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第62話 レツラゴー事務所
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私がその木山さんの言葉に固まっていると先輩が木山さんに言った。
「おいおい、美登利さん、いきなり口説くなよ。コイツは美登利さんを守る為に来たんだからな」
「アラ? 別にいいじゃないの、相川ちゃん。私、まだ独身なんだし不倫にはならないわよ」
そうですか、独身ですか。確かに不倫にはならないですね……
私が脳内でそう思っていたら社長さんが手をパンパンと叩いてから喋りだした。
「はい、それまで。美登利、ダメよ。貴女の安全を守る為に来てもらったんだから」
いいぞ、社長さん! 私はそう思った。
「だから安全が確保出来てからにしなさい」
いや、ダメですよ、社長さん…… 少し前に思った気持ちが直ぐに萎んだ。
私は諦めて自分でお断りする事にした。
「あのですね、私は仕事の依頼があると聞いて来たのですが無いようならコレで失礼させていただきます。それに、私には婚約者がおりますので一夜のアバンチュールのお誘いは丁重にお断りさせてください」
私の言葉にいち早く反応したのは相川先輩だった。
「なにーっ!! タケフミ、俺に黙ってたのは何故だっ!?」
いや、何故だも何も決まったのが一昨日ですからね、先輩。私はその事を先輩に伝えた。
「そ、そうか。それなら知らなくてもしょうがないな。で、相手は誰だ?」
「それはこの場で言うような話では無いですからまた後ほど言いますよ」
私がこの場で言いたくなかったのもあって相川先輩にそう言うと、木山さんが喋りだした。
「怪しいわねぇ。ホントに婚約者がいるなら名前ぐらい言ってもいいじゃない。私からの誘いを断る口実に婚約者が居るって言ってるんじゃないの?」
木山さんの言ってる言葉はアレだが言い方というか抑揚が嫌味な感じではなく、答えは分かっていてこの場の雰囲気を軽くしようという意図が見えているから言われた私も不快にはならなかった。
なので、私も笑いながら木山さんに言った。
「ハハハ、さて、どうでしょうね? 本当かどうかはご想像にお任せしますよ。でも一夜のアバンチュールはホントにお受け出来ませんよ」
私がそう言うと木山さんもニッコリと微笑み、
「近年まれに見る良い男ね、あなた。惜しかったわ~、私の方が先に出会ってたら絶対に堕としてたのに。フフフ」
私にそう言う。うん、やはりこの人は面白い。それに自分に正直な人だ。まるで異世界で出会ったあの少し妖艶だった宿屋の看板娘のようだなと私は懐かしく思い出した。
「ハイハイ、もういいでしょ、美登利。気に入った男性をお誘いするよりも貴女はもう少し身辺に注意しなさいよ。この間だって一歩間違えたら大惨事だったでしょ」
既に何かしらあったのか? 私はその話を教えて下さいと社長さんに言った。
「その前に、鴉さんには名乗ってなかったわね。私はこの芸能事務所レツラゴーの社長をしてます、金山咲子と言います。もう還暦のおばあちゃんだけど、よろしくお願いしますね」
いや、還暦? ウソだろ? 40代後半だと思ってたのだが…… 私がビックリした顔をしていたら、相川先輩が言った。
「なっ、ビックリだろ、タケフミ。俺なんて初めてあった時は年上だと信じられなくて、免許証を見せて下さいって頼んだんだぞ。って言ってもその当時は咲子さんも社長じゃ無かったけどな。先代の社長の秘書をしてたんだ。先代が亡くなる前に咲子さんを社長にと言って引退したんだがそれからレツラゴーは更に大きな事務所になったんだよ」
「そんなに褒めても私をおいてこの事務所を辞めたのはまだ許してないわよ、相川くん」
そんな事を言ってるがその顔は素敵な笑顔だったので、とっくに許してるんだろうと分かる。
「そんな…… もう勘弁してくださいよ、社長。ちゃんとタケフミも連れてきたでしょう」
あの相川先輩がタジタジになってるのを見るのは初めてだな。
そう思っていたら、金山さんが何があったのか話し始めた。
「3日前の事なんだけど、収録が終わってまだ夕方前だったから美登利が久しぶりに電車に乗りたいって言って社用車の迎えを拒否して駅に向かったのよ。ホームで待ってたらいきなり線路に向かって背中を押されたそうなの。でも、美登利の後ろには誰も居なくて…… 防犯カメラにも誰も映って無かったから、駅員や警察からは自作自演だろうって言われて……」
ほう、どうやら能力者の手による犯行のようだな。
「金山さんは木山さんの証言を信じているのですね?」
私がそう聞くと木山さんが喋りだした。
「私はデビューから咲子ちゃんと長い付合いよ。そんな嘘を言うはずが無いって咲子ちゃんなら知ってくれてるわ」
所属する事務所の社長さんを咲子ちゃんって…… 社長である金山さんがいいならいいのか。
「そうね、私は美登利がそんな嘘を言う娘じゃないって知ってるから信じてます。それに最近は不思議な事件も多いと聞いてますし」
理解ある人が上にいて良かったですね、木山さん。しかし、そうか…… これはマサシに相談する必要があるな。それと、木山さんを狙っている者を確認したいが木山さんに囮になってもらう訳にはいかないな。
「それでね、私、明後日から四国に地方ロケに行くんだけど、その間だけ着いてきて欲しいのよ」
なっ、四国だとマサシの力を借りる訳にはいかないな。けれども、しょうがないか。何とか地元の警察の案件になるように工夫してみよう。だが、明後日までの間はどうするんだろう?
「明後日からとの事ですがそれまでの安全はどうされるつもりですか?」
私がそう聞くと
「その地方ロケまではオフにしたから家に篭って過ごすつもりなの。でも、その間もボディガードしてくれるなら私の家に招待するわよ、ウフ」
とのお返事があった…… まあ、招待はともかくとして、私は家に居ても安全ではないだろうと思い、手に持っていたカバンから取り出すフリをしながら、シンプルな腕輪を出して木山さんに手渡した。
「もしも私を信じて下さるならば、コチラの腕輪を身に着けていただけますか? 災いから身を守る祈りを込めてあります」
よし、嘘は言ってないぞ。物理、魔法攻撃を受けた時に結界の発動と状態異常の無効を付与してあるからな。
「アラ? さっそく私にプレゼントをくれるの? モテる女は辛いわぁ~ でも、有難く受け取っておくわ。身に着けておけばいいのね?」
「はい。水に濡れても大丈夫なので、お風呂に入る時も着けておいて下さい」
私はそう言い、今日は木山さんの魔力の後を追って自宅を確認して結界を張っておこうと思った。
そして、明後日の早朝4時にこの事務所で待合せをして、社用車に乗って一緒に四国へ向かう事を決めて、レツラゴー事務所を出た。
「で、タケフミ。誰と婚約したんだ?」
出た途端に相川先輩に聞かれたので、私は素直に答えた。
「今朝、会ってますよ先輩。ランドールのマネージャーのカオリちゃんと婚約しました」
「何ーっ!? 深野さんの長女とかっ! よく、桧山Pが納得したな」
「ああ、深野さんがご主人も賛成してくれてるって言ってましたが、まだ桧山さんご自身とは話をしてないんですよ」
私がそう言うと相川先輩は、お前、これから大変だぞと言って私の肩を励ますようにポンポンと叩いたのだった……
分かってますよ、相川先輩。だけどまあ必ず説得してみせますよ。先ずは仕事だ。
私は木山さんの魔力を追うついでに木山さんを中心とした半径500メートルの範囲に探索をかけてある。何者かがその範囲に入れば私には分かるのだ。
それで相手を特定しようと思っている。
さて、今回の依頼でもちゃんと依頼人を守りきろうと思う。
「おいおい、美登利さん、いきなり口説くなよ。コイツは美登利さんを守る為に来たんだからな」
「アラ? 別にいいじゃないの、相川ちゃん。私、まだ独身なんだし不倫にはならないわよ」
そうですか、独身ですか。確かに不倫にはならないですね……
私が脳内でそう思っていたら社長さんが手をパンパンと叩いてから喋りだした。
「はい、それまで。美登利、ダメよ。貴女の安全を守る為に来てもらったんだから」
いいぞ、社長さん! 私はそう思った。
「だから安全が確保出来てからにしなさい」
いや、ダメですよ、社長さん…… 少し前に思った気持ちが直ぐに萎んだ。
私は諦めて自分でお断りする事にした。
「あのですね、私は仕事の依頼があると聞いて来たのですが無いようならコレで失礼させていただきます。それに、私には婚約者がおりますので一夜のアバンチュールのお誘いは丁重にお断りさせてください」
私の言葉にいち早く反応したのは相川先輩だった。
「なにーっ!! タケフミ、俺に黙ってたのは何故だっ!?」
いや、何故だも何も決まったのが一昨日ですからね、先輩。私はその事を先輩に伝えた。
「そ、そうか。それなら知らなくてもしょうがないな。で、相手は誰だ?」
「それはこの場で言うような話では無いですからまた後ほど言いますよ」
私がこの場で言いたくなかったのもあって相川先輩にそう言うと、木山さんが喋りだした。
「怪しいわねぇ。ホントに婚約者がいるなら名前ぐらい言ってもいいじゃない。私からの誘いを断る口実に婚約者が居るって言ってるんじゃないの?」
木山さんの言ってる言葉はアレだが言い方というか抑揚が嫌味な感じではなく、答えは分かっていてこの場の雰囲気を軽くしようという意図が見えているから言われた私も不快にはならなかった。
なので、私も笑いながら木山さんに言った。
「ハハハ、さて、どうでしょうね? 本当かどうかはご想像にお任せしますよ。でも一夜のアバンチュールはホントにお受け出来ませんよ」
私がそう言うと木山さんもニッコリと微笑み、
「近年まれに見る良い男ね、あなた。惜しかったわ~、私の方が先に出会ってたら絶対に堕としてたのに。フフフ」
私にそう言う。うん、やはりこの人は面白い。それに自分に正直な人だ。まるで異世界で出会ったあの少し妖艶だった宿屋の看板娘のようだなと私は懐かしく思い出した。
「ハイハイ、もういいでしょ、美登利。気に入った男性をお誘いするよりも貴女はもう少し身辺に注意しなさいよ。この間だって一歩間違えたら大惨事だったでしょ」
既に何かしらあったのか? 私はその話を教えて下さいと社長さんに言った。
「その前に、鴉さんには名乗ってなかったわね。私はこの芸能事務所レツラゴーの社長をしてます、金山咲子と言います。もう還暦のおばあちゃんだけど、よろしくお願いしますね」
いや、還暦? ウソだろ? 40代後半だと思ってたのだが…… 私がビックリした顔をしていたら、相川先輩が言った。
「なっ、ビックリだろ、タケフミ。俺なんて初めてあった時は年上だと信じられなくて、免許証を見せて下さいって頼んだんだぞ。って言ってもその当時は咲子さんも社長じゃ無かったけどな。先代の社長の秘書をしてたんだ。先代が亡くなる前に咲子さんを社長にと言って引退したんだがそれからレツラゴーは更に大きな事務所になったんだよ」
「そんなに褒めても私をおいてこの事務所を辞めたのはまだ許してないわよ、相川くん」
そんな事を言ってるがその顔は素敵な笑顔だったので、とっくに許してるんだろうと分かる。
「そんな…… もう勘弁してくださいよ、社長。ちゃんとタケフミも連れてきたでしょう」
あの相川先輩がタジタジになってるのを見るのは初めてだな。
そう思っていたら、金山さんが何があったのか話し始めた。
「3日前の事なんだけど、収録が終わってまだ夕方前だったから美登利が久しぶりに電車に乗りたいって言って社用車の迎えを拒否して駅に向かったのよ。ホームで待ってたらいきなり線路に向かって背中を押されたそうなの。でも、美登利の後ろには誰も居なくて…… 防犯カメラにも誰も映って無かったから、駅員や警察からは自作自演だろうって言われて……」
ほう、どうやら能力者の手による犯行のようだな。
「金山さんは木山さんの証言を信じているのですね?」
私がそう聞くと木山さんが喋りだした。
「私はデビューから咲子ちゃんと長い付合いよ。そんな嘘を言うはずが無いって咲子ちゃんなら知ってくれてるわ」
所属する事務所の社長さんを咲子ちゃんって…… 社長である金山さんがいいならいいのか。
「そうね、私は美登利がそんな嘘を言う娘じゃないって知ってるから信じてます。それに最近は不思議な事件も多いと聞いてますし」
理解ある人が上にいて良かったですね、木山さん。しかし、そうか…… これはマサシに相談する必要があるな。それと、木山さんを狙っている者を確認したいが木山さんに囮になってもらう訳にはいかないな。
「それでね、私、明後日から四国に地方ロケに行くんだけど、その間だけ着いてきて欲しいのよ」
なっ、四国だとマサシの力を借りる訳にはいかないな。けれども、しょうがないか。何とか地元の警察の案件になるように工夫してみよう。だが、明後日までの間はどうするんだろう?
「明後日からとの事ですがそれまでの安全はどうされるつもりですか?」
私がそう聞くと
「その地方ロケまではオフにしたから家に篭って過ごすつもりなの。でも、その間もボディガードしてくれるなら私の家に招待するわよ、ウフ」
とのお返事があった…… まあ、招待はともかくとして、私は家に居ても安全ではないだろうと思い、手に持っていたカバンから取り出すフリをしながら、シンプルな腕輪を出して木山さんに手渡した。
「もしも私を信じて下さるならば、コチラの腕輪を身に着けていただけますか? 災いから身を守る祈りを込めてあります」
よし、嘘は言ってないぞ。物理、魔法攻撃を受けた時に結界の発動と状態異常の無効を付与してあるからな。
「アラ? さっそく私にプレゼントをくれるの? モテる女は辛いわぁ~ でも、有難く受け取っておくわ。身に着けておけばいいのね?」
「はい。水に濡れても大丈夫なので、お風呂に入る時も着けておいて下さい」
私はそう言い、今日は木山さんの魔力の後を追って自宅を確認して結界を張っておこうと思った。
そして、明後日の早朝4時にこの事務所で待合せをして、社用車に乗って一緒に四国へ向かう事を決めて、レツラゴー事務所を出た。
「で、タケフミ。誰と婚約したんだ?」
出た途端に相川先輩に聞かれたので、私は素直に答えた。
「今朝、会ってますよ先輩。ランドールのマネージャーのカオリちゃんと婚約しました」
「何ーっ!? 深野さんの長女とかっ! よく、桧山Pが納得したな」
「ああ、深野さんがご主人も賛成してくれてるって言ってましたが、まだ桧山さんご自身とは話をしてないんですよ」
私がそう言うと相川先輩は、お前、これから大変だぞと言って私の肩を励ますようにポンポンと叩いたのだった……
分かってますよ、相川先輩。だけどまあ必ず説得してみせますよ。先ずは仕事だ。
私は木山さんの魔力を追うついでに木山さんを中心とした半径500メートルの範囲に探索をかけてある。何者かがその範囲に入れば私には分かるのだ。
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