跳舞猫日録

踊る猫

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2023/01/30 BGM: Spiral Life - Another Day, Another Night

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兼本浩祐『普通という異常』という本からエリクソンという心理学者の概念である「ベーシック・トラスト」について学んだ。これは「自分自身はかけがえのない大事な存在である」という信頼感のことで、親との関係によって育まれていくものらしい。私は親から愛されて育ったのだけれど、子どもの頃周囲からずっと変わり者扱いされていじめられてきたのでこの「ベーシック・トラスト」を育めなかったのだろうと思う。自分自身のことをずっと異常なクリーチャーのように思ってしまい、「誰がどう言おうが私は私なのだ」というプライド、そしてこのプライドから来る他者への寛容さといったものを身につけるまでずいぶん時間がかかった。いや、今でも身につけられているとは言い難いのだけれど、過去よりはベターな人間になったと思っている。

今日は遅番だった。朝、古田徹也『このゲームにはゴールがない』を読む。すこぶる刺激的な議論が展開されており、しかも論旨は明解なのでこちらを引き込みグリップする力があると感じる。著者の娘さんが著者に対して嘘をついた経験を契機に、私たちのコミュニケーションが孕みうる嘘、それゆえに生まれる不透明さが考察される。そこから私たちはややもすると「この人は嘘をついているのではないか」「この人は真意を隠しているのではないか」と懐疑論者になりやすい。だが、そうした懐疑の姿勢が必ずしも生産的には至るわけではないことをも記している。不透明さ、不確定性を孕みつつも私たちはコミュニケーションを求めて他者を渇望する。それが私たちの生きる実相だ、ということになる。

私自身のことを考える。何度も書いているが、私は過去にひどく人間不信に陥ったことがある。発達障害者だから人の心を読めないというのもあったのだと思うのだけれど、定型発達者とのコミュニケーションで相手の言葉の裏を読み、文脈に応じて「空気を読む」ということができずに何度も恥をかいたものだ。「みんながぼくを嫌っている」……そんな思い込みに陥り、誰とも友だちを作れずに孤独に本と音楽の海の中に潜って生きた。今はそれがただの思いこみだったことを理解できる。両親や、クラスメイトにだって私を好んでくれた人はいたはずだ。だが、私の主観から言えば私はみんなの嫌われ者で、私なんていなければいい鼻つまみ者だった。そんな環境で「ベーシック・トラスト」なんて生まれるわけがない。

正直さは美徳だ、と言われて育った。今でも私は務めて正直になろうと思っている。だが、そうした正直さは危険な方向にも働く。就職活動などではどこの会社に行っても(多分面接官も「本気で」信じるわけではない決まり文句であるとしても)「御社が第一志望です」と言わなければならず、恋愛においても「永遠の愛を誓います」と言わなければならず……そこで嘘をつくことは、自分の中に矛盾する見解を持ち続けて持ちこたえることを意味することになり、それがどうしてもできない。これはでも、私が聖人君子だと言いたいわけではない。矛盾する意見を持ち続けて生きることは、ポジティブな意味で人が人として持ちうる強さの証、人間力の要ではないかとも思う。私はそうした強さを持ちえず、したがってチャーリー・ブラウンのように損な星回りを生きるしかないのかもしれない、と。
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