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領地発展
055話 トモジ爺ちゃん
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僕の吃驚した顔を見て、その人は言った。
「どうやら、合ってるようだなぁ。懐かしいな、元気にしてたんか? ん? ひょっとしたらワシの事が分からんか? まあ澄也もまだこんまかったからなぁ…… 覚えてないのも無理ないか。それでもこうして会えたんじゃ、目出度し、目出度しじゃな」
最後の言葉で僕の脳内に記憶が蘇ってきたよ。前世で3歳~4歳頃まで遊んでくれていた、隣に住んでいた友爺ちゃんを。
………
鮮やかに甦った記憶が脳内で再生される。
『おお、今日も来たんか、澄也よ。今日は何のお話をするかのう…… そうじゃ! 白銀仮面のお話にしようかの!』
そう言って自作の紙芝居を押入れから取り出す友爺ちゃん。僕は爺ちゃんの紙芝居をワクワクしながら聞いて見ていたっけ…… 友爺ちゃんも喋らない僕の表情を読んで色んな紙芝居を作ってくれたなぁ。最後はいつも『目出度し、目出度しじゃな』で終わる紙芝居。
そんな爺ちゃんが亡くなったのは僕が5歳になる前だったよね…… あの時は悲しくて悲しくて……
母親にもう友爺ちゃんには会えないって言われて声を押し殺して一晩中泣いたんだっけ。そして余りに悲しすぎて…… 今まで無意識に記憶を封印していたようだよ、直ぐに思い出せなくてゴメンね、友爺ちゃん。
………
「ん? おお、その顔は思い出してくれたか? 良かったわい。ああ、泣かんでもいいぞ。いつでも会えるからの。コッチではトモジと名乗っておるからの。また、よろしくの。ん? 何で澄也じゃと分かったかって? それはな、後で教えてやるわい。それよりもブンに話があるんじゃろう?」
知らない間に涙が溢れていたようだよ。フェルがそっとハンカチを差し出してくれたよ。
事情が分からない他の人たちは何も言わずに見守ってくれていたんだ。あとで話をしないとダメだよね…… そろそろフェル以外にも僕の話をちゃんとした方がいい時期なんだとこの時に思ったんだ。
友爺ちゃん改めトモジ爺ちゃんが僕たちに先に話をするように促してくれたから、僕は昨日の内に書いていた紙をブンさんに差し出したんだ。
【初めまして、僕の名はトーヤと言います。隣に居るのは婚約者のフェルです。そして、もう一組の方はラウールさんとその婚約者のサハーラさんです。僕たちはサーベル王国から来ました。実は僕たちの領地に温泉が湧き出ていて、今は石で作った浴槽を利用しているのですがナニワサカイ国では木の浴槽が一般的だと聞きました。そこで浴槽用に使用されている木材を見てみたいと思い、訪ねさせていただきました】
僕の差し出した紙を読んだブンさんは丁寧にお辞儀をしながら僕たちにこう言ったんだ。
「遠路はるばるようこそお越し下さいましたな。わしがこのキノクーニャ屋の主でブンザーエモンと申します。年なので皆がブンさんなどと呼んでおりますが、どうかお好きなようにお呼び下さい。さて浴槽用の木材でございますな。勿論、お見せいたしますぞ。ご案内致しますので皆様ついてきて下さいますかな」
そう言って立ち上がったブンさん。そしてトモジ爺ちゃんも立ち上がると、
「どれ、ワシも見させて貰おうかの」
と言ってついてきてくれるようだ。良かったよ。トモジ爺ちゃんの意見も聞きたかったしね。経験豊富な年長者の意見は大事だからね。僕たちは連だってブンさんの後を着いていった。
連れて行かれたのは倉庫兼作業場だったよ。
「さて、コチラにございますのが伐採して乾燥も終わっておる木です。コチラがスギヒノで、コチラがタカノマキ。更にコチラにあるのが少し安価なサンワラです。サンワラは安価と言いましても耐久度はスギヒノやタカノマキとさほど変わりませんぞ。香りがスギヒノやタカノマキのように無いだけでしての。カビにも強い木です。けれども、ここぞという場所にはスギヒノやタカノマキがオススメです」
そしてそのまま作業場に入っていくので着いていくと、職人さんを1人呼び出したブンさん。
「この者は私の孫でございましてな。それでも既に10年、この作業場で仕事をしております。玄人の域にようやく足を踏み出した所ですが、ご質問がございましたら、どうぞ」
そう紹介された職人さんが自己紹介をしてくれた。
「ここに居るキノクーニャ屋の主の孫で、ブンゴと申します。よろしくお願いいたします。何か木材についてご質問がございましたらお聞き下さい」
ブンゴさんは丁寧に腰を折ってそう言った。早速、ラウールさんが質問を始めた。
「あの、私どもの母国のサーベル王国では、木で浴槽を作るという事がどうにも不思議でして…… 木で作って水漏れしたりはしないのでしょうか? それに木に湯が染み込んでしまうのでは?」
「先ずは水漏れの件をご説明致します。コチラをご覧下さい」
そう言ってブンゴさんが取り出したのは木と木を釘や鎹を使わずに組み合わされたものだった。前世でいう枡だね。トモジ爺ちゃんも懐かしそうにマジマジと見ている。
「この組み方をしておりましたら、木と木が互いを塞ぎ合うようになりましてな。論より証拠、水を入れてみますね」
とブンゴさんが水を入れようとするとそれをトモジ爺ちゃんが奪って、
「こんな見事なもんに水なんぞでは勿体無い! ワシが命の水を入れてやろう、若いの」
ってラウールさんに言ったんだ。トモジ爺ちゃん、ラウールさんもお貴族様だからね。言葉遣いに気をつけてね。って、ラウールさんは言葉なんか気にならないみたいだね。トモジ爺ちゃんが清酒を枡につぐのをジッと見てるよ。
「どうじゃ! 持ってみい、若いの。そして飲め!」
トモジ爺ちゃんに清酒が入った枡を手渡されてオズオズと手に取るラウールさん。ブンさんは笑顔で見てるよ。
「本当だ! 一滴も水漏れしてない……」
感心したように言うラウールさんに、ブンゴさんが言った。
「浴槽もこれと同じ組み方です。コレで水漏れの件についてはご納得いただけましたか? 次に湯が染み込むとの事ですが、無垢材ですと確かに染み込みますが、それにより底面や横面から染み出る事はございません。但し、無垢材の場合は手入れが大変なので、殆どの場合は非常に薄いウチの独自の天然樹脂コーティングを施した物をオススメしております。木の香りの邪魔はしませんので、スギヒノやタカノマキの香りは無垢材と同じように香ります」
ブンゴさんの説明に僕は嬉しくなったよ。やっぱりあったんだね、コーティングが。
「なるほど! そうなんですね。そのコーティングした物を見せて貰う事は可能でしょうか?」
ラウールさんが再度ブンさんに言った時に、トモジ爺ちゃんが言う。
「まあ、待て。落ち着け、若いの。先ずはワシの注いでやった命の水を飲め」
言われてラウールさんは一気に煽る。
アッ! と思ったときには遅かったよ…… そのまま顔を真っ赤にしてラウールさんは倒れてしまったんだ。締りのない笑顔なのが救いだったよ。
倒れたラウールさんを慌てて支えたブンゴさんが、トモジ爺ちゃんに言う。
「飲み方も教えてやらないとダメじゃないか、トモジイ。ぶっ倒れてしまったぞ。ああ、お嬢さん、安心して下さい。慣れてないのにお酒を一気に煽ってしまったので急激に酔いが回っただけです。私が休める部屋にお連れしますので、どうぞご一緒に」
そうしてラウールさんはブンゴさんによって運ばれたんだけど、このままじゃいけないよね。僕はトモジ爺ちゃんとブンさん、フェルを連れて先程ブンさんがいた部屋に入ったんだ。カーズ義兄さんたちはラウールさんたちについてもらってるよ。
僕は部屋に防音と認識阻害をかけた。そして、僕は前世の幼い頃に戻ったかのようにトモジ爺ちゃんに喋ったんだ。
「友爺ちゃん、ダメだよ。ラウールさんは成人してるけど、まだ15歳なんだから! ブンゴさんも言ってたけど飲み方もちゃんと教えてあげないと! それと、ブンさんもだよ! 友達なら友爺ちゃんを止めてくれないと!」
僕が少し怒った風にそう言うと2人の老人は項垂れて反省してる様子になったんだ。更にフェルも追い打ちをかけた。
「お2人とも、尊敬されるべきお方なのでしょうけど、強要するのはよろしくないですわ。ラウール様もサーベル王国の伯爵ですのよ。外交問題に発展しますわ」
更にがっくりとうなだれる老人2人……
何だか僕とフェルがイジメてるみたいになっちゃったよ……
でも、ちゃんと言っておかないとダメだと心を鬼にして、僕とフェルはお説教を続けたんだ。
「どうやら、合ってるようだなぁ。懐かしいな、元気にしてたんか? ん? ひょっとしたらワシの事が分からんか? まあ澄也もまだこんまかったからなぁ…… 覚えてないのも無理ないか。それでもこうして会えたんじゃ、目出度し、目出度しじゃな」
最後の言葉で僕の脳内に記憶が蘇ってきたよ。前世で3歳~4歳頃まで遊んでくれていた、隣に住んでいた友爺ちゃんを。
………
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『おお、今日も来たんか、澄也よ。今日は何のお話をするかのう…… そうじゃ! 白銀仮面のお話にしようかの!』
そう言って自作の紙芝居を押入れから取り出す友爺ちゃん。僕は爺ちゃんの紙芝居をワクワクしながら聞いて見ていたっけ…… 友爺ちゃんも喋らない僕の表情を読んで色んな紙芝居を作ってくれたなぁ。最後はいつも『目出度し、目出度しじゃな』で終わる紙芝居。
そんな爺ちゃんが亡くなったのは僕が5歳になる前だったよね…… あの時は悲しくて悲しくて……
母親にもう友爺ちゃんには会えないって言われて声を押し殺して一晩中泣いたんだっけ。そして余りに悲しすぎて…… 今まで無意識に記憶を封印していたようだよ、直ぐに思い出せなくてゴメンね、友爺ちゃん。
………
「ん? おお、その顔は思い出してくれたか? 良かったわい。ああ、泣かんでもいいぞ。いつでも会えるからの。コッチではトモジと名乗っておるからの。また、よろしくの。ん? 何で澄也じゃと分かったかって? それはな、後で教えてやるわい。それよりもブンに話があるんじゃろう?」
知らない間に涙が溢れていたようだよ。フェルがそっとハンカチを差し出してくれたよ。
事情が分からない他の人たちは何も言わずに見守ってくれていたんだ。あとで話をしないとダメだよね…… そろそろフェル以外にも僕の話をちゃんとした方がいい時期なんだとこの時に思ったんだ。
友爺ちゃん改めトモジ爺ちゃんが僕たちに先に話をするように促してくれたから、僕は昨日の内に書いていた紙をブンさんに差し出したんだ。
【初めまして、僕の名はトーヤと言います。隣に居るのは婚約者のフェルです。そして、もう一組の方はラウールさんとその婚約者のサハーラさんです。僕たちはサーベル王国から来ました。実は僕たちの領地に温泉が湧き出ていて、今は石で作った浴槽を利用しているのですがナニワサカイ国では木の浴槽が一般的だと聞きました。そこで浴槽用に使用されている木材を見てみたいと思い、訪ねさせていただきました】
僕の差し出した紙を読んだブンさんは丁寧にお辞儀をしながら僕たちにこう言ったんだ。
「遠路はるばるようこそお越し下さいましたな。わしがこのキノクーニャ屋の主でブンザーエモンと申します。年なので皆がブンさんなどと呼んでおりますが、どうかお好きなようにお呼び下さい。さて浴槽用の木材でございますな。勿論、お見せいたしますぞ。ご案内致しますので皆様ついてきて下さいますかな」
そう言って立ち上がったブンさん。そしてトモジ爺ちゃんも立ち上がると、
「どれ、ワシも見させて貰おうかの」
と言ってついてきてくれるようだ。良かったよ。トモジ爺ちゃんの意見も聞きたかったしね。経験豊富な年長者の意見は大事だからね。僕たちは連だってブンさんの後を着いていった。
連れて行かれたのは倉庫兼作業場だったよ。
「さて、コチラにございますのが伐採して乾燥も終わっておる木です。コチラがスギヒノで、コチラがタカノマキ。更にコチラにあるのが少し安価なサンワラです。サンワラは安価と言いましても耐久度はスギヒノやタカノマキとさほど変わりませんぞ。香りがスギヒノやタカノマキのように無いだけでしての。カビにも強い木です。けれども、ここぞという場所にはスギヒノやタカノマキがオススメです」
そしてそのまま作業場に入っていくので着いていくと、職人さんを1人呼び出したブンさん。
「この者は私の孫でございましてな。それでも既に10年、この作業場で仕事をしております。玄人の域にようやく足を踏み出した所ですが、ご質問がございましたら、どうぞ」
そう紹介された職人さんが自己紹介をしてくれた。
「ここに居るキノクーニャ屋の主の孫で、ブンゴと申します。よろしくお願いいたします。何か木材についてご質問がございましたらお聞き下さい」
ブンゴさんは丁寧に腰を折ってそう言った。早速、ラウールさんが質問を始めた。
「あの、私どもの母国のサーベル王国では、木で浴槽を作るという事がどうにも不思議でして…… 木で作って水漏れしたりはしないのでしょうか? それに木に湯が染み込んでしまうのでは?」
「先ずは水漏れの件をご説明致します。コチラをご覧下さい」
そう言ってブンゴさんが取り出したのは木と木を釘や鎹を使わずに組み合わされたものだった。前世でいう枡だね。トモジ爺ちゃんも懐かしそうにマジマジと見ている。
「この組み方をしておりましたら、木と木が互いを塞ぎ合うようになりましてな。論より証拠、水を入れてみますね」
とブンゴさんが水を入れようとするとそれをトモジ爺ちゃんが奪って、
「こんな見事なもんに水なんぞでは勿体無い! ワシが命の水を入れてやろう、若いの」
ってラウールさんに言ったんだ。トモジ爺ちゃん、ラウールさんもお貴族様だからね。言葉遣いに気をつけてね。って、ラウールさんは言葉なんか気にならないみたいだね。トモジ爺ちゃんが清酒を枡につぐのをジッと見てるよ。
「どうじゃ! 持ってみい、若いの。そして飲め!」
トモジ爺ちゃんに清酒が入った枡を手渡されてオズオズと手に取るラウールさん。ブンさんは笑顔で見てるよ。
「本当だ! 一滴も水漏れしてない……」
感心したように言うラウールさんに、ブンゴさんが言った。
「浴槽もこれと同じ組み方です。コレで水漏れの件についてはご納得いただけましたか? 次に湯が染み込むとの事ですが、無垢材ですと確かに染み込みますが、それにより底面や横面から染み出る事はございません。但し、無垢材の場合は手入れが大変なので、殆どの場合は非常に薄いウチの独自の天然樹脂コーティングを施した物をオススメしております。木の香りの邪魔はしませんので、スギヒノやタカノマキの香りは無垢材と同じように香ります」
ブンゴさんの説明に僕は嬉しくなったよ。やっぱりあったんだね、コーティングが。
「なるほど! そうなんですね。そのコーティングした物を見せて貰う事は可能でしょうか?」
ラウールさんが再度ブンさんに言った時に、トモジ爺ちゃんが言う。
「まあ、待て。落ち着け、若いの。先ずはワシの注いでやった命の水を飲め」
言われてラウールさんは一気に煽る。
アッ! と思ったときには遅かったよ…… そのまま顔を真っ赤にしてラウールさんは倒れてしまったんだ。締りのない笑顔なのが救いだったよ。
倒れたラウールさんを慌てて支えたブンゴさんが、トモジ爺ちゃんに言う。
「飲み方も教えてやらないとダメじゃないか、トモジイ。ぶっ倒れてしまったぞ。ああ、お嬢さん、安心して下さい。慣れてないのにお酒を一気に煽ってしまったので急激に酔いが回っただけです。私が休める部屋にお連れしますので、どうぞご一緒に」
そうしてラウールさんはブンゴさんによって運ばれたんだけど、このままじゃいけないよね。僕はトモジ爺ちゃんとブンさん、フェルを連れて先程ブンさんがいた部屋に入ったんだ。カーズ義兄さんたちはラウールさんたちについてもらってるよ。
僕は部屋に防音と認識阻害をかけた。そして、僕は前世の幼い頃に戻ったかのようにトモジ爺ちゃんに喋ったんだ。
「友爺ちゃん、ダメだよ。ラウールさんは成人してるけど、まだ15歳なんだから! ブンゴさんも言ってたけど飲み方もちゃんと教えてあげないと! それと、ブンさんもだよ! 友達なら友爺ちゃんを止めてくれないと!」
僕が少し怒った風にそう言うと2人の老人は項垂れて反省してる様子になったんだ。更にフェルも追い打ちをかけた。
「お2人とも、尊敬されるべきお方なのでしょうけど、強要するのはよろしくないですわ。ラウール様もサーベル王国の伯爵ですのよ。外交問題に発展しますわ」
更にがっくりとうなだれる老人2人……
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