上 下
39 / 90
転機

幕間【サカキ侯爵家】

しおりを挟む
 ガルン、ラメル、リラ、トウシローに侍女のレラはサカキ侯爵家の領地に到着した。

「ようこそ、伯爵家の皆さま。私はサカキ侯爵家の執事長をしておりますヤタロウと申します。皆さまが快適に過ごせるように致しますのでどうかよろしくお願い致します」

 門前で待っていたのは執事長のヤタロウの他に、門を守る兵士が5名。それに馬車を屋敷まで案内してくれる下男が2名だった。

「あ、あの、ガルンと言います。妻のラメルと娘のリラです。それと、侯爵様が会いたいと仰っていたトウシローさんに、リラ付の侍女であるレラです」

 緊張した面持ちでヤタロウに答えたガルンだったが、

「ガルン様どうか私には普段通りの口調でお話下さいませ。私は侯爵家に仕える者で平民でございますので」

 ヤタロウにそう言われて、アタフタ顔をしていた。そこに、ラメルが言葉を発した。

「それじゃあ、ヤタロウさん。お屋敷まで案内をよろしくお願いします」

「はい、承りました」

 さすがお母さんだねとリラは思いながら、案内に従い馬車が動きだすと窓から顔を出して屋敷を見てみた。

「うわー、大きいね!」

 思わず声が出たリラにヤタロウは笑顔で

「有難うございます。リラ様。コチラの屋敷は初代サカキ侯爵であったセイイチロウ様が設計をして建てられた家屋にございます。平屋ではありますが広さだけはございますので安心してお寛ぎいただけるかと思います。尚、屋敷ではお履物をお脱ぎいただく必要がございますのでその点だけはご了承下さいませ」

 そう教えてくれた。そして、屋敷前に到着した一行を待っていたのはずらりと整列する侍女や執事だった。玄関前には中年だが美丈夫の男性と年齢と共に美しくなったと思われる女性、それにシンが立っている。
(もしも、トーヤがこの場面にいたならば前世の高級旅館だねとでも言っただろう。)

「ようこそお越し下さいました、伯爵家御一同様」

 全員の声が一致してそう言うのに圧倒されながら、馬車から降りたみんなはヤタロウの案内で玄関前に行く。そして、

「ガルン様、ラメル様、リラ様、トウシロー様、こちらが侯爵家当主のヨシアキ・サカキです。隣は夫人のマヤ・サカキです。シン・サカキはご紹介するまでもなくご存知ですね」

 とニッコリ笑うヤタロウ。ガルンだけでなく、ラメルやリラ、レラもその言葉にビックリしている。トウシローだけは当たり前の顔をしていた。
 そこでトウシローが教えてくれた。

「俺の故郷では身内を他の人に紹介する際には呼び捨てで紹介するのが当たり前の事なんだ。それはどんな立場であろうともだ。だから、ヤタロウが侯爵やその夫人、そしてその子を俺達に紹介する際に仕える主家しゅけの者を呼び捨てにしても不敬には当たらないんだ。で、合ってるかな、ヨシアキ殿?」

 その言葉にニッコリと笑ってサカキ侯爵は答えた。

「仰る通りで間違いはないですよ、トウシロー殿。そして、ガルン殿、ラメル夫人、リラ嬢、遠路はるばるようこそ来てくれた。色々と決めねばならぬ事もある。どうか滞在されてる間はゆっくりと自分の家にいるような気持ちで過ごして貰いたい。言葉については我が家では無礼講が盛んでな。というか、俺が丁寧な言葉遣いが苦手だから、ガルン殿もそのつもりで話して欲しい」

 いきなり口調を崩して候爵がそう言う。それから、マヤ夫人もラメルとリラに向かって言う。

「まあ、ラメルさん。とてもお子さんを産んだとは思えない程見事なスタイルね。それにリラちゃん! 嬉しいわ! 義理とはいえ私にもやっと娘が!! この人ったら、子種に男しか無いんですもの! 次から次へと男ばっかり私に産ませて!」

 と返事に困るような事を言い出す。シンは苦笑しながら、そんな母に言う。

「男ばかりでスミマセンね、母上。でも、こんな可愛い娘が出来たのはその息子のおかげなんですよ」

 と、普段の生真面目なシンとは違う一面をチラッとリラに見せた。リラはその事に気づきニコニコ顔で応えている。

「まあ、そう言えばそうね! シンのお陰ね。父や兄達と違って出来る男に育ったわ!」

「いやいや、マヤよ。俺の子種の問題じゃなくてだな、マヤの畑が男ばかりを成長させて……」

 途中で言葉を切ったヨシアキ。隣から強烈な鬼気が出ているからだ。

「アナタ、私が悪いとでも仰るのかしら?」

「いーやっ!! そんな事は一言も言ってないぞっ! 全ての責任は当主である俺にあるっ!!」

「お分かりなら良いんですよ」

「父上、母上、いつものおたわむれはその辺りで。皆さんが困惑してますし、早く中に入って貰って長旅の疲れを取ってもらいましょう」

 とシンが言うと、ヤタロウが続いて

「そうですぞ、ヨシアキ様、マヤ様。お客人の前ではしたない。私がヨシアキ様に幼少の頃よりお教えしてまいった礼儀作法を今一度初めから学び直しますかな? マヤ様は侯爵家夫人としての立ち居振る舞いを、教育係を引退なされたがまだまだお元気なシメ殿にお願い致しますかな?」

 そう言うと2人とも顔を赤く、続いて青くして

「そ、それだけは止めて(くれ)!!」

 とヤタロウに懇願していた。そうして到着してから夫婦漫才を見せられた名誉伯爵家一同は、緊張も解れて楽しく過ごせそうだと思った。

 シンとリラの正式な婚約の件、ヨシアキがトウシローに模擬戦を申し込んだ件などのお話はまた後日に。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

帝国の第一皇女に転生しましたが3日で誘拐されました

山田うちう
ファンタジー
帝国の皇女に転生するも、生後3日で誘拐されてしまう。 犯人を追ってくれた騎士により命は助かるが、隣国で一人置き去りに。 たまたま通りかかった、隣国の伯爵に拾われ、伯爵家の一人娘ルセルとして育つ。 何不自由なく育ったルセルだが、5歳の時に受けた教会の洗礼式で真名を与えられ、背中に大きな太陽のアザが浮かび上がる。。。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

処理中です...