跳舞猫日録

踊る猫

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2023/02/02 BGM: キセル - ハナレバナレ

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病的な発想だとは思うのだけれど、いつもどこかで「今日こそ人生最後の日なのかもしれないな」と思って生きている。今日、自分の人生は終わる……そんなことを考え続けて生きてこの歳になってしまった。死ぬ時はどんなことを考えるのだろう。生きている間、脳が働く間はずっと考え続けて書けるなら書き続けたいという思いがある。その昔オードリー・タンが「私の人生には長期計画はなく、ただ今日一日の計画があるだけです」「将来何がどうなるかは私には本当にわからないからです。私がそれまで生きていられるかどうかもわかりません」と語っていたのを読み(『何もない空間が価値を生む』p.185)、同じことを考える人もいるのだなあと思った。私の人生も常にその日その日できること、やるべきことをやるだけ。1日断酒、凡事徹底の心意気で。

今日は早番だった。仕事がはねた後、図書館に行き茂木健一郎『脳と仮想』を借りる。こうして徒手空拳で脳科学の本を読むようになってずいぶん経つ。考えるのは……というより私のスットコドッコイな脳では考えが及ばなくてせいぜい「感じる」だけで終わることになるのだけれど、なぜ自分というパーソナリティがこの脳という物質の中に宿るのか、どうしてこんなアイデアが次から次へと湧いて出てくるのかといった驚きの数々だ。その謎だけは誰にも解けない……というのは言い過ぎかもしれないけれど、少なくともこの私には「私」という謎は解けない。そして、私自身が謎であるのと同じように私にとっては他人もまた謎であり、ゆえにかけがえのない大事な存在である。中井久夫の言葉を借りれば他人とはその中に「一個の宇宙」を内包している存在である。それがこの世界を神秘的なものとして成り立たせている。

今日も昼休み、キセルやサニーデイ・サービス、東京少年を聴きながらぼんやり考え事をした。兼本浩祐『普通という異常』によれば定型発達者は(いや、人間すべからくと言うべきか?)「色、金、名誉」を重んじて生きるという。私の人生にはこの3つの要素が欠けているな、と思った。女性にも縁がなく、金もなく地位も低い。そうしたものをガツガツ追いかけて生きてきたわけではないが、それでいて「いつかこの日記が書籍化されないかなあ。そしてドカーンと百万部くらい売れないかなあ……」とアホみたいなことを考えている。つまり、私の中にだって「色、金、名誉」を求める心理はある。それが(私はスットコドッコイな発達障害者なので)まったくヘンテコリンな形で夢想や願望として私の中に宿っているということかもしれないな、と思う。永遠に覚めることのない夢を見て生きているような、そんな人生だ。

「色、金、名誉」を求める気持ちを、私は無碍に「くだらない」「バカみたいだ」と切り捨てられない。私だって金は欲しいし、こんなことを言うとドン引きされるとも思うが「色(つまり女性)」だって欲しい。その意味で私は立派に強欲かつ貪欲な、煩悩に満ちた人間なのである。だが、そうした要素を丸出しにして生きることにもどこかためらいがある。昔はこうじゃなかったのだけれど、大事な友だちができて私自身が変わったということなのかもしれないな、と思う。きれいごとに響くとも思うが、今は「一流大学から一流企業へ」といった絵に描いた成功の街道に興味はない。そもそも私のようなへなちょこな人間にそんなタフな人生を生きられるわけがない。私は自分の興味のある分野を掘り下げて生きて、そして死ぬ。それが「向いている」のだと思う。今日も英語を学び、そして酒を断ってクリーンかつ無難に生き、明日につなげていく。そして人生はつづく。
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