痛みと快楽

くろねこや

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本編 3

8 (本編最終話)

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Opusオーパス』の卒業イベントには、常連のお客様たちがたくさん駆けつけてくれた。

店内を見回すと、全ての席が埋まっていてホッとする。

オレが初めてショーに出演した日から、ずっと通い続けてくれて、最近は気まぐれにシフトを入れてしまっていたのに、それでも毎回欠かさず来てくれる。そんなお客様がほとんどだ。



客席では父さんがオレを見ている。

オーナーが招待してくれたらしい。

探偵にスカウトしてくれた夜、座っていたのと同じ席だ。
あの日はショーに全く参加してくれないから『冷やかし』だと思い、警戒してイヤな態度をとってしまった。

父さんはオレがショーに出るのを嫌がる。

今夜の卒業イベントも本当は反対された。

「お前はシンを選んだんだろう?曽根崎オーナーにはオレから言ってやるから…」

『挨拶だけすればいい』と。

「お世話になったお客様たちに、オーナーに、ちゃんとお礼がしたい。みんなは…特にオーナーは、何度も心を救ってくれた恩人なんだ」

『最後に恩返ししたい』

そう言ったら、眉間にシワを寄せたまま不本意そうに同意してくれた。

今もきっと、あの顔で見ているんだろう。

本当に、過保護な父さん。

大切にしてくれて……うれしい。



黒いステージの上。

オーナーに『作品』として縛ってもらうのも、福太郎さんとセックスするのも、これが最後だ。


麻縄が強めに肌へ食い込んでいる。
あざになってしばらく痕が消えないだろう。
隠されたオーナーの感情と執着が伝わってくるようだ。


ブブブブブ…と、いくつも音が響いている。
一つひとつは微かな音だが、合わさると大きな音に変わるらしい。

何度も爪で弾いて勃たされた乳首には、縄で挟んだローターを左右それぞれ2つずつ当てられており、弱のまま放置されてもどかしい。性器にも電マが最弱で取り付けられていて、腰をモジモジ動かせない代わりにビクビクと震えてしまう。



一番最初に金色チケットを使ったのは、
いつもの5人組。

ただし、いつもと違うのは『5人目の男・・・・・』…眼鏡をかけ、地味な姿に変装した慎一郎が、始めにナカへ入ってきたことだろう。

彼と視線が絡み合う。

ちんぽを挿入するために、尻の谷間に回された縄をぐいっと横に引かれているから、性器や会陰の周りにもっと食い込む。
その痛みが気持ちいい。

彼の手首には、ブレスレットが光っている。
この店のルール。
『ナマで挿入、中出しOK』の証だ。

先ほど家でしてもらったばかりだから、すんなり入った代わりに、少し長めの抽挿になった。

「……ぁあっ!」「くっ……!」

2人同時に達して、

余韻に浸りそうになりながらも名残惜しく引き抜かれた。



ぬぷり、と
すぐに次の男が入ってくる。

ヒクヒクと痙攣けいれんしたままのナカは、『彼』とは違う男であっても喜んで迎え入れてしまう。

すでに順番待ちの列ができていた。

しつけられた穴が期待にうごめく。


「……っ」


ーーーオレは慎一郎を選んだのに。



その時、
オレの頭を優しく撫でる、
温かい手を感じた。




ーーーあぁ。これでは相手に失礼だろう。

恩返しさせてもらうんだ。



一度だけ目をつぶり、ゆっくり開くと、
腰を振り始めた『今のご主人様』に意識を集中させた。





2人目のご主人様が達し、3人目がナカに入って来た時、気が付いた。

『光る腕輪』をしているのが慎一郎だけだということに。


みんな、ゴムを着けてくれてるんだ。

オレが気持ち良くなる場所ばかりを擦って、突いてくれるのに、絶対に中出しはされない。


『慎一郎にしか『愛』を注がれたくない』


これまで、さんざん男達の精液を受け入れ、腹いっぱい飲み込んできた。

今さらこんなこと、思うのはおかしいと思う。

だけど、慎羅くんの言葉を聴いて、そんなふうに思ってしまったんだ。


その気持ちに、ご主人様たちは気付いてくれてた。

あぁ。本当に優しい人達だ。


初めてのショーで。
たくさんの大人の男に囲まれて怖かった。

縛られて動けず、強張こわばり震える身体を、ご主人様たちは少しずつ、少しずつ、優しく溶かしてくれた。
性を感じさせないマッサージから始まり、快感に身を委ねるまで、自ら身体を開くまで、『挿入れてください』と強請ねだれるようになるまで、挿入しないで待ってくれた。

時折与えられる『痛み』や『苦しみ』さえも、快感に変わるのだと教えてくれた。


この人たちがいなければ、過去に押し潰されて命を絶っていたかもしれない。

人と、愛する相手と、触れ合うことは出来なかったかもしれない。


どうか、オレで気持ちよくなってほしい。


ゴム越しであっても、目の前にいるご主人様の顔が快感に蕩けていくのを見て安心した。





席に座る福太郎さんの隣には、秘書の常田が控えているのが見えた。ステージに1番近い席だからその顔がよく見える。
涙を堪えている福太郎さんと、無表情の男。

微笑みかけると、福太郎さんもやっと笑ってくれた。



大人の玩具を作る会社の会長さんは、オレのナカに変わった仕掛けをしたみたいだ。

何をされたのかは見えなかった。

ただ、穴の入り口から前立腺、壁面から最奥まで、波打つようにずっと刺激されるから、オレの内部がずっとキュウキュウ締まり、勝手に蠕動ぜんどうしてしまう。

オレの頭は快楽にすっかりとろけ、何も考えられなくなりそうだ。

ナカに挿入したご主人様たちも、達するのが早くなった。スピードアップされたことで順番待ちの列はあっという間に解消されるが、その快感が癖になるのか、しばらくするとまた並び直してしまうみたいだ。







福太郎さんが再びナカに来てくれた。

普段は癒し系なのに、オスの顔で腰を振る姿はやっぱり魅力的だ。たゆたゆのお腹がオレのタマとちんぽに当たって気持ちいい。

今回は常田が側にいて、そんな福太郎さんを食い入るように見ている。

あぁ、この顔は。
『挿入したい側』か。

ずっとオレが福太郎さんを抱いていると思い込んでいたんだろうな。

福太郎さんが達して、ちんぽを引き抜いた直後、なんと常田も入ってきた。
愛しい人の痴態にあおられたか、オレの蠕動ナカに負けたのか、挿入した瞬間にイッたみたいだ。不本意そうで、悔しそうな顔をしている。ざまあみろ。

常田がオレに突っ込んだ瞬間、横にいた福太郎さんの表情が陰ったように見えた。

この顔はもしかすると……。






ショーの最後。

オレはいつもの5人組に挿入してもらった。

ビュルルル、ビュー、ビュー、と
『5人目の男』が最奥に出してくれた瞬間。

プシャーッ、と
オレも薄くなった精液と共に、盛大に潮を噴いていた。



…オーナー、泣いてる?

ステージの脇に立って、見守ってくれる姿はいつもと変わらないのに、その表情はひどく歪んで。口元は、微笑みを浮かべながらも震えている。

頬に、涙が零れるのが見えた。



ーーー慎羅くん。

『唯一の愛』ではないかもしれない。

それでも、やっぱり、
…オレにとっては『大切な愛』だったよ。


一方的に奪われるものではない。

相手の顔を見て、反応を感じて、
与え合い、たかめ合い、
愛し合う。

初めての快感を、
身体と心が満たされた『セックス』を、

縛られて『支配される』悦びを、

この人が教えてくれた。


この店で、オーナーが、この人たちが、慎一郎が、福太郎さんが、オレを人間にしてくれたんだ。




「ありがとうございました!」

言葉に込めた想いは、みんなに届いただろうか?


父さんも。
あの日、オレを選んでくれてありがとう。


その時、パチパチと音がして、

店内を嵐のような拍手の音が満たした。





拍手が止んだ後、

『5人目の男』とキスをした。

オレの首輪に刻まれた名前は一つだけ。

『海堂 慎一郎』


ーーーオレの、愛しい人。





店内は静まりかえり、マイクに拾われたグチュ、グチュ、という卑猥な水音だけが響く。
角度を変えながら続く深い口付けに、全員の視線が集まっているのを感じる。



最古参の常連さんが教えてくれた。

この店で
キャストがパートナーとキスをして
卒業するイベントは
『結婚式』と呼ばれているらしい。

ーーーあぁ、そうか。
だからオーナーは父さんを招待したんだ。



ツーッと透明な糸を引くように唇が離れた後、赤い舌が唇をペロリと舐める。

メガネを外し、前髪を掻き上げ、この世ならざる悪魔のような美貌を露わにしたその男を見て、客席からは溜息ためいきと感嘆の声が漏れた。



『これからは、僕があなたを縛ってあげますよ』

そう囁き、縄が解かれたオレを抱き上げてステージを去る男の表情は、思わず見惚れてしまうほど美しかった。



【END】
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