痛みと快楽

くろねこや

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本編 3 番外編

束縛 3

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ーーーこのまま殺して欲しい。


幸せな瞬間に、死にたくなるのは何故だろう。



「あぁっ…!んっ…ぁぁっ…!」



縄でギュッと縛られて、

腹の奥深くまで『愛されている』。


キィ、キィ、キィ、

揺さぶられる度、金属のフックがきしむ。


苦しくて、苦しくて、気持ちいい。

痛くて、痛くて、気持ちいい。



ギラギラした瞳に閉じ込められたまま、

この瞬間に死ぬことができたら……。










ーーーそれでも、



「奈津。愛しています」

内部に放たれた後。
静かなその言葉が染み込んできて、
彼を抱きしめたくなった。


「オレも…あいしてる。っ…ぁ、」

そう返した瞬間、再び始まった激しい抽挿に喘ぎながら、必死に言葉を続ける。

「ぁ…、……なわ…といて…、…ぎゅっとして…ほしい…」



先ほど出した精液を最も奥へ収めるように、大きく3回突いた後、慎一郎のモノが名残惜しそうに、オレのナカからズルリと引き抜かれた。

「んっ…」

オレの身体をフックから床に下ろすと、器用な手が縄とヒモをほどいていく。

痺れて動けないオレは、彼の腕に抱き上げられ、そのままギュッと包み込まれる。


「あなたは僕だけのものだ」

「…うん」


縄がなくても、オレはお前に縛られてる。


「…ベッドでも…たくさん…あいして…」







やっぱり正常位が一番好きだ。

ベッドの上。
相手に股を開き、全てを明け渡す体位。


こんなに気持ちいいのは、
繋がっている相手の顔がよく見えるから。

切なそうに寄せられた眉、
汗が流れる額、
……オレだけを見てくれる瞳。


「…しんいちろ…だきしめて」

彼の首に腕を、腰に脚を絡めるように抱きつくと、再びギュッとしてくれた。

手のひらを重ねて、指を絡めて、
シーツに抑えつけられるのも好きだけど、

全身で包み込まれるように抱かれるのが一番気持ちいい。

すぅ、と彼の匂いを嗅ぐ。

興奮するのに、ホッとする。

オレは彼に甘えるのが好きみたいだ。

首にスリっと頬を擦り付けると、親指で唇を開かれて、彼の唇に塞がれた。

グチュグチュと舌を絡めたキスをしながら、頭や頬を撫でてもらうと、身体が昂まっていくのに心が落ち着く矛盾。

満たされて、抽挿されないまま達してしまう。

「「!!!」」

オレの内壁がギューっと締まり、ビクビク震えたのに誘われて、彼も同時にイッてしまったみたいだ。

噴射された精液を一滴もこぼしたくない。

ごくごく飲み込むように内部がうごめいた。





「せっかくの休日なのに、一人にしてごめん」

ハァハァ息を整えていると、汗に濡れた身体とともに頭が冷えて、ようやく彼の心に気が付いた。


「えぇ。……寂しかったです。早くこの部屋をあなたに見せたかった」

ポツリと彼の本音を聴いて、堪らない気持ちになった。

「ありがとう。とても…気持ちよかった」

彼の頬に手を伸ばすと、
その手をギュッと握られた。

「奈津。僕だけのものだ」

もう一度、目を合わせたまま、
彼の言葉を受け取る。


「うん。お前だけのものだよ。この身体を開くのは、お前にだけだ…」

ベッドの上で、2人きり抱き合う。

「愛してるよ」

口付けて、舌をぬるりと絡め合う。

上顎を舐められて、口内に溜まった唾液を交換する。

彼のと自身のが混ざり合ったものをゴクリと飲み込めば、腹がじわっと熱くなって

……また欲しくなってしまった。


彼も同じなのだろう。

今度は、ゆるりゆるりと腰を動かし始めた。



抽挿のたびに揺れる視界。

本当にすごい部屋だ。

どれだけのお金をかけたのだろう。



彼がオレのためだけに用意してくれた空間。

『身動きできないくらい縛られて、“支配される”と安心できるんだ』

以前、オレは彼にそう言葉を漏らしたことがあった。

覚えていてくれたんだな。

でもそれは、誰でもいい訳じゃない。
信じた相手だからこそ、身を任せられる。

また彼に縛ってほしい。



……でもやっぱり、ベッドの上。

慎一郎と繋がって、長い腕にギューッと拘束されるのが、好きだ。

オレも、彼の腰に絡めた脚に力をこめて、離れられないように拘束し返す。

「あぁっ……、」

結合が深まり、甘い悲鳴が喉から溢れた。



その時だった。

ぴたりと腰の動きが止まる。

「っ…?」

「……彼らより先に、あなたと映画を観に行きたかった」

彼の汗が顎を伝い、オレの頬に落ちてきた。

「…うん。ごめんね?」

「あなたの好きな映画を、僕も観たい」

「…しん」

「あなたとデートがしたいです」

「っ…!」


……あぁ。なんて…。

セックスの途中で、こんな…、


内部が勝手にキュンキュンしてしまう。


オレがふっと笑うと、眉間にシワを寄せた慎一郎の腰が、再び激しく動き出した。


「おれだけ…じゃなく…て、ふたりで…、たの…しめる、えいが…を、ぁっ…、いっしょ…に…っ、さがそう…」

「……! はい。一緒に…」



ーーー少し先の、未来の約束。

死への憧れが薄れていく。



口付けながら、見つめ合う。

幸せそうな、彼の微笑み。

彼の瞳に映る、オレの顔もたぶん同じ。












その後、新名くんから

『友達ができたよ。ありがとう、奈津さん』

とみんなで撮った写真と共に、メッセージが届いた。


新名くんが見たことない顔で笑ってる。

これが彼の『本当の笑顔』なのだろう。

悠馬も、桜も、雪も、嬉しそうだ。


『魔王様と末永くお幸せに』

最後にその一言が添えられていた。




ソファに座り、スマホを見るオレを後ろから抱いて、耳たぶをんでくる男。

『奈津』と呼ぶ声。

振り返って顔を見ればその表情は甘く。

そこにはもう、

人形のような『魔王様』なんていなかった。
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