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4話 夢の世界。

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「目を開けるんだ」



 誰かの声で反射的に目を覚ました。

 驚くべき事にもう朝になっていた。窓から差し込む日光がひたすらに眩しく、眠っていた感覚が無い。相当疲れていたのだろうか?



 もう結構日が高いし、もしかしたら何かに出遅れてしまったのかも知れない。身だしなみチェックを終わらせ部屋を出る。だが、廊下には人の気配が無い。



 誰かがいれば環境音がしても良いのだが、まるでそんな気配も無く。訝しみながら廊下を歩く。



 少し行った所、中庭方面の部屋のドアが開いている。ここは誰の部屋だろう、昨日の夜は誰も入って行かなかったのを覚えている。白い扉を体が入れるまで引きながら開ける。



 部屋にはベッドが一つ、そこには青年が半身を起こした状態で存在していた。あぁ、なんだ。ここは夢の中か。

 彼は僕を見て言う。



「ようこそ、宝の里へ」



 黒いワイシャツの青年は、年齢は僕よりも上だろう。色素の薄い肌は小鳥遊さんとは違い血色が悪い感じだ。彼は妙に落ち着いた様子で、僕もなんだか彼を見ていると安心する。



「貴方は?」



 彼はベッドの前にある丸椅子に僕を誘う。彼に従い腰を降ろす。



「名乗って無かったね。俺は須崎二正(すざき にせい)、宝の里に住むギフテッドだよ」



「あの……、これってどういう事ですか?」



 これとはこの現象そのものを言っている。果たして現実なのかも判然としない状況が、混乱を生み出していた。これまでの夢が現実味を帯びるようで、納得を求めた結果と言える。



「俺の能力は境界を越える力さ。不思議だろ? だから今は君の夢の中に入っていけるる」



「じゃあ、僕は今眠っているんですね? その須崎さんは、なんで僕を?」



「二正で良いよ。会うのは初めてだね。さて、不躾だが、俺達には時間が無いんだ。君に幾つか頼みたい事がある。聞いてくれるかな?」



 なんだろう。断れないと言うか、断る理由が無い気がした。それ以上に彼なら信頼できると荒唐無稽な自信すらある。



「僕がその役に立つならば、どうぞ」



「あはは、むしろ君でなければならない。そこの本棚にある一番上の右から二段目の本を取って来てくれないか?」



 彼の指さす方には真っ白な本棚が壁に沿うように置かれている。そして最上段の二番目の本、他の本は本棚同様真っ白にも関らず、彼が指し示した書籍だけは色の付いた背表紙であった。



「ここには俺の必要な物しかない。それ以外の物は境界を越えてはいけない」



 本を取りに行く間に彼が僕の思考を読むかのように疑問を解答する。



「この本は?」



 よく見るとdiaryと記載してある。どうやら誰かの日記らしい。僕がその本を開くと二正はあるページの記述を僕に指さした。



「ギフテッドに関してですね。これって、深井卓さんの」



「そう。彼の研究日誌のような物さ、ここに住む以上君は俺達について知らねばならない。そこには知りたくない事も有るだろうが、これは一種の義務だと思ってくれて構わないよ」



 義務、そう言われると、無性に反論したい衝動に駆られる。どうして僕が、と、でも即座にその反動は間違いだと気づく。それは小鳥遊さんと出会った時の印象だ。



 彼女は僕等のような、つまりは一般的に何を負う事も無く生きている人間にどう思われるかを気に病んでいた。それは自分では無く他の子供達を案じての事だ。



 そして、僕は彼女の何かに触れる度に渦巻く物の正体を知りたいとも感じていた。だからこそ彼は義務と定義しているのかも知れない。



「分かりました。僕に出来る事ならば、やります」



「心強い。じゃあ、このページをよく読むんだ。まぁ、同じ本は君の部屋にもあるから暗記の必要は無いけどね。読んだら夢から覚めるよ」



 事態の不思議さはともかくとして、僕はギフテッド達に対する見識の一部を再確認する。生まれた時に体の何処かに痣があり、加齢と共にその痣は濃くなる。



 感情の起伏によって発現するケースから症候群に分類された。脳波に解析可能な変化は起こらず、軍事転用にも期待されなかった為に、早期から終末医療が適用される難病として登録された。



 そして、『才能』を示す【gifted】を頭に付けてギフテッドシンドロームと名付けた。日本語での正式名称は『情動性随伴症状慢性化症候群』という長たらしいもので、現在では俗称として、【gifted】を贈り物と言い換えた贈り物症候群やギフテッド症候群が広く伝搬している。



 そして彼等には同様に起こりうる症状が羅列してあった。でも、僕はその文字列を目で追い、続けて二正の顔に目を向けた。僕の目はある種の衝撃を宿している。



「それが俺達の――だよ」
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