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第三章. 最強娘を再教育

042. 遺跡調査開始

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 森に入ってすぐの場所。そこには地面に大きな穴が開いていた。長方形の穴で、縦に十メートル、横に十五メートルはある。入り口からは風鳴り音が聞こえ、何やら不気味な感じが漂っていた。
 
「周囲に魔物はいないようだが……どうだレヴィア。……レヴィア?」
「……はっ! そ、そうですわね。少なくとも近くにはいないと思います。いるとしたら地下でしょう」

 レヴィアは未だショックを受けていたが、ネイの問いかけでようやく気を取り戻す。
 
 そのまま周囲を伺うも、辺りに生物の気配は無い。ウサギさんやリスさんの気配も無いので、恐らく魔物が出てきた際に逃げてしまったのだろう。
 
「こんなに広い出入口なのに今まで見つかってなかったの? 普通誰かが見つけそうなものだけど」

 リズは不思議に思っている様子。この場所はパートリーの町からせいぜい一、二時間。狩人や冒険者が見つけていてもおかしくない位置だ。

「閉まっていたのでは? 降りてすぐの坂道になってる部分は土の地面だが、その先は灰色の壁と床。開閉できるような造りに見える」
「成程」

 ギルフォードが顎に手を当てながら考察。レヴィアも彼と同様の意見だ。レヴィアの予想では、ここは恐らく搬入口。人間用の入り口にしては大きいし、大掛かりすぎるからだ。
 
 故に他の出入口もあるのだろうが……この状況で探すべきでは無いだろう。どのくらい時間がかかるかも分からないし、探している間に魔物が出てこないとも限らない。
 
「よし、入るぞ。どこに罠があるかも分からん。レヴィア、先行してくれ」
「はいはい」

 ネイの言葉に従い中に入ると、しばらく坂道が続いた。上から見たときは気づかなかったが、足元に金属製のレールが敷かれ、下まで続いている。荷物を運ぶ昇降機用のレールだろう。
 
「暗くなってきましたわね。リズ、照明の魔法を」
「分かったわ」
 
 リズが呪文を唱え、光を放つ光球を構築。ライトと呼ばれる辺りを光らせるだけの魔法だ。初心者でも使える簡単な魔法だが、遺跡探索には必須の魔法だ。
 
 その光を頼りに下へと進む。しばらく歩き、かなり地下に潜ったところでようやく坂道が終わった。大広間に出たのでリズが光を強くすると――
 
「なにこれ。ボロボロの機械……?」

 純花の言う通り、周囲には壊れた機械がたくさんあった。動力が魔力という事もあり、そのデザインは地球とはかけ離れているが、タイヤやアームのようなものがあるので運搬用の機械だろうと想像できた。
 
「ふーむ。何というか、廃墟のような場所だな。未踏破の遺跡と言うからもっと綺麗な場所かと思っていたが……」
「うん。遺物も全部壊れちゃってるみたいだし」

 ネイとリズは少し残念がっている。騎士たちも同様の反応だ。純花は目的の遺物を探しているらしく、周囲をきょろきょろとしていた。

「それっぽいのは無いか。全部壊れてるし。……いや、壊されてる?」

 周囲にある機械。その全てが破壊されていたのだ。破壊跡も経年劣化しているので最近壊された訳では無い。

「魔王の仕業でしょう。はるか古代、魔王は人間を滅ぼそうとした際にその文明すらも奪った。つまりここにも魔王が攻めてきたと考えるべきかと」
「そうなんだ……」

 ギルフォードの言葉に純花は落ち込んだ様子を見せる。彼女の求める遺物も壊されているかもしれないと思ったのだろう。そんな彼女にレヴィアは言葉をかける。
 
「純花。魔物培養器クレイドルが動いているのですから、無事な場所もあるに違いありませんわ。落ち込むには早いと思いますわよ?」
「……そっか。うん、そうだよね」

 純花は気を取り直し、目に力を宿らせた。

「という訳で進みましょう。ここには何もないでしょうし。ほら、皆も」

 レヴィアはスタスタと奥に向かって歩き始める。その意見に同意したようで、何も言わず仲間たちもついてくる。
 
 暫く歩くと、T字路にさしかかった。
 
「分岐か。どうする?」
「魔物は……右から来たようですね。先にそちらへ向かうべきだと思いますが……純花もよろしい?」

 床の積もるチリやほこりからレヴィアは判断。ほぼ間違いなく魔物培養器クレイドルは右だろうが、本来の目的物が左に無いとも限らない。
 
「右でいいよ。あるとしたら多分右だし」
「あら、どうして?」
「そこに書いてあるじゃん。左は居住区、右は研究区画って」

 純花が指差した先の壁には文字が書かれていた。が、レヴィアには読めない。現在殆どの場所で使われる共通文字ではなく、古代文字だったからだ。
 
「あっ、《言語理解》!」
「成程。流石は勇者様ですな」

 どうやら《言語理解》というのは古代文字も読めるらしい。その事に気づいたリズは声を上げ、他の者も納得顔をした。
 
「純花、よくやりましたわ。何か気になる文字があればこれからも教えて下さいまし」
「分かった」
 
 これならば遺跡探索も捗るだろう。思わぬ幸運に一同は湧き上がり、右へと進んだ。
 
 
 
 研究区画という名の通り、進んだ先には様々なものがあった。道の左右には部屋があり、割れたガラスの先に製造装置や実験装置らしきものが見える。
 
「どれも壊れてるわね。どんな物だったかも分からないし……。レヴィア、分かる?」
「正確には分かりませんが……恐らく|魔道具関連ですわね。床に散らばった魔石らしきものが――」

「ヒエッ!?」
 
 叫び声。何が起こったのかと思い後ろを見ると、カタカタと震えるジェスがいた。顔が青くなりつつも一点を見つめている。
 
 その先をギルフォードが確かめると……
 
「何だ。ただの骨じゃないか」
「だ、だだだだだって骨って、人間の骨だよ? 殺されたのかも……」
「よく見ろ。どう考えても風化している」

 ギルフォードの言う通り、相当な年月が経った骨だった。遺跡にはありふれたものである。
 
「あ、た、確かに。ごめんギル」
「お前というヤツは……。いちいち死体に怯えてどうする。団長ともあろう者が」
「う、ごめん……」

 しゅんとなるジェス。確かにこの気弱さで団長を務めるのは無理がありそうだ。事実、彼が率いる兵士たちも呆れた顔をしている。
 
 レヴィアも同様に呆れていたが、無視して歩みを進めた。この辺りに目的のものはなさそうだからだ。
 
 しかしその先には十字路になっており、部屋もそこら中にある。魔物が歩いた痕跡は全ての方向にあった為、魔物培養器クレイドルの場所も予測できそうにない。探すにしても一つ一つ探るのは大変そうだ。

「うーん、どうしましょうか。純花、そこの文字は読める?」
「”第三研究区画”かな。特に案内してくれるような文字は無いよ」

 大雑把な場所名で、何をしている所かは分からない。当然だろう。重要施設に案内図を載せるなどセキュリティ的に問題がありすぎる。
 
「どうする? 手分けして探す?」
「そうしましょうか。この辺は動力も来てないみたいですし」

 エネルギーが無ければ遺物は動かない。故に罠があっても動かないだろうとレヴィアは判断した。魔石を使ったバッテリー式のものもあるだろうが、間違いなく長い年月で全て使い尽くされている。
 
 一行はメンバーを三つに分けた。ネイをリーダーとした牡丹一華のメンバー(純花含む)、ジェスをリーダーとした騎士団、ギルフォードをリーダーとした聖騎士の面々。幸いにしてライトの魔法は誰かが使えたので、慣れた者同士で固まった方がいいだろうという判断だ。
 
「見つけても見つからなくても一時間後にはここに集合。魔物を発見した場合は無理に戦わず一度戻る事。お二人とも、よろしいか?」
「承知した」
「わ、分かりました」

 ネイの確認に両リーダーは肯定を返す。次いでギルフォードはジェスに向かって忠告。
 
「いいかジェス。勇気と無謀は違う。手柄を立てようと無理をするなよ」
「わ、分かってるよ。ギルも気を付けて」

 そうして三組はそれぞれの方向に分かれた。
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