俺のスキルが無だった件

しょうわな人

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家族が来た件

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 翌朝、五つの時間に目を覚ました俺は顔を洗い、気を引き締めて大部屋に向かった。
 まだ誰も居ない大部屋で無回流の型を繰り返していた。自分で納得出来るまで繰り返し行い一息ついてからまた繰り返す。
 そうしていると、六つ少し前にエルさんが来た。エイダスに送ってきてもらったそうだ。
 六つちょうどにサヤ、ユウヤ、フィオナが部屋に入ってくる。
 
 俺は先ずは皆に目を完全に覚ましてもらう為に、木刀を渡し、好きな様に素振りをしてもらった。

 皆の素振りを確認して、どう教えていくか考えていると、玄関から声が聞こえた。

「頼もう!」

 聞いた事のない声だな? しかし、サヤは聞き覚えがあるようで、ビックリした顔をしている。取り敢えず皆に待ってもらい、俺はサヤを連れて玄関に向かった。

 玄関には俺より少し歳上の渋いイケメンがいた。そのイケメンを見て嬉しそうに言うサヤ。

「ケンジ叔父さん!」

「サヤ! 元気にしてたか!? パパが来たからにはもう大丈夫だぞ! さあ、お前を騙している男に会わせてくれ! うん、後ろにいるのがそうか? よし、お前がウチのサヤを傷物にしたトウジだな! そこに直れ!」 

 凄い威圧なんですけど~。サヤもニコニコしてないで何か言って~。あっ、言ってくれた。

「叔父さん、アカネさんとマコねえはどうしたの?」

「おう、まだ宿で寝ているぞ! パパは一刻も早くサヤを救いたくてな! 一足先にこうして出向いた訳だ!」

 いや~、救うってそんな人を悪の権化みたいに······ しかし頑なに『パパ』って言ってるけど、サヤからは叔父さんって呼ばれて少し可哀想なんだが······ まあ取り敢えず先に挨拶だと覚悟を決めた俺は、ハッキリ・キッパリと言った。

「は、は、初めまして! サヤさんとけ、結婚しました、か、か、神城闘史でしゅっ! ご、ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません!」

 良し、少し噛んだがハッキリ・キッパリ言えたぞ。これでどうだ?

 そこには明王様が立っていた······

「結婚だぁ~? 俺が認めない限りはお前はサヤと結婚なんかしてないんだよおーー!」

「叔父さん、取り敢えず中に入って。トウジ皆が待ってるから大部屋に行こう。」

 サヤの提案で皆がいる大部屋に行く事になった。が、これってアレだよな······ 力を見せろっていう展開になるアレだよな······
 しかし、無職の俺が剣武神のケンジさんに勝てるのか? 負けるのは論外、引き分けかもしくは何とか、勝つのがベストだが······ そう思いながら案内する俺。後ろからは凄い威圧が続いている。

 大部屋に入ると、ユウヤがフィオナとエルさんに無回流の基本を教えていた。そんなユウヤが入ってきた俺とサヤ、ケンジさんを見て言った。

「アレ? 先生? もしかして道場破りですか?」

 ユウヤーー! 火に油を注ぐなよ! それは言ってはいけない禁句だっ! しかもいつ師範から先生に格上げしたっ!?

 案の定ケンジさんはニヤリと笑い、ユウヤに向けて言う。

「そうだ。俺はこの道場を潰しに来た!」

 そう言うケンジさんにユウヤが言った。

「それじゃあ、先ずは師範の僕がお相手しますよ。」

「ほう! 若いのに師範とは! 優秀なんだな」

「ではこちらから木刀を選んで下さい」

 コラコラ、ユウヤよ。勝手に話を進めているが、大丈夫か? そもそも俺は『道場破り』とは言ってないぞ。

「先生が審判では公平ではないので、サヤさんに審判をお願いしましょう。良いですか? サヤさん?」

「私は良いわよ。トウジ、ルールはどうするの?」

 サヤまで乗り気だ。エエい! ならば俺も心を決めよう! 

「ここは異世界ではあるが、今から行うのは死合じゃない。試し合いだ。だからスキルの使用は禁止だ。純粋に剣技のみで勝負する事。また、相手を殺すような技は禁止する。家を壊すような技ももちろん禁止だ。」

 俺がそうルールを決めるとケンジさんは獰猛に笑い、考えたなと小声で呟いた。

「そのルールで良いぞ」

「分かりました」

 二人の返事を聞いてサヤに頷く俺。サヤは二人を部屋の中央に誘い礼をさせた。そして、サヤの『始め!』の掛け声と共にユウヤが仕掛けた。

 一足一刀の間合いに滑るように入り込み、袈裟斬りを見舞う。しかし、ヤられたのはユウヤの方だった。他の人の目には分からなかっただろうが、俺は全て見ていた。
 袈裟斬りに行ったユウヤの小手《こて》を素早く打つケンジさんの木刀を。
 
 木刀を取り落とし右手首をおさえてユウヤは言った。

「参りました」

 サヤはキョトンとしている。そこで、俺が代わりに言った。

「小手一本! ケンジさんの勝ちだ」

「ふん、アレが見えていたか。どうやら楽しめそうだな······」

 俺はそう言うケンジさんに背を向けて、ユウヤに無傷をかけた。

「先生、何も出来ずに負けてしまいました。すみません」

 そう言うユウヤに俺は、

「初手の踏込みは良かったぞ。だが、あそこでは突きにいくべきだったな。それから流して袈裟に入れば親父さん同様に流れが出来ていたと思うぞ」

 そう言葉をかけて良い点、悪い点を教えておいた。うむ、何か先生らしいことを言ったぞ。さすが俺だ。自画自賛しつつ、ユウヤを下がらせてサヤも下がらせた。そして、ケンジさんに言う。

「無回流 神城闘史。お相手つかまつる」

「蒼天流 如月きさらぎ拳次けんじ。参る」

 蒼天流? 知らない流派だな。けど、油断はしない。

 今回はケンジさんが仕掛けてきた。俺の知る剣術の足運びとは違い、ユラユラと揺れる様に近づいてきたかと思うと、既に間合いに入られて袈裟斬りを見舞われた。
 しかし、俺は慌てずにそれを受け流す。体勢を崩す事なく、流された木刀を手元に引き寄せ逆袈裟に振るケンジさん。俺は今度は受け流さずに受け止めた。
 少し驚いた顔をしているケンジさんだが、俺は受け止めた木刀を押して返し、その勢いのまま肩を狙う。
 それを体捌きで避けるが、さすがに体勢が崩れるケンジさん。その隙を逃がさなかった俺は、ケンジさんの頭頂一分いちぶでピタリと木刀を止めた。そして、ケンジさんを見詰める。

 ケンジさんは静かに木刀を床に置いて

「参った」

 と言ってその場にとどまる。

 俺はそれを聞いてからケンジさんの頭上から木刀を外し、ケンジさんを見詰めたまま、一足一刀の間合いからさらに少し離れて構えていた木刀をおろした。 

「ふん、残心まで完璧か······ 完敗だな。だが、剣で勝ったからといって良い気になるなよ? 俺の真骨頂は拳にあるからな!」

 そう言って俺に握手を求めてくるケンジさん。だが、俺はまだ警戒を解いてなかった。それが功を奏した。
 俺と握手すると見せかけたケンジさんの手が翻って俺の鳩尾を狙って打ち出される。
 油断していなかった俺は無回流の『組打』で学んだ小手崩しを使い、その拳の力を利用して手首を極めながらケンジさんを取り押さえた。

「くそ! どこまで警戒心が強いんだ、お前は! 普通は今ので決まるぞ!」

「いや~、お義父さんの目が笑ってなかったので······」

「俺はお前のような息子を持った覚えはない!!」

 それだけは力強く言うケンジさん。しかし、そこにサヤから悲しそうな声がかけられた。

「叔父さんは私が信じて愛した人を認めてくれないんだね、私は哀しいな······」

「いや、ちがっ、違うぞ、サヤ! パパはお前が認めているなら心から応援するぞ! だから泣かないでくれ! アカネとマコトに殺されるから!」

 ん? 何でこんなに必死なんだ? アカネさんとマコトさんって奥さんと娘さんだよな? 殺されるって、んなバカな! 

「だって、叔父さんはトウジを叩こうとするから······ 私には信用出来ない······」

 サヤがそう言った瞬間に馬鹿力を発揮したケンジさんは固めていた俺の手を振りほどき、俺の肩に腕を回す。

「ほ、ほら見ろ! サヤ! パパはもうトウジ君とは親友だ! いや! 心の友と書いて心友しんゆうだ!! だから、安心してくれ!」

「本当に? トウジもそう思ってる?」

 サヤの問い掛けに俺を必死の眼差しで見るケンジさん。その眼差しに負けた俺は苦笑いしながらサヤに返事した。

「お、おお。そうだぞ。サヤ。俺とケンジさんは試合を通してお互いに分かりあったんだ。だから今では親友だぞ」

 さすがに心の友とは言えないけどな。俺の返事を聞いて明るい顔になるサヤ。

「それじゃ、これで私とトウジは家族からも認めてもらった夫婦だね!」

 それを聞いて苦虫を噛み潰した顔になるが、素直に言葉を出すケンジさん。

「ああ、パパもちゃんと認めたぞ。二人は夫婦だ!」

 ふう、色々あったが何とかなりそうだぞ。そう安心した俺はケンジさんに聞きたい事があったので、素直に聞いてみた。

「ケンジさん、不勉強の身で恐縮なんですが、蒼天流とは剣術の流派なんですか?」

「ハッハッハッ違うぞ。トウジ君、蒼天流は拳法、つまり中国から伝わった武術の流派だ。剣術をしている君には縁がなかっただろうから、知らないのも無理がない」

 そう聞いて、俺は理解した。そうか、拳法の流派だったのか。知らない筈だ。

 それから、今日はもう稽古の雰囲気じゃないという事で、皆で朝食でも食べようという話になった。
 しかし、サヤがそれならアカネさんとマコ姉《ねえ》も呼びたいと言い出し、ケンジさんが二人を呼びに行く事に。
 その間にサヤ、フィオナ、エルさんの女性三人で朝食作りを買ってでてくれたので、エルさんとフィオナに丁寧にお礼を言ってお願いした。

 ふ、俺にかかればご両親への挨拶など軽いモノよ! 

 上手く事が収まり慢心した俺はそう考えていたが、更なる騒動が近づいている事に気づいてなかった······    
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