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家族と真名 〜ギーウス
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「ねぇ、ギーウス」
僕を抱いたまま横になった逞しい身体。
「ん? なんだ」
することが終わったら、すぐに部屋へ戻ろうとした薄情な髭。ギュッと抱きつくとベッドに戻ってきてくれる。
そんな夜を3回繰り返したら、こうして甘やかすみたいに抱いて寝てくれるようになったのだ。
まぁ、目が覚めるといなくなってるんだけどね。
だってさぁ…。中に出されたあとすぐに部屋を出て行かれたら、なんかこの部屋はトイレっぽいというか。僕が“便器扱い”されてるみたいでイヤじゃないか。
そんな僕と違って、ヴェダは終わると1人で寝たいみたい。やっぱり仕事だと思ってるからだろう。今夜は僕が当番だから、彼はゆっくり眠れてる筈。
ちなみに僕は彼の恋人だから、朝まで一緒だよ。
「僕さ。四男だから家を出されたんだけど、」
「あぁ」
この小屋に住んで半年。
あの家を出てちょうど1年。
僕は今日、17になった。
「両親は僕にだけ冷たかったんだ。…ギーウスにはなんでか分かる?」
離れて暮らしているとはいえ、4人の子どもがいるという彼なら、僕がずっと気になっている疑問の答えに辿りつけるかも、と思ったのだ。
「親は2人とも血ィ繋がってンだよな? そンで…兄貴が3人、弟が1人だったな。弟は甘やかされてンだったか?」
「うん」
「お前が家を出ることは、ガキの頃から決まってたのか?」
「…たぶんその筈。『外に出ても生きていけるよう、勉強に励みなさい』って小さい頃から言われてきたから」
「そうか…」
まぁ、『励みなさい』も何も、基本は図書室での自主学習だったけど…。
ギーウスは僕の髪をゆっくりと撫でながら、考えているようだ。
「将来のお前が家に執着しないように。お前を親が手放せるように。…それで距離を置いたのかもしれん」
態と距離を置いた…?
僕に向けた両親の目は…、いや。彼らは必要な時以外、こちらを見ることはなかった。
敢えて、僕を見ないようにしていた?
「…それって、『将来殺して食べる予定のニワトリには名前を付けない』みたいなことじゃん」
「おい…。ニワトリってお前」
「なら弟は?!」
僕は思わず大声を出していた。
…しまった。隣の部屋で寝てるヴェダが起きてしまう。
「…後悔したんじゃねェのか。お前へ冷たくしたこと」
「後悔…した?」
「ンで、お前には引っ込みつかなくてそのまま。弟にはお前に注げなかった分の愛情を注いだ……とかじゃねェかと、オレは思う」
「そんな……っ、」
平気なフリをしたかったのに、声が揺れてしまった。
ギーウスは、そんな僕の頬を両手で押さえて、目を合わせる。
「お前は実家に未練があるか?」
実家…。兄とは王へ届けてもらう手紙のやり取りをしてたけど。
「考えてみたら…ないかも」
ここで暮らすようになって、最後に1通だけ手紙を書いた。この場所を特定されないよう、プロキオに頼んで遠くの町から出してもらったのだ。
あれから半年。
僕は旅をやめたか、死んだと思われているだろう。
「まぁ兄貴たちがくれた剣と時計を、お前が相当大事にしてることは分かるぞ。あと植物図鑑か…」
1番上の兄がくれた懐中時計は毎日欠かさずゼンマイを巻き続けている。風邪をひいて体調が悪い日も、6人がかりで愛された日も。
高価な物だ。旅に出てからしばらく、見えないようカバンの奥に隠した。
ある時ふと思い立ち、時計の蓋を開いてみた。時を止めていた秒針を見て、何故だか涙が出た。
急いで向かったのは王都の時計塔。僕はゼンマイを巻き、時間を合わせ直した。
リューズを回し、耳を当て、しばらく時計の音を聴く。それがあの日からの習慣になった。
2番目の兄がくれた剣は僕のお守りだ。
片手でも扱える重さの、シンプルな長剣。
華美な装飾は盗難の危険があるからって、兄が勧めてくれたものを選んだ。
この1年、折れも欠けもせずに僕の命を守ってくれている。
もちろん使ったら手入れを欠かさないし、出来るだけ毎日振るようにしてる。
兄が教えてくれた技を、僕は生涯忘れない。
図鑑は3番目の兄が子どもの頃にくれたものだった。
たまに図書室で教えてくれたことも、全部覚えてる。
今思い返してみると、3番目の兄は必死だったのだろう。家には跡継ぎの嫡男が1人いればいいのだ。だからこそ2番目の兄は騎士になったわけだし。
僕の能力次第では家を出されるのは兄の方だったかもしれない。自分の勉強で忙しかった筈なのに、僕のためにわざわざ時間を作ってくれてたのは驚くべきことだった。
最初から『家を出される子』だった自分は、かえって気楽な立場だったのかもしれない。
「なァ。お前の名前は確か、父方の曽祖父と同じだって言ってたよな。父親が尊敬してる人物だったか?」
「よく覚えてるね」
「尊敬してる先祖の名前を付けるんだ。少なくとも父親は、お前が生まれたことを喜んでいたと思うぞ」
『アルトイール』という名前。
でも今の僕は、その名を捨てて、『アルト』として生きてきた。
「父は…僕が生まれて喜んだ?」
「あぁ、オレはそう思う」
父様…。
「ねぇ、ギーウス。お願いがあるんだ」
「ん? なんだ」
「…一度だけ僕のこと『アルトイール』って呼んで。…『愛してる』って言って。…呼んだらその名前は忘れてほしい」
今だけ、この人を父様だと思ってもいいかな?
ギーウスは僕の頬をもう一度押さえると、目を合わせて言った。
「愛してる。アルトイール」
そして唇にキス。
僕、父様とキスしちゃった。どうしよう。
「…忘れねェよ。お前の大切な名前だ」
唇を開かされて、もう一度。
恋人のキス。
何故か涙が溢れた。
「ギーウスは、子どもたちや奥さんに会いたい?」
「正直、子どもたちには会いてェな。…妻には合わせる顔がねェから2度と会わない」
恋人の顔が、子どもを思う父親のものに変わる。
「だがオレは、この場所で狩りをして生きてくって決めた。その肉を食って大きくなってくれりゃあ、オレはそれでいい」
会いたいのに我慢するの?
「…まァ、既にデカくなってるだろうが。そのうちオレのことが知りたくなったら、この小屋へ会いに来るだろ。ンで、狩人になりたければいろいろ教えてやる」
そっか…。
「お前とヴェダのことは抱かせてやらないけどな!」
そっか…。
「うん。僕も6人以外とシたくない」
「あぁ、当たり前だ。…つーわけで、もう一回いいか?」
「…まったく。もう一回だけだからね」
まぁ、『一回』で終わった試しはないんだけど。…例え翌日の身体がツラくなるとしても、性欲を抑える薬をギーウスに使うつもりはさらさらない。
「愛してる。アルトイール」
寄せられた唇から紡がれたのは、僕の真名。
「ん…」
これを呼ばれた者は、呼んだ相手に生涯縛られるという。
「ありがとう。ギーウス」
僕の言葉を聞いた彼はガクリと崩れ落ち、大袈裟なため息を吐いた。
「そこは…『愛してる』って返すトコじゃねェのかよ」
そう言いながらも僕の脚をぱかりと開かさせ、入り口を求めるように、焦らすように、硬くてデカいちんぽの先をスリスリぬるぬると擦り付けてくる。
「僕の恋人はヴェダだからね」
この半年でギーウスをすっかり受け入れ慣れた僕のお尻は、言葉とは裏腹にキュンキュン疼いてしまう。
「ったく。…なぁ、アルト。オレのが欲しいって言えよ」
拗ねたおっさんは可愛くない。
でも、
「…うん。ギーウスのちんぽが欲しい」
そのデカいのを挿れて欲しくて堪らない。
「あぁぁぁ!!!」
声を殺すことなど出来なかった。ぐっしょり濡れて、ギーウスの形を覚えさせられたままだった僕の穴は、化け物みたいな亀頭をひと突きでグポッと奥まで咥え込まされてしまったからだ。
僕たちは、『朝食の準備が出来たよ』とヴェダが起こしに来てくれるまで、深く深く身体を重ね続けたのだった。
…正確には失神した僕を、ギーウスがゆさゆさ揺らし続けていたらしい。
ちなみに、壁越しに僕たちの会話を聞いていたヴェダによって、僕の真名はみんなが知るところとなった。
『僕には本当の名前を教えてくれなかった』って。
ごめんね。
拗ねて膨れた顔も可愛いよ。ヴェダ。
僕を抱いたまま横になった逞しい身体。
「ん? なんだ」
することが終わったら、すぐに部屋へ戻ろうとした薄情な髭。ギュッと抱きつくとベッドに戻ってきてくれる。
そんな夜を3回繰り返したら、こうして甘やかすみたいに抱いて寝てくれるようになったのだ。
まぁ、目が覚めるといなくなってるんだけどね。
だってさぁ…。中に出されたあとすぐに部屋を出て行かれたら、なんかこの部屋はトイレっぽいというか。僕が“便器扱い”されてるみたいでイヤじゃないか。
そんな僕と違って、ヴェダは終わると1人で寝たいみたい。やっぱり仕事だと思ってるからだろう。今夜は僕が当番だから、彼はゆっくり眠れてる筈。
ちなみに僕は彼の恋人だから、朝まで一緒だよ。
「僕さ。四男だから家を出されたんだけど、」
「あぁ」
この小屋に住んで半年。
あの家を出てちょうど1年。
僕は今日、17になった。
「両親は僕にだけ冷たかったんだ。…ギーウスにはなんでか分かる?」
離れて暮らしているとはいえ、4人の子どもがいるという彼なら、僕がずっと気になっている疑問の答えに辿りつけるかも、と思ったのだ。
「親は2人とも血ィ繋がってンだよな? そンで…兄貴が3人、弟が1人だったな。弟は甘やかされてンだったか?」
「うん」
「お前が家を出ることは、ガキの頃から決まってたのか?」
「…たぶんその筈。『外に出ても生きていけるよう、勉強に励みなさい』って小さい頃から言われてきたから」
「そうか…」
まぁ、『励みなさい』も何も、基本は図書室での自主学習だったけど…。
ギーウスは僕の髪をゆっくりと撫でながら、考えているようだ。
「将来のお前が家に執着しないように。お前を親が手放せるように。…それで距離を置いたのかもしれん」
態と距離を置いた…?
僕に向けた両親の目は…、いや。彼らは必要な時以外、こちらを見ることはなかった。
敢えて、僕を見ないようにしていた?
「…それって、『将来殺して食べる予定のニワトリには名前を付けない』みたいなことじゃん」
「おい…。ニワトリってお前」
「なら弟は?!」
僕は思わず大声を出していた。
…しまった。隣の部屋で寝てるヴェダが起きてしまう。
「…後悔したんじゃねェのか。お前へ冷たくしたこと」
「後悔…した?」
「ンで、お前には引っ込みつかなくてそのまま。弟にはお前に注げなかった分の愛情を注いだ……とかじゃねェかと、オレは思う」
「そんな……っ、」
平気なフリをしたかったのに、声が揺れてしまった。
ギーウスは、そんな僕の頬を両手で押さえて、目を合わせる。
「お前は実家に未練があるか?」
実家…。兄とは王へ届けてもらう手紙のやり取りをしてたけど。
「考えてみたら…ないかも」
ここで暮らすようになって、最後に1通だけ手紙を書いた。この場所を特定されないよう、プロキオに頼んで遠くの町から出してもらったのだ。
あれから半年。
僕は旅をやめたか、死んだと思われているだろう。
「まぁ兄貴たちがくれた剣と時計を、お前が相当大事にしてることは分かるぞ。あと植物図鑑か…」
1番上の兄がくれた懐中時計は毎日欠かさずゼンマイを巻き続けている。風邪をひいて体調が悪い日も、6人がかりで愛された日も。
高価な物だ。旅に出てからしばらく、見えないようカバンの奥に隠した。
ある時ふと思い立ち、時計の蓋を開いてみた。時を止めていた秒針を見て、何故だか涙が出た。
急いで向かったのは王都の時計塔。僕はゼンマイを巻き、時間を合わせ直した。
リューズを回し、耳を当て、しばらく時計の音を聴く。それがあの日からの習慣になった。
2番目の兄がくれた剣は僕のお守りだ。
片手でも扱える重さの、シンプルな長剣。
華美な装飾は盗難の危険があるからって、兄が勧めてくれたものを選んだ。
この1年、折れも欠けもせずに僕の命を守ってくれている。
もちろん使ったら手入れを欠かさないし、出来るだけ毎日振るようにしてる。
兄が教えてくれた技を、僕は生涯忘れない。
図鑑は3番目の兄が子どもの頃にくれたものだった。
たまに図書室で教えてくれたことも、全部覚えてる。
今思い返してみると、3番目の兄は必死だったのだろう。家には跡継ぎの嫡男が1人いればいいのだ。だからこそ2番目の兄は騎士になったわけだし。
僕の能力次第では家を出されるのは兄の方だったかもしれない。自分の勉強で忙しかった筈なのに、僕のためにわざわざ時間を作ってくれてたのは驚くべきことだった。
最初から『家を出される子』だった自分は、かえって気楽な立場だったのかもしれない。
「なァ。お前の名前は確か、父方の曽祖父と同じだって言ってたよな。父親が尊敬してる人物だったか?」
「よく覚えてるね」
「尊敬してる先祖の名前を付けるんだ。少なくとも父親は、お前が生まれたことを喜んでいたと思うぞ」
『アルトイール』という名前。
でも今の僕は、その名を捨てて、『アルト』として生きてきた。
「父は…僕が生まれて喜んだ?」
「あぁ、オレはそう思う」
父様…。
「ねぇ、ギーウス。お願いがあるんだ」
「ん? なんだ」
「…一度だけ僕のこと『アルトイール』って呼んで。…『愛してる』って言って。…呼んだらその名前は忘れてほしい」
今だけ、この人を父様だと思ってもいいかな?
ギーウスは僕の頬をもう一度押さえると、目を合わせて言った。
「愛してる。アルトイール」
そして唇にキス。
僕、父様とキスしちゃった。どうしよう。
「…忘れねェよ。お前の大切な名前だ」
唇を開かされて、もう一度。
恋人のキス。
何故か涙が溢れた。
「ギーウスは、子どもたちや奥さんに会いたい?」
「正直、子どもたちには会いてェな。…妻には合わせる顔がねェから2度と会わない」
恋人の顔が、子どもを思う父親のものに変わる。
「だがオレは、この場所で狩りをして生きてくって決めた。その肉を食って大きくなってくれりゃあ、オレはそれでいい」
会いたいのに我慢するの?
「…まァ、既にデカくなってるだろうが。そのうちオレのことが知りたくなったら、この小屋へ会いに来るだろ。ンで、狩人になりたければいろいろ教えてやる」
そっか…。
「お前とヴェダのことは抱かせてやらないけどな!」
そっか…。
「うん。僕も6人以外とシたくない」
「あぁ、当たり前だ。…つーわけで、もう一回いいか?」
「…まったく。もう一回だけだからね」
まぁ、『一回』で終わった試しはないんだけど。…例え翌日の身体がツラくなるとしても、性欲を抑える薬をギーウスに使うつもりはさらさらない。
「愛してる。アルトイール」
寄せられた唇から紡がれたのは、僕の真名。
「ん…」
これを呼ばれた者は、呼んだ相手に生涯縛られるという。
「ありがとう。ギーウス」
僕の言葉を聞いた彼はガクリと崩れ落ち、大袈裟なため息を吐いた。
「そこは…『愛してる』って返すトコじゃねェのかよ」
そう言いながらも僕の脚をぱかりと開かさせ、入り口を求めるように、焦らすように、硬くてデカいちんぽの先をスリスリぬるぬると擦り付けてくる。
「僕の恋人はヴェダだからね」
この半年でギーウスをすっかり受け入れ慣れた僕のお尻は、言葉とは裏腹にキュンキュン疼いてしまう。
「ったく。…なぁ、アルト。オレのが欲しいって言えよ」
拗ねたおっさんは可愛くない。
でも、
「…うん。ギーウスのちんぽが欲しい」
そのデカいのを挿れて欲しくて堪らない。
「あぁぁぁ!!!」
声を殺すことなど出来なかった。ぐっしょり濡れて、ギーウスの形を覚えさせられたままだった僕の穴は、化け物みたいな亀頭をひと突きでグポッと奥まで咥え込まされてしまったからだ。
僕たちは、『朝食の準備が出来たよ』とヴェダが起こしに来てくれるまで、深く深く身体を重ね続けたのだった。
…正確には失神した僕を、ギーウスがゆさゆさ揺らし続けていたらしい。
ちなみに、壁越しに僕たちの会話を聞いていたヴェダによって、僕の真名はみんなが知るところとなった。
『僕には本当の名前を教えてくれなかった』って。
ごめんね。
拗ねて膨れた顔も可愛いよ。ヴェダ。
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