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オーナーと『家畜』
3 真実
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『親から勘当されている』
『どこにも行き場がない』
『こんな身体で、もう死ぬしかない』
そんな事を言われてしまったら、いくら『家畜ちゃん』といえども拾ってあげたくなるじゃないですか。
とりあえず、店の上にあるわたしのマンションに住まわせて、様子を見ることにしました。
男性器を取られて、刑務所に入れられてから筋力が低下してしまったそうですが、それでも立派にこの店で働いてくれています。
雑用を嫌がらず黙々とこなす様子から、根は真面目なのだとわかりました。
『お仕置き』の夜。
最古参のお客様がお帰りになる際、おっしゃっていた言葉が気になっていました。
『やっぱりこういうのは性に合わないねぇ。どうもあの子、悪い子じゃない気がするんだよ。次は100パーセントの快感で溶かしてあげたいなぁ』
ある夜。
わたしの『家畜ちゃん』が、ゴミを捨てに裏口から出て行ったきりなかなか戻ってきません。
裏口を開けて様子を見てみますと、
「高校・大学バスケ界のエース様だったお前がなぁ。まさかこんなところで『オンナノコ』になってるとはねぇ」
ふふ…、と悪そうな笑いが聞こえてきます。
地面には下半身を剥かれ、後ろ手に縛られた『家畜ちゃん』が転がされています。
白いシャツと黒いベストの前が大きく開かれているせいで、荒い呼吸に揺れる胸が闇に浮かび上がって見え、思わず目を奪われてしまいました。
多少落ちたとはいえ未だ筋肉質で陰影のある肉体は、男性器を失ったことで、ゾクリとするような危うい美しさを感じさせます。
急いだのか、『家畜ちゃん』の首から奪ったネクタイで手首を雑に縛ったようです。
あぁ、今すぐわたしが縛り直して差し上げたい。
その向こうで大柄なジャージ姿の男がうちのお店のダストボックスに腰掛け、同じジャージを着た若い男の子を突き上げながら得意げにお話されているようです。
抱かれている若い男の顔は見えませんが、その身体は震えているようです。
ーーー大柄な男性が2人も乗ったら壊れるでしょう。
ダストボックスがミシミシいっています。
すぐにでも追い払いたいところでしたが、その男の話が気になり、お行儀は良くないことですがスマホを手に聞き耳を立てることにしました。
『家畜ちゃん』も何かを言っていますが、暴力を受けたのか苦しげで、声が小さくてよく聞き取れません。
「大会の日に『あの肉便器』のことで、すこーーし挑発してやったら見事に殴りかかってくるんだもんねぇ。優勝して、そのままプロになれるところだったのに簡単に自滅しちゃってバカだねぇ」
ーーーそれであのような『会社』にいたわけですか。
「高3の時だって、オレ達がちょーーっと誘導してやっただけなのに、大好きな子を強姦しちゃったり、オレ達に『肉便器』として差し出しちゃったりするんだもんねぇ」
『初恋の相手』だったのにねぇ、とイヤらしく笑います。
ーーーへぇ、あの子の『地獄の1年間』が始まった元凶は『こちらの方』、でしたか。
ということは、こちらの方は『家畜ちゃん』の高校時代のチームメイトだったわけですね。
「オレ達の手前、お前も強がっちゃって。助けてやりたそうな顔しながら、よく一緒に犯したよな」
ーーーあの子を前にすると素直になれなくなってしまったのは『若者にありがちなその場のノリ』、または『この男に対するプライド』のせいでしょうか。
「お前だけ先に帰らせた後、オレ達だけで毎晩『たーーっぷり遊ばせてもらった』よ」
『家畜ちゃん』を1人帰らせた後ピンポン球を詰め込んだあの子を体育倉庫に閉じ込めたこと、モップ代わりにしたこと、輪姦した後に小便器にしたこと…。
ーーーずいぶん得意げに話しますね。
……あの子が特に苦しんだ胸糞悪い部分は、こちらの方の仕業だったのですね。
「お前、オレ達が『アイツで遊んでるとこ』を影からスマホで撮って、顧問にチクったらしいな? アイツ、オレ達に『見つからないようにやれ』って言ってたよ? 」
わたしが殺意を覚えた、あの酷い動画……。あれに『家畜ちゃん』は参加していなかったわけですか。そして部活動の顧問は『知っていて放置した』…と。
ーーーわたしは最悪なミスを犯したようです。
最初に強姦されたショックと恐怖のせいでしょうか。あの子の記憶の中で、『この男』の顔と『家畜ちゃん』の顔が混ざっている、もしくは入れ替わってしまったのでしょうか。
この男が意図的に印象操作した可能性もありますね。
『ちゃんと“裏”を取れ』と友人が忠告してくれていたというのに…、わたしとしたことが怒りに我を忘れていたようです。
ーーーあぁ、本当に。
申し訳ないことをしました。
その後も、男はベラベラと『家畜ちゃん』の心を傷つける言葉を吐き続けました。
「お前、『ヘタクソ』ってよく言われない? あの日オレがアドバイスしてやった『ホモセックスのコツ』、まぁだ信じてるんでしょ?」
『家畜ちゃん』の肩が大きく震えました。
「バァカ!逆だよ、逆!!ほぉら、こうやるんだよ!」
男の突き上げが激しくなりました。
ダストボックスが本格的に壊れそうです。
若い男の甘い悲鳴が響きます。
ーーーこれは……『家畜ちゃん』の口から直接聞きたいですね。
そろそろいいでしょう。
「こんなところで何をやってるんですか? 警察に通報しますよ?」
ジャージの男はわたしに気づくと、若い男の子からペニスを引き抜き身支度を整え、何も言わずに去ろうとします。
若い男の子は芯を失ったようにふらつきながらも、ズボンを上げて男に付いていくようです。
「暗いですので、『くれぐれも』お気をつけて」
慌てて上着を羽織ってましたが、はっきり見えましたよ。ジャージの背中に『あるプロバスケットボールチームの名前』がプリントされていたのを。
おバカさんはご自分ではないですか…。
身元を晒しながら、こんなところでお喋りなんかして。
あぁ、『家畜ちゃん』に見せびらかしていたんですね。プロの選手になった自分の姿を。
「~~~!!!」
男が立ち去った後、声にならない叫び声を聞きました。
わたしは、足元で激しく泣いている『家畜ちゃん』、いえ『この子』の縛めを解いて店内へ連れて戻ることにしました。
お腹と胸を蹴られたのか踏まれたのか、足跡が白いシャツと肌にくっきりと付いています。
「…奈津!オレは!……奈津に、なんてことを…!!」
この子は泣き止みません。
店の床に頭を打ち付けながら蹲っています。
あぁ、本当に好きだったんですね。
あの子の名前をこんなにも痛々しく叫ぶなんて。
「あなたが信じたあの男の『アドバイス』とは何ですか?」
ーーー可哀想に。背中も蹴られたんですね?
こちらにも靴跡が残っています。
「……っ『ローションは男の身体には毒だから絶対に使うな』、……『奈津とセックスするなら絶対に前立腺に触るな。そこに触ったら前立腺ガンになって死ぬ』って!!」
ーーーそういうことでしたか。
「奈津はいつも痛がって……、そしたらアイツが言うんだ。『これは“SM”だよ。痛みを与えるのも、受け入れるのも“愛”があればできるはずだ』って」
握りしめた拳が真っ白になって震えています。
「…助けて、痛い、やめて、って泣いてたのに、『調教してやれば、じきに良くなるはずだから、オレ達がみんなで毎日可愛がってやろうな?』って」
ーーー『痛いだけで気持ちよくなかった』とあの子が何度も言っていた理由は。
そして、この子が『SM』という言葉を使うようになった理由は……。
あの男がベラベラとネタバラシしていた理由がわかりました。
『完全勝利』を確信したんですね。
この子自身に『初恋の子』を傷つけさせ、
目の前で仲間達と穢し、
煽って暴力を振るわせプロ選手への道を断ってやった。
しかもそのかつてのライバルが、『男性』でさえなくなっていた……。
おそらく、あの男にとっての玩具は
『あの子』ではなかった。
本当の玩具は『この子』の方だったのでしょう。
「オレ、昔から『だよな?』って言われると、頷いてしまうクセがあって」
『同調圧力』に弱いのは、周りに嫌われることが怖いからでしょう。
「試合中だけはそんな自分から抜け出せたんです。…『コート上のエゴイスト』なんて雑誌で紹介されたこともあったりして」
自嘲するように、笑います。目からは大粒の涙が零れたまま。
「『もうやめよう』。たった一言が言えなかった。…アイツの言うことを信じないで、ちゃんと自分で調べればよかった…」
中学生の頃から同じチームで、ずっと仲間で何でも相談できる友人だった。あの男の的確なアドバイスのおかげでバスケがどんどん上達したのだ。と、微笑みます。
その顔がクシャリと歪んでゆく様は、見ていると胸が締め付けられます。
「あの頃から……親友だと…思ってたのは、オレだけだったんですね……」
泣きながら、諦めたように笑っています。
ーーーバカな子ですねぇ。
あぁ、本当に申し訳ないことをしました。
同時に、この子のことを愛おしく思ってしまいました。
わたしたちに『お仕置き』された夜。
口からテープを剥がした後も、『やったのはオレじゃない』『あの男が悪い』のだと一言も言い訳しませんでしたね。
親友を庇って?
もしくは、あの子が経験させられたことを、自分も受け入れようと思ったのでしょうか。
「…オレは、ずっと後悔しています。奈津の前で…素直になれなかった自分を。…周りの『空気』に負けてしまう…弱い自分を。……オーナー。お願いします。……オレが死ぬまで罰し続けてください。…どうか、オレを許さないで…」
ーーーあぁ、本当に。
なんて、可愛い子なのでしょうね。
わたしは思わずこの子の頭を優しく撫でていました。
お詫びにこれからは、溺れるほど、苦しいほど、逃げ出したくなるほど、わたしの生涯をかけて『大切に甘やかして』差し上げることにいたしましょう。
わたしはたった今手に入れたばかりの『映像データ』を『彼』に送りました。
監視カメラにも一部始終がちゃんと映っていました。
でも、データを受け取った『彼』からのリアクションは薄いです。
『彼』は真実に気付いてましたね…?
あるプロバスケットボールチームの選手が、
同じチームの選手に太腿を刺される、
という事件が起きたそうです。
怖いですね。
事件が起こったの、『あの夜』じゃないですか。
刺されたその選手は、運び込まれた病院から失踪したそうですよ。
『どこにも行き場がない』
『こんな身体で、もう死ぬしかない』
そんな事を言われてしまったら、いくら『家畜ちゃん』といえども拾ってあげたくなるじゃないですか。
とりあえず、店の上にあるわたしのマンションに住まわせて、様子を見ることにしました。
男性器を取られて、刑務所に入れられてから筋力が低下してしまったそうですが、それでも立派にこの店で働いてくれています。
雑用を嫌がらず黙々とこなす様子から、根は真面目なのだとわかりました。
『お仕置き』の夜。
最古参のお客様がお帰りになる際、おっしゃっていた言葉が気になっていました。
『やっぱりこういうのは性に合わないねぇ。どうもあの子、悪い子じゃない気がするんだよ。次は100パーセントの快感で溶かしてあげたいなぁ』
ある夜。
わたしの『家畜ちゃん』が、ゴミを捨てに裏口から出て行ったきりなかなか戻ってきません。
裏口を開けて様子を見てみますと、
「高校・大学バスケ界のエース様だったお前がなぁ。まさかこんなところで『オンナノコ』になってるとはねぇ」
ふふ…、と悪そうな笑いが聞こえてきます。
地面には下半身を剥かれ、後ろ手に縛られた『家畜ちゃん』が転がされています。
白いシャツと黒いベストの前が大きく開かれているせいで、荒い呼吸に揺れる胸が闇に浮かび上がって見え、思わず目を奪われてしまいました。
多少落ちたとはいえ未だ筋肉質で陰影のある肉体は、男性器を失ったことで、ゾクリとするような危うい美しさを感じさせます。
急いだのか、『家畜ちゃん』の首から奪ったネクタイで手首を雑に縛ったようです。
あぁ、今すぐわたしが縛り直して差し上げたい。
その向こうで大柄なジャージ姿の男がうちのお店のダストボックスに腰掛け、同じジャージを着た若い男の子を突き上げながら得意げにお話されているようです。
抱かれている若い男の顔は見えませんが、その身体は震えているようです。
ーーー大柄な男性が2人も乗ったら壊れるでしょう。
ダストボックスがミシミシいっています。
すぐにでも追い払いたいところでしたが、その男の話が気になり、お行儀は良くないことですがスマホを手に聞き耳を立てることにしました。
『家畜ちゃん』も何かを言っていますが、暴力を受けたのか苦しげで、声が小さくてよく聞き取れません。
「大会の日に『あの肉便器』のことで、すこーーし挑発してやったら見事に殴りかかってくるんだもんねぇ。優勝して、そのままプロになれるところだったのに簡単に自滅しちゃってバカだねぇ」
ーーーそれであのような『会社』にいたわけですか。
「高3の時だって、オレ達がちょーーっと誘導してやっただけなのに、大好きな子を強姦しちゃったり、オレ達に『肉便器』として差し出しちゃったりするんだもんねぇ」
『初恋の相手』だったのにねぇ、とイヤらしく笑います。
ーーーへぇ、あの子の『地獄の1年間』が始まった元凶は『こちらの方』、でしたか。
ということは、こちらの方は『家畜ちゃん』の高校時代のチームメイトだったわけですね。
「オレ達の手前、お前も強がっちゃって。助けてやりたそうな顔しながら、よく一緒に犯したよな」
ーーーあの子を前にすると素直になれなくなってしまったのは『若者にありがちなその場のノリ』、または『この男に対するプライド』のせいでしょうか。
「お前だけ先に帰らせた後、オレ達だけで毎晩『たーーっぷり遊ばせてもらった』よ」
『家畜ちゃん』を1人帰らせた後ピンポン球を詰め込んだあの子を体育倉庫に閉じ込めたこと、モップ代わりにしたこと、輪姦した後に小便器にしたこと…。
ーーーずいぶん得意げに話しますね。
……あの子が特に苦しんだ胸糞悪い部分は、こちらの方の仕業だったのですね。
「お前、オレ達が『アイツで遊んでるとこ』を影からスマホで撮って、顧問にチクったらしいな? アイツ、オレ達に『見つからないようにやれ』って言ってたよ? 」
わたしが殺意を覚えた、あの酷い動画……。あれに『家畜ちゃん』は参加していなかったわけですか。そして部活動の顧問は『知っていて放置した』…と。
ーーーわたしは最悪なミスを犯したようです。
最初に強姦されたショックと恐怖のせいでしょうか。あの子の記憶の中で、『この男』の顔と『家畜ちゃん』の顔が混ざっている、もしくは入れ替わってしまったのでしょうか。
この男が意図的に印象操作した可能性もありますね。
『ちゃんと“裏”を取れ』と友人が忠告してくれていたというのに…、わたしとしたことが怒りに我を忘れていたようです。
ーーーあぁ、本当に。
申し訳ないことをしました。
その後も、男はベラベラと『家畜ちゃん』の心を傷つける言葉を吐き続けました。
「お前、『ヘタクソ』ってよく言われない? あの日オレがアドバイスしてやった『ホモセックスのコツ』、まぁだ信じてるんでしょ?」
『家畜ちゃん』の肩が大きく震えました。
「バァカ!逆だよ、逆!!ほぉら、こうやるんだよ!」
男の突き上げが激しくなりました。
ダストボックスが本格的に壊れそうです。
若い男の甘い悲鳴が響きます。
ーーーこれは……『家畜ちゃん』の口から直接聞きたいですね。
そろそろいいでしょう。
「こんなところで何をやってるんですか? 警察に通報しますよ?」
ジャージの男はわたしに気づくと、若い男の子からペニスを引き抜き身支度を整え、何も言わずに去ろうとします。
若い男の子は芯を失ったようにふらつきながらも、ズボンを上げて男に付いていくようです。
「暗いですので、『くれぐれも』お気をつけて」
慌てて上着を羽織ってましたが、はっきり見えましたよ。ジャージの背中に『あるプロバスケットボールチームの名前』がプリントされていたのを。
おバカさんはご自分ではないですか…。
身元を晒しながら、こんなところでお喋りなんかして。
あぁ、『家畜ちゃん』に見せびらかしていたんですね。プロの選手になった自分の姿を。
「~~~!!!」
男が立ち去った後、声にならない叫び声を聞きました。
わたしは、足元で激しく泣いている『家畜ちゃん』、いえ『この子』の縛めを解いて店内へ連れて戻ることにしました。
お腹と胸を蹴られたのか踏まれたのか、足跡が白いシャツと肌にくっきりと付いています。
「…奈津!オレは!……奈津に、なんてことを…!!」
この子は泣き止みません。
店の床に頭を打ち付けながら蹲っています。
あぁ、本当に好きだったんですね。
あの子の名前をこんなにも痛々しく叫ぶなんて。
「あなたが信じたあの男の『アドバイス』とは何ですか?」
ーーー可哀想に。背中も蹴られたんですね?
こちらにも靴跡が残っています。
「……っ『ローションは男の身体には毒だから絶対に使うな』、……『奈津とセックスするなら絶対に前立腺に触るな。そこに触ったら前立腺ガンになって死ぬ』って!!」
ーーーそういうことでしたか。
「奈津はいつも痛がって……、そしたらアイツが言うんだ。『これは“SM”だよ。痛みを与えるのも、受け入れるのも“愛”があればできるはずだ』って」
握りしめた拳が真っ白になって震えています。
「…助けて、痛い、やめて、って泣いてたのに、『調教してやれば、じきに良くなるはずだから、オレ達がみんなで毎日可愛がってやろうな?』って」
ーーー『痛いだけで気持ちよくなかった』とあの子が何度も言っていた理由は。
そして、この子が『SM』という言葉を使うようになった理由は……。
あの男がベラベラとネタバラシしていた理由がわかりました。
『完全勝利』を確信したんですね。
この子自身に『初恋の子』を傷つけさせ、
目の前で仲間達と穢し、
煽って暴力を振るわせプロ選手への道を断ってやった。
しかもそのかつてのライバルが、『男性』でさえなくなっていた……。
おそらく、あの男にとっての玩具は
『あの子』ではなかった。
本当の玩具は『この子』の方だったのでしょう。
「オレ、昔から『だよな?』って言われると、頷いてしまうクセがあって」
『同調圧力』に弱いのは、周りに嫌われることが怖いからでしょう。
「試合中だけはそんな自分から抜け出せたんです。…『コート上のエゴイスト』なんて雑誌で紹介されたこともあったりして」
自嘲するように、笑います。目からは大粒の涙が零れたまま。
「『もうやめよう』。たった一言が言えなかった。…アイツの言うことを信じないで、ちゃんと自分で調べればよかった…」
中学生の頃から同じチームで、ずっと仲間で何でも相談できる友人だった。あの男の的確なアドバイスのおかげでバスケがどんどん上達したのだ。と、微笑みます。
その顔がクシャリと歪んでゆく様は、見ていると胸が締め付けられます。
「あの頃から……親友だと…思ってたのは、オレだけだったんですね……」
泣きながら、諦めたように笑っています。
ーーーバカな子ですねぇ。
あぁ、本当に申し訳ないことをしました。
同時に、この子のことを愛おしく思ってしまいました。
わたしたちに『お仕置き』された夜。
口からテープを剥がした後も、『やったのはオレじゃない』『あの男が悪い』のだと一言も言い訳しませんでしたね。
親友を庇って?
もしくは、あの子が経験させられたことを、自分も受け入れようと思ったのでしょうか。
「…オレは、ずっと後悔しています。奈津の前で…素直になれなかった自分を。…周りの『空気』に負けてしまう…弱い自分を。……オーナー。お願いします。……オレが死ぬまで罰し続けてください。…どうか、オレを許さないで…」
ーーーあぁ、本当に。
なんて、可愛い子なのでしょうね。
わたしは思わずこの子の頭を優しく撫でていました。
お詫びにこれからは、溺れるほど、苦しいほど、逃げ出したくなるほど、わたしの生涯をかけて『大切に甘やかして』差し上げることにいたしましょう。
わたしはたった今手に入れたばかりの『映像データ』を『彼』に送りました。
監視カメラにも一部始終がちゃんと映っていました。
でも、データを受け取った『彼』からのリアクションは薄いです。
『彼』は真実に気付いてましたね…?
あるプロバスケットボールチームの選手が、
同じチームの選手に太腿を刺される、
という事件が起きたそうです。
怖いですね。
事件が起こったの、『あの夜』じゃないですか。
刺されたその選手は、運び込まれた病院から失踪したそうですよ。
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