跳舞猫日録

踊る猫

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2023/02/11 BGM: The Verve - Bitter Sweet Symphony

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今日は早番だった。朝、再びジェームズ・ブラウンを聴く。友だちが私のことで、仕事に関してエッセンシャル・ワーカーとして頑張っていることに対する感謝のLINEを送って下さった。私は(改めて)こうした形で大勢の方に支えられていることに思い至る。と同時に、過去の悪夢の日々を思い出す。孤独だった日々のこと……発達障害とわかるまでも大変だったし、発達障害とわかったあとでも上司が診断書を見てくれることもなく、医師も上司が見たくないのなら無理に見せるわけにもいかないからと診断書を書くことを渋り、結局どうにもならなかったのだった。改めてゾッとする。ひどい時代だったし、そんな発達障害への理解がよくぞここまで変わったものだとも思う。確かに時代は変わる。

昼、「自分には固有の文体というものがあるのだろうか」と考えた。私は自分の書くものに対し独特の文体というものを見つけることはできない。少なくとも、村上春樹や片岡義男が持つようなクセのある文体、ブラインドテストをしても如実にわかるような文体は自分にはないと思う。過去に私は村上春樹の猿真似をしてずいぶん「僕」という一人称でセンシティブな自分を演出せんと試みたことを思い出す。確かに私は彼に憧れており、彼は私にとってカリスマでさえあったのだった。どんなことでも器用に表現する確かな言語能力を持っており、かつ英語さえも流暢に操る春樹。そんな春樹に対する憧れもあって私は春樹のように生きること、書くことを真似た。背伸びをしてロックやジャズを聴き、早稲田大学のキャンパスライフにも憧れを抱いた(まさかその早稲田に実際に自分が入学するとは想像できなかったのだった)。

ふと、そんな十代の頃の自分に今の自分が僭越ながらアドバイスをするとなったらどうするだろうかとも考えたのだった。春樹や橋本治、そして90年代を彩る渋谷系音楽(ネオアコやアシッド・ジャズなど)にイカれていたあの当時の自分はしかし、まさか後に40代になって英語で世界を相手に日記を書き始めるなんてことをおっ始めるとはまったくもって考えたりしなかったはずだ。当時も書くこと、表現することに対する野心は持っていただろうが「英語は無理だ」「しょせん自分は田舎者」と最初から諦めていたはずだ。おかしなもので、英語で表現することは「誰でもできる」イージーなものである。紙と鉛筆と辞書があれば小学生だってできる。ただ教育や実生活での厳しい経験によってこっぴどく鼻っ柱をへし折られることで目が曇らされ、勇気や度胸を失ってしまい「私なんかには」となってしまうのだと思う。エミネムに倣って「Lose Yourself」の心意気でやってみればいいと思う。

夜の読書は、昼にそうして英語について考えたことが尾を引いたこともあり片岡義男の論考の成果である『日本語で生きるとは』を再読した。学問に近道なしと言うが、片岡義男も英語を学ぶことは地道で手堅い勉強の成果であり決して「聞き流す」だけで学べるようなイージーなものではないと語っている。時間をかけて学びつづけることで英語が要求する強い「個」を鍛え、その「個」の立場から改めて「公」にコミットする意志あるいは主体性を鍛えることが重要なのだ、と。これは日本で日本語の世界に安住していると見えない視点で実に傾聴に値する。それはそうとこの日記もいつしか500日を超えた。私は少しでも変わることができただろうか? 「千日回峰行」という1000日にわたって比叡山を歩く修行があると聞いたことがあるのだけれど、私のこの修行はその「千日回峰行」から比べればまだ半分の500日に達したばかり。まだまだこれからだ。いつか水野晴郎ばりに「いやぁ、英語って本当にいいものですね」と言えるようになりたいなぁ、と。 
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