跳舞猫日録

踊る猫

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2023/02/17 Oasis - Married With Children

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今日は遅番だった。天気が良かったので、こんな朝に相応しい音楽は何だろうと思いスウィング・アウト・シスターの曲を試しに聴いてみる。やはり季節が春めいてきたというのが大きいようで、私の気持ちがどこか騒いでいるのがわかる。何か起きるのではないかと心のどこかでビビっている自分がいる……古井由吉『魂の日』の続きを読むつもりが頭に入らないので諦めて、片岡義男『言葉の人生』を読み始める。遅番の日はこんな感じで時間がすぎる。片岡義男のエッセイは面白く、私自身日本に住んでいて日本語の中で生きているとその環境に慣れてしまって見失ってしまう「unique」な事実、「strange」な現象の面白さを改めて教わる。私自身言葉について考えるのは好きなので、片岡義男のようにどこかで「外人」「異人」の目線を保持して日本の風土を捉える姿勢が必要かなと思ったりもした。

読書にも飽きると英会話教室の宿題に取り掛かり、Gラヴ&スペシャル・ソースのグルーヴィーな音楽を聴きながら済ませる。過去にネットで「ナイスミドルですね」と言われたことについて英作文を書いたのだけれど、書いていると時間を忘れて楽しんでしまう。書く前はいったいどんなことを書こうか迷うけれど、愛用しているフリクションペンの動きに任せて書いていくと自分の中からこんこんとアイデアが湧いてくるのが感じられる。意識の表面にアイデアが浮かび上がってきて、それが紙の上に「吐き出されて」形をとる。これが「デトックス」というやつなのかなと思い楽しさを感じる。ならばこうした作業で心を「リセット」することを日々のアクティビティの中に組み込めばいいのだろうと思う。あるいはこうした作業で自分の中の問題を見極めるということも大事なのかな、と。

仕事に入り、休憩時間を迎えてぼんやり時間を過ごす。仕事で頭をフルに使ったので何も考えられず本も読めやしない。なのでローリン・ヒルを聴きながらスマートフォンでネットサーフィンを楽しんで過ごす。萩本欽一がユーチューバーとして活躍しているとのインタビュー記事を読み、彼が「自分の人生の哲学として、自然には逆らわない。全て運だから」と語っているのを知る。「逆らわない」という姿勢も前向きな生き方としてありうるのだな、と目を開かれたような気持ちになる。実を言うと私も最近歯が欠けたりして老化をひしひしと感じていたので、老いという事態に「逆らわない」ことが大事なのかな、と思ったのだった。いくら泣き叫んでもこれから若くなることはありえないので、ならばその現実を呑み込んでタフにかつ柔軟に生きていこう、と。

「全て運だから」という言葉も重みがある。私自身、悪運/不幸ということであれば発達障害者として生まれたことがその最たるものなのかもしれない。だがその発達障害が縁となって今のグループホームのスタッフや、あるいはミーティングのメンバーとのつながりを築くことができた。飲酒に溺れてネットをほっつき歩いていた頃に出会った断酒会の方々とのつながり、そして宍粟市国際交流協会を通した英会話教室の参加者の方々とのつながりも自分の人生を支えるものとして機能している。そう思えば自分は「ラッキー」な人間なのかもしれないなと思った。幸せとは、手の届かないところにあるものを求めるのではなく(それは例えば大金でありステータスであり、絶世の美女との逢瀬であったりするだろう)、こうした手の届くところにあるリアルなものとの関わりで生まれるものなのかもしれないなと思う。そう考えれば自分はいつの間にか幸せになっていたわけで、いみじくも夏目漱石『夢十夜』第一夜の主人公の悟りのように私自身もふと「自分はすでに幸せだったのだな」と思ったのだった……。
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