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幕間 2
僕と彼と彼女との出会い 2
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約束の日。
僕は、この前のように倒れたりしないよう、ちゃんと食べて、ちゃんと眠ってきた。
アレウス似のナツさんと一緒に、大好きな『シャドワ』の映画を見られるなんて。
そんな贅沢な時間、1秒も無駄にできない。
「はぁ…。控えめに言って……最高だった」
僕は夢から戻れないでいた。
ストーリーはもちろん、キャラデザも、作画も、声優の演技も、全て完璧だった…。他にも良かったところを挙げたらきりがない。
「この後、どこかの店でお話しませんか?」
ナツさんからの嬉しい言葉に、僕は考えるまでもなく頷いていた。
「ぜひ!」
シネコンを出ようとしたその時だった。
「あれ?ナツさん?」
2人組の女性。そのうちの1人に声をかけられた。
「…桜さん?」
ナツさんの知り合いらしかった。
僕の顔を見て、その子が口元に手を当てて震え始めた。
「ノトス!!」
叫んでからハッとしたらしい。
「ごめんなさい!あまりにもノトスに似ていて…。しかもアレウス様と一緒にいるから…」
この子も『シャドワ』のファンらしい。
「桜さん、こちらはオレの友人の佐藤 悠馬さんです。悠馬さん。こちらは同じく友人の桜さんです」
彼女のテンションに驚いてボーッとしてしまった。ナツさんの言葉に、慌てて自己紹介する。
「僕は佐藤 悠馬です。よろしくお願いします」
「あっ…はじめまして!わたしも佐藤です。佐藤 桜。こちらは親友の…」
「柏崎 雪です。よろしく」
寡黙そうな女性が無表情で握手を求めてきた。
ナツさんにも。
雪さんの声、かわいい。
しかも僕よりずっと背が小さい。
こんな風に見上げられることなんてめったにないから、ちょっとだけ嬉しい…。
「これから時間ある?みんなで話そうよ」
ナツさんの言葉に僕達は激しく頷いていた。
楽しい時間だった。
入ったファミレスは空いている時間帯だったから、ドリンクバーとポテトの大皿をシェアして喋り続けた。ナツさんや彼女たちの話も面白くて、聴いているうちにどんどん懐かしい記憶が蘇ってくる。
大好きな作品のことを、こんなに喋ったのは学生の頃以来だった。
追加で大皿料理を頼んでは、また話を続ける。
「あ…」
ナツさんのスマホに着信があったみたいだ。
「ちょっとごめんね」
と、店の外へ出て行った。
ナツさんがいなくなってしまい、会話が止まる。
大きな窓から外にいるナツさんが見えた。
「アレウス様が電話してる…」
桜さんがふと口にした言葉に、
「わかる!すごく似てるよね!」
僕も同じことを考えていたから嬉しかった。
「悠馬さんもノトスにそっくり…。小さくてかわいい…」
雪さんがボソッと呟いた。
「ちっさい言うな!」
思わずツッコんでいた。
…言ってから思い出す。
これはノトスの口癖だった。
「「……」」
引かれた…?
「「…ふふっ」」
2人のツボに入っていたらしい。
「ノトスだぁ…」
「雪ちゃん、ノトスのこと一番好きだもんね」
雪さんは、うっとりした顔で僕を見ている。
『ノトスが一番好き』なんて言う人に初めて会った。
「でもエレボス様にも会ってみたかったなぁ…」
「なにそれ、詳しく!」
僕は雪さんの言葉に思わず食いついていた。
魔王エレボス。
学生時代の僕は魔王様のことが好きだった。
もちろん憧れの意味で、だ。
一時期、無駄に黒い服やシルバーアクセサリーを買ってしまった痛い頃の僕を思い出す。
『黒い服ばっかり着てると余計チビに見える』と友人に言われてから着るのをやめた…。
「ナツさんの恋人が魔王エレボス様にそっくりなんですよ」
ん?恋人が魔王様って、相当迫力がある美人だな。…そうか。ナツさん、恋人がいるのか。
「生BL、わたしも見たい…」
雪さんが頰を紅潮させている。
BL?
「…すみません、今から友人が迎えにくるらしくて」
外から戻ってきたナツさんが申し訳なさそうに頭を下げる。
何を勘違いしてたんだろう。
ナツさんに僕以外の友達がいること、恋人がいることにショックを受けている自分がいた。
「悠馬さん、後で連絡します。桜さん、雪さんも会えて嬉しかったです。お詫びに、ここは払わせてください」
とテーブルに五千円札を置かれた。
伝票に記載された金額より、かなり多いはずだ。
慌てて返そうとする僕達に、『今から迎えに来る男に出させます。楽しい時間を邪魔した罰です』とナツさんは悪戯っぽくウインクする。
ドキッと心臓が跳ね、僕の顔が真っ赤になったのがわかる。桜さんも、雪さんも胸を押さえている。
「…アレウス。またね」
雪さんの中で、ナツさんはすっかり王子様になっているようだ。
「ナツさん。こちらこそ会えて嬉しかったです」
桜さんは寂しそうだ。
「今日は誘ってくれてありがとう。今度は僕に奢らせてね…」
僕も寂しかった。
今日は本当に楽しかったから。
「うん。またね、みんな」
王子様の微笑みに、僕達3人は悶えた。
「え…。あれ、エレボス様?」
雪さんの声に窓の外を見ると、
そこにはナツさんと……魔王様がいた。
ん?こっちを見てる?
魔王様がナツさんの細い腰をぐいと抱き寄せ、
こちらに見せつけるように
……キスをした。
「「「~~~~!!!」」」
3人とも声にならなかった。
舌が。舌が入ってる!!
魔王様は、王子様の抵抗を受けて身体を離した。
怒って歩き去るナツさんと、笑いながらそれを追う魔王様が見えた。
「エレボス様が、アレウス様に、エッチなキスを…」
「キスに流されそうになった後、我に返って抵抗する王子様…最高…」
「本当に魔王様だったね…」
残された僕達は、しばらくボーッとしてしまった。
その後も追加で晩ごはんを頼んで、ひたすら盛り上がった。
僕には腐女子の妹がいるから、彼女達の会話に自然と混じっていた。
その後また映画の話になって、近日発売予定のオンラインゲーム版『シャドワ』の話になって、楽しい時間が過ぎていった。
「はー。楽しかったぁ…」
雪さんの言葉に、桜さんと僕は深く頷いた。
「また集まりませんか?」
桜さんは、僕が思っていたことを言ってくれた。
男の僕からは言いづらくて我慢していたから嬉しい。
「はい。また『シャドワ』の話、したいです!」
それから、ナツさんに誘われ、桜さんに誘われ、僕が誘って、4人で会うようになった。
桜さんとナツさんは仕事が忙しいらしく、そのうち僕は雪さんとSNS上で交信するようになり、
それから3ヶ月後、オンライン版『シャドウ オブ トワイライト』が発売になると、僕は雪さんと一緒にゲームの世界を旅するようになった。
そのうちゲームでの呼び名『ユキ』『ユウマ』とお互いを呼び合うようになった。
リアルでは寡黙な彼女が、ゲームの世界ではおしゃべりに、感情豊かに、ぴょこぴょこ飛び跳ねるのがかわいい。
ユキは在宅でデザイナーとイラストレーターをしているらしく、僕のSNS用アイコンを作ってくれた。
ついに僕達は、ネット上でお付き合いを始めた。
告白するタイミングを探しているうちに、彼女から告白されてしまった。
彼女の初恋はノトスだったらしい。
だから好きになってくれたのかと思っていたら、腐女子であっても引かなかったところ、
『小さい』と言っても怒らずにノトスのセリフで返したところがポイント高かったそうだ。
ある日、星羅ちゃんを追いかけなくなっている自分に気づいた。
時々、気分転換にライブに行くし、ストロベリードロップスの新曲が出れば配信版を聴く。
でも、僕が一番好きなのはユキだ。
『一緒に暮らしませんか?』
ノトスに似たキャラクターが、ゲームの画面上で彼女にそんな告白をするのは、もう少し後の話。
そして、昔のコスプレ写真を見られてしまい、彼女のために腹筋を鍛える日が来るのは、さらにもう少し後の話。
僕は、この前のように倒れたりしないよう、ちゃんと食べて、ちゃんと眠ってきた。
アレウス似のナツさんと一緒に、大好きな『シャドワ』の映画を見られるなんて。
そんな贅沢な時間、1秒も無駄にできない。
「はぁ…。控えめに言って……最高だった」
僕は夢から戻れないでいた。
ストーリーはもちろん、キャラデザも、作画も、声優の演技も、全て完璧だった…。他にも良かったところを挙げたらきりがない。
「この後、どこかの店でお話しませんか?」
ナツさんからの嬉しい言葉に、僕は考えるまでもなく頷いていた。
「ぜひ!」
シネコンを出ようとしたその時だった。
「あれ?ナツさん?」
2人組の女性。そのうちの1人に声をかけられた。
「…桜さん?」
ナツさんの知り合いらしかった。
僕の顔を見て、その子が口元に手を当てて震え始めた。
「ノトス!!」
叫んでからハッとしたらしい。
「ごめんなさい!あまりにもノトスに似ていて…。しかもアレウス様と一緒にいるから…」
この子も『シャドワ』のファンらしい。
「桜さん、こちらはオレの友人の佐藤 悠馬さんです。悠馬さん。こちらは同じく友人の桜さんです」
彼女のテンションに驚いてボーッとしてしまった。ナツさんの言葉に、慌てて自己紹介する。
「僕は佐藤 悠馬です。よろしくお願いします」
「あっ…はじめまして!わたしも佐藤です。佐藤 桜。こちらは親友の…」
「柏崎 雪です。よろしく」
寡黙そうな女性が無表情で握手を求めてきた。
ナツさんにも。
雪さんの声、かわいい。
しかも僕よりずっと背が小さい。
こんな風に見上げられることなんてめったにないから、ちょっとだけ嬉しい…。
「これから時間ある?みんなで話そうよ」
ナツさんの言葉に僕達は激しく頷いていた。
楽しい時間だった。
入ったファミレスは空いている時間帯だったから、ドリンクバーとポテトの大皿をシェアして喋り続けた。ナツさんや彼女たちの話も面白くて、聴いているうちにどんどん懐かしい記憶が蘇ってくる。
大好きな作品のことを、こんなに喋ったのは学生の頃以来だった。
追加で大皿料理を頼んでは、また話を続ける。
「あ…」
ナツさんのスマホに着信があったみたいだ。
「ちょっとごめんね」
と、店の外へ出て行った。
ナツさんがいなくなってしまい、会話が止まる。
大きな窓から外にいるナツさんが見えた。
「アレウス様が電話してる…」
桜さんがふと口にした言葉に、
「わかる!すごく似てるよね!」
僕も同じことを考えていたから嬉しかった。
「悠馬さんもノトスにそっくり…。小さくてかわいい…」
雪さんがボソッと呟いた。
「ちっさい言うな!」
思わずツッコんでいた。
…言ってから思い出す。
これはノトスの口癖だった。
「「……」」
引かれた…?
「「…ふふっ」」
2人のツボに入っていたらしい。
「ノトスだぁ…」
「雪ちゃん、ノトスのこと一番好きだもんね」
雪さんは、うっとりした顔で僕を見ている。
『ノトスが一番好き』なんて言う人に初めて会った。
「でもエレボス様にも会ってみたかったなぁ…」
「なにそれ、詳しく!」
僕は雪さんの言葉に思わず食いついていた。
魔王エレボス。
学生時代の僕は魔王様のことが好きだった。
もちろん憧れの意味で、だ。
一時期、無駄に黒い服やシルバーアクセサリーを買ってしまった痛い頃の僕を思い出す。
『黒い服ばっかり着てると余計チビに見える』と友人に言われてから着るのをやめた…。
「ナツさんの恋人が魔王エレボス様にそっくりなんですよ」
ん?恋人が魔王様って、相当迫力がある美人だな。…そうか。ナツさん、恋人がいるのか。
「生BL、わたしも見たい…」
雪さんが頰を紅潮させている。
BL?
「…すみません、今から友人が迎えにくるらしくて」
外から戻ってきたナツさんが申し訳なさそうに頭を下げる。
何を勘違いしてたんだろう。
ナツさんに僕以外の友達がいること、恋人がいることにショックを受けている自分がいた。
「悠馬さん、後で連絡します。桜さん、雪さんも会えて嬉しかったです。お詫びに、ここは払わせてください」
とテーブルに五千円札を置かれた。
伝票に記載された金額より、かなり多いはずだ。
慌てて返そうとする僕達に、『今から迎えに来る男に出させます。楽しい時間を邪魔した罰です』とナツさんは悪戯っぽくウインクする。
ドキッと心臓が跳ね、僕の顔が真っ赤になったのがわかる。桜さんも、雪さんも胸を押さえている。
「…アレウス。またね」
雪さんの中で、ナツさんはすっかり王子様になっているようだ。
「ナツさん。こちらこそ会えて嬉しかったです」
桜さんは寂しそうだ。
「今日は誘ってくれてありがとう。今度は僕に奢らせてね…」
僕も寂しかった。
今日は本当に楽しかったから。
「うん。またね、みんな」
王子様の微笑みに、僕達3人は悶えた。
「え…。あれ、エレボス様?」
雪さんの声に窓の外を見ると、
そこにはナツさんと……魔王様がいた。
ん?こっちを見てる?
魔王様がナツさんの細い腰をぐいと抱き寄せ、
こちらに見せつけるように
……キスをした。
「「「~~~~!!!」」」
3人とも声にならなかった。
舌が。舌が入ってる!!
魔王様は、王子様の抵抗を受けて身体を離した。
怒って歩き去るナツさんと、笑いながらそれを追う魔王様が見えた。
「エレボス様が、アレウス様に、エッチなキスを…」
「キスに流されそうになった後、我に返って抵抗する王子様…最高…」
「本当に魔王様だったね…」
残された僕達は、しばらくボーッとしてしまった。
その後も追加で晩ごはんを頼んで、ひたすら盛り上がった。
僕には腐女子の妹がいるから、彼女達の会話に自然と混じっていた。
その後また映画の話になって、近日発売予定のオンラインゲーム版『シャドワ』の話になって、楽しい時間が過ぎていった。
「はー。楽しかったぁ…」
雪さんの言葉に、桜さんと僕は深く頷いた。
「また集まりませんか?」
桜さんは、僕が思っていたことを言ってくれた。
男の僕からは言いづらくて我慢していたから嬉しい。
「はい。また『シャドワ』の話、したいです!」
それから、ナツさんに誘われ、桜さんに誘われ、僕が誘って、4人で会うようになった。
桜さんとナツさんは仕事が忙しいらしく、そのうち僕は雪さんとSNS上で交信するようになり、
それから3ヶ月後、オンライン版『シャドウ オブ トワイライト』が発売になると、僕は雪さんと一緒にゲームの世界を旅するようになった。
そのうちゲームでの呼び名『ユキ』『ユウマ』とお互いを呼び合うようになった。
リアルでは寡黙な彼女が、ゲームの世界ではおしゃべりに、感情豊かに、ぴょこぴょこ飛び跳ねるのがかわいい。
ユキは在宅でデザイナーとイラストレーターをしているらしく、僕のSNS用アイコンを作ってくれた。
ついに僕達は、ネット上でお付き合いを始めた。
告白するタイミングを探しているうちに、彼女から告白されてしまった。
彼女の初恋はノトスだったらしい。
だから好きになってくれたのかと思っていたら、腐女子であっても引かなかったところ、
『小さい』と言っても怒らずにノトスのセリフで返したところがポイント高かったそうだ。
ある日、星羅ちゃんを追いかけなくなっている自分に気づいた。
時々、気分転換にライブに行くし、ストロベリードロップスの新曲が出れば配信版を聴く。
でも、僕が一番好きなのはユキだ。
『一緒に暮らしませんか?』
ノトスに似たキャラクターが、ゲームの画面上で彼女にそんな告白をするのは、もう少し後の話。
そして、昔のコスプレ写真を見られてしまい、彼女のために腹筋を鍛える日が来るのは、さらにもう少し後の話。
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