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追放編

第18話

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 屋根の上へと登るための掛けられている梯子から屋根裏部屋へと侵入する。
 大量の壺がおいてあり、そこから甘酸っぱい匂いが漂う。
 ここは何かしらの倉庫らしい。
 下へと続く入口を見つけ、顔を僅かに覗かせる。
 視界の先で男たちが酒盛りをしているのが目に入った。

「それで、上手く閉じ込められたのか?」

「えぇ、それは勿論でさぁ」

 出っ歯の小男が体の大きな男と話している。
 席の位置からしてあの男が一番偉いのだろうか。

「逃げられたりしないだろうな。お前の話じゃ怪しんでたんだろう?」

「まぁ、それでも相手は子供でさぁ。それにあの小屋には異種族のみに効果のある弱体化の術式があるんで今頃指を動かすのも苦労してるはずですぜ!!」

「ほう、森人族の里で使われたって噂のやつか。それじゃあ安心だな」

「えぇ、そりゃあもう。それ使ってトネリの奴等は大量の森人を捕まえてましたからねぇ。十分効果はあるかと」

「そうかそうか。なら、問題ねぇな。だが、衰弱しすぎて死ぬなんてことがあったらいけねぇ。後でお前様子を見てこい」

「え、あっしがですか?」

「何だ、文句があるのか?」

「い、いえいえ……ただぁ、ずっとここ最近働き詰めでしたんで休みたいなぁ……何て」

「あぁ?」

「あ、やっぱり何でもありません。あっしは働くの大好き! もうバリバリ働いちゃうもんねー!!」

 やっぱり人攫いだったか。
 しかし、異種族のみに効果のある弱体化の術式か。森人族の里で使われたものと同じなら、私に効かないのに無駄なことを。と言っても知らないから無理もないか。
 会話からしてこの者たちは里を襲った人攫いとは別の一味なのだろうが、恨みを買う商売をやっている以上、遠慮する理由はない。

「――フッ」

 軽く息を吐き出し、剣を抜いて疾走する。
 狙うのは一番偉そうにしていた男だ。
 悲鳴を上げる前に脳天に剣を突き刺す。酒を飲み、騒いでいた男たちが一斉に静かになり、私を見た。

「お、おぉお頭!?」

「森人の餓鬼!? 何でこんな所にいやがる!!」

「おい出っ歯、どういうことだ!」

「そんなっあっしは知りませんよ!?」

「クソッ捕まえろ!!」

 武器を取ろうとする者、素手で捕まえようとする者、物陰に隠れようとする者。
 それぞれが動き出す。
 まずは、素手で捕まえようとしてくる者たちから対処させて貰おう。
 酒を飲んでこの私の相手をしようとするなんて烏滸がましいにもほどがある。
 素早く懐に潜り込んで股間に一発、その後に顎に拳を見舞う。最後に蹴り飛ばし、後続と衝突して全員の足を止めた所に斬りかかる。

「次」

「大人を舐めてんじゃねぇぞこの餓鬼がッ。翠級すいきゅう剣士であるこの俺が成敗してくれる!!」

 ほう、翠級剣士。
 森人族の里では輝術師ばかりだったからな。初めて見た。
 輝術師では等級が貰えても、輝術の使えない剣士である私には等級は貰えなかった。気にしてはいないが、自分の強さがどれぐらいなのかの指標は欲しいと思っていた所だ。
 私がこいつに勝てば少なくとも翠級以上の強さがあると言うことになる。
 やる気が俄然湧いた。
 小さい体を活かして机の下に潜り込み、蹴り上げる。
 これで相手の意識は机に行った。私はお留守になっている足首を斬り付ける。

「あ、あしがぁっ――ぐぺ!?」

 あっさり倒れた翠級剣士の喉を貫き、絶命させる。
 呆気なかったな。もうちょっと歯応えが欲しかったが、まぁ仕方がない。

「死にやがれガキャア!!」

 剣を引こうとした所で残り二人が襲い掛かってくる。
 剣を手放し、私は一番前にいた男の顔に飛び蹴りを叩き込む。
 狭い部屋の中、前にいた男が飛び蹴りを喰らい、飛んできたせいで後ろにいた男も巻き込まれて部屋の壁に叩きつけられた。
 その間に剣を引き抜くとまだ意識のある二人に止めを刺す。
 残ったのは出っ歯の小男だけ。

「な、な、な――!?」

 口をパクパクとさせ、状況を飲み込めずにへたり込む出っ歯の小男。
 剣を向けて口を開く。

「話して欲しいことがある。言わないとどうなるか――言うまでもないよな?」

 頬を僅かに斬れば、出っ歯の小男は何度も頷く。
 勢いで首が取れそうだ。

「さっき森人を捕まえた人を知ってそうだったけど、その人は何処にいる?」

「それ、聞いてどうするんだよっ」

「言わなきゃ分かんない?」

 森人が捕まった森人のことを聞いている。ならば、答えは決まっているだろう。
 剣で腹を突く。すると出っ歯の小男は慌てて口を開いた。

「ヒィッ、ここと反対側にある隠し倉庫の所だ!! い、いつもそこにそいつらはいる!!」

「そう、なら案内してくれ」

「そんなの無理に決まっているだろ!? あっしは下っ端なんだ。商売敵の所に下っ端が行って生きて戻れるはずがねぇ!!」

「大丈夫。その商売敵は今日死ぬから。それとも貴方もここで死にたいか?」

 もう一度剣で腹を突く。
 ほら、早くはいと言え、お腹を刺されたら苦しいぞ。なんせ、横に掻っ捌こうが、突き刺されようが、死ねないんだから。
 出っ歯の小男に戦闘能力はないから私を倒すことはできないし、ここから逃げることも不可能だ。
 生きるか死ぬかは私次第。
 このままでは出っ歯の小男も危ないと思ったのだろう。
 重々しく頷き、私を連れて行くことを了承した。

 それから。私は出っ歯の小男の案内で夜の街を進む。
 私だけで行っても良かったが、出っ歯の小男が嘘を言っている可能性もある。念のためだ。
 人がいないため、移動早い。
 ここではどのような生活がされているのか見て見たかったが、今は母様が優先だ。
 移動がてら出っ歯の小男に情報を吐かせると、どうやらトネリ――森人族の里を襲った者たちの長の名前――の一味には翠級剣士が一人いるらしい。
 トネリ自身の戦闘能力は高くはなく、本人は商売担当だと言いふらしているようだ。
 街にはいる時も思ったけど、只人族は面倒臭いな。同じ種族の中で面倒な取引をしているし……森人族の里ではそんなことはなかったぞ。
 母様はいつだって対価を渡さず物を貰っていたし、渡していたって言うのに。

「あ、あれでさぁ」

 おっと、着いたのか。切り替え、切り替え。
 建物の影に潜んで出っ歯の小男が指を指した方向を見る。
 そこには何もない。強いて言うなら小屋はあるが、指はそちらを向いていない。

「…………」

「いやいや、本当ですぜ! あそこの地面に隠し扉があるんでさぁ。地下に商品を隠しているんですよ!! 小屋は囮!! 恨みを買う商売ですからねぇ。大切な物は隠さなきゃならんのですよ」

「敵だって言っていたのに、知っているんだな」

「敵だからこそですよぉ。いつだって商売敵の本拠地を調べておかないと叩き潰せないでしょう?」

「そう、それじゃあ一緒に行こうか」

「へ? あ、あっしは戦えないんでここで待ってた方が――」

「何かあったら困るから、一緒に行って貰う。逆らう?」

「……わ、分かりやした。でも、顔は隠してくだせぇよ」

 剣を鞘から抜いてちらつかせれば、出っ歯の小男は分かりやすく項垂れる。
 嘘、もしくは罠の可能性八割って所かな。その時はこいつを盾にしよう。
 出っ歯の小男と一緒に指を指した所へと歩いていく。すると、近くにあった林から人影が二つ出てくる。

「おう、お前か」

「へ、へぇ兄貴。お久しぶりでさぁ」

「?」

 出てきた人物と何故か親しそうに会話をする出っ歯の小男。
 可笑しい。この出っ歯の小男はここにいる一味と敵対関係ではなかったのか。

「後ろの奴は誰だ?」

「いやぁ、このお人はあっしの護衛でさぁ。最近あっち側に疑いをもたれてまして」

「んだと。俺たちのことを話したんじゃないんだろうな?」

「いえいえ、そんなことはありやせん。あっしは口が堅いですからねぇ。ほら、最近こちらは森人族の商売があってウハウハでしょう? それに苛立って誰彼構わず疑うようになったんでさぁ」

「そんなことがありえるのか?」

「脳味噌が筋肉でできてる馬鹿を常識で考えてはいけませんぜ兄貴」

 なるほど、つまりこいつは実はこちらの一味の人間だったと言うことか。
 あんなに仲が良かった――良くもないか。かなり無理して働かされていたし。

「何で顔を隠してる」

「このお人はあっしと同じで小さいんで、少しでも不気味に見せるようにしてるんでさぁ」

「不気味ぃ? 小人が二人並んでいるようにしか見えねぇな。無い知恵絞って考えたようだが、効果がねぇようだなぁ」

「ハハ、そうですかぁ。良い案だと思ったんですがねぇ――クソが、お前等の一味の情報売り渡してやろうか」

 おっと悪口確認。
 もしかしてこっちでもあんまりいい立場に着けていないようだ。
 だが、そんなことよりも――。

「あの、それで入らせていただけますかねぇ。丁度、良い情報が手に入ったんでさぁ」

「今日はここに来るって報告はなかったが?」

「いやぁ、何分急に起きたことなもんで」

「ふん、まぁ良い。言っておくが、商品には触るなよ」

「勿論でさぁ」

 子供のような背丈が二人――私は子供だけど――では危険にはならないと判断したのか、男の一人が地面に手を突っ込み、地面に偽装していた隠し扉を開ける。
 うん、罠はなさそうだな。

「ありがとう」

「あぁ、なんだテメ――」

 突如言葉を発した私を訝し気に見て来た男たちだが、行動に移される前に頭に突きを放つ。
 突きは外れることなく男たちの顔面を貫いた。

「ヒ――」

「早く行って」

「あ、あっしもですか?」

「うん、会話からしてここに何度も来たことあるんでしょ? 中の案内も必要だし」

「そ、そんな――」

 出っ歯の小男の背中を剣で突っつきながら、階段を下りていく。
 階段を降り切ると中には武器を研いでいる者もいれば、談笑をしている者もいる。この部屋には四人か。問題ないな。

「おい、後ろにいる奴は誰だ?」

 男の一人が出っ歯の小男に尋ねる。
 出っ歯の小男が答える前に、私はその男を斬り伏せた。

「テメェッ」

「裏切りやがったのか!?」

「ち、違う。あっしはこのイカれた餓鬼に無理やり――」

 一人が斬り殺されたことで完全に空気が変わる。
 これで良い。
 見つけるの何て面倒だ。そちらから襲い掛かって来てくれ。その方が楽だから。
 近づいて来る人攫いたちを片っ端から斬り捨てる。増援を呼ばれれば、それも斬り伏せる。逃げようとする者も斬り伏せる。
 こいつらは母様を奪った奴等だ。
 与える慈悲はない。我慢をする必要はない。
 私から母様を引き剥がした連中にこれまで抑えていた怒りをぶつける。
 斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬りまくる。
 数刻後には、いつの間にか中は静かになっていた。

「何だ。もう終わっちゃったのか」

 トネリらしき男も、出っ歯の小男もいつの間にか死んでいた。
 森人を一緒に探させようと思ったけど、まぁ良い。母様を探そう。そう考えて、私は足を引き摺りながら徘徊する。

「かあさま……かあさま……」

 足をどこかで怪我をしたらしい。斬りつけられたのか。
 でも、関係ない。
 もう少しで母様に会えるのだ。些細な傷など気にしていられなかった。

 ――だが、私の思いとは裏腹に母様は見つからなかった。
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