痛みと快楽

くろねこや

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幕間 1

独占欲

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「シン。ナツはどうした?」

「今日は『Opusオーパス』の日です」

「あー。そうか」


うっかりしていた。
ナツからは昨日の夜に連絡を受けていた。

今回のストーカー野郎は胸糞悪いパターンだった。オレと友人が絞めてやったが、ナツの中では消化できなかったのだろう。

彼は心が不安定になると『あの店』に働きに行く。


「…しかし副業の方が収入が高いとは、不甲斐ない雇い主ですまないな」


ナツは月に2回『あの店のショー』に出演するだけで、この事務所が払う一か月分の賃金を超えてしまう。


シンについては、『将来有望な相手に多額の投資しては金を増やす』ということが得意らしい。
その金は『多すぎると困る』らしく余剰金の使いみちとしてこの事務所で働く、という訳の分からないことをしている。


「お前は行かなくていいのか?」

「行きますよ。彼が舞台に上がるのは19:35です。あと8分で退勤させていただきます」

腕時計も見ずに、キーボードで何かを打ちながら答えてくる。


この男の『余剰分の金』と労力は、その90%くらい…もしくは、ほぼ全てが、ナツへのストーカー行為に対して使われていると言っても過言ではないだろう。
『息子を保護してほしい』という依頼を達成したのを機に、ついに自宅へ連れ込みやがった。


「…お前は、ナツが他の男に抱かれても許せるのか?」

オレなら、愛した相手が他の男に触れられている姿など見たくない。


「まぁ、彼を好きになったきっかけは、『輪姦される姿が可哀想で可愛かったから』ですので、今更とも言えますね」


全く理解できない思考だ。
だが、無理もないのかもしれない。

中学3年生のデリケートな時期に、高校1年生だった奈津が3年の先輩達に輪姦されている姿を見たらしい。

シンはその時『初めて欲情した』のだという。

奈津の貞操観念の無さといい、慎一郎の異常性といい、おそらくそのきっかけになった『先輩達』とやらの罪は重い。

特にナツについては、わざと自分の身体を粗雑に扱っている気がしてならない。


オレがSMクラブのオーナーをしている友人から『その話』を聴いた時、『そいつらを全員捕まえて復讐してやりたい』という考えが浮かんだ。


その後シンから『その時の映像』を見せられた。


身体がまだ発達しきっていない少年が屋外で吊るされて、体格のいい男達に次々と犯されている。

『公衆便所』と呼ばれ、笑われながら、
尿を口と尻から飲まされていた。


ーーー奈津を陵辱しおとしめていたのは、画面に映った男だけで少なくとも23人いた。映り込んだ影を考えると、間違いなく他にもいただろう。


しかも仰向けで脚を開かされ、オレンジ色のピンポン球をいくつも入れられ、『卵を産め』と腹を踏まれている。

男達がいなくなった後、1人の男に『汚ねぇな』とののしられ、冷たそうな水を、身体にかけられ、尻の穴に土で汚れたホースを突っ込まれて腹の中にも注がれていた。


何度、画面の中に入って『ナツを助けてやりたい』と思ったことだろう。

『あれは過去だ』『もう終わってしまったことだ』と頭を落ち着かせるのに一週間以上もの時間がかかった。

もちろん刑事だった頃、証拠写真、映像、酷い時には被害者の遺体から目を逸らすことは許されなかった。

自分自身の『過去の記憶』に思考と感情が冷え切っていくのを感じ、オレはシンに協力すると決めた。


だが7年も前の出来事だ。ナツに対する集団暴行事件の主犯について完全な裏が取れていない。友人アイツがあれ以上暴走しなければいいが。


だが、シンは既に『参加していたそいつら』全員の居場所を把握しており、『何らかの手』を打ってあるらしい。

ナツを強姦した『1人目の男』については、シンと友人の手によって十分すぎる復讐が完了している。性犯罪者とはいえ、『去勢』までしていいものか、オレはシンの『コレクション収集』にまでは手を貸してはいなかった。



「独占したいとは思わないのか?」

人形のような顔をした男は、その表情を変えないまま答える。

「それは『考えないように』しています。僕にとって、究極の『独占』の形は、僕の『コレクションに加えること』ですから」

『まだ生きている彼を楽しみたいので』と美しく微笑む姿は『人間の姿を模した悪魔』なのではないかと思わせる。


この男に好かれてしまったのは、ナツにとって幸福なことであり、不幸なことでもある。

絶対的な愛を得る代わりに、こいつから逃れることは許されない。

万が一こいつより先に命を落とすことがあれば、その身体は合成樹脂加工が施され、『コレクション』として大切にされることだろう。


オレは『復讐』を推奨する刑事失格の男だ。

それでも。

奈津を守ろう。改めて思う。


この男の独占欲が異常な方向に暴走しないよう、くれぐれも注意しておかなくては。
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