37 / 132
本編 2
3
しおりを挟む
「やっと本当の美夜に会えた…。…今までどこにいたの? ずっと探してたんだよ?」
ひどく臭う。
汗のすえた臭いと、ほこりやカビの臭い。
微かにアンモニアの臭いもする。
部屋だけじゃない。目の前の男も臭う。
『あの日』の体育倉庫より酷い。
硬い床に寝かされているからか、首と腰が痛い。
どこかに打ったのか、頭も痛い。
両手は一纏めにされ、頭上で何かに縛られているようだ。
暗くてよく見えないが、おそらく古いアパートの一室。
後頭部に触れている床はザラザラしているから、長いこと掃除がされていない。
聞こえるのは男の声と、自分の呼吸音だけ。
気持ち悪いくらいに、他の音は何も聞こえない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『美夜へ
君の大事なものを壊すよ。
僕のお嫁さんになって
一緒に暮らしてくれるなら
彼らには何もしない。
今夜7時に迎えにいくから
待っていて。
志麻より』
白い封筒に1枚の便箋。4枚の写真。
オーナー、福太郎さん、ボス、シン。
遠くから撮ったのだろう。被写体は小さく、ピントはボケていたが、いつ撮影したのか、オレの大事な人達が写っていた。
独特のフレームと厚みがある、インスタントカメラの写真だ。
それが今朝、実家のポストに入っていたらしい。切手がないということは、直接入れに来たのだ。
ひと月前の手紙は、気になる事は多いが、『言葉が比較的穏やか』な内容だったから安心していた。
『美夜へ
謝りたいことがあるんだ。
寂しかったかな?
君を1人にしてごめんね。
僕のファンが教えてくれたよ。
寂しいからあんなことしてるんだろ?
僕に会いに来て。
志麻より』
両親から電話で呼び出され、渡された手紙。
姉の美夜は、ずっと引き篭もったままだと言う。
『あんなことしてる』という言葉から、『お前を美夜と勘違いしてるんだろう。お前が解決しろ!』とヒステリックに怒鳴られた。
オレの顔は姉とあまり似ていないが、何故か昔から『勘違い』されることがあった。
子どもの頃から『女顔』だとよく言われたし、この男の『ファン』を自称する人物がオレのことを『美夜』だと思い込み、男に伝えた可能性も、決して『ない』とは言い切れない。
ストーカー男は姉を襲った7年後、違う女性を襲ったとボスが言っていた。無罪と判決が出てからも、精神科の病院に収容されていると聞いている。
だが、嫌な予感がした。
男の『ファン』とやらがオレを見張っている。
オレは、オーナーや福太郎さんの安全の為に、しばらく彼らに会わない方がいいと判断した。
シンに話せば、オレを邪険にする両親に対し、何かをしかねない。
ストーカー男に関することだから、ボスに相談すべきだと思うが、シンにも伝わってしまうだろう。
オレは誰にも相談しないまま、男からの連絡が途絶えたことに安心していた。
だが、ひと月ぶりに両親から電話があった。
開封さえされていない封筒を渡される。
『大事なものに危害を加える』という手紙と大切な4人の写真。流石にこの手紙がオレに対したものなのだとわかる。
これは誰かの罠なのか、本当にストーカー男からの手紙なのか。
本物だとしたら病院をどうやって抜け出したのか。
わからないが、オレはこの手紙の送り主と会うことにした。
スマホを取り出すと時間は18時32分。
約束の19時まで28分もあった。
手紙の内容を写真に撮り、シンとボスに『気をつけて欲しい』とメッセージを送るはずだった。
だが男は既に家の近くで待っていたのだ。
スマホを手に、完全に油断していたオレは、走ってきた男にスタンガンを当てられ、無様に崩れ落ちた。
もしオレが殺されても、シンとボスなら、きっとこの体を見つけてくれるはずだ。
そうすれば、この男は今度こそ有罪になるだろう。
父さん、母さん、姉さん。
少しはオレを好きになってくれるかな?
……あんなに嫌われていたら無理だろうな。
ひと月前にボスに相談すればよかった。
話を聴こうとしてくれたのに。
できるなら自分の力で解決したかった。
オレはストーカー達を相手に、『別れさせ屋』で上手くやってきた。そう思っていた。
だが実際は、ボスとシン、オーナーが助けてくれたから、依頼人を守ることができたのだ。
自分を過信したバチが当たったのだろう。
ビリッ、
シャツを破かれる音で我に返った。
スタンガンで動けなくなった瞬間、気を失った振りをした。必要以上に暴行を受けたくなかったからだ。移動中は目隠しされていたせいで、いつの間にか本当に眠っていたらしい。
部屋が暗いのをいいことに、目覚めてからも『気を失ったままのフリ』をしていたのだが。
男はオレの意識があろうと、なかろうと関係ないらしい。
ずっと独り言が続いているからだ。
「ボクがあげたプレゼントをどこにやったの?」
はだけたシャツを捲られ、脇腹をツーっと撫でられる。
美夜にあるはずの傷痕がないからだろう。
『あれ?おかしいな…』『……った?』
とブツブツ小声で呟いていたと思った瞬間。
「まぁいいや。もう一度付け直してあげる」
ドッ、とも、グサッ、ともいえない音が
オレの左脇腹から聞こえた。
「!!!!」
熱い!
それが痛みだとわかるのに時差があった。
クソいてぇ…。
姉と同じように、腹を刺されたのだろう。
男には『刺すぞ』という予備動作がなくて覚悟が間に合わなかった。
「ナイフを抜くとすぐに死んじゃうからね。まずはボクのお嫁さんになってもらわないと」
近くに呼気を感じた、その瞬間。
指で唇を開かされ、いきなり深く口付けられた。
「んんっ!!」
ぐちゅ、ぐちゅ、ぬちゅ、
ヌメり暴れ回る舌が気持ち悪い。
ズボンの前を開かれた。
脱がせるために尻を持ち上げられる。
「ぐっ!」
腹を捻るように動かされたせいで、刺された腹が激痛に襲われる。
両手を上に伸ばされているから、腹の皮が引っ張られて余計に痛い。
カチカチカチ、とカッターの刃を伸ばす音。
下着がビリッと切り裂かれた。
「あれ? 美夜は男の子だったんだね」
男の手が止まった。
ひどく臭う。
汗のすえた臭いと、ほこりやカビの臭い。
微かにアンモニアの臭いもする。
部屋だけじゃない。目の前の男も臭う。
『あの日』の体育倉庫より酷い。
硬い床に寝かされているからか、首と腰が痛い。
どこかに打ったのか、頭も痛い。
両手は一纏めにされ、頭上で何かに縛られているようだ。
暗くてよく見えないが、おそらく古いアパートの一室。
後頭部に触れている床はザラザラしているから、長いこと掃除がされていない。
聞こえるのは男の声と、自分の呼吸音だけ。
気持ち悪いくらいに、他の音は何も聞こえない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『美夜へ
君の大事なものを壊すよ。
僕のお嫁さんになって
一緒に暮らしてくれるなら
彼らには何もしない。
今夜7時に迎えにいくから
待っていて。
志麻より』
白い封筒に1枚の便箋。4枚の写真。
オーナー、福太郎さん、ボス、シン。
遠くから撮ったのだろう。被写体は小さく、ピントはボケていたが、いつ撮影したのか、オレの大事な人達が写っていた。
独特のフレームと厚みがある、インスタントカメラの写真だ。
それが今朝、実家のポストに入っていたらしい。切手がないということは、直接入れに来たのだ。
ひと月前の手紙は、気になる事は多いが、『言葉が比較的穏やか』な内容だったから安心していた。
『美夜へ
謝りたいことがあるんだ。
寂しかったかな?
君を1人にしてごめんね。
僕のファンが教えてくれたよ。
寂しいからあんなことしてるんだろ?
僕に会いに来て。
志麻より』
両親から電話で呼び出され、渡された手紙。
姉の美夜は、ずっと引き篭もったままだと言う。
『あんなことしてる』という言葉から、『お前を美夜と勘違いしてるんだろう。お前が解決しろ!』とヒステリックに怒鳴られた。
オレの顔は姉とあまり似ていないが、何故か昔から『勘違い』されることがあった。
子どもの頃から『女顔』だとよく言われたし、この男の『ファン』を自称する人物がオレのことを『美夜』だと思い込み、男に伝えた可能性も、決して『ない』とは言い切れない。
ストーカー男は姉を襲った7年後、違う女性を襲ったとボスが言っていた。無罪と判決が出てからも、精神科の病院に収容されていると聞いている。
だが、嫌な予感がした。
男の『ファン』とやらがオレを見張っている。
オレは、オーナーや福太郎さんの安全の為に、しばらく彼らに会わない方がいいと判断した。
シンに話せば、オレを邪険にする両親に対し、何かをしかねない。
ストーカー男に関することだから、ボスに相談すべきだと思うが、シンにも伝わってしまうだろう。
オレは誰にも相談しないまま、男からの連絡が途絶えたことに安心していた。
だが、ひと月ぶりに両親から電話があった。
開封さえされていない封筒を渡される。
『大事なものに危害を加える』という手紙と大切な4人の写真。流石にこの手紙がオレに対したものなのだとわかる。
これは誰かの罠なのか、本当にストーカー男からの手紙なのか。
本物だとしたら病院をどうやって抜け出したのか。
わからないが、オレはこの手紙の送り主と会うことにした。
スマホを取り出すと時間は18時32分。
約束の19時まで28分もあった。
手紙の内容を写真に撮り、シンとボスに『気をつけて欲しい』とメッセージを送るはずだった。
だが男は既に家の近くで待っていたのだ。
スマホを手に、完全に油断していたオレは、走ってきた男にスタンガンを当てられ、無様に崩れ落ちた。
もしオレが殺されても、シンとボスなら、きっとこの体を見つけてくれるはずだ。
そうすれば、この男は今度こそ有罪になるだろう。
父さん、母さん、姉さん。
少しはオレを好きになってくれるかな?
……あんなに嫌われていたら無理だろうな。
ひと月前にボスに相談すればよかった。
話を聴こうとしてくれたのに。
できるなら自分の力で解決したかった。
オレはストーカー達を相手に、『別れさせ屋』で上手くやってきた。そう思っていた。
だが実際は、ボスとシン、オーナーが助けてくれたから、依頼人を守ることができたのだ。
自分を過信したバチが当たったのだろう。
ビリッ、
シャツを破かれる音で我に返った。
スタンガンで動けなくなった瞬間、気を失った振りをした。必要以上に暴行を受けたくなかったからだ。移動中は目隠しされていたせいで、いつの間にか本当に眠っていたらしい。
部屋が暗いのをいいことに、目覚めてからも『気を失ったままのフリ』をしていたのだが。
男はオレの意識があろうと、なかろうと関係ないらしい。
ずっと独り言が続いているからだ。
「ボクがあげたプレゼントをどこにやったの?」
はだけたシャツを捲られ、脇腹をツーっと撫でられる。
美夜にあるはずの傷痕がないからだろう。
『あれ?おかしいな…』『……った?』
とブツブツ小声で呟いていたと思った瞬間。
「まぁいいや。もう一度付け直してあげる」
ドッ、とも、グサッ、ともいえない音が
オレの左脇腹から聞こえた。
「!!!!」
熱い!
それが痛みだとわかるのに時差があった。
クソいてぇ…。
姉と同じように、腹を刺されたのだろう。
男には『刺すぞ』という予備動作がなくて覚悟が間に合わなかった。
「ナイフを抜くとすぐに死んじゃうからね。まずはボクのお嫁さんになってもらわないと」
近くに呼気を感じた、その瞬間。
指で唇を開かされ、いきなり深く口付けられた。
「んんっ!!」
ぐちゅ、ぐちゅ、ぬちゅ、
ヌメり暴れ回る舌が気持ち悪い。
ズボンの前を開かれた。
脱がせるために尻を持ち上げられる。
「ぐっ!」
腹を捻るように動かされたせいで、刺された腹が激痛に襲われる。
両手を上に伸ばされているから、腹の皮が引っ張られて余計に痛い。
カチカチカチ、とカッターの刃を伸ばす音。
下着がビリッと切り裂かれた。
「あれ? 美夜は男の子だったんだね」
男の手が止まった。
6
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集
夜井
BL
完結済みの短編エロのみを公開していきます。
現在公開中の作品(随時更新)
『異世界転生したら、激太触手に犯されて即堕ちしちゃった話♥』
異種姦・産卵・大量中出し・即堕ち・二輪挿し・フェラ/イラマ・ごっくん・乳首責め・結腸責め・尿道責め・トコロテン・小スカ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる