痛みと快楽

くろねこや

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本編 1

18 シン

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シンがソファでスマホの画面を見ている。


オレは退院したその足で、シンが暮らすマンションへ連れて来られていた。
その部屋…いや、ワンフロア全てが、コイツのものらしい。

なんと、オレのアパートにあった荷物が、そのうちの一部屋に全て運び込まれていた。
大学入学と同時に、一人暮らしを始めてからの持ち物は元々少なかったから、広々とした部屋の片隅にちんまりと小さく収まっていた。

寝具や服は一新されていた。
以前から気に入っていたものはデザインをそのままに、ただ品質だけが良くなっていた…。服はともかく、なんでお気に入りの枕の形まで知ってるんだ…。
シーツはシルクで、肌触りはスベスベして気持ちいい…。洗濯が大変そうだと思っていたら、専門の業者がやってくれるらしく、脱いだ服も全て大きな袋に入れておけばいいそうだ。

ベッドは異様に大きい。

……つまり、いつの間にかコイツと同居することになっていたのだ。

何も聞いていなかったオレは愕然がくぜんとして、逆に感情がフリーズしてしまっていた、……のだが。



『…ゃだぁっ、おねが……、も、やめ……』

シンが観ているその動画は、『誰かが屋外で輪姦されているところ』を盗撮したものらしかった。

1人の全裸の少年が木の太い枝に手首を縛られ吊るされている。後ろから大柄な男に腰を引き寄せられ、尻を激しく犯されていた。

周りを画面に映りきらないほどの男達が囲んで、その少年を犯す順番を待っているようだった。
ズボンの前だけをくつろげ、ニヤニヤ笑う男達の制服に見覚えが……。

「これ、僕の宝物なんです。この時、僕はあなたを好きになった。……次々に犯されながら泣き叫ぶあなたは、可哀想で可哀想で……とても綺麗だった」

何度も何度もこの動画を観て、何度も何度もヌキました、と微笑む。

ーーー恍惚こうこつとした表情は、美しい。
その異常な言葉さえなければ。


それは、オレが高1の頃、部活を引退した先輩が『友人達』をたくさん連れて来た時の……。

ーーー体格差を無視して繰り返される輪姦。
『公衆便所』と呼ばれ、最後は体内に放尿され、飲尿を強要された、あの日の映像だった。


「消せ!!クソッ!なんでお前がこんなの持ってる!!?」

オレはコイツの力に敵わない。
暴れてそのスマホを奪おうとしても、容易く抑え込まれ、腕の中に閉じ込められる。

「消してもムダですよ。ハードディスクにもクラウド上にも保存してありますから」

暴れて、フーッフーッと息を荒げるオレの身体は、いとも簡単に封じられてしまう。


「中学3年の、学校見学会の日でした。迎えの車が事故渋滞に巻き込まれまして…。暇つぶしに校内を勝手に散策していたら、あなたが複数の男に犯されていた」

初恋でした…、と男は笑う。

「あんなに感情が動いたのは生まれて初めての経験でした」

興奮し、思わずこの動画を撮っていたのだ、と。


「全てが終わった時、僕の下着がドロドロで焦りましたよ。あなたは尿と精液にまみれて、ホースの水でぐちゃぐちゃにされたまま地面に放置されていましたし。やっと迎えにきた車であなたを自宅に連れ帰り、一緒に風呂へ入りました」

あの日、意識を取り戻したら自宅のベッドにいた。
身体中の炎症がひどく、下痢に苦しみ、高熱に浮かされたせいで、その『不自然さ』に気づかなかったらしい。


「翌年、僕が入学してすぐ、あなたがバスケ部の新3年生からも狙われていることに気付きました」

許せなかった…、とオレを抱く腕が強まる。

「僕はあの頃、身体が小さくてね。あなたに触れることも、話しかけることも叶わなかった。それなのに…あいつらは、あなたよりたった1年先輩だという理由だけで、当然のように『オレ達の代でも肉便器にしよう』と笑っていた。僕は祖父に頼んで警備員を雇い、校内を常に巡回させることにしました」

平穏な2年間を過ごせたでしょう?、と微笑む。

「まさかお前……」


「ちなみに、『あの女』に僕がストーキングしていた、というのは嘘です。彼女は僕が金で雇った役者ですよ」

ゾクリとした。

「なんでわざわざそんな遠回りなことを…」

そんなことをしなくても、直接話しかけてくればよかっただろう。

「あの時だけでいい。あなたに僕のことだけを考えてほしかったんですよ。『僕を堕とす』ために、あなたは僕の好きな食べ物、僕の好きな映画、僕の好きな音楽……、共通の話題を探して僕のことだけを考えてくれたでしょう?」

この男の言う通りだ。
その時のオレは、コイツの好きな料理を覚え、映画を観て、音楽を聴いた。
コイツが好きだという難しい本も、調べながら読んだ。


「そうそう、好きなものといえば。あなた好みのペニスの形も調べまして、『あの5人』はお好みに合いましたか?」

男は髪をかきあげ、サイドテーブルに置いてあった眼鏡をかける。

フチの太い眼鏡は男の美貌を隠し、個性を埋没させることに成功している。

ーーーその姿は、店によく来てくれた常連5人組の、あの5人目の男だった。


「ここの形を変える手術は……ちょっと痛かったですが、あなたを悦ばせるためなら…あの痛みさえ幸せだと感じました」

ーーーオレのためだけに性器の形を手術で変えたって言うのか?

その痛みは想像するだけでも恐ろしい。

『納得がいく形』になるまで何度も何度も受けた手術に時間がかかり、なかなか会いに来れなかったのだと言う。


「あなたの『可哀想な姿』がまた見たくて、『あのイベント』に出てもらいました。観ているだけで満足だったはずが、僕も興奮して思わず参加してしまいました」

本当はね、あの時すでに『全部終わっていた』のですよ、と男が笑う。あとは警察を呼ぶだけだったそうだ。

「は!? えっ!? おまっ……えっ?」

日本語が理解できない。


つまり……オレは『長期レンタル』どころか『クソイベント』に身代わりで出る必要すらなかったのだ…。
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