痛みと快楽

くろねこや

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本編 3

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それからオレは、『別れさせ屋』で身体を使うのをやめた。

慎羅くんが言ったように、微笑みながら言葉で誘導すれば、十分効果があると分かったからだ。

それでもしつこく身体を求められた時は、薬で眠らせたり、慎一郎や父さんに気絶させてもらったりして、『道具』で性欲を解消させてやるようにした。
オレの周りには相談できる人がたくさんいるから心強い。


対象が危険そうな相手の時は、出かける前に慎一郎の手で、発信器を体内に挿入される。

腹の中でブブッと『それ』が振動するたびに、オレの居場所が彼に通知されるから、『慎一郎といつも繋がっている』と実感できて安心する。

ナカを2回連続で締めたり、誰かが取り出そうとヒモを引いたりすると、彼のスマホと慎羅くんのパソコンに警報を鳴らす仕組みだ。

バッテリー容量と耐久性を上げる為らしいが、デカすぎるのだけはなんとかして欲しい。『Lサイズの鶏卵を縦に三連結したような形』と言えば伝わるだろうか。

振動するたびに『んっ…』と声が出そうになってしまう。




それと、


オレは『Opusオーパス』を卒業した。

仕事で身体を使わないようにしてから、『店に行かなければならない』という衝動がなくなったからだ。これも慎羅くんが言った通りだった。

探偵事務所の給料だけになったから、収入は大きく減ってしまった。

だが『卒業イベント』として常連のお客様を招いた最後のショーでは、実際に使われた以上の金色チケットをたくさん購入してもらえた。振り込まれた金額にびっくりして、スマホを落とすところだった。たぶん常連のお客様からの『ご祝儀』だろう。

オレが慎一郎以外とセックスしたのは、あのイベントの夜が最後。

相変わらず家賃や光熱費を受け取ってもらえないけど、オレを独占した慎一郎が今までに見せたことのない穏やかな顔をしているから、これでいいのだろう。



オーナーには、ひと月に一度くらいの頻度で生存報告を兼ねて会いに行く。自宅じゃなく近くのカフェへ。浮気じゃない証拠に、慎一郎へおみやげのコーヒー豆を買って帰る。

『もうシフトを入れない』『オーナーの自宅には行かない』と伝えた日。

「もう大丈夫なのですね?」

と心配そうに目を合わせて問われた。
頷くと、彼の目に涙が滲むのを見た。

「奈津。あなたが幸せであること。それがわたしの幸せです」

そう言って、ぎゅっと抱きしめられた。

「ひと月に一度、わたしを安心させてくれませんか? 会いに来て、元気な顔を見せてほしいのです」

と耳元で懇願される。

オーナーと初めて会った夜、オレが死のうとした事をずっと心配してくれていたらしい。

『店を辞めれば2度と会えない』と思っていたオレは嬉しくなって頷いた。



エイジさんは時々メッセージを送ってくれる。

あれからずっと、パートナーと2人でゆっくり日本中を旅しているそうだ。
幸せそうな写真が添付されていて安心する。

『店を辞めて、愛する人とだけセックスすることにした』とメッセージを送ったら、なんと電話がかかってきて『おめでとう!』と言ってくれた。

エイジさんが店にいた頃、話をたくさん聴いてもらっていたから、ずっとオレのことを心配してくれてたみたいだ。

久しぶりに聴いた彼の優しい声に目の奥が熱くなって、涙が零れた。



父さんは相変わらず過保護だ。

持たされる防犯グッズがまた新しくなっている。

出かける前は必ず額にキスしてくれる。
親子になったばかりの頃は照れていたけど、習慣になった今は挨拶みたいな自然さでチュッとするのがカッコいい。無事に戻るよう願いを込めているのだと言っていた。

大きな手でわしわし頭を撫でてくれるのも変わらない。

それに、危険な目に遭っても慎一郎と一緒に必ず助けに来てくれる。

『愛にはいろんな形がある』と慎羅くんが教えてくれたように、『父親としての愛』をくれる父さんが大好きだ。



福太郎さんとは不思議な関係が続いている。
なんと、秘書の常田も一緒に3人で会っているのだ。一緒にご飯を作って食べるだけ。身体の関係はない。まるでお料理教室だ。

『セックスはしなくていいから会いたい』
と泣きそうな顔で懇願され、結局折れてしまった。

その代わり、2人きりでは会わない。

福太郎さんが好きな料理のレシピを常田に渡し、その紙の裏に彼が好きな体位を毎回書いてやる。
『殺人未遂』されたお返しだ。
福太郎さんの手前、睨むわけにはいかず、不本意そうにお礼を言われる。

悔しかったら、一歩踏み出してみろ。

余計なお世話かもしれないが、福太郎さんに自信を持ってもらいたいのと、少しずつ2人の仲が近づくようお手伝いできればいいと思っている。



料理といえば。
使用人に薬を使われてから、全ての食事を自分達で作るようになった。慎一郎と2人でキッチンに立っていると、どうしても乳首をコリコリされたり、ちんぽに悪戯されたり、尻を撫でられたり、ベッドに行きたくなるようなことをされるのが悩み。



ディックの散歩には、オレもついて行くことにした。

仕事が『健全な時間帯』に終わるようになり、夜の散歩に行く余裕ができたからだ。


早朝の散歩は、行ける日だけ。

朝日が射す道は空気が澄んでいる気がして気持ちいい。

ディックは人間より大きな体で、隣をゆったり歩きながら、時折オレ達の顔を見上げてくれる。目が合うと嬉しそうに尻尾を振ってくれる。
その姿はかなりかわいい。

オレも一緒に歩き、ご飯をあげるようにしたから、彼に『群れの仲間』だと思ってもらえたのかもしれない。

慎一郎と2人でベッドに入った夜は、明け方まで身体を離してもらえないから、翌朝の散歩はパスさせてもらう。睡眠不足は一緒のはずなのに、慎一郎は元気に出かけていく。


最近はマウンティングされなくなったのも嬉しい。

ディックの『つがい』になってくれたという雌犬のおかげで、少し落ち着いたみたいだ。

それに、オレの身体には、彼がボスだと思っている、慎一郎の匂いが染み付いているからかもしれない。

このマンションに来て、ディックの体は驚くほど大きくなった。背後から巨体にのし掛かられて、腰をカクカクされるのは怖かったから、正直ホッとしてる。
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