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共に永久に

070話 刺客じゃない刺客

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 僕とフェルは村人たちを迎えにキノクーニャ屋に出かけたんだ。

 ブンさんがグンジさんとウチの屋敷にやって来てから5日目に、職人さんたちがトモジ爺ちゃんの出した道工具を駆使して僕の指定した場所に家を建ててくれたんだよ。家族構成も確認してあって全部で30軒の家を建てる事になったんだけど、手の空いた職人さんたちが入れ代わり立ち代わりで急ピッチで作業を進めてくれたんだ。

 基礎部分は僕とフェルの茶(土)魔法でしっかりした土台を造ったんだけどね。そこからの職人さんたちの動きは道工具の助けがあったにしても神がかっていたよ。
 2日目には建屋の屋根をいていたからね。もうどれだけ優秀なんだって思ったよ。まあ、既にそれぞれの工房で弟子志願の若者を多く雇い入れてたから人手も多くあったのは事実だけどね。その多い人手を効率よく動かせるのも一流の職人の証明だよね。

 で、家と茶畑にする土地も用意出来たから村人をお迎えにキノクーニャ屋に来たんだけど、そこで刺客が待っていたんだよ。
 まあ、厳密に言えば刺客じゃないんだけどね。ルソン陛下とアカネ様もキノクーニャ屋に居たからビックリして話を聞いたら、どうやらヤパンのイーヨ県を治める大名の次男で、ダウテ・トウチカっていう名前の青年が刺客として送り込まれたけど自分にはそのつもりが無いって言ってブンさんに正直に話をしたらしいんだ。

 そして、グンジさんが神証眼しんしょうがんで確認をとって大丈夫だと保証したからルソン陛下とアカネ様に連絡を入れて2人が態々わざわざキノクーニャ屋に足を運んだらしいんだよ。
 フットワーク軽すぎでしょ? ナニワサカイ国の王族の方。僕はそう思ったけど何も言わなかったけどね。

 ルソン陛下が目前で土下座しているトウチカさんに説明している。

「我が国に逃げてきたこの者たちは、サーベル王国の伯爵であるハイナイト殿の領地に行く事になっている。トウチカとやらはどうする? 亡命するのであれば、我が国でも厚遇するつもりはあるぞ」

 土下座したままトウチカさんがそれに答えた。

「直答をお許し下さい。先ず、私の名はこれより手形に書かれてあるトウリと名乗る事に致します。そして、私の隣におります妻のヒヨリ、ヒヨリの伯父、伯母であるセンジ、オリョウ夫婦ともども可能であればダウテの手の者が居ない場所で静かに暮らしとうございます。勿論、只でとは申しませぬ。私が持つ漆器などを全て献上致しますのでどうかよろしくお願い申し上げたてまつる……」

 その返答にルソン陛下がチラチラと僕を見てくる。そんな陛下にアカネ様の突っ込みが入った。

「コラッ! このアンポンタンッ! まーた、トーヤくんに頼ろうとしてるやろっ!!」

 アカネ様の突っ込みにルソン陛下が言い訳をする。

「ちっ、違うぞっ!! アカネ! そろそろこの腕輪を外してくれても良いんじゃないかな~って思ってだなっ……」

 その言い訳に般若様が顕現けんげんしたよ。それはもう恐ろしい……

「な~に~…… 寝惚けたこと言うてんやないぞっ!! このカスッ! 鼻から指つっこんで奥歯ガタガタ言わしたろかいっ!!」

 般若様の顕現けんげんとその言葉に僕とフェルとブンさん以外が呆気に取られていると、その空気を感じ取ったのか、アカネ様は僕の腕にそっと寄り添い、

「怖かった~」

 って言った。みんながずっこける中、伯父と言って紹介されたセンジさんが突っ込んだよ。

「どの口が言うとるねん!」

 その突っ込みにアカネ様が喜ぶ。

「おっ! センジとやらはお笑いが分かってるやないの!」

 怒られると思ってたらそう言って褒められたから、もう他のみんなも笑うしかなかった。ただ、ルソン陛下だけは落ち込んでいたけどね。ゴメンね、陛下。夫婦間の問題を解決してから僕に腕輪の解除を申し込んで下さいね。

 陛下とアカネ様の寸喜劇が一段落したのを見て、グンジさんが僕とフェルに提案してきたよ。

「トーヤ様、フェル様。この者たちは言ったとおりの素性ですがその心根は曲がっておりませぬ。お側に仕えさせればきっとお役に立つと思います。私から言える事は以上です」

 僕とフェルは顔を見合わせ、僕が頷くのを確認してフェルが話を始めた。

「先ずは4人ともお立ち下さい。私はハイナイト伯爵の婚約者でフェルです。お聞きしたいのはヤパンの大名という地位は私達の国の爵位で言えばどの程度の地位になるのでしょうか?」

 フェルの問いかけに答えてくれたのはアカネ様だった。

「そうやね、フェルちゃん。一概には言われへんけど主要都市を任されてる大名が公爵位、またその周辺都市を任されてるのが侯爵位、天皇陛下のお住いする県とその周囲の県を任されてるのが伯爵位、将軍の住むみやこから遠く離れた県を任されているのが子爵~男爵ぐらいやろね。まあ、功績なんかによって多少は違うとは思うけど、おおむねそんな感じやと思うわ。イーヨ県のダウテは男爵位相当やと思うで」 

「アカネ様、お教えいただき有難うございます。それではトウリさんは男爵のご子息という認識で話をさせていただきますね」

 とのフェルの言葉に本人のトウリさんから待ったがかかった。

「お待ち下さい、フェル様。先程、国王陛下にもお伝えしましたが、私はもはやダウテ家とは縁を切ったつもりでおります。ですので、只の平民としてお話していただければと思います」

 それを聞いて頷く僕を見てフェルが再度、話を始めた。

「分かったわ、トウリ。それでは聞きます。正直に答えてください。あなた方4人はハイナイト伯爵に仕えるつもりがありますか? 勿論、無理に仕えさせるつもりはハイナイト伯爵にはありませんからその点は安心してね」

 フェルの問いかけに僕をジッと見るトウリさん。そして、

「畏れながら申し上げます。私は私達4人が国からの追手を気にせずに生活出来る事を願っております。その為には力が必要だと思っておりますが、ハイナイト伯爵様にはそのお力がお有りでしょうか?」

 こんな風に聞いてきたよ。

 フフフ、まあ確かに僅か13歳の子供の僕を見てそんな力が有るとは思わないよね。でも、年下の僕を馬鹿にしたような聞き方じゃなくて、本当に疑問に思った点をただ素直に聞いてきた感じは物凄く好感を持てるよ。そこで僕は紙にこう書いてみたんだ。

【4人とも守れるぐらいの力は有ると思ってるよ。でも、心配なら僕と模擬戦でもしてみる?】

 平民としてとの事だったから崩した口調で書いたけど、それを読んだトウリさんがその気になったのが分かったよ。

「よろしいのですか? 怪我をさせてしまうかも知れませんが……」

 僕はにこやかに頷いていいよと意思表示をしたんだ。そして、更に紙にこう書いたよ。

【真剣でやってみようね。大丈夫、手加減するからね】

 ってね。それを読んでトウリさんは益々やる気が出たみたいだよ。でも、センジさんやオリョウさん、はたまたヒヨリさんがトウリさんを止めてる。

「お前さん、真剣はお止めよ。お前さんが真剣を使ったら伯爵様を大怪我させてしまうよ」

 とヒヨリさん。

「トウリ様、ここは一つ木刀でお願いします。トウリ様の強さを証明するのに真剣を使う必要はございやせん」

 とセンジさん。

「トウリ様、伯爵様はトウリ様よりも年下にございます。どうか、お気を鎮めて冷静になって下さい」

 とオリョウさんが言うからトウリさんもその気になったのか僕にこう言ってきたんだ。

「ハイナイト伯爵様、模擬戦という事ならば木刀で十分かと私も思います」

 けれども、そこでフェルが言った。

「トウリ、伯爵が真剣と言ったならば真剣です。模擬戦を行います。貴方も覚悟を決めなさい!!」

 おおっ! 流石フェルだよ。僕の思いに気がついてるみたいだね。フェルの仕切りでその場の皆を下がらせて、ルソン陛下とアカネ様には立会人になって貰ったんだ。

 そして、相対する僕とトウリさん。僕の得物えものが刀なのを見てちょっと驚いた顔をしたトウリさん。
 模擬戦だから審判も居るよ。フェルとセンジさんの2人だ。開始の合図はフェルだよ。

「それでは、模擬戦を始めます! 始めっ!!」

 フェルの言葉に僕とトウリさんの刀気が高まる。

 そしてその勝負は一瞬で決まったんだ……
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