4 / 11
4話 夢の世界。
しおりを挟む
「目を開けるんだ」
誰かの声で反射的に目を覚ました。
驚くべき事にもう朝になっていた。窓から差し込む日光がひたすらに眩しく、眠っていた感覚が無い。相当疲れていたのだろうか?
もう結構日が高いし、もしかしたら何かに出遅れてしまったのかも知れない。身だしなみチェックを終わらせ部屋を出る。だが、廊下には人の気配が無い。
誰かがいれば環境音がしても良いのだが、まるでそんな気配も無く。訝しみながら廊下を歩く。
少し行った所、中庭方面の部屋のドアが開いている。ここは誰の部屋だろう、昨日の夜は誰も入って行かなかったのを覚えている。白い扉を体が入れるまで引きながら開ける。
部屋にはベッドが一つ、そこには青年が半身を起こした状態で存在していた。あぁ、なんだ。ここは夢の中か。
彼は僕を見て言う。
「ようこそ、宝の里へ」
黒いワイシャツの青年は、年齢は僕よりも上だろう。色素の薄い肌は小鳥遊さんとは違い血色が悪い感じだ。彼は妙に落ち着いた様子で、僕もなんだか彼を見ていると安心する。
「貴方は?」
彼はベッドの前にある丸椅子に僕を誘う。彼に従い腰を降ろす。
「名乗って無かったね。俺は須崎二正(すざき にせい)、宝の里に住むギフテッドだよ」
「あの……、これってどういう事ですか?」
これとはこの現象そのものを言っている。果たして現実なのかも判然としない状況が、混乱を生み出していた。これまでの夢が現実味を帯びるようで、納得を求めた結果と言える。
「俺の能力は境界を越える力さ。不思議だろ? だから今は君の夢の中に入っていけるる」
「じゃあ、僕は今眠っているんですね? その須崎さんは、なんで僕を?」
「二正で良いよ。会うのは初めてだね。さて、不躾だが、俺達には時間が無いんだ。君に幾つか頼みたい事がある。聞いてくれるかな?」
なんだろう。断れないと言うか、断る理由が無い気がした。それ以上に彼なら信頼できると荒唐無稽な自信すらある。
「僕がその役に立つならば、どうぞ」
「あはは、むしろ君でなければならない。そこの本棚にある一番上の右から二段目の本を取って来てくれないか?」
彼の指さす方には真っ白な本棚が壁に沿うように置かれている。そして最上段の二番目の本、他の本は本棚同様真っ白にも関らず、彼が指し示した書籍だけは色の付いた背表紙であった。
「ここには俺の必要な物しかない。それ以外の物は境界を越えてはいけない」
本を取りに行く間に彼が僕の思考を読むかのように疑問を解答する。
「この本は?」
よく見るとdiaryと記載してある。どうやら誰かの日記らしい。僕がその本を開くと二正はあるページの記述を僕に指さした。
「ギフテッドに関してですね。これって、深井卓さんの」
「そう。彼の研究日誌のような物さ、ここに住む以上君は俺達について知らねばならない。そこには知りたくない事も有るだろうが、これは一種の義務だと思ってくれて構わないよ」
義務、そう言われると、無性に反論したい衝動に駆られる。どうして僕が、と、でも即座にその反動は間違いだと気づく。それは小鳥遊さんと出会った時の印象だ。
彼女は僕等のような、つまりは一般的に何を負う事も無く生きている人間にどう思われるかを気に病んでいた。それは自分では無く他の子供達を案じての事だ。
そして、僕は彼女の何かに触れる度に渦巻く物の正体を知りたいとも感じていた。だからこそ彼は義務と定義しているのかも知れない。
「分かりました。僕に出来る事ならば、やります」
「心強い。じゃあ、このページをよく読むんだ。まぁ、同じ本は君の部屋にもあるから暗記の必要は無いけどね。読んだら夢から覚めるよ」
事態の不思議さはともかくとして、僕はギフテッド達に対する見識の一部を再確認する。生まれた時に体の何処かに痣があり、加齢と共にその痣は濃くなる。
感情の起伏によって発現するケースから症候群に分類された。脳波に解析可能な変化は起こらず、軍事転用にも期待されなかった為に、早期から終末医療が適用される難病として登録された。
そして、『才能』を示す【gifted】を頭に付けてギフテッドシンドロームと名付けた。日本語での正式名称は『情動性随伴症状慢性化症候群』という長たらしいもので、現在では俗称として、【gifted】を贈り物と言い換えた贈り物症候群やギフテッド症候群が広く伝搬している。
そして彼等には同様に起こりうる症状が羅列してあった。でも、僕はその文字列を目で追い、続けて二正の顔に目を向けた。僕の目はある種の衝撃を宿している。
「それが俺達の――だよ」
誰かの声で反射的に目を覚ました。
驚くべき事にもう朝になっていた。窓から差し込む日光がひたすらに眩しく、眠っていた感覚が無い。相当疲れていたのだろうか?
もう結構日が高いし、もしかしたら何かに出遅れてしまったのかも知れない。身だしなみチェックを終わらせ部屋を出る。だが、廊下には人の気配が無い。
誰かがいれば環境音がしても良いのだが、まるでそんな気配も無く。訝しみながら廊下を歩く。
少し行った所、中庭方面の部屋のドアが開いている。ここは誰の部屋だろう、昨日の夜は誰も入って行かなかったのを覚えている。白い扉を体が入れるまで引きながら開ける。
部屋にはベッドが一つ、そこには青年が半身を起こした状態で存在していた。あぁ、なんだ。ここは夢の中か。
彼は僕を見て言う。
「ようこそ、宝の里へ」
黒いワイシャツの青年は、年齢は僕よりも上だろう。色素の薄い肌は小鳥遊さんとは違い血色が悪い感じだ。彼は妙に落ち着いた様子で、僕もなんだか彼を見ていると安心する。
「貴方は?」
彼はベッドの前にある丸椅子に僕を誘う。彼に従い腰を降ろす。
「名乗って無かったね。俺は須崎二正(すざき にせい)、宝の里に住むギフテッドだよ」
「あの……、これってどういう事ですか?」
これとはこの現象そのものを言っている。果たして現実なのかも判然としない状況が、混乱を生み出していた。これまでの夢が現実味を帯びるようで、納得を求めた結果と言える。
「俺の能力は境界を越える力さ。不思議だろ? だから今は君の夢の中に入っていけるる」
「じゃあ、僕は今眠っているんですね? その須崎さんは、なんで僕を?」
「二正で良いよ。会うのは初めてだね。さて、不躾だが、俺達には時間が無いんだ。君に幾つか頼みたい事がある。聞いてくれるかな?」
なんだろう。断れないと言うか、断る理由が無い気がした。それ以上に彼なら信頼できると荒唐無稽な自信すらある。
「僕がその役に立つならば、どうぞ」
「あはは、むしろ君でなければならない。そこの本棚にある一番上の右から二段目の本を取って来てくれないか?」
彼の指さす方には真っ白な本棚が壁に沿うように置かれている。そして最上段の二番目の本、他の本は本棚同様真っ白にも関らず、彼が指し示した書籍だけは色の付いた背表紙であった。
「ここには俺の必要な物しかない。それ以外の物は境界を越えてはいけない」
本を取りに行く間に彼が僕の思考を読むかのように疑問を解答する。
「この本は?」
よく見るとdiaryと記載してある。どうやら誰かの日記らしい。僕がその本を開くと二正はあるページの記述を僕に指さした。
「ギフテッドに関してですね。これって、深井卓さんの」
「そう。彼の研究日誌のような物さ、ここに住む以上君は俺達について知らねばならない。そこには知りたくない事も有るだろうが、これは一種の義務だと思ってくれて構わないよ」
義務、そう言われると、無性に反論したい衝動に駆られる。どうして僕が、と、でも即座にその反動は間違いだと気づく。それは小鳥遊さんと出会った時の印象だ。
彼女は僕等のような、つまりは一般的に何を負う事も無く生きている人間にどう思われるかを気に病んでいた。それは自分では無く他の子供達を案じての事だ。
そして、僕は彼女の何かに触れる度に渦巻く物の正体を知りたいとも感じていた。だからこそ彼は義務と定義しているのかも知れない。
「分かりました。僕に出来る事ならば、やります」
「心強い。じゃあ、このページをよく読むんだ。まぁ、同じ本は君の部屋にもあるから暗記の必要は無いけどね。読んだら夢から覚めるよ」
事態の不思議さはともかくとして、僕はギフテッド達に対する見識の一部を再確認する。生まれた時に体の何処かに痣があり、加齢と共にその痣は濃くなる。
感情の起伏によって発現するケースから症候群に分類された。脳波に解析可能な変化は起こらず、軍事転用にも期待されなかった為に、早期から終末医療が適用される難病として登録された。
そして、『才能』を示す【gifted】を頭に付けてギフテッドシンドロームと名付けた。日本語での正式名称は『情動性随伴症状慢性化症候群』という長たらしいもので、現在では俗称として、【gifted】を贈り物と言い換えた贈り物症候群やギフテッド症候群が広く伝搬している。
そして彼等には同様に起こりうる症状が羅列してあった。でも、僕はその文字列を目で追い、続けて二正の顔に目を向けた。僕の目はある種の衝撃を宿している。
「それが俺達の――だよ」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
※不定期 18時更新※(なるべく毎日頑張ります!)
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
【完結】あやかしの隠れ家はおいしい裏庭つき
入魚ひえん
キャラ文芸
これは訳あってあやかしになってしまった狐と、あやかしの感情を心に受け取ってしまう女の子が、古民家で共に生活をしながら出会いと別れを通して成長していくお話。
*
閲覧ありがとうございます、完結しました!
掴みどころのない性格をしている狐のあやかしとなった冬霧と、冬霧に大切にされている高校生になったばかりの女の子うみをはじめ、まじめなのかふざけているのかわからない登場人物たちの日常にお付き合いいただけたら嬉しいです。
全30話。
第4回ほっこり・じんわり大賞の参加作品です。応援ありがとうございました。
八奈結び商店街を歩いてみれば
世津路 章
キャラ文芸
こんな商店街に、帰りたい――
平成ノスタルジー風味な、なにわ人情コメディ長編!
=========
大阪のどっかにある《八奈結び商店街》。
両親のいない兄妹、繁雄・和希はしょっちゅうケンカ。
二人と似た境遇の千十世・美也の兄妹と、幼なじみでしょっちゅうコケるなずな。
5人の少年少女を軸に織りなされる、騒々しくもあたたかく、時々切ない日常の物語。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
高校生なのに娘ができちゃった!?
まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!?
そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる