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村からの来訪者 〜アルト視点

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「こんばんは!」

快活そうな男性がプロキオの馬車から降りてきた。

「こんばんは」

って、つられて挨拶を返したものの、この人誰だろ?

短髪で右目の下にあるほくろが印象的な長身の男だ。アルクルと同じくらいだから、195センチ…。羨ましい!

僕とヴェダを見た後、…なんだろう? 井戸の方を見てる。


「アルト、会いたかったよ!!」

空気を読まないプロキオが満面の笑みを浮かべながら僕を抱きしめてチュッチュッとキスをしてくる。

「んっ…、ちょ、まっ…、んっ、プロ…キオ」

この馬鹿力!!!

謎の人物がこっちを見てびっくりしてるじゃないか!!

「…プロキオさんの恋人?」

勘違いだから! 僕の恋人はヴェダだから!

それに今夜の相手・・・・・は僕じゃないだろ!




狩猟小屋に入ると物珍しそうにキョロキョロしている。2階から降りてきたギーウスを見て、男の視線が止まった。


「…久しぶり。親父…だよな?」

「あぁ、久しぶりだな。そのアウロラに似たほくろはリゲルだろう。…本当に大きくなった」

ウルスが教えてくれたのだが、この人…リゲルさんはギーウスの次男らしい。

なんと15年ぶりの再会だって。25歳だというから、彼が10歳の時にギーウスは山で暮らすようになったのか。

他の狩人たちと比べてしまえば細身の印象。髭もない。何もかもが厚く太く毛深い“むくつけき大男”といったギーウスには似ていない。背が高いところと髪や瞳の色は似てるだろうか。

ちなみにアウロラさんというのは、麓の村で暮らしているギーウスの奥さんの名前だって。


小屋の住人たちが自己紹介すると、彼は何故かヴェダとグードゥヤを見て目を細めた。

それから、信じられない言葉を口にした。


「なぁ親父。オレがここに残るから、あんたは山を下りろよ」

え…?

ギーウスが、山を下りる?


「母さんは口に出さないけど、親父に会いたがってる」

リゲルさんはそう言うが、以前ギーウスは『妻に合わせる顔がないから2度と会わない』と僕に言っていた。

アルクルがミザールさんの死を村に報告へ行った際、ギーウスも同行していたそうだが、妻のいる家へは帰らなかったらしい。

…それにしても“合わせる顔がない”ってどういうことだろう。

奥さんに『子どもはもう要らない』と言われて浮気したとか? 性欲が強いギーウスなら可能性はあるけど、息子さんが怒っていないということは奥さんは子どもたちに夫への怒りを見せていないということだ。


28歳だったギーウスは4歳のヴェダを連れて狩猟小屋に移住した。アルクルとミザール、ウルスも一緒だったらしい。

ウルスによると、当時小屋に常駐していた人たちが狩人を引退して、入れ替わる形でこの場所へ来たそうだ。

次の年にギーウスは、火傷を負ったグードゥヤを小屋へ連れ帰ってきたんだって。

その優しさを考えると、『奥さんに会えない理由』がどうにもよくわからない。



「今夜の当番・・はヴェダだったな。アルト、休みのところすまないが、いいか・・・?」

息子さんを小屋に泊めるにはベッドが足りない。だからこその『いいか?』なのだろう。

プロキオと寝るのはヴェダだから、僕のベッドでギーウスが寝たい、ということだ。

「いいよ」

「?」

リゲルさんはギーウスと僕の会話の意味が分からないからだろう。何か聞きたそうな顔をしているが、知らない方がいいと思う。

父親が自分より年下の男を抱いているなんて。

男同士で結婚できるこの国だけど、“子どもが出来ない”という理由から、男同士の行為は“浮気”に当たらないとされている。

…とはいえ、やはり気分がいいものではない気がする。

もしも僕の父様が、僕より若い男の子とセックスしてるとしたらたまれないもんね…。


それにしても、“子どもたちには会いたい”と言っていたのに、リゲルさんと話をしなくていいのかな?







『んっ…!! あぁ…、そこ、あっ、あっ、』

隣の部屋から、ヴェダの甘い声とプロキオの荒い息遣い、パチュパチュと尻に腰を打ちつける音が聞こえてくる。


「妬けるか?」

耳元に意地悪な声が注がれ、首にキスされると髭が擽ったい。

「んっ…、」

さらに脚を開かされ、ぐっと腰を深く押し込まれてしまえば、“妬く”どころではなかった。


僕はおかしいのか、妬くっていうより…ヴェダの気持ちよさそうな甘い声で興奮してしまう。

彼が当番の夜、僕はいつも1人でこの部屋にいるから、漏れ聞こえてくる甘い声や壁の隙間から見える彼の痴態で自慰をしてしまうこともあった。みんな僕が覗いてる前提でわざと見せつけるみたいにヴェダを抱くから余計に…。

興奮しちゃうのは、僕自身がされたことを思い出してしまうせいでもあるかも…。プロキオの“太いの”でナカを擦られると、ちょうどいいところに当たるんだよね。


「んぁ…、ギーウス、いきなり奥ッ…、」

気もそぞろな僕の意識を引き寄せるように、凶器みたいなサイズを最初から全部押し込まれた。

「健気に呑み込んで…。すっかりオレの形を覚えたな。いい子だ」

言葉で褒められながら、シワがなくなるほど限界まで開かされた穴のフチを指でなぞられるのが堪らない。悪戯な指はそのまま“僕の”を根元から先端まで辿り、“ギーウスの”が収められた下腹部にいやらしく触れてくる。


もう片方の手で優しく頭を撫でられ、口の中を舐めまわされれば、腹の奥まで押し込まれたぶっとくて長い肉杭をキュウキュウ締め付けてしまう。

汗ばんだ額にもキスされると、甘やかされている感じがして嬉しい。

腹を突き破りそうな巨根は狂いそうに過ぎた快楽ばかりを僕に与え続け、甘やかしてはくれないが。


今夜はギーウスの息子さんが泊まっているのだ。必死に手の甲を口に当てて漏れそうになる声を堪えた。







目を覚ますとまだ部屋は暗かった。隣にギーウスはいないが、ベッドは温かいから部屋を出て行ってそんなに時間は経っていないと思われた。

音を立てないようにドアを開け、そっと部屋を出てみると、階下からランプの光が見え、抑えられたような2人の男の話し声か聞こえてきた。


『母さんに会ってやれよ。ヴェダだってもう大人だ。親父が側にいなくたって大丈夫だろう?」

リゲルさんの声だ。ヴェダの名前が出て、思わず耳を澄ましてしまう。

『お前たち4人をたった1人で立派に育てあげてくれた彼女に、今更合わせる顔があると思うか?』

『親に捨てられた子どものために、オレたち4人と母さんを置いて山籠りだもんな』

先ほどまでの優しそうな声はなりを顰め、皮肉っぽい響きに驚く。

『お前たちの母さんは立派な女性だ。生まれたての赤ん坊だったヴェダを育て、『あの子を1人にするな』とオレの尻を叩いて家から追い出したのは彼女の方だぞ』

そうか。髪や瞳の色を忌避されて村から追い出されることになったヴェダを1人にしないために、ギーウスをこの小屋へ送り出したのだ。

アウロラさん、強くて優しい人なんだ…。



『それに、孫が生まれたと聞いた。彼女は1人じゃないだろ?』

『あぁ、プロキオさんから聞いたのか。もう生まれて5年だ。だというのに、遠くの村から嫁に来てくれた義姉さんにさえまだ会ったことがないだろう』

孫がいるんだ、ギーウス。

『祝いの品として大物を狩って贈った筈だ』

『…そういう話をしてるんじゃない。理由をつけてまで山を下りないのは、あの男のせいか? プロキオさんの恋人かと思ったら、親父と付き合ってんのかよ』

あの男…ってもしかして僕のこと?!

『オレの部屋まで声が聞こえてきたぞ』

えー…。僕、声を抑えてたんだけどなぁ。ヴェダの魅力的な甘い声を聞いて勘違いしてない?



はぁ。

嫌だなぁ。



僕は暗い階段をゆっくり下ると、

「ギーウス。山を下りて、奥さんと暮らしなよ」

そう言葉を絞り出した。

明るい声、平気そうな顔をして。

「忙しい時期とか、大物を狩る時はここに戻ってきてほしいけど…。家族と過ごせる時間には限りがあるんだからさ」

家に帰ってくることを望まれているなんて、幸せなことだと思う。

それに、性欲が抑えられなくなったら何時でも山に戻ってくればいい。

「…アルト」

この場所から頼りになるギーウスがいなくなるなんて、考えただけで涙が出そう。

僕にとって彼は、既に『家族』だった。

父様とは違うけど、心の支えのように思っているんだ。


「ヴェダには僕がいるから大丈夫」

声が震えてないかな。目の奥が熱い。ここは暗いから、僕の顔が見えていないといいな。


「ほらこの人だってそう言ってる。親父。母さんのところに帰ってやりなよ」

リゲルさんの言葉と僕の言葉を噛み締め、考え込むようにギーウスは目を閉じる。



「…分かった。その代わり、リゲル。お前がこの小屋へ残ってくれるか?」

「もちろん、そのつもりだ」

リゲルさんには妻子がいないそうだ。小屋への常駐が可能らしい。





翌朝、プロキオの馬車に乗って、ギーウスは麓の村へ帰って行った。


僕は涙を流すヴェダを抱きしめて、自身の涙を隠した。僕がギーウスの背中を押したのだ。泣くことなど許されない。
















「ただいま」

ギーウスが帰ってきた。


「おかえりなさい。…って、戻ってくるの早くない?」

しばらく会えない覚悟でその背中を見送ったのに、あれからまだ4日しか経ってない。


なんと、夜明けと同時に徒歩で山を登って帰ってきたらしい。

しかもやっぱり小屋に暮らすって。



「それがなァ…」

薪割りに畑の雑草抜き、家の修繕をやり終えてしまうと何もすることがなくなってしまったらしい。

ギーウス、薪割りとか草抜きとかすごい早く終わらせちゃうもんね…。かといって、家事は出来ないみたいだし。焚き火で肉や魚を焼く、とかは出来るんだけどね。


家に3日いたら、アウロラさんに『邪魔』って言われたそうだ…。 

15年も家にいなかった人。しかも村一番の大男が1人いるだけで、すごい圧迫感なんだって…。

『あなたのこと愛してるけど、たまに帰って来てくれればいいわ』って。

母親のドライな言葉に、リゲルさんが唖然としてる。




「「ギーウス!!!」」

ヴェダと僕はギーウスに飛び付いた。

僕たちの身体を、まるで子どもにするように片腕ずつで軽々と抱き上げてしまう太くて逞しい腕。

胸が熱くなった。

奥さんの元に帰ったら、『たまにしか会えなくなっちゃう』って覚悟してたのに…。


床に下ろした僕たちの背中から尻を撫で回す不埒な指にさえ、背中がぞくぞくした。

『抱かれるのは仕事』って言ってたヴェダも興奮した顔してる。

ギーウスがいなくなって、落ち込んだ僕たち。リゲルさんの目もあり、誰ともシてなかったから…。


今夜は2人で彼に抱いてもらおう。

ヴェダと視線を交わして頷き合うと、左右からギーウスの唇に口付けた。


濡れた音を立てながら、舌を絡めた深いキスをヴェダと僕に返してくれるギーウス。

リゲルさんの驚いたような視線を背中に感じるけど、気にしないことにする。

ごめんね。

あなたのお父さんは僕たちとのセックスが大好きみたい。

僕たちも彼のことが大好きなんだ。

帰ってきてくれて嬉しい。




ちなみに、井戸やグードゥヤを見たリゲルさんの様子がおかしかった理由だけど。

子どもの頃、兄弟4人揃ってこの小屋へ遊びに来たことがあるんだって。

遊びに、といっても相当勇気を出した大冒険だったのだろう。16歳だった僕でさえ1人で泣きそうになったあの山道を、子どもたちだけで登ってきたなんてすごいよね。

で、結局お父さんには会えないまま、山を下りてしまったんだって。


何故ならその時、井戸の側で肌を晒して身体を洗っていたグードゥヤと出会ったから。その姿を見て、怖くて逃げ帰ったらしい。

まだこの小屋に来たばかりだったグードゥヤは、酷い火傷で左半身が今よりもっと爛れていたそうだ。眼帯もしていなかったというから、子どもの目には恐ろしく見えても仕方なかったのかもしれない。

あまりの恐怖に『化け物!!』と叫んで村へ逃げ帰った子どもたちと、そんな言葉を投げつけられて逃げられたグードゥヤ。

互いに深い心の傷を残し合ってしまった。

大人になったリゲルさんはグードゥヤと話をして、仲良くなれたみたい。リゲルさんは文字を読むことが出来たから、主に筆談で。

あの時は怖がって、怖がらせて、ごめんなさいって謝り合ってた。



リゲルさんはお父さんに憧れていたのか、最初はギーウスと同じ大きな剣を持ってたんだ。

でも最近はグードゥヤから弓矢の使い方、作り方を教わっている。

2人は同い年なんだって。

グードゥヤに信頼できる人、笑顔が増えて本当に良かったと思う。

ヴェダと手を繋いで、顔を見合わせて、ついニコニコしちゃった。
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