してればいいかな?
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