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本編 3
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「………しん…いちろ…の、おとぉ…と…か?」
喉を潰されていたせいで声が掠れる。
「………は? え? なんで?」
驚きに上擦ったような声。
知っている限りで、オレとのセックスを中断してまで慎一郎が電話に出た相手といえば、彼の『お祖父様』か兄か弟くらいだろう。父さん…ボスからの電話にさえ出ないのだからおそらく間違いない。
あのマンションに出入りでき、食事に薬を仕込めるのは、姿の見えない使用人だけ。それを勝手に動かせるとなれば、やはりその3人のうちの誰かだった。
時々慎一郎がオレの腹に埋め込んでくる、ローターのような発信器は弟が作っていると聞いた。振動のバリエーションが以前より増え、揶揄うように内部を刺激するソレの製作者となれば、相当な悪戯好きだ。
先ほど聞こえた声は若く、そんな人物像に合致する話し方だと思った。
また慎一郎が『オレの可哀想な姿』とやらに興奮するようになった…という可能性はゼロではないが、オレが拉致された『あの事件』から性的嗜好が変わったようだから、恐らくそれはないだろう。
「…はぁ。バレちゃったかぁ。もういいや」
「!!!」
ぐいと目隠しを外され、突然飛び込んできた強い光に目を開けることができない。
「さすが、探偵を名乗るだけのことはあるね」
光に目が慣れてきた。
だんだんピントが合ってくる。
頭上は大学の研究室を思い出す、配管剥き出しの天井。
身体はやはり椅子…分娩台と呼ばれる可動式の椅子に拘束されていた。こういうプレイがあると『Opus』の控え室で聞いたことがある。
床に崩れ落ちた巨漢は丸まった背中だけが見えている。『ぅぅぅ…』と唸りながらブルブル震えているようだ。太っていたはずの身体は骨が目立ち、記憶の中にある姿よりも萎れて見えた。
「さすがにこの男相手じゃあ射精はしてないかぁ…」
オレの力なく項垂れたちんぽを手に取る男。
慎一郎の弟…。名前は…知らない。
綺麗な顔だ。
身体は少年のように細くて小さい。
ずっと室内にいるのか肌色が青く見えるくらい白い。
「…けほっ。一日中慎一郎に嵌められて『搾精』されてたからな。さすがに弾切れだ…」
喉がガサガサだ。水を飲みたい。
「…お前が『弟』ということは、慎一郎は無事なんだな?」
目の前でオレのちんぽを弄んでいた男の目が驚いたようにこちらを見た。
「……ああ。兄さんは無事なはずだ」
よかった。探偵業の逆恨みで拉致された可能性を真っ先に考えて不安だったが、相手が弟なら安心だ。以前聞いた慎一郎の話から察するに、たぶんこいつは相当なブラコンだからだ。
「…ねぇ。その感じだとちゃんとアンタも兄さんのこと好きなんでしょ? 兄さんもアンタだけ愛してる。なのに、なんで兄さんだけじゃ満足できないの?」
オレの身体中に残された慎一郎のキスマと歯型。
特に乳首と脇腹の傷への執着がすごいな。
新しく付けられた痕もあるようだ。
蹲っている男の仕業だろうか。
吐き気がする。
えっと。
慎一郎だけで満足できない理由だったな。
何故だろう。
『愛してくれた相手に気持ちを返したい?』
わからない。
『気持ちいいことが好きだから?』
わからない。
じっとこちらを見る『弟』の目はごまかしを許さない。
「……ごめん。わからない」
「質問をもう一つ。この男は『死刑になってもいい』『死にたい』ってさんざん言ってたくせに本当に殺そうとしたら命乞いしたよ。アンタは死ぬのが怖くないの?」
「怖くないな」
「なんで?」
「生きてると、こんなふうにツラいことばかりだ。早くこんな汚い身体を捨ててラクになりたい」
「アンタが死んだ後、残された兄さんがどうなるか考えないの?」
「あぁ。考えたけど、あいつが泣く姿は想像できなかった。しばらく凹みはするだろうが」
標本にでもされて、あの部屋の『コレクション』に加えられるかな?
……オナホ代わりにされたらイヤだな。
「…もう一度聞くよ。なんで兄さんだけじゃダメなの?」
慎一郎の他に、オーナー、福太郎さん、父さんがオレを愛してくれている。
『Opus』の常連さんもだ。
溢れるほど、お腹いっぱいに『愛』を注いでもらっても、決して満たされない。
「……たぶんオレには穴が空いてるんだ。いくら『愛』を注がれても、すぐ渇いてしまう。『足りない』と求めてしまう」
「本当は人間を、『愛』なんてものを信じていないんじゃない?」
「そうだね。…初めてのセックスはレイプだったし、それから1年間は人間として扱われなかったから…」
「『肉便器』だっけ?」
「……慎一郎が話したのか?」
「兄さんが話した訳じゃないよ。僕が勝手に調べただけ。そう男達に呼ばれてたんでしょ?」
慎一郎が持っていたスマホの動画を見たのか。
「……そうだよ。オレはただ男達のちんぽを扱いて、吐き出される精液や小便を受け止めるためだけの便器だった」
『上と下に穴が1つずつ、手のひらが2つ。下の穴はガバガバで2本入るから同時に5人の性欲を処理できて便利だ』と言われたのは最悪な記憶すぎて忘れられない。
初めて二輪挿しされた日は、身体が動かなくて、翌朝バスケ部の顧問に発見された。部室棟のシャワー室で身体を洗われ、その後体育教員室で顧問にも突っ込まれた。
「あぁ。…考えてみると、オレが『肉便器』だったのは物心つく前からだ」
「え?」
「…子どもの頃、父にだけは愛されていたのだと信じていたんだ。その思い出だけが宝物だった。…だけどそれは、…父が…何も分からない子どもの身体を使って、性欲を発散していただけだった…」
佐久間の父さんに『本当の親子の在り方』を教えられて、あの頃の父親との関係が、初めて『異常だった』のだと知った。
喉を潰されていたせいで声が掠れる。
「………は? え? なんで?」
驚きに上擦ったような声。
知っている限りで、オレとのセックスを中断してまで慎一郎が電話に出た相手といえば、彼の『お祖父様』か兄か弟くらいだろう。父さん…ボスからの電話にさえ出ないのだからおそらく間違いない。
あのマンションに出入りでき、食事に薬を仕込めるのは、姿の見えない使用人だけ。それを勝手に動かせるとなれば、やはりその3人のうちの誰かだった。
時々慎一郎がオレの腹に埋め込んでくる、ローターのような発信器は弟が作っていると聞いた。振動のバリエーションが以前より増え、揶揄うように内部を刺激するソレの製作者となれば、相当な悪戯好きだ。
先ほど聞こえた声は若く、そんな人物像に合致する話し方だと思った。
また慎一郎が『オレの可哀想な姿』とやらに興奮するようになった…という可能性はゼロではないが、オレが拉致された『あの事件』から性的嗜好が変わったようだから、恐らくそれはないだろう。
「…はぁ。バレちゃったかぁ。もういいや」
「!!!」
ぐいと目隠しを外され、突然飛び込んできた強い光に目を開けることができない。
「さすが、探偵を名乗るだけのことはあるね」
光に目が慣れてきた。
だんだんピントが合ってくる。
頭上は大学の研究室を思い出す、配管剥き出しの天井。
身体はやはり椅子…分娩台と呼ばれる可動式の椅子に拘束されていた。こういうプレイがあると『Opus』の控え室で聞いたことがある。
床に崩れ落ちた巨漢は丸まった背中だけが見えている。『ぅぅぅ…』と唸りながらブルブル震えているようだ。太っていたはずの身体は骨が目立ち、記憶の中にある姿よりも萎れて見えた。
「さすがにこの男相手じゃあ射精はしてないかぁ…」
オレの力なく項垂れたちんぽを手に取る男。
慎一郎の弟…。名前は…知らない。
綺麗な顔だ。
身体は少年のように細くて小さい。
ずっと室内にいるのか肌色が青く見えるくらい白い。
「…けほっ。一日中慎一郎に嵌められて『搾精』されてたからな。さすがに弾切れだ…」
喉がガサガサだ。水を飲みたい。
「…お前が『弟』ということは、慎一郎は無事なんだな?」
目の前でオレのちんぽを弄んでいた男の目が驚いたようにこちらを見た。
「……ああ。兄さんは無事なはずだ」
よかった。探偵業の逆恨みで拉致された可能性を真っ先に考えて不安だったが、相手が弟なら安心だ。以前聞いた慎一郎の話から察するに、たぶんこいつは相当なブラコンだからだ。
「…ねぇ。その感じだとちゃんとアンタも兄さんのこと好きなんでしょ? 兄さんもアンタだけ愛してる。なのに、なんで兄さんだけじゃ満足できないの?」
オレの身体中に残された慎一郎のキスマと歯型。
特に乳首と脇腹の傷への執着がすごいな。
新しく付けられた痕もあるようだ。
蹲っている男の仕業だろうか。
吐き気がする。
えっと。
慎一郎だけで満足できない理由だったな。
何故だろう。
『愛してくれた相手に気持ちを返したい?』
わからない。
『気持ちいいことが好きだから?』
わからない。
じっとこちらを見る『弟』の目はごまかしを許さない。
「……ごめん。わからない」
「質問をもう一つ。この男は『死刑になってもいい』『死にたい』ってさんざん言ってたくせに本当に殺そうとしたら命乞いしたよ。アンタは死ぬのが怖くないの?」
「怖くないな」
「なんで?」
「生きてると、こんなふうにツラいことばかりだ。早くこんな汚い身体を捨ててラクになりたい」
「アンタが死んだ後、残された兄さんがどうなるか考えないの?」
「あぁ。考えたけど、あいつが泣く姿は想像できなかった。しばらく凹みはするだろうが」
標本にでもされて、あの部屋の『コレクション』に加えられるかな?
……オナホ代わりにされたらイヤだな。
「…もう一度聞くよ。なんで兄さんだけじゃダメなの?」
慎一郎の他に、オーナー、福太郎さん、父さんがオレを愛してくれている。
『Opus』の常連さんもだ。
溢れるほど、お腹いっぱいに『愛』を注いでもらっても、決して満たされない。
「……たぶんオレには穴が空いてるんだ。いくら『愛』を注がれても、すぐ渇いてしまう。『足りない』と求めてしまう」
「本当は人間を、『愛』なんてものを信じていないんじゃない?」
「そうだね。…初めてのセックスはレイプだったし、それから1年間は人間として扱われなかったから…」
「『肉便器』だっけ?」
「……慎一郎が話したのか?」
「兄さんが話した訳じゃないよ。僕が勝手に調べただけ。そう男達に呼ばれてたんでしょ?」
慎一郎が持っていたスマホの動画を見たのか。
「……そうだよ。オレはただ男達のちんぽを扱いて、吐き出される精液や小便を受け止めるためだけの便器だった」
『上と下に穴が1つずつ、手のひらが2つ。下の穴はガバガバで2本入るから同時に5人の性欲を処理できて便利だ』と言われたのは最悪な記憶すぎて忘れられない。
初めて二輪挿しされた日は、身体が動かなくて、翌朝バスケ部の顧問に発見された。部室棟のシャワー室で身体を洗われ、その後体育教員室で顧問にも突っ込まれた。
「あぁ。…考えてみると、オレが『肉便器』だったのは物心つく前からだ」
「え?」
「…子どもの頃、父にだけは愛されていたのだと信じていたんだ。その思い出だけが宝物だった。…だけどそれは、…父が…何も分からない子どもの身体を使って、性欲を発散していただけだった…」
佐久間の父さんに『本当の親子の在り方』を教えられて、あの頃の父親との関係が、初めて『異常だった』のだと知った。
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