痛みと快楽

くろねこや

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本編 2 後日譚

元『家畜』とご主人様 2

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ご主人様はスパルタだった。



まずは1本、恐る恐る指を挿入した瞬間。

「やり直し。爪を切るところから、やり直しです」

と、枕元の引き出しから取り出した爪切りを投げつけられる。


「~~~!!」

見事オレの額にビシッとヒットした。金属製のそれは当たると地味に痛い。


「わたしの爪くらいに、丸く、短くしなさい」

ホラ、と見せられた『見本』通り、深爪になりそうなくらい爪を切って、ヤスリをかける。
引っかかるところがないように。


「次はローションです」
 
『男の身体には毒』。

そう信じ込まされていた、とろみのある液体。オレはさんざん使われたが、咲耶さんが教えてくれたように、摩擦がなくなってスムーズだった。

最初は罰として『毒』を使われているのかと怯えたものだ。

一度ローションなしも体感させられたが、本当に痛かったし、流血した。

会社で『奴隷』を犯すオレを見て、他の男達が『鬼畜だねぇ』と言っていた意味が、その時に初めてわかった。

『女性の身体はローションの毒を中和できる』?
そんなわけなかった。
男女の身体にそんな違いはない。
オレは本当にバカだった。



ローションを穴に直接垂らしたら、肩を蹴られた。

「…痛いです。咲耶さん」

「プレイとしてならアリですが、いきなり垂らすバカがいますか。ローションは冷たいんです。相手の事を大事に思うなら、一度手のひらに垂らして、両手で温めなさい」

知らなかった。
思い返してみると確かに、咲耶さんとお店の常連客たちは、『最初のお仕置き』以外、温めてくれていた気がする。

手のひらに垂らして、両手ですり合わせ、温める。

指にまとって、穴にそっと差し込んだ。

尻の中は熱かった。
外側の肌より、ずっと高い体温。

こんなに慎重に、人の身体に触れるのは初めてだったことに気づく。

「んっ…。…指をぐるっと回して、ナカを濡らしながら拡げる…。そうです…」

解すように、ぐるーっと指を回す。

時折ローションを足す。滑りがよくてスムーズだ。

「そのまま…2本目、3本目を挿れてください」

指を1本足すごとに、咲耶さんの眉間が寄る。

不安になる。
ツラいのだろうか。
痛くない?


『前立腺を触るとガンになる』は嘘。

本当は、男を気持ちよくさせるためのスイッチだ。
身をもって教えられたからわかる。


「あぁ!! そこ…、そこが前立腺です…」

咲耶さんの声が高く、…甘くなった。

ずっと押し続けるとやっぱりツラいみたいだ。
息が荒くなっている。


ヌル、ヌル、コリッ、ヌル、ヌル、コリッ、

ご主人様にされた時を思い出しながら、緩急をつけ、時には焦らしながらソコを触る。

「あっ、あっ、…いいです。上手ですよ」

感じ入った表情。

咲耶さんの目がゆっくりと開く。

「そろそろ、…大丈夫です。ソレを挿れてください」

指を引き抜くと、ディルドを入り口に当てる。

感覚がないから、難しい。

慎重に、ゆっくり、そーっと。

ナカに入っていく。





ちんぽの感覚がないからこそ、わかる。

セックスは、自分のためにするのではない。
愛する相手を気持ちよくさせるためのものだったのだと。

あの頃のオレは、身勝手に自分の快感を求めて腰を振っていただけだった。

咲耶さんの顔が、声が、『気持ちいい場所』を教えてくれている。

「あっ…、そこです…。そこ…、もっと強く。…っダメ! そこダメ! やめっ…」

この表情は、『もっと』と『やめないで』だ。



オレにはちんぽがないから、セックスをしても快感なんて得られないと思ってた。

「あっ、あん、いい、そこ、…奥も。…そう。そこです」

いつもオレを啼かせる男が、快感に声を上げて身体をよじらせている。


だけど、ご主人様がこんなにとろけた顔をしてくれて。

甘い声。
ピンと伸びた脚。
時折キュッと丸まる足先。


「咲耶さん…」


オレで感じてくれてる、と思うだけで。


『心』が気持ち良かった。

すると…『身体』も気持ちいいと気付く。




達した後、ハァ、ハァ、と息を整えたご主人様が、汗に乱れた髪をかき上げる。

「…これなら及第点です。奈津がここに来て、『いい』と言ってくれたらあなたを呼びます」

「はい。ありがとうございます」

「その代わり、声を出さないこと。奈津に『あなた』だと知らせるつもりはありませんので」

「……直接謝らせてはもらえませんか?」

「あなたの事を、怖がる可能性があります。奈津には目隠しをしますので、怖がらせないよう、あなただとバレないよう注意してください」



「……もう一度、練習させてください」

不安が拭えなかったオレは、何度も何度も咲耶さんを相手に練習させてもらった。

『中イキ』させられるくらい上手くなりたい。

弱々しい蹴りを肩に食らうまで、何度も繰り返し練習した。






声を出したお仕置きとして、ロープで縛られ、フックで天井から吊るされている。

尻穴にはエネマグラ。
狭間を通したロープで抜け落ちないよう固定され、逃げられないエンドレスな快感に苦しむ。

ちんぽを失った今、内部と会陰がオレに性の快感を与えてくれる。

乳首はくびり出すように細い糸で縛られている。形が変わってしまいそうなほど、キツく。ツキツキと痛いのに、気持ちいい。

ご主人様は、自らの唇と舌を使って、オレの痛む乳首を苛めた後、口の中にも快楽をくれた。

目が合うと微笑んでくれる。


あぁ、あの頃のオレがこの人に出会えていたら、きっと未来は変わったはずだ。



くちゅ、ぐちゅ、ちゅ、くちゅ、

口の中…気持ちいい。




透明な糸を引き、離れた唇。

「…咲耶さん。ありがとうございます」

自然と口に出た言葉。

お仕置き中は『ご主人様』と呼ばなきゃいけないのに。



びっくりした顔。

咲耶さんのこんな顔、きっと奈津にも見せていないのだろう。


「本当に…ありがとうございます」


ご主人様が、身動きできないオレをギュッと抱きしめてくれた。





『縛られて、複数の男に次々と犯される』

泣き叫び、恐怖に震える身体。

熱い息を吐きながら、快楽に痙攣する身体。




あの頃と。

あのステージの上と。

『行われていること』は同じだ。




だけど、その違いは『心』。

もしくは『愛』。

奪われるのではない。与えられるもの。




今、オレにはそれがわかるよ。

奈津。




気持ちいい。

胸が幸福感に満たされていく。


「もっと…お仕置きしてください」


ご主人様がまた微笑んでくれた。
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