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6 アルクル
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しばらく続いた野宿と、連日の睡眠不足。
狩りについて行った緊張と疲れ。
ヴェダが作ってくれた美味しい晩ごはん。
怠く重い身体にお腹いっぱいの幸せを詰め込んだ僕は、ようやく深い眠りの世界へ旅立つことができた。
…はずだった。
◇
…うるさい。
なんか…ガタガタ…すごい音。
「オラッ! お前もケツを動かせ!」
男の怒鳴り声。
バチッ、と何かを叩く音。
「いだっ!!」
悲鳴みたいな叫び声。
ガタガタガタ…という音は鳴り止まない。
…ヴェダ。
…まさか暴力?
今夜ヴェダとお湯を使っていたのはアルクルだ。
熊による爪痕が酷い、あまり喋らない印象の男。
怖そうな見た目だけど、決して暴力をふるうようには見えなかった。だからこそ、今夜は隣室を気にせずベッドで眠ることに決めたのだ。…眠さが限界だったし。
眠くて鉛のように重い身体を起こし、ふらつきながら布団を出ると、床に膝をついて壁の隙間から隣の部屋を覗く。
…むわりとした汗と…酒の匂い。
そういえば、今夜のアルクルはワインをがぶがぶ水みたいに飲んでいた…。いつもの食事ではあんまり飲まないのに。
ガタガタという音は…ギシギシを超えて激しく揺れるベッドの音だった。
ベッドの上。そこには裸に剥かれたヴェダの尻を、荒ぶる獣のように後ろから穿つアルクルの姿があった。いつもの物静かな雰囲気とは大違いだ。
バチッというのは、ヴェダが尻を叩かれている音。
打っているのは平手。鞭などの道具は使っていない。
ヴェダ…。君が『助けて』と言ってくれたら、僕は…。
「もっと締めろ!! オラ!!」
バチッ
「ぐっ!!」
悲鳴を堪えるみたいな声。
床をベッドの足がガタガタ跳ねてしまうほど、激しい抽挿。
「あぁ!! あっ、あっ、あっ、」
…これは…嬌声?
ヴェダの甘い声に頭が冷えた。
暴力ではなく、これはプレイなのかもしれない。
アルクルのちんぽはどれだけ長いのだろう。
あんなに腰を引いても抜けないなんて…。
ヴェダの尻とアルクルの腰がパチュンと密着するくらい、一番奥まで突っ込まれた瞬間、
「おぐまでっ!! おぐまでぎでるぅぅ!!」
ギーウスの時みたいな凄い声を出して、爪先が耐えるみたいに丸まって…。
前へ逃れようとして腰を引き戻され、またお尻を叩かれてる。
あぁ、でも。
ヴェダの表情は快楽に蕩けているから大丈夫だろうか。『痛い』と叫びながらも涎を垂らして…悦んでいるように見える。
強く腰を打ちつけられるたびにブラブラ揺れてるヴェダのちんぽからも、壊れたみたいにダラダラと精液が流れ出して止まらないみたい。
お尻は真っ赤になっているけど…。
…心配だ。
心配…なのに。
暴力じゃないかも…と思ったら気が抜けてしまった。
…だめだ。
もう、…瞼が重くて限界だ。
…ヴェダ、ごめん。
明日、湿布を作って…あげる……から…
◇
すっかり熟睡してしまった。
…硬くて冷たい床の上で。
節々は痛むけれど、嘘みたいに頭がすっきりして身体も軽い。
翌朝のベッド。
僕とは正反対に、身体中が痛いと寝込むヴェダと、頭が痛いと二日酔いで寝込むアルクルの姿があった。
二日酔いには利尿効果のある薬。身体の痛みには薬湯と軟膏、湿布薬を作った。あと、掠れた声に効くシロップも。
あ…、2人ともしっかり水分を摂らせなきゃ。
よく見ると、ヴェダの手首と足首には拘束したような跡があった。
クソ! 首をキツく絞められたのか、喉にも酷い手形が付いている。
え…真っ赤に腫れた両方の乳首。その周りにもくっきりと歯形が…。嘘だろ! ちんぽにも歯形がある!! 尻たぶにも!!
ごめん。這ってでも助けに行けばよかった。
ごめんね、ヴェダ。
痛み止めの薬湯を飲ませ、涙目で軟膏を塗り、湿布を貼り終えると、
「ありがとう、アルト。少しずつ楽になってきたよ」
ヴェダが弱々しくだが微笑んでくれた。
「痛くされるのには慣れてるけど、治してもらうのは初めて。…嬉しい」
は?
「治療してもらったことがないの?」
「だって、血や骨が出てるわけでもないのに必要ないでしょう」
打撲や圧迫による内出血、擦り傷だって怪我だ。治療するに決まってる。…決まってる…よな?
「…ヴェダ。これは怪我だよ。僕は、君が痛くてツラい思いをするのは嫌だ」
「アルト…」
ヴェダの綺麗な瞳に涙が溜まっていくのを見た。
「そんな優しい言葉…もらったのも初めて」
『ありがとう』そう言って、ゆっくり瞼を閉じてゆく。
痛み止めの薬が効いて、眠くなったのだろう。
目尻から零れ落ちた涙を指で拭うと、くすぐったそうに口元が弛んだ。
「おやすみ、ヴェダ」
チュ、
僕は彼の額に口付けていた。
ちなみに、治療中の僕が涙目だったのは感情が高まってしまったからであって、決してヴェダの身体に触れたからとか、彼が漏らした甘い声に反応したからとかではない(早口)。
唸りながらトイレに通うアルクルは自業自得だが、ヴェダには早く良くなってほしい。
◇
「アルクルはね。熊を仕留めた夜だけはダメなんだよ」
井戸から汲んできた水を使い、外の流しで製薬に使った道具を洗っていると、ウルスが近づいてきて僕に言った。まるで独り言のような声で。
「怪我と…弟さん、でしたか?」
「そう」
アルクルの酷い怪我。
僕が使わせてもらっている、あの部屋に住んでいたという弟。
弟さぁ。寝不足だったんじゃないの?
主に隣の部屋が原因で。
…とは言えない。
「アルクルの目の前で、双子の弟…ミザールが熊に殺されたんだ」
思わず息を止めていた。
「…そうだったんですか」
でも、そうか。双子の弟…。
生まれてからずっと一緒にいたのかもしれない。
僕の故郷にいた双子の姉妹はどうだったかな。…あぁそうだ。幼い彼女たちは、いつも同じタイミングで泣いて、むくれて、笑ってた。
「アルトは優しいな。…気付いてるんだろう? 僕たちがヴェダにしてること」
…優しいわけじゃない。
ただ、ヴェダのことが気になっているだけで…。
「彼を助けたい?」
ウルスは濡れた道具から手が離せない僕の背後に立って囁く。
僕の頭は勝手にコクリと頷いていた。
「どんなことをしても?」
また頷く僕。
嘘じゃない。僕は彼を救い出してあげたい。
でも。
毎夜見てきたヴェダの顔はどうだった?
ツラそうで、苦しそうで、痛そうで。
それなのに、蕩けて気持ちよさそうだった。
「もしも彼が望むなら、僕は彼を助けます。どんなことをしてでも」
そう答えていた。
◇
ベッドから無理して起き上がろうとするヴェダを寝かしつけて、洗濯と食事作りを代わりにこなした。共有スペースの掃除もしないと。その代わり、『各部屋の掃除は自分で』が基本。
アルクルは寝込んでいるし、熊という大物を仕留めたから今日の狩りは中止にするらしい。
頭痛と吐き気がツラくて食欲がないというアイツには、仕方がないのでパン粥を作ってやった。この地方でよく作られる味付けをウルスに聞いて。
もちろんヴェダに作ったついでだ。
連日にわたり腸を酷使させられている彼には、消化の良いものを食べさせたかったから。
「…懐かしい」
ふわりと微笑んだヴェダは花の妖精みたいだ。
…湿布の匂いがする妖精だけど。
「この味。小さい頃に熱を出すと、よくミザールが作ってくれたんだ」
アルクルの弟が…。
だからアイツは泣いてたのか。
弟を思い出して。
ヴェダには食べやすい温度になった頃持ってきたわけだが、アルクルには先に嫌がらせで出来立てのグツグツしたやつを持って行ってやったのだ。
熱くて泣いてるのかと思った。
「…悪いことをしたかな。アルクルにも持って行ってしまった」
「喜んでると思う。この味、僕も好きだけど、彼の方がもっと…好きだったから」
大きな赤い瞳がジワリと滲んだ。
デカくてむさ苦しいおっさんの泣き顔は見てられなかったけど、
「ヴェダの涙は綺麗だ」
思わず声に出していた。
「…ふふ、なぁにそれ?」
うん。
綺麗だ。
君には笑っていてほしい。
心からそう思った。
狩りについて行った緊張と疲れ。
ヴェダが作ってくれた美味しい晩ごはん。
怠く重い身体にお腹いっぱいの幸せを詰め込んだ僕は、ようやく深い眠りの世界へ旅立つことができた。
…はずだった。
◇
…うるさい。
なんか…ガタガタ…すごい音。
「オラッ! お前もケツを動かせ!」
男の怒鳴り声。
バチッ、と何かを叩く音。
「いだっ!!」
悲鳴みたいな叫び声。
ガタガタガタ…という音は鳴り止まない。
…ヴェダ。
…まさか暴力?
今夜ヴェダとお湯を使っていたのはアルクルだ。
熊による爪痕が酷い、あまり喋らない印象の男。
怖そうな見た目だけど、決して暴力をふるうようには見えなかった。だからこそ、今夜は隣室を気にせずベッドで眠ることに決めたのだ。…眠さが限界だったし。
眠くて鉛のように重い身体を起こし、ふらつきながら布団を出ると、床に膝をついて壁の隙間から隣の部屋を覗く。
…むわりとした汗と…酒の匂い。
そういえば、今夜のアルクルはワインをがぶがぶ水みたいに飲んでいた…。いつもの食事ではあんまり飲まないのに。
ガタガタという音は…ギシギシを超えて激しく揺れるベッドの音だった。
ベッドの上。そこには裸に剥かれたヴェダの尻を、荒ぶる獣のように後ろから穿つアルクルの姿があった。いつもの物静かな雰囲気とは大違いだ。
バチッというのは、ヴェダが尻を叩かれている音。
打っているのは平手。鞭などの道具は使っていない。
ヴェダ…。君が『助けて』と言ってくれたら、僕は…。
「もっと締めろ!! オラ!!」
バチッ
「ぐっ!!」
悲鳴を堪えるみたいな声。
床をベッドの足がガタガタ跳ねてしまうほど、激しい抽挿。
「あぁ!! あっ、あっ、あっ、」
…これは…嬌声?
ヴェダの甘い声に頭が冷えた。
暴力ではなく、これはプレイなのかもしれない。
アルクルのちんぽはどれだけ長いのだろう。
あんなに腰を引いても抜けないなんて…。
ヴェダの尻とアルクルの腰がパチュンと密着するくらい、一番奥まで突っ込まれた瞬間、
「おぐまでっ!! おぐまでぎでるぅぅ!!」
ギーウスの時みたいな凄い声を出して、爪先が耐えるみたいに丸まって…。
前へ逃れようとして腰を引き戻され、またお尻を叩かれてる。
あぁ、でも。
ヴェダの表情は快楽に蕩けているから大丈夫だろうか。『痛い』と叫びながらも涎を垂らして…悦んでいるように見える。
強く腰を打ちつけられるたびにブラブラ揺れてるヴェダのちんぽからも、壊れたみたいにダラダラと精液が流れ出して止まらないみたい。
お尻は真っ赤になっているけど…。
…心配だ。
心配…なのに。
暴力じゃないかも…と思ったら気が抜けてしまった。
…だめだ。
もう、…瞼が重くて限界だ。
…ヴェダ、ごめん。
明日、湿布を作って…あげる……から…
◇
すっかり熟睡してしまった。
…硬くて冷たい床の上で。
節々は痛むけれど、嘘みたいに頭がすっきりして身体も軽い。
翌朝のベッド。
僕とは正反対に、身体中が痛いと寝込むヴェダと、頭が痛いと二日酔いで寝込むアルクルの姿があった。
二日酔いには利尿効果のある薬。身体の痛みには薬湯と軟膏、湿布薬を作った。あと、掠れた声に効くシロップも。
あ…、2人ともしっかり水分を摂らせなきゃ。
よく見ると、ヴェダの手首と足首には拘束したような跡があった。
クソ! 首をキツく絞められたのか、喉にも酷い手形が付いている。
え…真っ赤に腫れた両方の乳首。その周りにもくっきりと歯形が…。嘘だろ! ちんぽにも歯形がある!! 尻たぶにも!!
ごめん。這ってでも助けに行けばよかった。
ごめんね、ヴェダ。
痛み止めの薬湯を飲ませ、涙目で軟膏を塗り、湿布を貼り終えると、
「ありがとう、アルト。少しずつ楽になってきたよ」
ヴェダが弱々しくだが微笑んでくれた。
「痛くされるのには慣れてるけど、治してもらうのは初めて。…嬉しい」
は?
「治療してもらったことがないの?」
「だって、血や骨が出てるわけでもないのに必要ないでしょう」
打撲や圧迫による内出血、擦り傷だって怪我だ。治療するに決まってる。…決まってる…よな?
「…ヴェダ。これは怪我だよ。僕は、君が痛くてツラい思いをするのは嫌だ」
「アルト…」
ヴェダの綺麗な瞳に涙が溜まっていくのを見た。
「そんな優しい言葉…もらったのも初めて」
『ありがとう』そう言って、ゆっくり瞼を閉じてゆく。
痛み止めの薬が効いて、眠くなったのだろう。
目尻から零れ落ちた涙を指で拭うと、くすぐったそうに口元が弛んだ。
「おやすみ、ヴェダ」
チュ、
僕は彼の額に口付けていた。
ちなみに、治療中の僕が涙目だったのは感情が高まってしまったからであって、決してヴェダの身体に触れたからとか、彼が漏らした甘い声に反応したからとかではない(早口)。
唸りながらトイレに通うアルクルは自業自得だが、ヴェダには早く良くなってほしい。
◇
「アルクルはね。熊を仕留めた夜だけはダメなんだよ」
井戸から汲んできた水を使い、外の流しで製薬に使った道具を洗っていると、ウルスが近づいてきて僕に言った。まるで独り言のような声で。
「怪我と…弟さん、でしたか?」
「そう」
アルクルの酷い怪我。
僕が使わせてもらっている、あの部屋に住んでいたという弟。
弟さぁ。寝不足だったんじゃないの?
主に隣の部屋が原因で。
…とは言えない。
「アルクルの目の前で、双子の弟…ミザールが熊に殺されたんだ」
思わず息を止めていた。
「…そうだったんですか」
でも、そうか。双子の弟…。
生まれてからずっと一緒にいたのかもしれない。
僕の故郷にいた双子の姉妹はどうだったかな。…あぁそうだ。幼い彼女たちは、いつも同じタイミングで泣いて、むくれて、笑ってた。
「アルトは優しいな。…気付いてるんだろう? 僕たちがヴェダにしてること」
…優しいわけじゃない。
ただ、ヴェダのことが気になっているだけで…。
「彼を助けたい?」
ウルスは濡れた道具から手が離せない僕の背後に立って囁く。
僕の頭は勝手にコクリと頷いていた。
「どんなことをしても?」
また頷く僕。
嘘じゃない。僕は彼を救い出してあげたい。
でも。
毎夜見てきたヴェダの顔はどうだった?
ツラそうで、苦しそうで、痛そうで。
それなのに、蕩けて気持ちよさそうだった。
「もしも彼が望むなら、僕は彼を助けます。どんなことをしてでも」
そう答えていた。
◇
ベッドから無理して起き上がろうとするヴェダを寝かしつけて、洗濯と食事作りを代わりにこなした。共有スペースの掃除もしないと。その代わり、『各部屋の掃除は自分で』が基本。
アルクルは寝込んでいるし、熊という大物を仕留めたから今日の狩りは中止にするらしい。
頭痛と吐き気がツラくて食欲がないというアイツには、仕方がないのでパン粥を作ってやった。この地方でよく作られる味付けをウルスに聞いて。
もちろんヴェダに作ったついでだ。
連日にわたり腸を酷使させられている彼には、消化の良いものを食べさせたかったから。
「…懐かしい」
ふわりと微笑んだヴェダは花の妖精みたいだ。
…湿布の匂いがする妖精だけど。
「この味。小さい頃に熱を出すと、よくミザールが作ってくれたんだ」
アルクルの弟が…。
だからアイツは泣いてたのか。
弟を思い出して。
ヴェダには食べやすい温度になった頃持ってきたわけだが、アルクルには先に嫌がらせで出来立てのグツグツしたやつを持って行ってやったのだ。
熱くて泣いてるのかと思った。
「…悪いことをしたかな。アルクルにも持って行ってしまった」
「喜んでると思う。この味、僕も好きだけど、彼の方がもっと…好きだったから」
大きな赤い瞳がジワリと滲んだ。
デカくてむさ苦しいおっさんの泣き顔は見てられなかったけど、
「ヴェダの涙は綺麗だ」
思わず声に出していた。
「…ふふ、なぁにそれ?」
うん。
綺麗だ。
君には笑っていてほしい。
心からそう思った。
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