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9 蚊遣と熊の毛皮
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朝、眩しい光に目を覚ます。
窓の外は澄み切った青空。
「うん。今日ここを出ていこう」
『出ていく』と言った自分に苦笑する。
たった5日、この小屋に泊まらせてもらっただけだ。旅の途中、少し立ち止まっただけのこと。
涙が乾いて、少し瞼が腫れぼったい気がする。
結局この場所で手に入れたのは、12年前にあった『オオカエンガエル』による被害情報と生息地の情報、『巨大鹿』の捕獲情報くらい。
オオカエンガエルの沼地はこれから何も知らないフリで調べに行くとして…、
グジャの肌に残るケロイドのこと、巨大鹿のこと。この場所に関することを王に報告するのはやめようと思う。
「僕は、この小屋には来なかった」
忘れるんだ。
ヴェダのこと。
昨夜、プロキオが言っていた。
『君がいつもここで待っていてくれるから、僕はがんばれるんだよ』
あの言葉を聞いて、改めて『この場所には彼が必要だ』って思い知らされたんだ。
あんなに綺麗な髪と瞳の色を否定した、彼の両親と閉鎖的な村。
毎晩、違う男に抱かれること。
それを『当たり前』だと信じている、彼が可哀想だと思った。
彼をここから助け出して、外の世界を見せてあげたいと思った。
でも、そもそも彼は僕に助けを求めてなどいなかった。
村のために働くみんなのお世話をすること。
それが仕事だと彼は胸を張って言った。
彼は自分の仕事に誇りを持っている。
この場所でみんなと暮らしている方が、きっとヴェダにとっては幸せなんだ。
僕は、みんなが好きだ。
ヴェダは綺麗で声も心地いい。花の匂いがして、笑顔が可愛いのに色っぽい。みんなのために頑張る彼を、僕は心から尊敬している。
ギーウスは強くて頼りになるし、ちゃんと見ていて褒めてくれる。大きな手で撫でてくれる。
ウルスはいつも意地悪だし、笑った顔が胡散臭い。でも、困った時には必ず助言をくれる。
アルクルは弟のことが好きすぎて本当に仕方がないおっさんだけど、なんか放っておけない。
グジャはいつも側にいてさりげなく支えてくれる。彼に子犬みたいな瞳を向けられると弱い。
プロキオは思い込みが激しいところはあるけど、年下の言葉でも素直に受け止めてくれる。
ヴェダの恋人になりたかったなぁ。
みんなの仲間になりたかった。
でも、彼らは僕を信じてくれていない。
ギーウスに頼んでも、大切な倉庫を見せてくれなかったのがその証だ。所詮僕は余所者なんだから。
…だから、いつまでもこの場所にいることは許されない。
家族に捨てられることが決まっていた僕を、必要としてくれたのは王子だけだった。
僕は王になった彼のために、旅を続ける。
◇
「はァ?! 出ていく…だと?!」
ギーウスのこんな声、初めて聞いた。
朝食の後。
食器の片付けを終えた僕は、話を切り出した。
ここに来てからたくさん作った薬は、必要最低限のもの以外、全て置いていくことにした。
だから大した荷物もない。
旅立つ準備はできている。
「行かないで。僕、アルトのことが好きだよ」
ヴェダ…? …好き?
「出ていこうなどと思えぬように、縛り付けて快楽漬けにしてやればいい」
え…、いきなり何言ってるの? アルクルが怖い。お酒飲んでないよね?
「むりやり…だめ」
「グジャ…!!」
優しい言葉に助けを求めて抱きつけば、
ん、硬い…ものが?
「おれ…アルト…すきだ」
どうして?!
食事を作る時、グジャのだけ唇が痛くないように具を小さく切ったから?!
シュンキのオイルをぬりぬりしたから?!
「ヴェダとグジャの初恋か。これは応援してやらねばな」
うんうん、みたいなギーウス。お父さん?! え、はつこ…い? 本当に?
「ヴェダが望むなら、どんなことをしても君は彼を助けるんだろう?」
ウルス…。それ今言う…? どうなの?
「僕、1人で全員の相手をするの、身体がツラいよ。アルト…助けて?」
それってどういう? 僕は今、ヴェダに助けを求められた? …『全員の相手』?
「僕のことも忘れないでほしいな」
わ、プロキオ?! なんで?!
「ここじゃあ狭いね。蚊遣を焚いて、外でシようか?」
そういう意味でアンタに蚊遣を勧めたわけじゃ…。ちょっと待って!!
◇
なんでこうなった…?
地面に敷かれた大熊の毛皮。
そこに服を剥かれて横たえられた僕。
「へぇ。可愛い顔なのに結構いい身体してるんだね」
ウルス、可愛いって言うな! あとこっち見るなよ! そんな…上から下まで舐めるみたいに。
そりゃあ子どもの頃から剣術をやってるし、旅の途中で人や獣と戦うこともあるから、2番目の兄まではいかないけど一応筋肉はついてる。
熊の毛皮は獣クサいし、背中がゴワゴワする。誰だよこれ選んだの。…プロキオお前か!!
ほらー、アルクルの目が血走っちゃってるじゃないかー!!
蚊遣の煙。
近くに置きすぎ。あと個数多すぎ。
あれ? この甘い匂い…やばい。
この成分には耐性がないや。
頭がボーッとしてきた。
服を脱ぎ落としながらヴェダが僕に覆い被さってくる。
チュ。
柔らかい…唇が。
「目を閉じて、アルト」
吐息みたいに優しくて甘い声を耳に注がれて、言う通りにしてしまう。
舌で誘われて、唇が開かされる。
チュ、クチュ。
甘い。
あ、離れて行ってしまう。
チュ。
今度は少しカサついた唇。顎にゴワゴワの感触。
チュ。
柔らかい唇。欠けた歯。額に触れた髪がくすぐったい。
チュ、グヂュ。
少し辛い、ワインの味。…うそ、飲んでるの?
チュ。
ペトリとしたオイルの感触。今日も使ってくれてるんだ?
チュ、チュ。
やっぱり少し臭う。この臭いに合う香りを探さないと…。ん…蚊遣の匂いなら合うかも? ちょっと待て、唾液を飲ませようとするな…。
離れていく6人目の唇に、パチリと目を開いた。
そういえばオレ、みんなにキスされて…?
その瞬間、アルクルの大きな手が乱暴に僕の足首を掴んだ。
グイッと広げるように持ち上げられる脚。
「え…。や…、いやだ」
「プロキオが来た次の日はね、全員でするんだよ」
ヴェダが無邪気な声で僕の耳に囁く。
…それってつまり?
だめだ。大好きなヴェダの言葉なのに、意味が理解できない。
ギーウスが大きな瓶を持ってきた。
白くてトロリとしてそうな中身。この液体、どこかで見たことある気がする。
「ギーウス。フグルーの樹液は痒くてツラいから、アルトに使うのはやめてあげて」
そうか。フグルーだ! …って、え? 僕に使う気?
ヴェダが張形に使われていた白い粘液はこれだったらしい。潤滑剤として使われるだけでなく、処女さえも娼婦に変えてしまうほどの催淫効果があると言われているが、実際はナカが痒くなって仕方ないだけという…。
あー、『あなたのちんぽで掻いて』…的な? あと、挿入したちんぽも痒くなって腰を止められなくなる的なやつだろうか。
「僕もフグルーは反対だなぁ」
ヴェダだけでなくウルスも加勢してくれてる。使うの止めてくれて良かった。
「正気のままでいてもらわないと。僕たちのモノを受け入れてるって、ちゃんと分からせないといけないからね」
え…、ウルス?
「これ…つかうと…いたくない…かも」
グジャ。シュンキのオイルはそんな使い方をするために渡したわけじゃ…。
窓の外は澄み切った青空。
「うん。今日ここを出ていこう」
『出ていく』と言った自分に苦笑する。
たった5日、この小屋に泊まらせてもらっただけだ。旅の途中、少し立ち止まっただけのこと。
涙が乾いて、少し瞼が腫れぼったい気がする。
結局この場所で手に入れたのは、12年前にあった『オオカエンガエル』による被害情報と生息地の情報、『巨大鹿』の捕獲情報くらい。
オオカエンガエルの沼地はこれから何も知らないフリで調べに行くとして…、
グジャの肌に残るケロイドのこと、巨大鹿のこと。この場所に関することを王に報告するのはやめようと思う。
「僕は、この小屋には来なかった」
忘れるんだ。
ヴェダのこと。
昨夜、プロキオが言っていた。
『君がいつもここで待っていてくれるから、僕はがんばれるんだよ』
あの言葉を聞いて、改めて『この場所には彼が必要だ』って思い知らされたんだ。
あんなに綺麗な髪と瞳の色を否定した、彼の両親と閉鎖的な村。
毎晩、違う男に抱かれること。
それを『当たり前』だと信じている、彼が可哀想だと思った。
彼をここから助け出して、外の世界を見せてあげたいと思った。
でも、そもそも彼は僕に助けを求めてなどいなかった。
村のために働くみんなのお世話をすること。
それが仕事だと彼は胸を張って言った。
彼は自分の仕事に誇りを持っている。
この場所でみんなと暮らしている方が、きっとヴェダにとっては幸せなんだ。
僕は、みんなが好きだ。
ヴェダは綺麗で声も心地いい。花の匂いがして、笑顔が可愛いのに色っぽい。みんなのために頑張る彼を、僕は心から尊敬している。
ギーウスは強くて頼りになるし、ちゃんと見ていて褒めてくれる。大きな手で撫でてくれる。
ウルスはいつも意地悪だし、笑った顔が胡散臭い。でも、困った時には必ず助言をくれる。
アルクルは弟のことが好きすぎて本当に仕方がないおっさんだけど、なんか放っておけない。
グジャはいつも側にいてさりげなく支えてくれる。彼に子犬みたいな瞳を向けられると弱い。
プロキオは思い込みが激しいところはあるけど、年下の言葉でも素直に受け止めてくれる。
ヴェダの恋人になりたかったなぁ。
みんなの仲間になりたかった。
でも、彼らは僕を信じてくれていない。
ギーウスに頼んでも、大切な倉庫を見せてくれなかったのがその証だ。所詮僕は余所者なんだから。
…だから、いつまでもこの場所にいることは許されない。
家族に捨てられることが決まっていた僕を、必要としてくれたのは王子だけだった。
僕は王になった彼のために、旅を続ける。
◇
「はァ?! 出ていく…だと?!」
ギーウスのこんな声、初めて聞いた。
朝食の後。
食器の片付けを終えた僕は、話を切り出した。
ここに来てからたくさん作った薬は、必要最低限のもの以外、全て置いていくことにした。
だから大した荷物もない。
旅立つ準備はできている。
「行かないで。僕、アルトのことが好きだよ」
ヴェダ…? …好き?
「出ていこうなどと思えぬように、縛り付けて快楽漬けにしてやればいい」
え…、いきなり何言ってるの? アルクルが怖い。お酒飲んでないよね?
「むりやり…だめ」
「グジャ…!!」
優しい言葉に助けを求めて抱きつけば、
ん、硬い…ものが?
「おれ…アルト…すきだ」
どうして?!
食事を作る時、グジャのだけ唇が痛くないように具を小さく切ったから?!
シュンキのオイルをぬりぬりしたから?!
「ヴェダとグジャの初恋か。これは応援してやらねばな」
うんうん、みたいなギーウス。お父さん?! え、はつこ…い? 本当に?
「ヴェダが望むなら、どんなことをしても君は彼を助けるんだろう?」
ウルス…。それ今言う…? どうなの?
「僕、1人で全員の相手をするの、身体がツラいよ。アルト…助けて?」
それってどういう? 僕は今、ヴェダに助けを求められた? …『全員の相手』?
「僕のことも忘れないでほしいな」
わ、プロキオ?! なんで?!
「ここじゃあ狭いね。蚊遣を焚いて、外でシようか?」
そういう意味でアンタに蚊遣を勧めたわけじゃ…。ちょっと待って!!
◇
なんでこうなった…?
地面に敷かれた大熊の毛皮。
そこに服を剥かれて横たえられた僕。
「へぇ。可愛い顔なのに結構いい身体してるんだね」
ウルス、可愛いって言うな! あとこっち見るなよ! そんな…上から下まで舐めるみたいに。
そりゃあ子どもの頃から剣術をやってるし、旅の途中で人や獣と戦うこともあるから、2番目の兄まではいかないけど一応筋肉はついてる。
熊の毛皮は獣クサいし、背中がゴワゴワする。誰だよこれ選んだの。…プロキオお前か!!
ほらー、アルクルの目が血走っちゃってるじゃないかー!!
蚊遣の煙。
近くに置きすぎ。あと個数多すぎ。
あれ? この甘い匂い…やばい。
この成分には耐性がないや。
頭がボーッとしてきた。
服を脱ぎ落としながらヴェダが僕に覆い被さってくる。
チュ。
柔らかい…唇が。
「目を閉じて、アルト」
吐息みたいに優しくて甘い声を耳に注がれて、言う通りにしてしまう。
舌で誘われて、唇が開かされる。
チュ、クチュ。
甘い。
あ、離れて行ってしまう。
チュ。
今度は少しカサついた唇。顎にゴワゴワの感触。
チュ。
柔らかい唇。欠けた歯。額に触れた髪がくすぐったい。
チュ、グヂュ。
少し辛い、ワインの味。…うそ、飲んでるの?
チュ。
ペトリとしたオイルの感触。今日も使ってくれてるんだ?
チュ、チュ。
やっぱり少し臭う。この臭いに合う香りを探さないと…。ん…蚊遣の匂いなら合うかも? ちょっと待て、唾液を飲ませようとするな…。
離れていく6人目の唇に、パチリと目を開いた。
そういえばオレ、みんなにキスされて…?
その瞬間、アルクルの大きな手が乱暴に僕の足首を掴んだ。
グイッと広げるように持ち上げられる脚。
「え…。や…、いやだ」
「プロキオが来た次の日はね、全員でするんだよ」
ヴェダが無邪気な声で僕の耳に囁く。
…それってつまり?
だめだ。大好きなヴェダの言葉なのに、意味が理解できない。
ギーウスが大きな瓶を持ってきた。
白くてトロリとしてそうな中身。この液体、どこかで見たことある気がする。
「ギーウス。フグルーの樹液は痒くてツラいから、アルトに使うのはやめてあげて」
そうか。フグルーだ! …って、え? 僕に使う気?
ヴェダが張形に使われていた白い粘液はこれだったらしい。潤滑剤として使われるだけでなく、処女さえも娼婦に変えてしまうほどの催淫効果があると言われているが、実際はナカが痒くなって仕方ないだけという…。
あー、『あなたのちんぽで掻いて』…的な? あと、挿入したちんぽも痒くなって腰を止められなくなる的なやつだろうか。
「僕もフグルーは反対だなぁ」
ヴェダだけでなくウルスも加勢してくれてる。使うの止めてくれて良かった。
「正気のままでいてもらわないと。僕たちのモノを受け入れてるって、ちゃんと分からせないといけないからね」
え…、ウルス?
「これ…つかうと…いたくない…かも」
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