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第五章. 悪嬢 vs 悪役令嬢!? 真なるヒロインはどっちだ!

076. 相対性ブサイク論

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「ふーっ、やべぇやべぇ」

 階段を降り、近くの通路を曲がって隠れたレヴィア。彼女は額の汗をぬぐいつつ安心のため息を吐いた。本好きな少女を演じていたが、途中でボロが出そうになって逃げ出したのだ。
 
 純粋な少女を演じる為に純愛な本を読むようにした。会話のネタになることも想像していた。しかし語り続けることは難しかった。年頃の少女にとっては面白いのかもしれないが、元男のレヴィアにとっては「こんな男いねーよ」という冷めた感想しか出てこなかったからだ。性癖全開のミスターミナモトの小説は振り切れ過ぎて逆に面白かったのだが。

「女好きのクセに意味わかんねーヤツ。いや、女好きでただれてるからこそ逆に新鮮だったのかね? 純愛タイプの俺にはキツかったし……」
「あ、あの、レヴィア様」

 レヴィアが考え込んでいると、エドの幼馴染たるイレーヌが話しかけてきた。隣にはステラとレナの姿もある。ロムルスを案内した後も近くで待機しており、レヴィアの姿を見て追いかけてきたのだ。

「おお、お疲れー。そっちはどうだったよ?」
「上手くいったと思います。興味深そうにうなずいてましたし」
「ほかの女の人が話しかけてもなしのつぶてで、頭がいっぱいな感じでした」
「こっちに目もくれなかったのは腹立つけど、それだけ姉御が気になってるんでしょうね」

 ねぎらいつつも状況を聞くと、中々に順調な模様。レヴィアはうんうんと満足そうに頷く。内と外、両方から攻める作戦はやはり効果的なようだ。
 
 内……つまりレヴィア本人はあくまで控えめに受け答えする事で奥ゆかしさをアピールし、外である三人にレヴィアの良さを間接的かつ積極的に伝えてもらう。そういう作戦であった。 

(気になる女の情報は事前に集めるのが普通だしな。俺も昔はそうしてたし)

 男子高校生DK時代。気になる子の事を知る為に自分もそうしていた。趣味や好きなものを知り、会話のきっかけにする為に。
 
 とはいえ、自分がしたのは調査だけだったりする。その子の友達による「あの子超性格悪いよー」という情報を聞いてアプローチを中止したのだ。なお、後にその言葉は全くの嘘……女同士の足の引っ張り合いという事を知るが、既に後の祭り。気になる子は彼氏持ちになっていた。そういう苦い経験を応用したのが今回の作戦である。
 
「よし。そんじゃこれからも同じ感じでよろしく。ただ、やりすぎに注意な。たまには欠点も言うように。『欠点だけど美点でもある』なんてのがベスト。『人に優しすぎて自己主張が苦手』とかな」
「分かりました。ふふっ、ロムルスめ……。このひどい女と結婚してひどい目にあうといいわ……!」
 
 黒いオーラを出しながら口元をゆがめるステラ。ロムルス本人が指示したかは分からないが、結果的にめちゃくちゃ被害を受けたウッド家である。黒くなるのも仕方ないといえよう。ついでに「オウ、誰がひどい女だ」と叩かれるのも仕方ない事であった。
 
「けど姉御」
「ん?」

 そんな感じでステラをイジメていると、背後のレナが呟く。何かを懸念しているのか、難しい顔をしている。

「あんまり好かれるとそれはそれでマズイかもしれないっす。王子の妃が出張ってくる可能性があるんで。妃候補は私が抑えられますけど、流石にそっちまではどうにもならなくてですね。一応、気を付けた方がいいと思うっす」

 その言葉を聞いたレヴィアは手を止め、「ハッ」と鼻を鳴らして返答。
 
「所詮は九百九十九人の中の一人でしかねーよ。そんな一山いくらの女に俺が負けるわけねーだろ。見よ、この美貌を」
「や、姉御が美人なのは重々分かってますけど。イジメなんつーのも余裕で対処してますし。ただ、既に后になってるだけあって公爵やら侯爵やらの娘もいるんすよ」
「あー、実家が出張ってくるってか?」
「流石にそこまではないと思いますけど……。特に注意なのは第十妃のルシア・ヴィペールですね。出自は公爵令嬢、さらに王子の幼馴染っつー事で、王子も頭が上がらないともっぱらの噂です」

 それはやっかいかもしれない。権力者の娘かつ幼い頃からの間柄。きっと仲もいいはずだ。それがある限り第十后を蹴落とすのは難しいと思われる。
 
 愛情というものはやっかいだ。自分とて未だに娘や妻を愛しているのだから。既に十数年経っているというのに。ロムルスも同様である可能性は十分にある。
 
 そう考えたレヴィアが質問すると、レナは首を横に振って返答。
 
「いえ、夫婦仲はそこまででもないっぽいっすね。苦手なのか王子は第十妃を避けてるっぽいですし。二人の間に子供もいないっす」

 なんだ。それなら付け入る隙は十分にある。自分で例えればロリコンにもなっておらず、純花も生まれていない状態。離れる事などたやすい……いや、アリスは見た目がアレなので罪悪感がすごそうだが、第十妃は大人だろう。たぶん。
 
「成程。その程度なら何とかなるだろ。幼馴染だろうが所詮はブサイク。相手にならねーよ」
「や、別にブサイクじゃないと思いますけど……」

 レヴィアは手をひらひらと振って余裕こいた。その発言に突っ込むレナだが、自分と比べればどんな美人も相対的にブサイクなのは間違いないのだ。つまり勝利は確定。相対性ブサイク論というとても傲慢な理論を提唱するレヴィアであった。
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