7 / 132
本編 1
7 新しい依頼
しおりを挟む
今度の依頼は、『息子が帰ってこない。探して保護してほしい』という父親からのものだった。
『別れさせ屋』じゃない仕事は初めてだ。
依頼人の息子さんは『就職試験を受けに行ってくる』と言って出かけた後、そのまま一度も家に帰ってこないそうだ。
試験会場から戻らない、というのは妙だ。
会社にもよるだろうが、一度も家に帰らせてもらえないというのはおかしい。
行方不明者届(かつては捜索願と呼ばれていたそうだ)を出されないためだろうか。
家に『雇用契約書』の写しが届いたそうだ。
依頼人が封筒にあった会社の電話番号に問い合わせると『住み込みで働いてもらう契約』なのだと突っぱねられてしまった。
契約書の住所をネットの地図で見ると2階建ての建物があり、実際に行ってみると、砂利の駐車場になっていたそうだ。
警察に相談すると、話は聴いてもらえたものの契約書があることから『事件性がないと動けない』と言われてしまったらしい。
『息子は真面目な優しい子なんです』と依頼人は涙を零す。
その代わり人を信じやすいところがあり、騙されているのかもしれない、と拳をキュッと握っている。
高校を卒業したばかりの18歳だった。
依頼人は妻を病気で亡くしており、家族はその息子さんただ1人なのだという。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ストーカー野郎の調査能力は高かった。
雇用契約書に記載された住所はダミーで、封筒には電話番号しか書いておらず、社名は検索エンジンにも引っかからないのに、その会社の本当の住所をすぐに突き止めたのだ。
『やる気を出すにはあなたのキスが欲しいですね』と、対価としてヤツに唇を奪われた。
舌を入れる濃厚なやつだ。
だが、その住所に建っているビルはまるで要塞みたいに取り付く島がなかった。保護対象が『就職した会社』の社名はおろか、ビルの名前も掲げられていない。正面には目つきの鋭いガードマンが昼夜問わず立っている。一度、道に迷った新人配達員を装って中を探ろうとしたが、すぐに追い出され、テナントなどは入っていないことしか分からなかった。
周辺で話を聴いてみると、『拉致』や『奴隷』といった物騒な噂が聞こえてきた。
この会社のそばに何ヶ所か『夜に歩いていると『拉致』され『奴隷』にされる』という噂が立つスポットがあったのだ。
依頼人からは『なるべく早く見つけてほしい』と言われている。
仕方なくそのスポットのひとつ、『橋の上』に1人で来ていた。
細い川の上に架けられ、センターラインはなく、車2台がギリギリすれ違えるほどの道幅しかない小さな橋だ。
今は夜の9時過ぎ。街灯も省エネのためか2つに1つしか点いておらず、薄暗い。
ホラー映画の撮影に向いている場所、と言えば雰囲気が伝わるだろうか。
昨日、一昨日はハズれたが、3日目のチャレンジだ。
今日は風が強い。
スマホを操作するフリで佇む橋の上、ビョオビョオと吹く激しい風の音にかき消され、黒い大きなバンが背後から近づく気配に気付けなかった……。
という設定で、計算通り拉致されることに成功した。
オレは目隠しにヘッドフォン、猿轡、両手両足を縛られるという念入りな拘束を受けて車に乗せられた。
グンと身体が後ろに引かれるように動き、車の急発進を感じる。
あのストーカー野郎は、どこにいてもオレの場所を見つけてくれるはずだ。
ボスの思惑通り、仲間にすると心強い。
拘束されたまま抱き上げられ、どこかに運ばれる。
大音量の激しい音楽に塞がれた耳に、外の音は何も入ってこない。
だが身体が柔らかく弾む場所、おそらくベッドの上に投げ出されたのだと分かった。
しばらく経って、目隠しとヘッドフォンを外される。
照明の眩しさに目が慣れてくると、3人の男達がオレの服に手をかけようとしていた。
『久しぶりの暴力』の予感に内心怖気付きそうになる。
オレは『殴られない程度に』自然に見える抵抗をしながら、カメラの前で服を剥かれていった。
『別れさせ屋』じゃない仕事は初めてだ。
依頼人の息子さんは『就職試験を受けに行ってくる』と言って出かけた後、そのまま一度も家に帰ってこないそうだ。
試験会場から戻らない、というのは妙だ。
会社にもよるだろうが、一度も家に帰らせてもらえないというのはおかしい。
行方不明者届(かつては捜索願と呼ばれていたそうだ)を出されないためだろうか。
家に『雇用契約書』の写しが届いたそうだ。
依頼人が封筒にあった会社の電話番号に問い合わせると『住み込みで働いてもらう契約』なのだと突っぱねられてしまった。
契約書の住所をネットの地図で見ると2階建ての建物があり、実際に行ってみると、砂利の駐車場になっていたそうだ。
警察に相談すると、話は聴いてもらえたものの契約書があることから『事件性がないと動けない』と言われてしまったらしい。
『息子は真面目な優しい子なんです』と依頼人は涙を零す。
その代わり人を信じやすいところがあり、騙されているのかもしれない、と拳をキュッと握っている。
高校を卒業したばかりの18歳だった。
依頼人は妻を病気で亡くしており、家族はその息子さんただ1人なのだという。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ストーカー野郎の調査能力は高かった。
雇用契約書に記載された住所はダミーで、封筒には電話番号しか書いておらず、社名は検索エンジンにも引っかからないのに、その会社の本当の住所をすぐに突き止めたのだ。
『やる気を出すにはあなたのキスが欲しいですね』と、対価としてヤツに唇を奪われた。
舌を入れる濃厚なやつだ。
だが、その住所に建っているビルはまるで要塞みたいに取り付く島がなかった。保護対象が『就職した会社』の社名はおろか、ビルの名前も掲げられていない。正面には目つきの鋭いガードマンが昼夜問わず立っている。一度、道に迷った新人配達員を装って中を探ろうとしたが、すぐに追い出され、テナントなどは入っていないことしか分からなかった。
周辺で話を聴いてみると、『拉致』や『奴隷』といった物騒な噂が聞こえてきた。
この会社のそばに何ヶ所か『夜に歩いていると『拉致』され『奴隷』にされる』という噂が立つスポットがあったのだ。
依頼人からは『なるべく早く見つけてほしい』と言われている。
仕方なくそのスポットのひとつ、『橋の上』に1人で来ていた。
細い川の上に架けられ、センターラインはなく、車2台がギリギリすれ違えるほどの道幅しかない小さな橋だ。
今は夜の9時過ぎ。街灯も省エネのためか2つに1つしか点いておらず、薄暗い。
ホラー映画の撮影に向いている場所、と言えば雰囲気が伝わるだろうか。
昨日、一昨日はハズれたが、3日目のチャレンジだ。
今日は風が強い。
スマホを操作するフリで佇む橋の上、ビョオビョオと吹く激しい風の音にかき消され、黒い大きなバンが背後から近づく気配に気付けなかった……。
という設定で、計算通り拉致されることに成功した。
オレは目隠しにヘッドフォン、猿轡、両手両足を縛られるという念入りな拘束を受けて車に乗せられた。
グンと身体が後ろに引かれるように動き、車の急発進を感じる。
あのストーカー野郎は、どこにいてもオレの場所を見つけてくれるはずだ。
ボスの思惑通り、仲間にすると心強い。
拘束されたまま抱き上げられ、どこかに運ばれる。
大音量の激しい音楽に塞がれた耳に、外の音は何も入ってこない。
だが身体が柔らかく弾む場所、おそらくベッドの上に投げ出されたのだと分かった。
しばらく経って、目隠しとヘッドフォンを外される。
照明の眩しさに目が慣れてくると、3人の男達がオレの服に手をかけようとしていた。
『久しぶりの暴力』の予感に内心怖気付きそうになる。
オレは『殴られない程度に』自然に見える抵抗をしながら、カメラの前で服を剥かれていった。
15
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる