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本編 2 後日譚
オーナーの独白
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柚月 ナホさんですか。
懐かしいですね。
奈津に似ている?
そうでしょうか…。
彼女と奈津では雰囲気が全く異なりますよ。
あぁ、坂本さんが…。
へぇ、奈津と彼女は血が繋がっているのですか。
さすが現役の刑事さんは違いますね。
え?いえいえ、皮肉ではありませんよ。
古参のお客様方は、確かに彼女と奈津の『容姿が似ている』とおっしゃったことがあります。
でも、『雰囲気が全く違う』から『彼女のコアなファン以外気づかないだろう』、ともおっしゃっていました。
彼女の死によって、『Opus』は一時閉店することになりました。
常連のお客様には本当に申し訳ないことをしたものです。
わたしが17の頃でした。
先代はよく自慢していました。
『オレは柚月 ナホに“縄師”の技を教えたんだぞ』ってね。
あ、先代というのは、わたしの祖父なのですが。
彼女は映画の……『女郎蜘蛛の家』というホラー映画です。
その主演に選ばれたのですが、監督にこの店を紹介されて、『緊縛』の勉強に来たそうなんです。
彼女は仮面を被って、一晩だけ店のショーに出演しました。その舞台で、祖父から教わった技をアレンジして披露したそうです。
祖父は心の底から彼女を称賛していました。
興奮しすぎて、わたしの身体を使って『再現』しようと試みるほどでした。
『あの子が役者を辞めたら絶対に後継ぎにする』なんて言いだした程です。
心酔していた、といっても過言ではないでしょう。
わたしは年齢的にまだ店への立ち入りが許されていませんでしたから、そのショーを観ることはできませんでした。
ただ、大好きな祖父が『他人を後継者にしたがった』という事実は、子どもだったわたしを傷つけました。
…あぁ、確かに。
わたしは物心ついた頃には祖父の『作品』にされていましたから、『大好き』だと勘違いさせられていた可能性はありますね。
わたし達は2人きりで暮らしていましたから、『支配される』もしくは『共依存』といった状況だったのだと思います。
ショーの映像を観たかったのですが、祖父は『ライブ』であることにこだわりがありましたから、叶いませんでした。
悔しくて、悔しくて、完成した映画を何度も観ましたよ。一度観終わっても、また観てしまうんです。
20歳になったばかりの女性だとは思えない、『完成された美』がそこにありました。
監督が店の常連様だったからでしょう。
祖父が伝えた技の美しさをよく理解した映像でした。
R指定の映画にも関わらず、テレビで特集が組まれ、写真集も発売されるほどの人気となりました。
わたしたちの心を惹きつけて離さない、という点においては、確かに奈津は彼女に似ているかもしれませんね。
でも、あの『生きてやる』『負けるものか』という力強い瞳は、彼女ならではのものでした。
あぁ、でも、一度だけプライベートの彼女が祖父に会いに自宅へ訪れたことがありました。
祖父と2人きりで部屋に篭って、時折『悩ましい女性の声』が聞こえてきましたから、『そういうこと』だったのだと思います。
祖母はすでに鬼籍に入っていましたから、浮気にはなりません。まぁ、例え存命だったとしても、おそらく許したことでしょう。
部屋から出てきた彼女は、帰る直前、立ち尽くすわたしの頭を撫でて微笑みました。
その時の顔は……、確かに奈津と似ていたかもしれませんね。
彼女が亡くなった、と聞いた時は信じられませんでした。
祖父は荒れて荒れて、2人きりで暮らしていたわたしは毎日彼の心を落ち着けるための『作品』にされました。
いえ、『作品擬き』ですね。
『違う。そうじゃない』とブツブツ呟く祖父に、わたしは何度も何度も縛り直されました。
店で経営を担当していた山之内さんが来てくれなければ、わたしと祖父は死んでいたでしょう。
2人とも救急車で病院に搬送されました。
わたしの身体を診た医師の通報によって、未成年者を『監禁』『虐待』『暴行』した容疑で祖父は逮捕されました。
祖父は『心を病んでいる』として病院に入院することになり、そのままそこで亡くなりました。
幼い頃、わたしを置いて出て行った母と、久しぶりに再会しましたが、彼女は書類上の手続きだけして帰っていきました。
『今の家族には知られたくない』と言っていましたから、仕方ないことなのでしょう。
山之内さんにサポートしてもらいながら、わたしは一人暮らしを始めました。
わたしが18になった日、初めてあなたを『作品』にさせてもらいましたね。
学校帰りのあなたが、歩道橋から身を乗り出したわたしに声をかけてくれて、話を聴いてくれたのが出会いでした。
ナホさんの事は話しませんでしたから、あなたには『よく分からない話』だったでしょうに…。
あの夜はすみませんでした。
初めてで、まだ未熟だったわたしの技では、あなたに『ただ痛い思い』をさせましたね。
あの時、あなたが友人になってくれて、何度も練習台になってくれたから、今のわたしがいるのです。
『Opus』を復活できたのも、あなたと山之内さんのおかげですね。
本当に感謝しています。
奈津に『親の愛情』を注いであげてください。
あの頃、わたしにしてくれたみたいに。
あなたとわたしは同い年だろうって?
『心の話』です。
ずっと『祖父の作品』として生きていた『わたし』が『人間』として生まれ直すことができたのは、あなたが側にいてくれたからなのですよ。
ありがとうございます。
あなたがいてくれて良かった。
懐かしいですね。
奈津に似ている?
そうでしょうか…。
彼女と奈津では雰囲気が全く異なりますよ。
あぁ、坂本さんが…。
へぇ、奈津と彼女は血が繋がっているのですか。
さすが現役の刑事さんは違いますね。
え?いえいえ、皮肉ではありませんよ。
古参のお客様方は、確かに彼女と奈津の『容姿が似ている』とおっしゃったことがあります。
でも、『雰囲気が全く違う』から『彼女のコアなファン以外気づかないだろう』、ともおっしゃっていました。
彼女の死によって、『Opus』は一時閉店することになりました。
常連のお客様には本当に申し訳ないことをしたものです。
わたしが17の頃でした。
先代はよく自慢していました。
『オレは柚月 ナホに“縄師”の技を教えたんだぞ』ってね。
あ、先代というのは、わたしの祖父なのですが。
彼女は映画の……『女郎蜘蛛の家』というホラー映画です。
その主演に選ばれたのですが、監督にこの店を紹介されて、『緊縛』の勉強に来たそうなんです。
彼女は仮面を被って、一晩だけ店のショーに出演しました。その舞台で、祖父から教わった技をアレンジして披露したそうです。
祖父は心の底から彼女を称賛していました。
興奮しすぎて、わたしの身体を使って『再現』しようと試みるほどでした。
『あの子が役者を辞めたら絶対に後継ぎにする』なんて言いだした程です。
心酔していた、といっても過言ではないでしょう。
わたしは年齢的にまだ店への立ち入りが許されていませんでしたから、そのショーを観ることはできませんでした。
ただ、大好きな祖父が『他人を後継者にしたがった』という事実は、子どもだったわたしを傷つけました。
…あぁ、確かに。
わたしは物心ついた頃には祖父の『作品』にされていましたから、『大好き』だと勘違いさせられていた可能性はありますね。
わたし達は2人きりで暮らしていましたから、『支配される』もしくは『共依存』といった状況だったのだと思います。
ショーの映像を観たかったのですが、祖父は『ライブ』であることにこだわりがありましたから、叶いませんでした。
悔しくて、悔しくて、完成した映画を何度も観ましたよ。一度観終わっても、また観てしまうんです。
20歳になったばかりの女性だとは思えない、『完成された美』がそこにありました。
監督が店の常連様だったからでしょう。
祖父が伝えた技の美しさをよく理解した映像でした。
R指定の映画にも関わらず、テレビで特集が組まれ、写真集も発売されるほどの人気となりました。
わたしたちの心を惹きつけて離さない、という点においては、確かに奈津は彼女に似ているかもしれませんね。
でも、あの『生きてやる』『負けるものか』という力強い瞳は、彼女ならではのものでした。
あぁ、でも、一度だけプライベートの彼女が祖父に会いに自宅へ訪れたことがありました。
祖父と2人きりで部屋に篭って、時折『悩ましい女性の声』が聞こえてきましたから、『そういうこと』だったのだと思います。
祖母はすでに鬼籍に入っていましたから、浮気にはなりません。まぁ、例え存命だったとしても、おそらく許したことでしょう。
部屋から出てきた彼女は、帰る直前、立ち尽くすわたしの頭を撫でて微笑みました。
その時の顔は……、確かに奈津と似ていたかもしれませんね。
彼女が亡くなった、と聞いた時は信じられませんでした。
祖父は荒れて荒れて、2人きりで暮らしていたわたしは毎日彼の心を落ち着けるための『作品』にされました。
いえ、『作品擬き』ですね。
『違う。そうじゃない』とブツブツ呟く祖父に、わたしは何度も何度も縛り直されました。
店で経営を担当していた山之内さんが来てくれなければ、わたしと祖父は死んでいたでしょう。
2人とも救急車で病院に搬送されました。
わたしの身体を診た医師の通報によって、未成年者を『監禁』『虐待』『暴行』した容疑で祖父は逮捕されました。
祖父は『心を病んでいる』として病院に入院することになり、そのままそこで亡くなりました。
幼い頃、わたしを置いて出て行った母と、久しぶりに再会しましたが、彼女は書類上の手続きだけして帰っていきました。
『今の家族には知られたくない』と言っていましたから、仕方ないことなのでしょう。
山之内さんにサポートしてもらいながら、わたしは一人暮らしを始めました。
わたしが18になった日、初めてあなたを『作品』にさせてもらいましたね。
学校帰りのあなたが、歩道橋から身を乗り出したわたしに声をかけてくれて、話を聴いてくれたのが出会いでした。
ナホさんの事は話しませんでしたから、あなたには『よく分からない話』だったでしょうに…。
あの夜はすみませんでした。
初めてで、まだ未熟だったわたしの技では、あなたに『ただ痛い思い』をさせましたね。
あの時、あなたが友人になってくれて、何度も練習台になってくれたから、今のわたしがいるのです。
『Opus』を復活できたのも、あなたと山之内さんのおかげですね。
本当に感謝しています。
奈津に『親の愛情』を注いであげてください。
あの頃、わたしにしてくれたみたいに。
あなたとわたしは同い年だろうって?
『心の話』です。
ずっと『祖父の作品』として生きていた『わたし』が『人間』として生まれ直すことができたのは、あなたが側にいてくれたからなのですよ。
ありがとうございます。
あなたがいてくれて良かった。
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